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第6話 元悪役令嬢様は主人公と出会う


「じゃあ、行ってくるぜ。母さん」


 フェリシアは魔改造した制服に身を包み、マーリンから餞別として貰った魔法のローブを身に纏って、母にそう告げた。


「母さん、体には気を……」

「今まで、ごめんなさい。フェリシア」


 フェリシアの母、フローレンス・アルスタシアはフェリシアを抱きしめてそう言った。

 その声は涙ぐんでいる。


「あなたには随分迷惑を掛けてしまったわ」

「め、迷惑なんて、そんな……」

「良いのよ……分かっているわ。私は、あなたの重荷にしか、ならなかった。母親なのにね……」


 そう言うとフローレンスは自分の指に嵌めていた指輪を外す。


「お守りとして受け取って。これはアンガス様に頂いた、婚約指輪なの」

「か、母さん!? でも、それは母さんが働いて、やっとのことで質から買い戻した……」

「良いのよ」


 そう言ってフェリシアの指に指輪を嵌めた。

 フェリシアは自分の指に嵌められた指輪を見て、ギュッと拳を握りしめる。


「母さん……いつか、父さんと一緒に、また、もう一度、暮らそう」


 そして目尻に浮かんだ涙を拭いながら、踵を返す。


「じゃあ、行ってくる」

「ええ、行ってらっしゃい!」





「で、お前ら、いつまで隠れてるんだよ」


 フェリシアは足を止めて言った。

 すると物陰から二人の“舎弟”が現れた。


「い、いや……家族水入らずの場を邪魔するのは悪いと思いまして……」

「でも、兄貴の門出を見送らないわけには、いかないので」

「だから、兄貴じゃないって……」

「「姉貴!」」

「……それもちょっと、嫌だな」


 フェリシアはため息をついた。

 そして美しく輝く黄金の髪を揺らしながら、振り向いた。

 二人に対し、快活そうな笑顔を浮かべる。


「でも、見送りに来てくれたのは嬉しいぜ。母さんを頼んだ」


 そう言ってフェリシアは唇に自分の指を当て、自然な仕草で投げキスをした。

 二人は顔を真っ赤にさせる。

 

「じゃあ、また会おうぜ」


 フェリシアを見送りながら二人はしみじみと語る。


「兄貴って、やっぱり女の子なんだな」

「……結婚したい」






「ついに、ついに学園生活(原作)が始まるのね!」


 入学式の三日前に魔法学園に到着したアナベラは、喜びに満ちた表情を浮かべていた。

 それからすぐに表情を引き締める。


「ついに原作が始まるわ。気を引き締めないと」


 アナベラは荷物を手に、女子寮へと向かう。


 ロンディニア魔法学園は全寮制で、貴族・平民問わず寮で生活することを義務付けられる。

 基本的には二人部屋で、どのような相手と同室になるかはランダムだ。

 ……もっとも、原作(ゲーム)で誰がどの部屋に割り当てられるかをアナベラは知っている。


「原作通りなら、最初のイベントがここで起こるはず……」


 入学前に発生するいくつかのイベントでの選択肢で、主人公の性格や人間関係が決まる。

 この主人公の性格や人間関係はパラメーターにも、そして各キャラクターの攻略難易度にも影響する。


 そして最初のイベントは女子寮に向かう道中で発生する。

 

「……なあ、貸せって。大丈夫、盗んだりなんてしないから」


「で、ですが……」


「迷惑なんかじゃないって。それに、私たちは友達だろ? それに同居人同士、困ったときは助け合わないとな。ほら、寄越せよ」


「い、いや、でも……フェリシア様に、そんな、恐れ多い……」


「遠慮するなよ。別に主従関係なんて、もうないんだし。あと、『様』は付けるなよ。フェリシアで良いぜ? なんたって、友達だからな!」


 女子寮に向かう途中の道で、二人の少女が揉めていた。

 一人は蜂蜜色の髪と黄金の瞳の、気の強そうな少女。

 もう一人は栗色の髪にアーモンド色の瞳の、気の弱そうな少女。


 その二人の名前をアナベラは知っていた。


(フェリシア・フローレンス・アルスタシアと、ケイティ・エルドレッドだ!)


