第17話 スポーツ令嬢は公式試合に挑む
さて、復活祭を過ぎるとフェリシアたちには魔法学園、有数の大イベントが待ち受けていた。
「さあ、諸君! ついに、ラグブライの試合が始まるぞ!!」
夕方のミーティングで、アーチボルトは大きな声で宣言した。
もっとも、各人言われなくとも分かっていることではあるが。
「念のために、公式戦の詳しい概要を説明しようか」
引退を間近とするマーティンは立ち上がって、簡単な説明を始めた。
公式戦はトーナメント方式で行われる。
公式に登録されたチームのうち、選抜された八チームが争う。
準々決勝、準決勝、決勝で三勝することができれば優勝となる。
尚、公式登録されているチームは八チームだけではなく、複数存在するためまず準々決勝に進むまでには予選を勝ち抜く必要がある。
ただし前年度にベスト三位までに食い込んでいるチームに関しては、シード権が認められ、準々決勝に進むことができる。
「確か前年度は……」
「ノーブルが優勝、我々ライジングが準優勝、そしてレッドドラゴンズが三位だ。……今年こそは、絶対に優勝するぞ!!」
アーチボルトが強い声で宣言する。
それからマーティンが苦笑しながら、付け足す。
「最低でも、ベスト三位にまでは入って貰わないとね」
「やっぱり、三位以内に入っていた方が有利なのか?」
フェリシアが尋ねるとマーティンは頷いた。
「まあ、他のチームが予選やら何やらで時間を使っている間に、こちらはコンディションを整えることができるからね。もっとも……」
「しかし実戦経験は不足しがちになる。上級生は良いが……一年生には、不足する経験を練習でしっかりと補って貰わなければな!」
ニヤリと、アーチボルトは笑った。
あー、これは藪蛇を突いてしまったなとフェリシアは今更ながら後悔したが、もう遅い。
「今年は一年生が二人もいる。……キャプテン、やはり練習時間を増やすべきじゃないか?」
「そうだねー」
普段はアーチボルトの暴走を止めるのが、マーティンの役割だ。
フェリシアとマルカムはマーティンに期待の眼差しを送るのだが……
「うん、僕は今年が最後だからね! 二人には多少、ムリをしてでも頑張って貰おう!」
「よし! そう決まったからには、練習メニューを新しく組み直さなければな!! フェリシア、マルカム、覚悟しておけよ!! 二人については特別に、念入りに、重点的に、鍛えてやるからな!!」
「「……はい」」
ため息混じりに二人は返事をするのだった。
それからしばらくの時間が経った。
「いてててて……」
綿を使って傷口に薬を塗られたフェリシアは、小さな悲鳴を上げた。
魔法薬が傷口に染みるのだ。
練習後、自室にてケイティに怪我の応急処置をして貰っているのだ。
「大丈夫ですか?」
「いや、大丈夫だぜ。続けてくれ」
ケイティはフェリシアの怪我の治療を続行する。
大怪我はないものの、擦り傷などの小さな傷や痣などは全身の所々にあった。
「終わりです。痕にならなければ良いですけど」
「全くだぜ。アーチボルトのやつも、マーティンも、頭が狂ってるとしか思えない」
フェリシアはそう言って、ベッドの上に寝転がった。
怪我も辛いが、それ以上に全身に疲労がたまっている。
「まあ、上手くなった気はするから、良いんだけどな。……マーティンのためにも、優勝してやらないと」
「そうですね。私たちも、頑張ってサポートします。もうそろそろですよね」
「ああ。予選も終わって、一週間もすれば準々決勝が始まる。私たちの相手は……レッドドラゴンズだ。かなりの強敵だぜ」
ロンディニア魔法学園で一、二を争うチームとしてはライジングとノーブルの名が挙げられる。
この二つのチームが有名なのはその実力もあるが、それ以上に長い歴史があり、元メンバーに国の有力者が大勢いるからだ。
つまり知名度はともかくとして、純粋な実力では、この二つが特別に飛びぬけているというわけではない。
いくつかのチームの中には、二つの迫るほどの実力があるチームもある。
そのうちの一つがレッドドラゴンズであり、彼らは過去にライジングやノーブルから優勝杯を奪ったこともあるほどの実力派だ。
「いきなりレッドドラゴンズってのは、ついてないぜ。ここで負けたら……ベスト二位から八位まで転落の上、来年は地道に予選から勝ち上がらなければならなくなる。責任重大だ」
と、口では言うもののフェリシアの表情には自信が表れていた。
