第一話 「長い旅の夜明け」
俺は、五歳の時に義親の元へ来た。
初めは可愛がってくれていたが、実の子供が生まれた途端
豹変した。
罵倒に暴行、虐待を受けた。
人ってあんなに変わるのかと強く実感した。
そして俺は高校生になった・・・。
生きていることは美しい、と俗に言うが俺は
そうは思わない。
家では、両親から罵倒され
学校ではクラスの奴から暴力を受けている。
この地獄の日々に終わりなどないと、俺は深い絶望を感じた。
そして、今。
学校の屋上に立っている。
それは何故か。
この地獄から脱出するためだ。
例え、死んで地獄に落ちようともこの生き地獄よりかは
はるかにマシである。
俺は、目の前の空を見上げた。
空には、無数の星々が輝いていた。
俺もやがてはあの星になるのか・・・。
果てしない希望で胸が一杯になった。
・・・そろそろ、行くか。
前方の柵を乗り越え、準備は出来た。
「あぁ、さらばこの忌まわしき日々・・・」
そう言って、飛び降りようとしたその時だ。
俺の足元が、急にまばゆい光を発した。
「一体、何が・・・」
俺はその光に包まれ、気を失ってしまった。
目が覚めると、海岸に横たわっていた。
空を見上げると、星々は相変わらず輝き続けていた。
「ここは、何処なんだ・・・?」
辺りを見回す。
だが、誰もいない。
目の前に果てしない海が広がっているだけだった。
綺麗な海だな、と俺は思った。
海なんか、いつから行ってなかっただろう。
義親のもとへ行ってからだな・・・。
俺は懐かしい思い出を回想していた。
あの頃は、まだ良かったのに・・・。
悲しみが頭をよぎった。
そして、声が聞こえてきた。
「・・・あれ、気が付いたんだね」
その声のする方を向くと、異世界やファンタジーなんかでありそうな
変わった服を着た、少女が立っていた。
「君は誰?」
「私の名前は、メサイア・ル・フューレ」
「そして、ここは何処なんだ?」
メサイアと名乗ったその少女は、しばらく黙っていたが
やがて口を開いた。
「ここはね、君のいた世界とは違う世界。私が、君を召喚したんだ」
「・・・は?」
頭が追いつかない。
ラノベじゃあるまいし、そんなことがあるわけない。
「簡単には信じられないかもしれないが、それは本当だよ」
「俺を馬鹿にしているのか?」
「では、証拠を見せてあげるよ」
少女は、海の方へ歩いていくと何かを唱え始めた。
だが明らかに、俺の世界の言語でない事は確かだ。
その時だ。
空が黒い雲に覆われ、一瞬で海が荒れ嵐が発生してしまったのだ。
「・・・一体、何をしたんだ?」
「これが、魔術だよ。嵐を発生させるものを唱えたの」
「・・・分かったよ。ここは異世界だ。確かに、異世界だ。
・・・でも、なんで俺なんかをこの世界に呼んだんだ?」
すると、少女は小さく言った。
「・・・寂しい」
「ん?」
「私は、町の人々から呪いの子として恐れられていてね、
誰も友達になってくれない・・・。だから・・・あなたは
私の友達!」
孤独だったのか・・・。
俺と全く一緒だ、と深い共感を覚えた。
「じゃあ、俺はお前の初めての友達だな」
「え⁉私が怖くないの・・・?」
「俺も、孤独は散々味わったからな」
「・・・うん!」
少女は笑顔で頷いた。
俺は、一瞬見とれてしまった。
「で、メサイア・・・で良いのか?」
「うん。あなたのお名前は?」
「俺は、石田祐樹。ただの冴えない男だよ」
「ユウキ・・・。ユウ君、て呼んでも良い?」
俺は、赤面した。人に名前を呼ばれたことなど無かったので
不思議な気持ちになった。
「・・・ところで、俺これからどこで暮らすの?」
「えへへ、私の家!」
同居なんて言い出すから、どきりとした。
・・・元の世界は地獄だ。この異世界で暮らす方が断然良いに決まってる。
こんな美少女と友達、しかも同居ときた。そして・・・
俺と同じ孤独に悩んでる・・・。
「私の家は、こっち!」
少女を追って、森の中を歩いた。
すると大木にはしごが掛けてあるのが見えた。
少女は、そのはしごをのぼっていく。
「へぇ、木の上に家があるのか」
「ねぇ、早くおいでよ」
俺も、そのはしごをのぼっていった。
思ったよりもだいぶ高く、泣きそうになった。
何とかのぼりきると、メサイアが待っていた。