 一方はチャールズ攻略における最大の敵となる悪役令嬢。

 もう一方は主人公の友達兼ライバル兼お助け役になる少女だ。


 ゲームの設定によると、ケイティはアルスタシア家の使用人の娘で、そして一時期遊び相手を務めていた……つまり幼馴染だ。


 彼女は平民だが、この魔法学園は試験にさえ合格すれば(もちろん、学費が払えないなら奨学金を借りる必要があるが)入学できる。

 ケイティはそこそこ優秀で真面目なので、奨学金を借りて、学園に入学できた。

 魔法学園で優秀な成績を修め、良い職業に就けば貴族・準貴族になれる可能性もあるため、平民にとっては魔法学園入学は憧れだ。

 

 閑話休題。

 そんな平民の一人であるケイティだが、立場上はフェリシアには逆らえない。

 そのためケイティはフェリシアにイビられたり、いじめられたりする。


 ゲーム序盤の共通イベントでも、やはりケイティはフェリシアにいじめられる。

 ここで選択肢がいくつか出るが、「見過ごすわけにはいかないから声を掛ける」を選ぶと性格が「勇敢」になる。

 そしてケイティ及びこの後駆けつけてくるマルカム・アルダーソンからの好感度が上がる。


 逆に「怖いから見なかったことにする」を選べば性格が「臆病」となり、ケイティとの友情フラグはなくなり、マルカムからの好感度が下がる。


 他にもいくつか選択肢があるが……長くなるので割愛する。

 当然、アナベラは「見過ごすわけにはいかないから声を掛ける」を選択するつもりだが……


(あれ? でも、少しゲームと違うような……)


 その違和感の主は悪役令嬢であるフェリシアだ。

 原作ではお嬢様口調だが……しかし目の前にいるフェリシアの口調は少し乱暴だ。

 加えて髪型もトレードマークの縦ロールではなく、編み込んだ左右の髪を前に垂らした形になっている。

 それに原作の立ち絵ではケイティの方が背が低いが……見た限りだと同じか、もしくはフェリシアの方がやや小さく見える。

 何より身に纏っている制服が魔改造されている……規律にうるさいとされる「フェリシア」ならば、あり得ない姿だ。


(……まあ、私がいろいろしているし、原作と少し違うのは当然か。それにいじめているのは変わらないみたいだし、「見過ごすわけにはいかないから声を掛ける」で良いよね)


 そう判断したアナベラは二人に近づいていく。


「何を揉めているんですか?」


 二人の視線がアナベラに集まる。

 おどおどとした表情を浮かべているケイティに対し、フェリシアは堂々とアナベラの前に進み出た。


「大したことじゃないさ。こいつ、ケイティって言うんだけどさ、さっき転んで、足を怪我したんだ。で、私と同室だし、荷物を持ってやるって言ってるのに、聞かないんだ」


「ふーん」


 アナベラは「はて? こんな展開だったか?」と思いながらも、おそらくは悪役令嬢の嘘だと判断し、ケイティに向き直る。


「今の話は本当ですか? ケイティさん。……私で良ければ、相談に乗りますけど」

「おいおい、人聞きが悪いな。まるで私がケイティを虐めているみたいじゃないか。……私たち、友達だよな?」


 フェリシアはアナベラを押しのけるようにして、ケイティの肩に手を回した。

 するとケイティはふるふると首を左右に振った。


「そ、そんな、友達だなんて……お、恐れ多い……」

「友達じゃないって、彼女は言ってますよ。フェリシアさん」

「こいつは照れ屋なんだよ。……というか、どうして私の名前を知っているんだ?」


 フェリシアは首を傾げた。

 アナベラは内心で「しまった!」と思ったが……


(そう言えば、原作では「名門のアルスタシア家を知らないなんて、これだから田舎貴族は……」って言われるシーンがあったし、別に知っていてもおかしくはないわよね!)