優勝することができるだけの練習を積み重ねてきた。
だから実力を出し切れれば、必ず勝てる。
そう確信しているのだ。
「そう言えば、フェリシアさん。招待状はお出ししたんですか?」
「ん? ああ。師匠と、あとは父さんと母さんにな」
魔法学園のラグブライ公式試合はエングレンド王国でも有数のイベントで、国中から人が集まる。
そのため観戦するには席の予約が必要だが……
出場するメンバーには、自分の身内に優先して席を用意する権利が与えられる。
フェリシアは三枚のチケットをそれぞれ、手紙で郵送した。
「師匠は文句を言いながら来てくれると思うんだけど……父さんと母さんはちょっと、分からないな」
「え? ……そうですか?」
逆ならばともかくとして、両親が来ないということはあるのだろうか? とケイティは首を傾げる。
フェリシアと両親が微妙な関係にあることは、当然ケイティも心得ている。
そして……最近、その関係がそれなりに修復されてきていることも知っている。
だからこそ、両親が来ないというのは不思議な話だ。
「いや……だって、ほら。……貴族も当然、来るだろ? 顔を合わせたくないんじゃないかなって思って」
「あぁ……」
貴族の称号を剥奪され、平民落ちしたアンガスやフローレンスにとっては、エングレンド王国の貴族と顔を合わせるのは少々気まずいだろう。
フェリシアはそれを気に掛けていた。
「まあ……父さんと母さんが来ようと、来なかろうと、やることは変わらないけどな! 必ず勝つぜ!」
ニヤリと、フェリシアは勝気に笑うのだった。
一週間後。
ついに準々決勝の日が訪れた。
ライジングの面々はチーム全員で円陣を組んでいた。
それぞれ手を重ね合わせる。
「絶対に勝つぞ!」
「「「おおお!!!!」」」
気合いの声を上げた。
それから競技場に入場し、それぞれの持ち場につく。
「フェリシアさん、頑張ってください!」
「リラックスですわ!」
「大丈夫、勝てるはずよ!」(原作通りなら……)
ケイティ、ブリジット、アナベラたちも観客席から声援を送るが……
それは観客たちの声に掻き消され、フェリシアたちの耳には聞こえていなかった。
もっとも、聞こえずとも彼女たちが応援してくれていることはフェリシアたちには自明の事実であり、その期待に応えようと、闘志を燃やしていた。
ただ一人……フェリシアだけが、チラリと観客席に視線を送っていた。
(さすがに……この距離からだと、分からないな……)
指定した席の場所は覚えてはいるのだが、観客席は広く、そして遠い。
人は豆粒のように小さく見える。
そこからマーリンと両親の三人の姿を確認するのは、少し難しい。
目を凝らして見れば分かるかもしれないが……
生憎、注視しているほどの時間はなかった。
「まあ、いてもいなくても、変わらない。全力を尽くすだけだぜ」
フェリシアが呟くのと同時に、試合開始を告げるホイッスルが鳴った。
心臓が高鳴り、緊張が最高潮に高まる。
同時に……全身が熱くなり、集中力が高まる。
「良し!」
木から飛び降り、フェリシアは風に乗り、空へと舞った。
巧みに四枚の羽を操作して気流に乗り、全身の筋肉と両足の魔導具でバランスを取る。
そしてボールの位置を目で追う。
ボールは……レッドドラゴンズの手にあった。
敵の前衛が、こちらへと攻め上がってきている。
「フェリシア! 抑えろ!!」
「おう!!」
マーティンの指示に、フェリシアは力強く答えた。
気流に乗り、大きく宙返りをして、それから地面へと重力を味方につけて加速する。
そして体を丸め、突進の姿勢を取る。
これに対し、敵もフェリシアを受け止める動きを見せるが……
「引っかかったな!」
衝突するすれすれで敵を回避、そしてすれ違いざまにボールを奪う。
そしてすぐさま、マルカムへボールを投げ渡す。
「マルカム!」
「任せされた!」
ボールはマルカムの手に。
そしてそのまま……ゴールへと、シュートを決めた。
「まずは、先制点!」
ニヤリと、フェリシアは笑みを浮かべた。
しかし……
試合はまだ始まったばかりだ。
フェリシアちゃん、がんばぇー!
という大きなお友達はブクマ、ptを入れて頂けると
優勝に一歩近づけるかもしれません
次回予告
応援席には、あの人物が!?
ところで、昨日(4日)に投稿もしてないのに12時から急にアクセス伸びてるのは、何でですかね?
まあ、あの集計たまにバグるからそのせいかも知れませんが