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第2話 魔導師見習いは炉心と使い魔のアドバイスを尋ねる


「魔力炉心って、ゴーレムとかガーゴイルにあるやつだろ? ……どういうことなんだぜ?」


 魔力炉心。

 人工的に魔力を精製する動力炉である。


 そもそも人間の体は生命活動をする上で魔力を精製している。

 食事をし、排泄をし、呼吸をする……その過程で魔力が生じるのだ。

 だがゴーレムやガーゴイルのような非生物は魔力を作り出せない。


 魔力は現代の魔法技術力では、エネルギー体のまま保存することはできない。

 故にゴーレムやガーゴイルを動かすためには常に魔力を注ぎ込むか、もしくはそれを生成する何かを積めなければならない。


 その何か、こそが魔力炉心である。


 つまり人間には不要な物。

 というのがフェリシアの認識だった。


「当然、人間にも搭載することはできるわよ。ゴーレムやガーゴイルとは違って、外から詰め込むのではなく、既存の臓器を炉心に改造する形になるから、肉体改造が必要になるけどね」


 魔力には人によって、“波長”や”色”がある。

 故に無暗に臓器移植ができないように、外から炉心を組み込むことはできない。

 他者の魔力と自分自身の魔力が混ざり、極めて危険な状態になるからである。


「に、肉体改造……」

「どう? 怖気づいた? まあ、オズワルドのようにそういうことをしない魔導師はいるけど……」

「か、かっこいぃぃ……」

「そ、そう……」


 キラキラした目で自分を見てくるフェリシアに困惑するマーリン。

 少し思っていた反応とは違うので困惑する。


(まあ、でもこの子って目的のためなら、手段は選ばないタイプだしね)


 マーリンはフェリシアが窃盗で生活をしていたことを思い出す。

 目的のためなら道徳や倫理、先入観を捨てられるという点は案外自分に似ているなと、マーリンは何故か嬉しい気持ちになった。


「で、具体的にはどういうのなんだ? その、魔力炉心ってのは」

「言ったでしょ? 既存の臓器を改造するって。……ちなみに私の炉心はどこだと思う? ヒントを言うと、二つ存在するわ」

「うーん……取り敢えず、心臓とか?」


 魔力は“信仰”を集めているモノに宿りやすい。

 円や十字架、五芒星などの図像や古い権威のある文字言語が魔法陣に使用されるのは、それが理由である。

 また貴族に魔力量が多い者が多いのも、“古くから続く高貴な家系”に対して人々が一種の“信仰”を抱いているからである。


 そう言う意味では、心臓は人体の中ではもっとも“信仰”を集めている臓器と言える。

 炉心としてはもっとも都合が良いだろう。


「ええ、そうよ。心臓は私の魔力炉心の一つ。じゃあ、もう一つは?」

「もう一つは……脳味噌、とか? いや、でも脳味噌を弄るのは危険だよな?」


 そもそも脳味噌は“信仰”を集めているとは言い難い。

 フェリシアはうんうんと唸って考えるが……結論は出ない。


「分からないぜ……どこだ?」

「子宮よ」

「し、子宮!?」


 思わずフェリシアはマーリンの下腹部を見た。

 そしてなるほどと手を打つ。


「た、確かに……生命を生み出す機能を持つ子宮、というか生殖器は、強い神秘性を帯びているから、魔力炉心としては、最適……だな」


 ということはローランやル・フェイは精巣や陰茎を炉心として利用しているのだろうか?

 と、保健スポーツの教科書の挿絵を思い出し、フェリシアは一人で顔を赤くした。

 まだそういうことは恥ずかしくなってしまう年頃だ。


「その通り。そもそも……円や五芒星は子宮を暗示する図像よ。私たちが魔法に使用する、原点、根源とも言えるモノの一つが子宮を始めとする生殖器官。だからここを炉心として改造するのは、理に適っているというわけね」


 そう言ってマーリンは軽く服を捲った。

 ほっそりとしたお腹には円に囲まれた五芒星が描かれている。


「……でも、それって、その……生殖機能というか、赤ちゃんは産めるのか?」

「何? 産む予定があるの?」

「い、いや……そりゃあ、まあ……魔導師にはなりたいけど、結婚して子供は欲しいというか……女の子なら、当たり前だろ?」


 まさか魔導師になったら結婚や子供は諦めろ、などと言うことはあるまい。

 確かに不老になれば普通の結婚生活は送れないかもしれないが……幸せな結婚生活を送れるかどうかはフェリシアの努力次第である。


「勿論。というか、生殖機能が神秘性を生み出しているんだから、それを殺したら、本末転倒でしょう?」

「な、なるほど……言われてみればそうだぜ」


 フェリシアはホッとため息をつく。

 そんなフェリシアに対し、マーリンはさらに言葉を続ける。


「ちなみに私は、補助炉心として卵巣も使用しているわ。卵子が良い燃料になるのよ」

「ね、燃料!?」

「そりゃあ、そうでしょう。生命の原材料なんだから。ローランやル・フェイのやつだって、精子をくべて魔力を生んでいるわよ」

「そ、そうなのか……」(な、生々しい話だなぁ……)


 フェリシアは何とも微妙な表情を浮かべる。

 と、そこでふと思う。


「というか……その、ということは師匠は、その、月経を操作できたり、するのか?」


 燃料にするには、自分の意思で排卵したりする必要がある。

 つまりそれは月経のタイミングを自分で測れるということだ。


「当たり前でしょう。そもそも、使いもしないのに排卵するなんて、非合理的よ。私は百年以上前から、卵巣の卵子にはすべて時間凍結処置を施しているわ。燃料として使う時だけ、取り出しているってわけね」


