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第20話 見習い魔導師は両親を助けに向かう

 手紙を読んだフェリシアは、顔面蒼白になった。


「どうしたの? フェリシア」


 アナベラに心配そうに尋ねられ、我に返る。

 フェリシアは首を左右に振った。


「な、何でも……ないぜ」


 そしてそれから考えを巡らせる。

 最悪を常に想定するべきだ。


 つまり……両親は何者かに誘拐されていると、考えた方が良い。


 まずは大人にこのことを伝えるべきだろう。

 特にマーリンには伝えなければならない。


 だがマーリンがどこにいるかは分からない。

 それにロンディニア郊外の森は遠い。


 空を飛んだとしても一時間は掛かるだろう。

 つまり大人に相談している暇はない。


 だが……誰にも言わず、一人で飛び出すのは賢明ではない。


 今、この場で最も頼れる人物は……マーティンとアーチボルトの二人だ。


「キャプテン、アーチボルト……その、相談があるんだ」

「どうしたんだい? フェリシア君」

「体調でも悪いのか?」


 心配そうに言う二人。

 二人とも、特に今年で最後のマーティンは、このラグブライの試合に全力を掛けている。


 だからこそ……こんなことを相談するのは、非常に心苦しかった。


「その……ここでは場所が悪い。ちょっと、来てくれ」


 フェリシアは二人を人気のない場所へと連れ出し、そして例の手紙を見せて、事の経緯を伝えた。

 それからフェリシアは……

 膝を折り、頭を下げた。


「すまない……私は試合に、参加できない。申し訳ないと、思っている。だけど……お願いだ。両親を助けに行かせてくれ」


「それは許さない」


 マーティンははっきりと、そう言った。

 そして自らも膝を折り、フェリシアに視線の高さを合わせた。


「両親を助けに行った上で、君も試合に参加するんだ。ライジングは君を含めて、ライジングだ」

「で、でも……」

「でもじゃない。僕はキャプテンだぞ? キャプテンとしての命令だ。……試合に関しては、どうにか交渉して、遅らせてもらうように頼む。ほら、立って」


 そう言ってマーティンはフェリシアを立たせた。

 フェリシアは目に涙を浮かべていた。


「本当に……ごめん」


「君が謝ることじゃないだろう? ラグブライの試合と、両親ならば、後者の方が大切なのは当然のことだし……そもそも、どういう私怨があるのかは知らないけれど、こんな時期に親を人質に呼び出そうとするなんて、とんでもない卑怯者だ」


 珍しく憤った姿を見せるマーティン。

 それからアーチボルトへ目配せする。


「僕は審判とノーブルの人たち、そして運営委員を説得して、試合を遅らせて貰えるように交渉する。だから君はまず教師たちにこのことを伝えるんだ。ホーリーランド学長にもね。それからフェリシア君の両親の安否確認と、彼女の師であるマーリン様を探してくれ」


「分かった、キャプテン。フェリシア! お前がいないなら、俺たちは試合に出ないからな! 絶対に戻って来いよ!!」 


 そう言って一目散に駆けていくアーチボルト。

 それからマーティンはフェリシアに向き直った。


「両親の安否確認を含め、その辺りは僕たちがやる。君は最悪を想定して、森へ向かうんだ。ホーリーランド学長やマーリン様ほどの魔導師ならば、誘拐犯に気付かれないように追いつけるはずだしね」


