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第12話 不良令嬢は二日酔いに苦しむ


「うぐぅ……あ、頭が痛い……」


 フェリシアは頭を抱えながら登校した。

 席に着くや否や、ぐったりと机に突っ伏す。


「随分と調子が悪そうだが、まだ風邪が治っていないのか?」


 クリストファーはフェリシアの隣に座ってから尋ねる。

 フェリシアは顔をクリストファーの方へ向けながら、げっそりとした表情で答えた。


「いや、そうじゃなくて……多分、二日酔いだ」

「……二日酔い? 酒を飲んだのか?」


 クリストファーは信じられないと目を見開いた。

 「真面目君」であるクリストファーは校則を破ろうなどとは考えたこともないし、そもそも翌日に授業が控えているというのに酒を飲むという発想がまずない。


「馬鹿、あまり大きな声で言うな……」

「信じられない。何を考えているんだか」

「逆に聞くけど、お前らは打ち上げをやらないのか? 幾何学同好会だって、展示をやったんだし……打ち上げくらいはしただろう?」


 フェリシアが尋ねると、クリストファーは頷いた。


「勿論。学生らしく、節度を守って、常識の範囲内で打ち上げをやったさ。断じて飲酒なんてしていない」

「ふーん……なんか、つまらなそうだな」

「何!? それはどういう意味だ!」

「うぐぅ……頼むから、大きな声を出さないでくれ」


 声を荒げたクリストファーに対し、フェリシアは小さな声で頼んだ。

 それから「つまらなそう」な理由を口にする。


「ちょっと悪さをして許されるのは、学生の特権だぜ? 今のうちに悪いことをしておかないと……」

「結構だ。僕は生涯、“悪事”をするつもりはないからな!」

「真面目過ぎると、モテないぞ?」


 フェリシアがそう言うと、クリストファーは眉を顰める。

 それからフェリシアと一緒に“悪事”をしただろう、マルカムを一瞬チラりと見てから尋ねる。


「……君は真面目過ぎる人間は、嫌いか?」

「うん? まあ、限度にもよるけど……別にクリストファーのことは嫌いじゃないぜ? 人間としては結構、好きかな」


 好き、と言われたクリストファーの口元が少し緩む。

 勿論、「人間として」という部分についても聞き逃してはいないし、フェリシアにそういう気がないのも理解している。

 そしてクリストファー自身も、別にフェリシアのことが異性として好きというわけでは――少なくとも彼はそう思っている――ない。


 が、それでも年頃の男子だ。

 可愛い女の子に「好き」と言われるのは……嬉しくないはずもないし、意識しないというのもムリな話だ。


 だからクリストファーが少しニヤけてしまうのも不可抗力だった。


「冷静に考えると、私とお前で案外バランスが取れているのかもな」

「ば、バランス?」

「あまりにも私の行動が目に余るなら、注意してくれ。ついうっかり、限度を超えてしまうかもしれないからな」

「……飲酒は限度を超えているような気がするが」

「私の価値感では超えていないのぜ」


 と、そうこうしているうちに教師が教室に入ってきた。

 最初の授業は……バーノン講師による錬金術の授業だ。


 前期の錬金術の授業を受け持っていた教師は、フェリシアに嫌がらせをした中年男性教師だったが……後期で教師が変わった。


 前期と後期で教師が変わることはあまりないのだが……噂によると、フェリシアによる「質問攻撃」を嫌い、ホーリーランド学長に泣きついて変わって貰ったとか。


 貧乏くじならぬ、フェリシアくじを引かされたのがバーノン講師である。


「おお……諸君。全員、出席しているようで、実に結構だ。毎年、学園祭の後は、どういうわけか頭痛で授業を休む、もしくは遅刻する学生が多くてね。ふむふむ、君たちは健康そうで何よりだよ」


