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第12話 魔導師見習いは指名を正式に受ける

 研究室から戻った二人は、気分転換のために再び庭でお茶を飲むことにした。


「できれば、心の準備をしてから見たかったぜ」

「実際に見てみないと、あの醜悪さは分からないでしょう?」

「……まあ、そうだけど」


 紅茶を飲みながらフェリシアは答えた。

 爽やかな良い香りが、気持ち悪かった気分を少しは楽にしてくれているような気がした。


「安心して、フェリシアちゃん。あなたの仕事は基本的に準備だけ……あの瘴気を直接見たり、触れたりすることはないわ」

「……それは安心したぜ」


 もっとも、あの瘴気に対して興味がないわけではない。

 どうしてあんなにも生理的な嫌悪感を駆り立てるのか。

 知りたいという気持ちを抱いた。


 フェリシアも見習いとはいえ、魔導師だ。

 探究心と好奇心の呪縛からは逃れられない。


 気になるけど、見たり触れたりはしたくない、思い出したくもないというジレンマにフェリシアが苦しんでいると、唐突にエリザベスは彼女に尋ねた。


「フェリシアちゃん、人の魔力量ってどうやって決定されるか、知ってるかしら?」

「“信仰”とそれを支える“実体”、そして“生命力”だろう?」


 実体と信仰と生命力。

 人の、否、生物の魔力量はその三要素によって規定されると言われている。


 フェリシア・フローレンス・アルスタシアという少女で例えよう。


 彼女は常人よりも魔力量が多い。

 何故か?


 これには複数の要素が噛み合っているからなのだが、そのうちの一つに可愛らしい容姿をしているというものがある。


 可愛らしい容姿をしている人間には、信仰が集まりやすい。

 人々の憧憬や嫉妬、尊敬などを集めれば集めるほど、魔力量は高まる。

 広い意味での“信仰”を、より多く、より強く集められる存在はそれだけ優れた魔法的な素養を持つ。


 ところで、人の容姿は作ることができる。

 化粧などの技術はその典型的な例であり、他にも整形や、怪盗が変装する時に身に着けるようなマスクを被るという手段がある。


 そういう手段で容姿を磨けばそれだけ信仰を集めることができるが……

 しかし後天的に作り出した容姿は、先天的な本物には適わない。


 容姿が美しいとは言えない少女が、整形でフェリシアそっくりに化けて、フェリシアと同程度の信仰を集めたとしても、生成できる魔力量はフェリシアの半分に満たないだろう。


 故に根底となる“実体”が重要となる。

 容姿の場合はすっぴんの美しさに当たるだろう。


 もっとも……“実体”とはどの部分をそう指すのかというのは、実は“信仰”によって定義されている。

 整形や化粧は努力によって勝ち得た容姿なのだから、先天的な容姿と比較しても劣ることはないという価値感が支配的になれば、作り出した容姿でも本物となる。


 このように、原則としてこの“実体”と“信仰”が相互に作用することで魔力量は決まる。

 

 尚、その他にフェリシアに関する“実体”と“信仰”として挙げられるその他の理由は……


 歴史の長い名門、アルスタシア家の生まれであること。

 すでに初潮を迎え、妊娠・出産が可能な年齢であること。


 などが挙げられる。


 前者は、歴史の長い家柄であるため尊敬されていること。

 後者は、妊娠・出産が可能……つまり生命を生み出すという人体に受ける最高の神秘と奇跡を起こす可能性を秘めているということ。


 がそれぞれ信仰を集めている要因だろう。

 周囲から「そう思われている」だけではなく、実体としてそうであることもまた、当然重要だ。


 最後に“生命力”だが……

 これは体力があるかないか、生きる気力を持っているか、どれくらい老化しているか、によって決まる。

 当然、生命力に溢れている方が魔力量が多い。


 もっとも、この“生命力”も考え方によっては“信仰”と“実体”に組み込むことができるのだが。


「九割くらい、合っているけど……あともう一つ、要素があるわよね? まあ、これは一般では知られていないというか、まだ学会でも認められていない内容だけど。あの魔導師マーリンの弟子ならば、知っていると、私は思ったのだけれど」


 エリザベスの問いに対し、フェリシアは苦々しい表情を浮かべた。

 そして青い顔で尋ねる。


「言わなきゃダメか?」

「言わないなら、教えてあげるけど」


 エリザベスの言葉に対し、フェリシアは観念するように答えた。


「……瘴気だろ? 人は、いや、あらゆる生命は瘴気を吸収して魔力を精製している。魔力量ってのは、要するに瘴気の変換効率とそれに対する耐久力だ」


 嫌そうにフェリシアは答えた。

 

