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第1話 魔導師の弟子は師の師の名前を知る

 アナベラのことに関する話し合いが終わった後、フェリシアとマーリンはイェルホルムの街へと帰った。

 フェリシアはマーリンの空間跳躍に付いていく形となったため、帰郷に費やされる時間は大きく短縮された。


 これはフェリシアにとっては喜ばしいことではあるが……

 しかし、少々厄介な問題も発生していた。


「ま、まあ……師匠。そう機嫌を損ねないでくれよ」

「はぁ? 機嫌を損ねてなんて、いないわよ!」

「お、怒ってるじゃん……」


 頬を膨らませてプンスカしているマーリンを、フェリシアは必死に宥める。

 そしてこうなった原因を……ル・フェイが話した内容を思いだしていた。






「『Legend of KingArthur』、って聞いたことないか?」


 ル・フェイのその言葉にフェリシアは首を傾げた。

 まず『Legend of KingArthur』という言葉そのものが聞き取れない。


「エングレンド語に訳すと、『アーサー王伝説』になるかな? アナベラちゃんよ、さすがにアーサー王は知っているだろ?」


 ル・フェイが尋ねると、アナベラは少し考えてから……ポンと手を打った。


「ソシャゲで出てきたわ! エクスカリバーの人でしょ?」

「そう、エクスカリバーの人だ。六世紀頃に“異世界”のブリテン島という島を統治したと言われている。伝説的な国王。そしてその国王に纏わる伝説や、童話、物語集が『アーサー王伝説』なわけだが……」


 ニヤリ、とル・フェイは笑みを浮かべた。


「その『アーサー王伝説』の中にアンブローズ・マーリンと、モーガン・ル・フェイという魔法使いが出てくる。まあ、場合によっては妖精だったりするわけだが」


「ああ! そう言えば、そんな人いたわ! 確か、マーリンが良い魔法使いで、モーガンが悪い魔女よね?」


「ん……まあ、話によって変わるから一概には言えないが、そんな感じだな」


 悪い魔女扱いされたル・フェイは微妙な表情を浮かべた。

 一方でフェリシアたちは唖然とする。


 アナベラとル・フェイの間で話が噛み合っているのだ。

 それはル・フェイが適当なことを言っているわけではなく、そしてアナベラが全くの嘘偽りの記憶を植え付けられているわけではないことを示していた。


「えっと……つまり、師匠とル・フェイさんがモデルになって、その『アーサー王伝説』ってのができたってことか?」


「察しが良いな、フェリシアちゃん。が、逆だ。『アーサー王伝説』の登場人物から、俺様たちの名は名付けられた」


 そう言われて、フェリシアはマーリンの本名がチェルシー・アドキンズであったことを思い出した。

 ホーリーランド学長は『アンブローズ・マーリン』という名前は、マーリンが師から授けられた名であると言っていた。


「なるほど、合点が言ったわ」


 ポツリと、マーリンは言葉を溢した。


「師匠は優れた命名魔法の使い手。私たちの名前も、自分が知る中でより強い名前を選んで付けたと言っていたわ。でも、『アンブローズ・マーリン』も『モーガン・ル・フェイ』も、どこをどう調べても、その名前の出典や原典が分からなかった。だから私は師匠が適当に付けたんじゃないかと思っていたわ。でも、“異世界”の物語が出典となれば、話は変わる」


 つまり……マーリンとル・フェイの師は“異世界”の存在を知っていた。

 少なくとも、“異世界”の物語に触れる機会があった。

 

「ちなみに……その『アーサー王伝説』の“アンブローズ・マーリン”は夢魔と人間の間に生まれた子供だそうだ。そして知っての通り、俺様たちの師であるリリートゥ様は夢魔だ。こんな偶然、あるわけねぇだろ? ぎゃははははは!」


 愉快そうにル・フェイは笑った。

 

「ちなみに、俺様の不詳の弟子であるアコーロンも、その『アーサー王伝説』から取った。丁度十年前に、その“異世界”に行けるようになってな。俺様も師匠みたいに名前を授けてやろうかと考えていたら……この発見をしたというわけだ」


 それからル・フェイは唐突にフェリシアの頭を掴んだ。

 そしてわしゃわしゃとその髪を撫でる。


「う、うわ! な、何をするんだ!」

「ぎゃははは! あと何年後になるかは分からないが、マーリン。せっかくだし、こいつの名前は『アーサー王伝説』から取ってやると良い。ほれ、こいつを読んで、今から考えな」


 そう言ってアコーロンは虚空から取り出した分厚い本をマーリンへと投げ渡した。

 マーリンはそれを広げ、鼻を鳴らす。


「読めないけど?」

「それくらい、解読しろや。それとも、俺様に教えて欲しいのか?」

「結構よ!」


 憤慨した様子でマーリンは言った。

 ここでフェリシアはマーリンの機嫌が悪いことに気付く。


 どうやら自分たちの名前の秘密を、ル・フェイが先に解き明かしたために、それを悔しく感じているらしい。

 これは後が面倒だなと、フェリシアは内心で思った。


 ……実はフェリシアがル・フェイと仲良さそうにしていることに対しても――というよりはそちらの方が比重は大きいのだが――嫉妬し、腹を立てているのだが、フェリシアはそのことに気付いていなかった。 