「・・・あれ?怖かったの?」
「こ、これは鼻水だっ!」
「あははっ!」
朝日の昇る海を眺めながら、俺達は笑いあっていた。
「そろそろ朝食にしよう」
「そうだな」
「何か作るよ。入って」
「お、お邪魔します・・・」
家に入ると、暖炉と机そして二つの椅子があった。
何というか・・・温かみのある家だと思った。
・・・あぁ、そうか。本当の両親と暮らしていた時の家に似ている
からだ・・・。
俺は、再びあの時を思い出していた。
しばらくして彼女が料理を作って持ってきてくれた。
「ちょっと失敗したかも・・・」
「いいよ。気にすんな。俺は、前の世界で地面に落ちた
飯を食わされてた」
「え・・・?本当?」
「あぁ、真実だ。俺は嘘は嫌いなんだ・・・。
じゃ、いただきます」
俺は、その出された料理を口に運んだ。旨かった。
母さんが作ってくれた料理を思い出した。
何故か・・・涙が出てきた。
「え?あれ・・・美味しくなかった?」
「あ、違う。昔のことを思い出しただけだよ・・・」
一口一口を噛みしめながら食べ続けた。
俺は、これからこの世界で生きていくのだ。
「…ごちそうさま。美味しかったよ。ありがとう」
「・・・えへへ、こちらこそありがとう」
そして、俺はある疑問をぶつけた。
「あのさ」
「何?」
「呪いの子って呼ばれて避けられてるって言ってたけどそれは何でだ?」
彼女はしばらく黙りこくっていたが、やがて
口を開きその理由を語ってくれた。
「・・・私はある村で生まれて、この容姿が狂姫っていう
独裁者の女に酷似していたんだよ。で、先に言っておくとその狂姫は
ここから離れたリベリタス民主主義共和国って国の首相で、
見せかけの優しさで地位を高めたんだ。で、首相になって少数民族
を次々と弾圧し始めたんだ。その中に、私の村の人々を含まれていたんだ。
で、結局反社会的勢力の人に暗殺されたらしいんだけど、
その後に容姿が酷似した私が、その村で生まれて
アイツが死後の世界から蘇った、呪いの子だって・・・。
そして、両親がお前は逃げなさいって・・・」
俺は、ごくりと唾を飲んだ。
「それで・・・逃げてここに来たのか?」
「・・・うん。自分でここにこの家を建てて住み続けて・・・
十年は経ったよ」
「え⁉自分で建てたって?マジか」
「マジです」
「・・・寂しくないのか?」
「・・・ずっと孤独だった」
彼女は涙目になって話を続けた。
「だから、今日あなたを呼んだの。こっちの世界にね」
俺は彼女の顔を見つめた。
「でもまぁ、ソイツが酷い奴だったとしても可愛いから
良いじゃん。気にすんな」
「うううぅぅ・・・」
彼女はしばらく泣き続けていた。
その頃・・・リベリタス民主主義共和国ではある会議が行われていた。
「・・・首相、狂姫の生まれ変わりだと言われていた女
の居場所を吐かせました」
「ご苦労。で、捉えた者はなんと言っていたのだ?」
「十年程前に、村の他の者に殺害されそうになったため、
その女は逃がした、と」
若い騎士の男は続けて言った。
「その男と女は、南にあるバルディア公国へ行った、と
吐きました」
「なるほど。下がってよいぞ」
若い騎士の男は、その部屋を出て行った。
重い足跡を響かせながら、地下へ向かう。
「調子はどうだね?」
目の前の血に染まった男に言った。
「私の・・・妻は・・・何処だ?」
「おやおや、そこまで自分の女房が大事か?」
若い騎士の男は、狂気的な笑みを浮かべた。
「だったら、見せてやる。おい、見せてやれ」
周りの兵士に命令し、目の前の扉が開かれた。
「なっ・・・」
男は驚愕した。女が複数人の男に襲われていた。
「離してっ!」
男は妻が抵抗するも犯されている様子をただ見ることしか出来なかった。
男は、騎士の男にとびかかった。
「クソ野郎!妻には手を出すなと言っただろ⁉」
「貴様の女房は随分美人じゃないか」
騎士の男は不気味な笑みを浮かべていた。
(・・・メサイア・・・。俺は今回は別の国を言ったが・・・今もあの森
にとどまっているなら、早く逃げなさい。捕まるな・・・)
男の意識はそこで途絶えた。
そしてメサイアと俺は、果てしない冒険に出かけることになる
のである・・・。
To be continued…