 そう思ったアナベラは日本人特有の誤魔化し愛想笑いを浮かべた。


「自己紹介が遅れました。アナベラ・チェルソンと言います。あなたのことは当然、知っていますよ。アルスタシア家と言えば、エングレンド王国有数の名門でしょう?」


 よし、誤魔化せた。  

 と、最初は思ったアナベラだが……空気が妙なことになっていることに気付く。


 ケイティは酷く怯えた表情でアナベラとフェリシアの顔を交互に見ている。

 そしてフェリシアは……先ほどから浮かべていた笑顔が消え、いつの間にか無表情になっていた。

 そして目つきが鋭くなる……それはゲームに出てくる「悪役令嬢」の表情だった。


「名門……まあ、確かに名門(・・)だったのは間違いないが。にしても、あの木草紙で有名なチェルソンか。……もしかして、お前、私に喧嘩を売っているのか?」


 「成り上がりの下級貴族が名門アルスタシア家の人間である私に話しかけるなんて、畏れ多いにも程があるわ」というのがゲームでのフェリシアの発言。

 故にアナベラはフェリシアがそういう意図で言ったと判断し、ゲームでの台詞通りの言葉を口にする。


「私のことを馬鹿にするのは結構ですけど、家族を馬鹿にしないでください!」


 アナベラがそう言うと、フェリシアは拍子抜けしたような表情を浮かべた。


「はぁ? ……馬鹿にしてきたのはそっちだろ。何だよ、お前? 当たり屋か何かか? はぁ……お前と話をしていると、頭が痛くなるぜ」


 つまり「成り上がり下級貴族と話をしたせいで、体調が悪くなってしまったわぁ」という意味だろう。

 ちょっと口調や台詞回しは違うが、やはり原作通り嫌味な「悪役令嬢」だと考えたアナベラは、勇気を振り絞り、一歩前に踏み出た。


「私の家族を馬鹿にしないでください!」

「何の揉め事だよ。入学式の三日前だってのに」


 呆れた少年の声が背後から聞こえた。

 

(キターッ!)


 アナベラは内心でガッツポーズをする。 

 「推しキャラ」の一人、マルカム・アルダーソンの登場だ。


「ん? ……お前、どこかで見たことある顔だな?」

(これも原作通りなのね!)


 原作だと、ここで「昔一緒に遊んだ」と選択をすればマルカムとの間に幼馴染フラグが立つ。

 一方、「初対面だ」と答えれば、幼馴染フラグは消える。

 勿論、前者の方が攻略はし易い。


(どうしよう……実際には出会ったことないけど、一緒に遊んだって答えれば、幼馴染ってことになるのかしら? うーん……)


 アナベラが少し迷っていると……


「おお! マルカムか。久しぶりだな!! こんなところで会うとは!」


 「悪役令嬢」のフェリシアが開口一番にそう言った。これにはアナベラも、マルカムも驚きで目を見開く。


「もしかして……フェリックスか!? なんで、この学園に……というか、男のくせにどうしてスカートなんて履いて……痛い、蹴るなよ!」


「私が女の子だからに決まってるだろ! 鈍すぎるにもほどがあるぜ……思ったよりも早い再会だったな」


「お、おう……そ、そうか、女の子だったのか。良かった、俺はノーマルだったんだな……」


 コツンと拳をぶつけ合い、再会を喜び合うフェリシアとマルカム。

 原作とは全く異なる展開に、アナベラは混乱した。

こんなかわいい子が女の子なわけがない

と思う方はブクマptを入れて頂けると

もれなくフェリシアに脛を蹴られます

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