 そう言ってバーノン講師はフェリシアやマルカムの方を見て、ニヤリと意地悪い笑みを浮かべる。

 二人は思わず縮こまった。


「Miss.アルスタシア!!」


 突然、バーノン講師はフェリシアの耳元でその名前を呼んだ。

 強く声が頭に響き、フェリシアは思わず頭を抑えた。


「おお、おお……Miss.アルスタシア。どうしたのかな? 体調が悪いようだが? おかしいな、昨日、私は君にはちゃんと早く寝るように言ったが……まだ風邪が治っていないのかな? Miss.アルスタシア!!」


 わざとらしく大きな声で、フェリシアの名前を呼ぶ。

 そのたびに二日酔いの頭に、声が響き……フェリシアは頭痛で苦しむことになる。


「だ、大丈夫……です。せ、先生……その、だから……や、やめて、ください……」

「ふむふむ、その様子だと……あの後も、ヤンチャを続けたようだな。Miss.アルスタシア」

「あぅ……」


 実際、あの後も打ち上げは続き、夜遅くまでフェリシアたちは酒を飲んでいた。

 バーノン講師がやってきたことで一時的に冷めた空気も、すぐに元の調子に戻り、大盛り上がりだったのだ。

 そのせいでフェリシアは少々、飲み過ぎてしまった。


「しかし……大丈夫というなら、まあ、良いだろう。大丈夫と、確かに君は言ったのだから……しっかりと私の授業を聞くように。……マルカム・アルダーソン!!」


「は、はい!!」


 唐突に名前を呼ばれたマルカムは立ち上がった。

 フェリシアがイビられているのを見て、少し油断していたためか、マルカムの心臓は驚きと緊張でバクバクと鳴っていた。


「Mr.アルダーソン。君もしっかりと、私の授業を聞くように。勿論……体調不良というのであれば、しっかりと保健室で調べて貰うことになるがね」


「い、いえ……だ、大丈夫です、先生!」


「ならばよろしい。……それと、Miss.アルスタシアは放課後、私のところへ来るように」


「え?」


「来るように!」


「あ、はい!!」


 まさか逆らえるはずもなく、フェリシアは返事をするしかなかった。

 周囲から、フェリシアへの同情の視線が集まった。

 フェリシアは内心でため息をついた。





 さて、放課後、フェリシアは言い付け通りにバーノン講師のもとへと向かっていた。

 講師の身分では研究室こそ用意されていないものの、講師室と呼ばれる大部屋と、専用のデスクは存在する。


(い、一体……なんなんだよぉ……まさか酒のことか? でも、私だけ怒られるってことはないだろうし)


 まだ微妙に残る頭痛に苦しみながら、フェリシアは呼び出し内容について思いを巡らせる。

 バーノン講師に褒めてもらえる……と思うほど、フェリシアは楽観的ではない。

 バーノン講師の用件は、目的はフェリシアを叱ることか、もしくは嫌味を言うことであろう……そう悲観的に考えていたためか、フェリシアの足取りは重かった。


「えー、先生。何のご用件でしょうか?」


 講師室に辿り着いたフェリシアは、自分のデスクで紅茶を飲んでいるバーノン講師のところへ向かい、開口一番にそう尋ねた。

 バーノン講師は紅茶を一口飲んでから、答える。


「もう、君は私の授業を聞かずとも良い」

「……え?」


 フェリシアの顔が青く染まる。

 つまりバーノン講師が受け持つ錬金術の授業は落第である、という意味だとフェリシアは捉えたからだ。


「ま、待ってください! そ、その、私、何かしましたか?」

「それは自分の胸に手を当てて考えてみなさい。思い当たる節はないかね」

「……」


 フェリシアは言われるままに胸に手を当てて考えてみる。

 昨晩は飲酒を行った。

 定期的に夜歩きをして、図書館に忍び込んでいる。

 ちょっとした悪戯も、いくつかやったことがある。


(ま、不味い……心当たりが多すぎるぞ)


