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第21話 元悪役令嬢は悪の魔導師と対峙する


 瞬間、ル・フェイの周囲を無数の魔力弾が囲んだ。


 魔力弾。

 攻撃魔法の基礎中の基礎であり、最も汎用性がある魔法である。

 

 この魔法は魔法式が極めて簡易的であるが、それ故に高速で放つことが可能だ。

 加えてアレンジを加えやすい。

 発熱や発火、吸熱などの現象を付与したりすることもできる。


 魔導師であっても、この魔法の使いやすさは変わらない。

 故に魔法合戦では、大抵はこの魔法の撃ち合いが原則となる。


 ル・フェイの声がした段階で、マーリンとホーリーランド学長は魔力弾を放つ準備をしていた。

 そして出現した段階で、魔法式を完成させ、ル・フェイに対して放ったのだ。


 そしてル・フェイもこれを予期していた。


 即座に複数次元に跨る物理結界と魔法結界を構築し、これを防ぐ。

 物理結界は物理的な干渉を遮断する結界であり、魔法結界は魔力を遮断する結界だ。

 

 論理結界よりも展開速度が速く、汎用性が高いため、戦闘ではどちらも重宝される。


「おうおう……いきなり攻撃は、酷いじゃねぇか」

「黙りなさい」

「悪いのぉ……ワシも学生の命が掛かっているとなれば、穏やかに話し合いとはいかなくてな」


 無数の魔力弾がル・フェイを襲う。

 が、しかし九次元までの干渉を遮断する結界がある以上、マーリンとホーリーランド学長の攻撃がル・フェイに通ることはない。


「片や錬金術の、片や変身魔法の最高権威。だが……次元魔法の最高権威である俺様に、次元魔法では勝てないぜ? ぎゃははは……は?」


 ふと、ル・フェイは気付く。

 無数の魔力弾に混じって、小さな陶器が飛んできたのだ。


 それがル・フェイの周囲で砕け散る。

 緑色の閃光が学長室を包む。


「まず……」


 直後、大爆発を引き起こした。

 その爆発より生じた特殊な反魔力物質は複数の次元を跨って飛散し、ル・フェイの結界をズタズタに引き裂いた。


「私は九次元領域にまでは干渉できないけど、干渉できる物質を作り出すことはできるのよ?」


 ニヤリとマーリンは笑った。

 衝撃によって学長室から投げ出されたル・フェイは冷や汗を流す。


 そこへ……


「マーリンや……あまり学園を壊さんでくれんかのぉ?」


 半壊した学長室。

 土煙より出現したのは……巨大な竜だった。


 その龍は灼熱の炎をル・フェイへと浴びせようとする。

 ル・フェイは慌ててそれを避けた。


「ワシ自身は九次元にまでは干渉できずとも、干渉できる生物に化けることは、できるのじゃよ。それが変身魔法じゃ。しっかし……竜種への変身は老体には応えるわい」


「なーにが老体だ。俺様と年齢はさして変わらねぇだろうが」


 空中でル・フェイと、マーリンと竜へと化けたホーリーランド学長が対峙する。

 ル・フェイは大きく両手を広げた。


 無数の魔法陣が周囲に展開される。


「まあ、もともと次元魔法は戦闘には向かねぇ魔法だしなぁ……ぎゃはは! さすがに、同格の魔導師二人を相手にするのは、いくらなんでもムリって話だ。もっとも……足止めに限れば、話は別だけどな」


 魔法学園上空で、世界最高クラスの戦いが始まろうとしていた。






 一方、フェリシアは郊外の森、上空に出現した。

 周囲をキョロキョロと見渡しながら、両親の姿を探す。


「クソ……どこにいんだよ、ファッキン誘拐犯! そもそも、“森”の範囲が広すぎるんだよ、馬鹿野郎!!」


「ここだ。フェリシア・フローレンス・アルスタシア!」


 突如、森から声が響いた。

 フェリシアはすぐさま、声のする方向へと下りる。

 