「へぇ……それって、卵子には影響はないのか? 赤ちゃんに悪影響が出るのは嫌だぜ?」


「影響はあるわね。絶対に劣化することがないという、メリットだけが。卵子は時間経過で劣化する上に数も減るから、子供が欲しいなら、早いうちに凍結処置をしておくことね。体は不老になっても、うっかり卵子だけ忘れてていざという時に子供が産めないんじゃ、笑えないわよ。……まあ、卵巣を炉心に改造できるような魔導師なら、卵子を製造することくらいは簡単だから、それほど問題はないけれど」


 卵子の元となる原子卵胞は、生まれた時点で抱えており、それを新たに生み出すことはできない。

 が、それは一般女性の話。

 自分の肉体を改造してしまえる魔導師にはあまり関係ない話だった。


「そういうわけで、時間があったら図書館で調べておきなさい。そして論文として私に提出すること。ただし、私の許可なく、自分を自分で改造するのは止めなさい。魔法のローブとは、危険度が違う」


「分かったぜ! ……まあ、言われなくとも、そんな蛮勇は元より持ち合わせていないけどな」


「それで結構。それと……魔力を補う方法だけど、組み合わせれば魔力を生みだす物質はあるから、それを事前にいくつか用意しておくっていう手段はあるわ。こういう感じにね」


 マーリンはそう言うと身に纏うローブの中から、小さな陶器を取り出した。

 それを地面に叩きつけてみせる。

 すると陶器の中の仕切りによって分けられていた物質が反応し合い、魔力が生じた。


 マーリンはそこへ杖を向ける。

 魔力は小さな魔力弾へと変化し、空へと撃ちあがった。


「簡単に言うぜ……それ、滅茶苦茶、難しいだろ?」

「肉体改造よりは簡単よ。あなたなら、できるわ。……私の一番弟子だもの」


 まあ、弟子は一人しかいないけれど。

 と、マーリンは照れ隠し半分でおどけて見せた。


「よし! 師匠の期待に応えてみせるぜ!」


 気合いも十分、という様子でフェリシアは握りこぶしを作ってみせた。

 それからふと、思い出したのかポンと手を打つ。


「そうだ。学校の課題で、相談があるんだぜ」

「はぁ? “猿のお遊戯会”で私に相談? ……そんなに難しい課題が出たの?」

「うーん、そういうわけじゃないんだけどな。使い魔って、あるだろ?」

「なるほど、もうそういう時期なのね」


 使い魔。

 東方では式神と言うこともある。


 魔法によって動物を自らの従僕として使役する技術だ。


「そうそう……二年生になったら、許可が出るんだ。私も一匹くらい、欲しいなと思って。お勧めとか、あるか?」

「そうね……私はワタリガラスを使っているけどね。頭が良くて、空も飛べるから、そこそこ重宝しているわ」


 と、マーリンが言うのと同時に空から数匹のワタリガラスが降りてきた。

 そのうちの一羽がマーリンの肩に止まる。


「やっぱり、頭が良い動物が良いのか?」

「まあ、そうね。どうしても使い魔の知能は、元の動物に左右されるし」

「ということは犬、猫、カラス、猿……とか? 豚とか馬も頭が良いよな?」


 一般的に頭が良いと言われている動物を思い浮かべるフェリシア。

 カラスと猿はともかく、犬猫豚馬はペットや家畜としても人間に利用されているため、王道ではある。

 

「どうしても頭が良い動物じゃないといけないってわけでもないわ。使い魔にすれば多少は知能も上がるし。所詮、人間に比べれば低能という点では変わらないしね。梟、鷹なんかの空を飛ぶ動物は便利よ。モグラなんてのもアリ。それと蛇は“信仰”を集めているから、使い魔にすると面白いわ。その点で言えば、蛙も同じね。鼠なんかもお手軽で悪くはないわよ。変わり種で言えば、イルカとかクジラとか、タコやイカを使い魔にしているやつもいるわ」


「へぇ……なあ、師匠」


「何?」


「そ、その……ワイバーンとか下級ドラゴン、グリフォンとかの幻獣は……そ、そんな馬鹿にするような目で見るなよぉ! い、良いじゃないか、ちょっと、そういうのは憧れるだろ?」


 大衆小説で出てくる正義の魔法使いの相棒といえば、そういう派手な動物が多い。

 フェリシアもたまにはそういう小説を読み、アナベラと「このキャラクターがカッコいい!」などとキャッキャすることもあるのだ。


「餌代と飼うスペースをどうするのかって話よ。一日に牛を一頭とか、用意する財力あるの?」

「な、ないです……」


 自分の食費すら危ういフェリシアがそんな動物の面倒を見れるはずがなかった。


「でしょう? あと、小動物の方が汎用性は高いわ。大きいのはやめておきなさい。意外に不便よ?」


「まあ……確かに」


 ドラゴンなどは騎乗できるので多少は役に立つが、空間跳躍で移動した方が早い。

 本当に優れた魔導師に必要なのは、強力な動物ではなく、自分の活動を補助してくれる小型動物ということなのだろう。


「蛙はどう? 安いわよ? オタマジャクシから飼えば、そこそこ懐くって聞くわ」

「う、うーん……それはつまらなそうだし、やめておくぜ」


 蛙さんパジャマは持っているフェリシアだが、本物の蛙さんはそこまで好きではない。

 使い魔というのは意外に浪漫がないんだなと、フェリシアはため息をつくのだった。


フェリシアちゃんの使い魔は

この話に出てきた生物のうちの、どれかと

決めています

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