 一人で来いと言われて馬鹿正直に一人で行く理由はない。

 ホーリーランド学長やマーリンと合流すれば、卑怯者の誘拐犯なんて一捻りだ。


「分かった。行ってくるぜ!!」


 フェリシアは頷くと、ふわりと空中に浮きあがった。

 そしてラグブライの試合では使えない飛行用術式を起動させ、一気に空へと飛びあがる。


「は、早いなぁ……」


 魔導具の補助無しで空を飛べるなんて、本当に凄い子だとマーティンは今更ながらに思うのだった。





 空を飛び始めてしばらく。

 フェリシアの耳に聞きなれた声が聞こえてきた。


――フェリシア? 聞こえる!?――


「し、師匠? え、えっと……念話か?」


 すぐに該当する現象、魔法を思い出してからフェリシアは口に出して尋ねてみた。

 するとすぐにマーリンからの返答が返ってきた。


――そうよ。よく聞きなさい。試合は一時間、延長してもらったからそのことに関しては安心して。それと今から空間跳躍で、オズワルドと一緒にあなたのところまで跳ぶわ。誘拐犯には気付かれないように、隠密系の魔法を使ッザ……安ザッ……ザザ……――


「し、師匠?」


 急に聞こえが悪くなり、フェリシアは不安になる。

 

――予ザ……更。すザッ……なザ……わ、フザッ……ア。ちザ……と、邪ザ……入った。急ザザ……片づザッ……ッ……ザザ……に向かうから、頑ザッ……――


「し、師匠!?」


 そして念話が切れてしまった。

 現場にはマーリンとオズワルドがいるというのに、その二人ですらも念話が維持できないほどの“邪魔”とは、一体何なんだろうかとフェリシアは不安に襲われた。


 だが……


「父さん、母さん! 絶対に、助けるからな!!」


 師に頼れないならば、自力で何とかするまで。

 フェリシアは不安を押し殺し、己を奮い立たせた。






「くっ……念話が切れたわ」


 一方、ロンディニア魔法学園の学長室で、マーリンは地団駄を踏んだ。

 今すぐにでもフェリシアのところに駆けつけたいが……

 

「さっきまではフェリシアの魔力を辿れたんじゃが……今では座標の検索すらできん。この状況下では、跳ぶのは危険じゃな……」


 苦々しい表情でホーリーランド学長は呟いた。

 ホーリーランド学長は七次元までの干渉を可能とするほどの優れた次元魔法の使い手だ。

 

 そのホーリーランド学長が次元魔法を封じられるということは、六次元までの干渉を一時的に妨げる魔法的な干渉が行われていることは確かだ。


「ダメね。六次元までじゃ、どうしても回線が切れるわ。遠回りになるけど、今度は七次元まで迂回して……」


「無駄無駄無駄。俺様の干渉から逃れたければ……最低限、九次元までは干渉できなきゃな」


 虚空からそんな声が聞こえてきた。

 突如として現れたのは……黒髪に日に焼けた肌の男性だった。


 見た目の年齢は二十歳ほどに見える。


 手には……マーリンと同じ、しかしややデザインの異なる樫の杖を持っていた。


「……やっぱりね、こんなことができるのは、あんたくらいしか、いないわよね」


 マーリンやホーリーランド学長の魔法を妨害するほどの実力を持つ魔導師は、世界でもそう多くはない。

 ローランはその一人に当たるが、性格的にこんなことをする人物ではない。


 優れた次元魔法の使い手であり、そして……悪事に加担するような性根の腐った魔導師。

 そんな人物はマーリンは一人しか知らない。


「ル・フェイ!! 一体、何の真似?」


「ぎゃはははは!! 怒るなよ、我が親愛なる妹弟子、マーリン!! ちょーっと、弟子の強さ対決をしようってだけだ。ここは師匠同士、弟子の対決を見守ろうや。ひひひひひ……」


 マーリンと同じ、夢魔リリートゥの弟子。

 最高峰の次元魔法の使い手。

 そして……変人揃いの魔導師の中でも、特に変人で、性格の捻じ曲がった者として有名な男。


 大魔導師モーガン・ル・フェイが虚空から姿を現した。 


念のために伏線回収をしておくと

フェリシアが読んだ性悪魔導書の著者がルフェイさんです



両親を人質に取られているこの状況じゃあ……

命令に従うしかない……

く、悔しい……でも……

という方はブクマ、ptを入れて頂けると

フェリシアが「悔しい! でも……」となります


次回予告

フェリシアVS誘拐犯


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