 フェリシアは内心でだらだらと汗を流しながら答えた。


「え、えっと……もしかして……先生のデスクの中に蛇の玩具を入れた悪戯ですか?」

「あれは貴様がやったのか!!」

「ひ、ひぃ!! す、すみません! で、出来心だったんです!!」


 どうやら、蛇の悪戯が問題だったわけではなさそうだ。

 もっとも、たった今、バレてしまったが。


 縮こまり、小さくなるフェリシア。

 そして内心では「今度はもっとユーモアがある悪戯をしよう」と心に誓う。


「え、えっと……それで、授業に出なくても良い、とは?」

「先日、君が作った五日熱の治療薬だが、まあまあの出来だった」


 唐突にそんなことを言い始めるバーノン講師。

 フェリシアは思わず首を傾げる。


「え、えっと……」

「あれだけの魔法薬が作れる君には、一年生レベルの錬金術の授業は、無意味だろう。実際、退屈ではないかね?」

「それは……まあ、そういう側面も、あります」


 正直なところ、退屈に感じていたのは本当だ。

 勿論、錬金術の教師の目の前で「退屈でした」と馬鹿正直には答えられないが。


 しかしフェリシアの建前を見破ったのか、バーノン講師は鼻で笑った。


「気は使わなくても良い。実際、あれは君には不要な授業だ。だから受けなくても良い」

「……じゃあ、単位はどうなるんですか?」


 出席をせずとも単位をくれるならばそれほどありがたいことはない。

 が、そんなことが制度的に可能なのだろうかと、フェリシアは疑問を抱いた。


「代わりにレポートを提出してもらおう」

「レポート?」

「その通り。一先ず、君が以前調合した五日熱の治療薬に関するレポートを書いてきなさい。……場合によっては、特許庁に提出することになるから、しっかりと書くように」

「と、特許庁!?」


 フェリシアは思わず大声を上げた。

 もし特許庁への申請が認められれば、商用目的に限られるが、その魔法薬を作るたびにフェリシアのところへ一定の金額が支払われることになる。


「で、でも……あれはそんな、大したものじゃ……」


「確かに、現状では君が作った物よりもコストパフォーマンスに優れた調合方法が存在する。が、君の物はその代用品として、多少は価値がある。まあ、大して収入は期待できないが、一応特許の方を申請しておくべきだ。そうすれば君の名も上がるだろう」


 どんなくだらない発明であれ、特許を申請すれば権利が認められる。

 取得している特許の数は、その錬金術師の実力を示す指標にもなるのだ。


「そういう……ものですか?」

「そういうものだ。それと試験は受けてもらうから、試験勉強はしっかりとするように」

「それは言われなくても、です。先生」


 フェリシアは快活な笑みを浮かべて言った。 

 入学、そして前期での期末考査で守ってきた首席の地位を、今更誰かに譲り渡すつもりはなかった。


「よろしい。……では詳しい期日等は追って伝える。もう、行き給え」


 しっし、と言わんばかりに手でフェリシアを追い払う仕草をする。

 しかしフェリシアはその場から去らない。


「先生、一つ良いですか?」

「私は忙しいのだが……なんだね?」

「もしかして、私のこと……褒めてくれました?」


 まあまあの出来。

 という言い方は決して褒めているとは言えないが、そもそも生徒に対しては厳しいことしか言わないバーノン講師の発言であることを考えると、実は彼なりに褒めているのでは? と考えたフェリシアは試しに尋ねてみた。


 するとバーノン講師は……フェリシアを馬鹿にするように、鼻で笑った。


「馬鹿なことを言ってないで、早くどこかに行きなさい」

「ふふ……分かりました、先生!」


 どうやら彼なりに褒めてくれたらしい。

 勝手にそう判断したフェリシアは、上機嫌でその場から立ち去ったのだった。


「……全く、本当に分かっているのやら」


 バーノン講師はフェリシアの背中を見送りながら、苦々しく呟くのだった。

深夜に出歩いてたら、無防備な先生の机があったんだもん

仕方がないよね

というか、誘っているようなものだよね

これで悪戯しなかったら逆に失礼だよね



と、そんな悪戯っ子なフェリシアちゃんに悪戯されたいという方は

ブクマ、ptを入れて頂けると

フェリシアちゃんに服の襟首からカエルを入れて貰えます



次回予告

クリスマスっぽい何か

ダンスパーティーとか、あります

ついでに金カワ要素あり

乞うご期待!

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