田中グループ抜けるってよ
『田中グループ抜けるってよ』
このメッセージが桐島から突然きたのは深夜のことだった
俺はあまりに急なことで少し気持ちの整理ができない
急なことというのも 田中という人がラインのグループに入っていたことを今まで知らなかったし
グループと言われても何のグループだよって思ったからということもあり
とりあえず
>そうか、田中抜けちまうんだな(泣)
「よし、送信っと」
これでひとまずは思い出すことに集中できるだろう
田中とは誰のことだろうか
もしかしたら、俺と桐島に関わっていたが名前を知らないだけかもしれない
それだと本当に失礼だ
いったい誰が田中だったんだろうか
「イメージ的にいって細身で眼鏡のやつだろうな」
田中と言われて思いつくイメージは完璧に痩せ型眼鏡という偏見により
俺の脳内検索エンジンにかける
ただ俺の思いつく限りで 細身はいても眼鏡はいないし
眼鏡をかけていても細身だと思われる人が思いつかない
田中だけでは情報が少なすぎる
どうにか情報を…
そんなことを考えているとラインの受信音が部屋に響く
「桐島からか」
画面には桐島と言う文字が映っていた
返信をしなくてはいけないこともあるし
もしかしたら情報があるかもしれない だからこそこれを見ることは俺には重要なことだった
画面をタップしパスワードを打ち込む
ラインが開くと
『田中とこれでお別れになるかもしれないなんて辛いと思って止めたんだけどな
あいつには世話になってるしこのグループから抜けたらもう接点はないしなぁ』
本格的に分からなくなってきた
まだ何のグループにいた田中かわからないのに世話になったとかお別れになるかもとか言われても
処理が追いつかず困るだろ
ただ、田中には世話になってるのは確実だ
こうやってメッセージにも入れているのだし
キーパーソンになるはずだ てかどうしてグループが無くなっただけで
田中とのお別れになる?個人メッセージができるはずだろ
それがトークアプリのいい点じゃないか?
ただ、俺が忘れているだけならきっと俺は薄情な人間になってしまう
しっかりと思い出さないとな
「田中か〜」
俺の脳内には色々な思い出が浮かんできた
・借り物競走でタバコを貸してくれた青年
・パ眼鏡をかけいつも教室で本を読んでいる人
・部活…
もしや部活関係だろうか
俺はパソコン部に所属しているし
田中がそこの人だとすれば合点はいくし
ラインであればアイコンや名前を変えているケースもある
俺は確かグループにも登録していたし
きっとそれだろう
俺は去年高校を卒業して
田中も同じ学年だとすれば接点はなくなる
ん?
ここでふと疑問が産まれる
桐島って誰だ?俺は桐島っていう人間をここに登録した記憶はないぞ!
よくよく考えてみたら本格的に誰かわからない
もしかしたら名前を変えているのかも
そう思ったので 上画面にスクロールし過去のやり取りを確認しようとする
だが、過去の会話のログは残っていない
は?本気で誰だ 桐島桐島って言ってたけど
最も怖いのは当たり前のように話してきた桐島だろう
普通にメッセージを送ってきたので違和感なく田中のことを考えてた
そんなことを考えていると受信音がした
「桐島からか?」
画面を見るとそこには田中と書かれていた
「まじか、」
田中は普通に田中で登録されているらしい
パスワードを押して画面に見入る
『すまんな お前や桐島の期待を裏切る結果になって
ただ、これは俺が選んだ選択なんだ 許してくれよ』
ええ〜どういうこと?
結構重要じゃん絶対なんか大事なことだろ!
期待を裏切るとか俺の選んだ選択とか
いったい何でそんな重要感あるんだ?
俺はいつ期待してたんだ?
てかグループ抜けるってそんな壮大なことかよ
ただ既読つけちゃったし返信をせねば
「どうするか…」
桐島だけなら冗談の可能性もあるが 田中本人が来たとなれば話は全く別問題だ
それに田中の正体だけでなく桐島のことも思い出さないといけない
いったい誰なのか分からないがとりあえずは賛同する形で変身するのが正しいだろう
>そうだよな、これは田中の選んだ答えなんだ 俺はお前に賛成する
ひとまず送信は済んだ
状況を整理しよう田中はグループを抜けようとしているが
桐島はそれに反対している 俺はそれに賛同した
俺は桐島と田中の正体を今思い出している
グループを抜けると田中とはお別れになるらしい
ただ、俺からすれば関係ないことなのではないだろうか?
覚えてない2人からメッセージ来られても俺は困る
ある意味被害者ポジだろう
ただ、もしかしたら俺は知っていて忘れてしまった薄情なやつなのかもしれない
桐島は反対しているが
本来グループと呼ばれるものは自由に抜けたり入ったりできるものだろう?
それなのになぜ反対するんだろう
とりあえず俺はもう眠いし寝よう
-その後、朝までメッセージは来ることなく
気持ちの良い日差しに見守られて目を覚ました
どうやら変な夢を見ていたらしい
俺はスマホに触れることなく テレビをつける
[本日 詐欺罪に問われ田中 大吉容疑者が書類送検されました 警察は…]
田中と聞いて何故だか俺は少し怖くなった
ただ、多分俺には関係のないことだろう
今日から大学生活だ
少し早いが飯は別にいらないし投稿しよう
そう思いポケットの奥に置いてあったスマホを突っ込んだ
(ドン ドン ドン)
玄関を叩く音がした 全く誰だこんな朝っぱらから
「はい」
と返事をし 玄関を開ける
そこには警察官の格好をした男が2人立っていた
「警察署のものですけど 桐島達也さんで間違い無いですか?
桐島達也に詐欺罪で逮捕状が出ています 署までご同行願えますか?」
『田中グループ抜けるってよ』