「話を纏めると……ル・フェイ殿とマーリンの師である、夢魔のリリートゥ氏ならば、詳しいことを知っている可能性があるということかのぉ?」


「というか、その夢魔ご本人が何かしているって可能性もないか?」


 ホーリーランド学長が迂遠的に、ローランが率直にル・フェイとマーリンの師への疑念を口にした。

 が、マーリンは首を左右に振った。


「師匠はちょっかいを掛ける時は、夢を使うわ。……マカロン娘、あんた、酷い悪夢を見たりした?」

「ま、マカロン娘って……」

「良いから答えなさい」


 あんまりな綽名に閉口するアナベラに対し、マーリンは再度尋ねる。

 アナベラは首を傾げた。


「酷い悪夢って……そりゃあ、生きていれば悪夢の一つや二つ、見たことがあるけど……具体的にはどういうのですか?」


「そうね。男に強姦されたり、拷問を受けたり、そういう夢を一か月連続で毎晩見るようなことはあった?」


「い、いや……流石にそれは……ないです」


「なら、師匠は無関係ね」


「ぎゃははは! 師匠の性格は、正直言って俺様以上に悪いからなぁ! まあ、そもそも人間ではない夢魔だから、感覚が俺様たちとは、違うんだろうけど」


 そう言うマーリンとル・フェイの表情は……あまり良くない。

 何らかの被害を受けたことがあるのだろう。


 フェリシアは身震いしながら絶対に関わりたくないと思った。


 ……もっとも、マーリンの弟子である以上、すでにリリートゥと半ば関わっているようなものなのだが。


「だけど、その師匠の師匠……えー、大師匠で良いや。大師匠が、何か知っている可能性はあるよな? どこにいるんだ?」


 聞いてみれば何か分かるかもしれない。

 そう考えたフェリシアはマーリンとル・フェイに尋ねる。

 すると二人は揃って肩を竦めた。


「さあ? もう百年以上、会ってないからね。……まあ、正直、積極的に会いたくはないけど」


「そもそも、素直に教えてくれるような性格じゃねぇからな。……取り敢えず、会えたら伝えておくわ。会いたくねぇけどな。ぎゃはははは! はぁ……」


 そう言うとル・フェイは虚空へと消えてしまった。

 

 ル・フェイが帰ったことで議論は終わり、その場ですぐに解散となったのだ。


 



 さて、そんなこんなでフェリシアとマーリンはイェルホルム近くの森へと帰還した。

 ソファーに踏ん反り返って、イライラした様子のマーリンに、フェリシアは紅茶を淹れる。


 紅茶やお菓子を用意するのは、かつてのフェリシアの助手としての仕事の一つだった。

 久しぶりではあるが、その手つきは手慣れたものだ。


 マーリンは未だに機嫌が直らない様子で、フェリシアに対してグチグチと文句を口にする。


「大体ね、あなた、何? その腕時計。どうして大切そうにつけているのよ!」

「い、いや……だ、だって、便利だし……貰ったからには、大切にしなきゃダメだろ?」


 フェリシアの腕時計を睨みつけるマーリン。

 一方、フェリシアは腕時計を庇うように手で覆った。


「それに……ちょっと、デザインが結構好きでさ」


 ル・フェイは意外にセンスが良い。

 服も中々お洒落だったし、フェリシアにプレゼントしてくれた腕時計もカッコ良いデザインだ。

 服装に無頓着なマーリンとは、大違いである。

 勿論、そんなことを口にすれば火に油を注ぐ結果になることは明白なので、フェリシアは口が裂けてもそれを言ったりしないが。


「はぁ……まあ、良いわ。ところで、ローブ……改造できるようになったのね。まさか一年でここまで到達するとは、思ってもいなかったわ」


 マーリンは可愛らしい装飾が施されたフェリシアのローブに視線を向けながら言った。

 未だ不機嫌そうではあるが、しかし弟子の成長は喜ばしいことのようだ。


「ああ! こいつのおかげで、アコーロンには勝てたぜ。ありがとな、師匠!」

「……それはあなたの実力よ」


 プイっと頬を逸らして言うマーリン。

 相変わらず素直じゃないと、フェリシアは苦笑する。


「ここまでくれば、自分で研究テーマを見つけて、何か研究しなさい……って言いたいところだけれど。どう? 何か、定まった?」


「い、いや……その……」


 歯切れが悪くなるフェリシアに対し、マーリンは肩を竦めた。


「別に良いわよ。まだ十三歳なんだし、決まっていないのは当然。でも、目標は常に持つべきよ。長期目標はなくても良いけど、短期目標はいるわ。どう? その辺りは、思うところはある?」


「その……魔力量について、悩んでいるんだ。アコーロンには魔力量で負けそうになってさ。どうにかならないかな? 師匠みたいに、たくさん魔力が欲しいぜ」


 魔力がなくとも、工夫次第ではどうにかなる。

 が、やはり魔力があった方が選択肢は多くなる。


 フェリシアがそんな相談をすると、マーリンは笑みを浮かべた。


「そうね……そろそろ、始めても良いかもね」

「何がだ?」

「魔力炉心の作成、よ」


 マーリンは不敵に笑った。


フェリシアちゃんの時計はたぶん、ロレックスです


尊い師弟のやり取りに涙を流した方は

ブクマ、ptを入れて頂けると

師の師は師もまた同然ということで、師の師が次回登場……するということはありません



次回予告

肉体改造……はまだしません

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