 下りるとそこには木に縛り付けられている両親がいた。

 口には猿轡を噛まされている。


 二人はフェリシアを見ると、必死に何かを伝えようとモゴモゴとしていた。


「父さん、母さん!」


 フェリシアはとっさに二人のもとへと駆けだした。

 しかし……


「っぐ……」


 急に足が動かなくなり、フェリシアは前のめりに倒れた。

 動かそうにも、硬い石壁の中に閉じ込められたようにびくともしない。


 おそらくは次元魔法の応用だろうと、フェリシアは辺りをつけた。


「バーカ! 馬鹿正直に真正面から突っ込んでくる奴がいるか!!」


 木陰から一人の男が表れた。

 見た目は二十代半ばから後半程度。

 ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべている。


 フェリシアは男を睨みつけた。


「お前が、ファッキン誘拐犯か?」

「ファッキンかどうかはともかく、俺がお前の両親を誘拐した」

「何のためだ!」


 フェリシアが怒鳴ると、待ってましたと言わんばかりに男は語りだした。


「俺はアコーロン。魔導師ル・フェイ様の弟子にして……お前の師である、マーリンに恨みを持つ者だ!」

「師匠に?」


 なるほど、あの師ならば逆恨みを含めていろいろな恨みを買っていてもおかしくはないとフェリシアは納得した。

 フェリシアだって、たまにイラっとくる時があるほどなのだ。

 もっとも……だからと言って復讐をしても良いか、それにフェリシアを巻き込んで良いかは全く別の話なのだが。


「私を人質に、師匠を誘いだすつもりか? ……言っておくが、お前程度じゃ、師匠は倒せっぐぁ!!」


 アコーロンの放った魔法がフェリシアの腹部に直撃した。

 足を動かすことができないため、避けることもできず、後ろへ飛び退いて衝撃を逃すこともできなかった。


 フェリシアはお腹を抑え、苦しそうに呻く。


「黙れ。……そんなことは知っている。が、いくら血も涙もないマーリンであっても、可愛い可愛い弟子が無残に死ねば、少しは堪えるだろう?」


「……はは。つまり師匠に勝てないから、私に八つ当たりするわけか。負け犬の発想っ!」


 再び魔法弾が被弾する。

 胸部を強く打たれ、息が止まる。


「負け犬で結構! あのマーリンが悔しがる姿さえ見れれば、それで十分だ」

「……どうしてそこまで、師匠を恨んでいるんだ。師匠がお前に、何をしたって言うんだ?」


 フェリシアが尋ねると、アコーロンは忌々しそうに語りだす。


「マーリンめが作った魔法薬のせいで、我が家は没落した! 加えて、あの女は学会で俺を侮辱した! あの女のせいで、俺の人生は滅茶苦茶だ!」


「……ふふ」


「何がおかしい!!」


 魔力弾がフェリシアの顎を強く強打する。

 痛みと脳震盪でくらくらしながら、フェリシアは不敵な笑みを浮かべた。


「師匠が作った魔法薬のせいで、没落した? 笑わせる。それはお前の家がいつまでも時代遅れの特許にしがみ付いていたからだぜ」


「黙れ!」


 再び魔法弾がフェリシアを襲う。

 が、動揺のせいかその魔法弾の狙いはやや外れ、フェリシアの頬を僅かに切り裂いただけで終わった。


「学会で侮辱された? 学会じゃ、批判のし合いは当然だぜ。どうして言い返さなかった? 言い返せなかっただけだろ?」


「黙れ、黙れ、黙れ!! 黙らないと、今ここで貴様を殺すぞ!」


 無数の魔法弾がフェリシアの体を強く打ち続ける。

 それはあくまでフェリシアを殺さず、苦しめる程度に加減された威力ではあったが……

 成人男性の拳に等しい威力の攻撃を何度も受け、フェリシアは全身傷だらけになりながら、苦しそうに呻く。

 

 それでもフェリシアの口は閉じることはなかった。


「人生が滅茶苦茶? はは、笑わせる! お前に友達がいないのも、恋人がいないのも、何一つ何もなせないのも、惨めな人生を送っているのも、師匠に負けたからじゃない。お前は、お前自身の人生に、プライドに、価値観に、無様に負けただけだ! この敗北者!!」


「……どうやら、早死にしたいようだな」


 アコーロンは杖を構える。

 今までの殺傷能力のない魔力弾とは異なる、フェリシアを十分に殺すだけの威力を持つ魔力の塊が生成される。


 木に縛り付けられていたアンガスとフローレンスは、必死に声を上げようとしている。


「死ね!! クソガキ!!」

「やだね。……というか、お前、時間を掛け過ぎだぜ」


 その瞬間、何かが破裂するような音が響いた。

 それが立て続けに発生し……そして辺り一面が白煙に包まれる。


「な、何が起こって……」

「教えてやるもんかよ、バーカ! 自分で判断しろ!!」


 フェリシアは無策で突撃するほど、馬鹿ではない。

 地面に降りる前に、反応すると煙を発生させる魔法薬を詰めた陶器を、ローブから取り出してばら撒いておいたのだ。

 陶器には事前に認識阻害の魔法が掛けられていたため、アコーロンはそれに気付くことはなかった。


 内部の薬が混ざり、反応するまで時間が掛かってしまったが……

 アコーロンの自分語りが長く、そしてフェリシアがアコーロンを挑発して話を引き延ばしたために、十分な時間を稼ぐことができた。


 そして……これだけ時間があれば、自分の足を拘束している魔法を解除することは容易だ。


 フェリシアはアコーロンが混乱している隙をつき、両親のところへと駆け寄った。 

 そして杖で魔力の刃を作り、ロープを切断し、猿轡を外す。


「ふぇ、フェリシア、大丈夫?」

「す、すまない……お前には何度も迷惑を……」

「話は後だぜ。煙はそう長続きしない。急いで逃げてくれ。私は後から追う」


 フェリシアはそう言うと、両親を逃げるように急かす。

 アンガスとフローレンスは何か言いたそうな表情を浮かべたが……しかしこの場にいてもフェリシアの足を引っ張るだけと判断したのか、小さく頷いた。


「ムリはしないで」

「すぐに逃げるんだぞ!」


 そう言って二人はその場から離れた。

 両親がちゃんと逃げたところを見送ってから、フェリシアは振り返った。


 すでに煙は晴れ、そこには忌々しそうに表情を歪めているアコーロンがいた。

 

「やってくれたな、クソガキ」

「お前に言われたくないぜ、ファッキン誘拐犯。お前の復讐なんかに付き合いたくはないが、降りかかった火の粉は自力で払わせてもらう。掛かってきな」






次回予告!

アコーロン、死す!

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