 実はあらゆる生命は極々微量の瘴気を内包している。

 瘴気は食べ物は無論、空気中にも、そして体内にも微量に存在するのだ。


 その瘴気を人は栄養のように吸収して生きている。

 その代謝の過程で精製される生命エネルギーこそが、魔力だ。


「濃過ぎる瘴気は猛毒だ。でも、瘴気がなければ生命は生きていけない。……私は師匠からそう習ったぜ」

「そういうこと。魔物が発生させた瘴気を人や動物が食べて、それによって人が得た生気を魔物が捕食する。そして瘴気を排出する。……実はこの世界はそういう循環によって、保たれているというわけね」


 尚、人間にとって濃過ぎる瘴気が猛毒であるのと同様に、魔物にとっても濃過ぎる生気は猛毒である。

 つまりとてつもなく高効率な魔力変換ができるほどの人物であれば、自身を捕食した魔物を毒殺することができる。


 もっとも……もうそんなことができるような人物を、人として定義して良いかは謎だが。


「それで……賢いフェリシアちゃんなら、私がどうして瘴気を研究しているか、分かるんじゃない?」

「生気と瘴気の相互変換。それを研究することが、“命”の存在に繋がるって考えているんだろう? エリザベス様」

「満点」


 フェリシアの問いにエリザベスは満面の笑みで答えた。


 ホムンクルスを真なる人間に昇華させるためには、ただの肉人形に生命や魂を与えなければいけない。

 その生命や魂の謎を解明する鍵が、生気と瘴気にある。

 エリザベスはそう考えているのだ。


「マーリン様の論文も当然、読んだことがあるわ。錬金術師として、尊敬している。でも……私は魂は存在すると、そう考えているわ」


 自分はマーリンとは異なる考え方をしている。

 エリザベスはマーリンの弟子であるフェリシアにそう宣言した。


 その上でフェリシアに問いかける。


「それで……どうかしら。フェリシアちゃん。私の指名、受けてくれるかしら? 断ってくれても、構わないわよ。曲りなりにも瘴気を扱う以上、危険だしね」


 フェリシアは紅茶を一気飲みし、それから不敵な笑みを浮かべた。


「受ける! 興味が湧いてきたぜ!! よろしくお願いします、エリザベス様!!」


 フェリシアがそう答えると、エリザベスは嬉しそうに笑った。

 そして手を合わせる。


「良かったわぁー。実はバニー服も用意してて、ぜひフェリシアちゃんに着て……」

「それだけは勘弁してくれ」


 フェリシアが即答すると、エリザベスはくすりと笑った。


「ふふ、ジョークよ。でも……着たくなったら、いつでも言ってくれて構わないわよ。他にもいろんなものを……」

「その未来は絶対に訪れないぜ。……無理矢理着せたら、学園に訴える」

「あら、酷い」


 ケラケラとエリザベスは笑った。

 本当に大丈夫なのかと、フェリシアは不安を抱いた。





 その日は一先ず、これでお開きとなった。

 本格的に助手として働くのは次週からとなる。


「エリザベス様、紅茶、美味しかったぜ。じゃあ、またここに……」

「ああ、言い忘れてたわ。フェリシアちゃん」


 別れ際。

 エリザベスはポンと手を打った。


 フェリシアは首を傾げる、


「何なのぜ?」

「瘴気を扱っている研究室、あの地下に……もう一つ、部屋があるの」


 そう言われて、フェリシアはアナベラからの情報を思い出す。

 今の今まで出てこなかったので、記憶の片隅に置かれていたのだ。


「それが……どうしたんだ?」

「絶対に。絶対に……中に入っちゃダメよ? フェリシアちゃん。とっても、危険な目に合いたくなければ」


 そう言うエリザベスはニコニコと微笑みながら、しかし目だけは全く笑っていなかった。

 どうやら冗談抜きに、真剣にその部屋には入ってはいけないようだった。

 そんなエリザベスに対し、フェリシアはおどけた調子で尋ねる。


「そんなこと言われると、気になっちゃうぜ。中に入ったら……どうなるんだ?」

「ふふ……その時は、罰として瘴気を一気飲みしてもらおうかしら」


 するとエリザベスは冗談めかした雰囲気でそう返した。

 ぶるりと、フェリシアは体を震わせた。 


 冗談にしても、キツイ話だ。


「入らないようにするぜ」

「そうしてくれると嬉しいわ。フェリシアちゃん」


 こうしてフェリシアの助手研修の初日は終わった。


どうでも良いですが、最近新連載を起こしました

『お見合いしたくなかったので、無理難題な条件をつけたら同級生が来た件について』

という作品です

現代恋愛モノです

まあ、異世界じゃない割にはそこそこ人気出てるんじゃないでしょうかね? 知りませんが


そういうわけで、下の方にリンクを張って起きたので

暇な方がいたら是非

応援をよろしくお願いいたします

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