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第11話 不良令嬢は飲酒をする

一部、現実でやったら危険な行為がありますが、決して真似はしてはいけません

「パフォーマンス大会優勝と、フェリシア君の快復を祝って、乾杯!!」

「「「乾杯!!!!」」」


 ライジングのキャプテンであるマーティンの掛け声とともに、フェリシアたちはコップを掲げて宣言した。

 そして糖分が別の物質に変化しているジュースを飲む。


「くっはぁ……美味しいぜ!」

「フェリシア、病み上がりで飲んで良いの?」


 麦のジュースを美味しそうに飲むフェリシアに対し、アナベラは心配そうに尋ねた。 

 ちなみにアナベラは特に強いわけでも好きというわけでもないので、最初の一杯だけは付き合い、それ以降は本物のジュース――勿論、本物も何も、言うまでもなくすべてジュースなのだが――を飲んでいる。


「何たらは百薬の長って言うじゃないか」 

「万病の元ともいうから、僕としては飲み過ぎないで欲しいね。揉め事だけは、避けてくれ」


 フェリシアにそう忠告したのはライジングのキャプテンである、マーティンだ。

 最近、就職活動を終えたマーティンは再びライジングの活動に戻っている。


 もっとも、キャプテンとしての実質的な地位はアーチボルトに譲っている。


 そのアーチボルトと言えば……


「っくぅ……美味い!! いやー、勝利のびし……ジュースは美味いなぁ!!」


 グビグビと麦のジュースを飲んで騒ぐアーチボルト。

 そんな彼を見て、マーティンは思わず呟く。


「心配だ……」

「……」(杞憂、でもないのよねぇ……)


 アーチボルトがキャプテンになった後に何が起こるか知っているアナベラは思ったが、それを口に出してもマーティンを余計に心配させるだけなので、黙っておくことにした。


「キャプテン、就職活動はどうだったんだ? 大変だったか?」

「うん? まあ……大変と言えば大変だけど、他の人ほどじゃないかな。……あまり大きな声じゃ言えないけどね、ライジングは結構、強いんだよ」


 勿論、ラグブライが、ではなく就職が、である。

 ライジングは平民出身者や、下級貴族出身者が多い。

 彼らの多くは学園卒業後、大きな商会や王宮、軍などに就職する。


 学生の時にラグブライをやっていたというだけでも就職では強いカードになるが、ライジングは強いコネを持っているので、特段に強い。


 先輩からの推薦という形で容易く就職ができるし、出世もそこそこ早いのだ。

 

「ライジング出身の偉い人って、そこそこ多いですよね」

「一番身近で有名なところで言えば、オズワルド学長がそうですわね」


 ケイティとブリジットが話題に加わる。

 学生時代にラグブライをやっていて、卒業後は政界や財界で活躍する……というのがエングレンド王国では王道のエリートコースだが、ライジングはその典型例である。


 なお、ライジングのライバルであるノーブルはどうなのか? と言えば、ノーブルの場合は高位貴族が多いため、卒業後はそれぞれ家督を継ぎ、議員や大臣という形で活躍する場合が多い。

 もちろん、彼らも非常に強い影響力を持つ。


 官僚が「王の手足」であるならば、議員たちは「王の友人」だ。

 この“手足”と“友人”は大変、仲が悪い。


 ライジングとノーブルの対立と試合は、エングレンド王国の財界や政界の代理戦争でもあるのだ。

 だからこそ、校内リーグでは大いに揉める。


「どうして、活躍する人が多いんだろう? 別にラグブライの能力は、仕事とは関係なさそうだけど……」


 ポツリとアナベラが呟く。

 するとやや酔っぱらい気味のマルカムが叫ぶように言った。


「そりゃあ、もう、根性があるからよ!」

「そういう根性論は、私は好きじゃないぜ」


 フェリシアはあっさりとマルカムの主張を切り捨てた。

 するとマルカムは眉を顰め、フェリシアに尋ねる。


「じゃあ、何だって言うんだ?」


「私が思うに、縦と横の結束力が強いからだと思うぜ。職場でも協力し合えるんだろう? 仲良くな。それが積み重なれば、要職に就くライジング出身者の割合は強くなる。そうすると、ますます影響力が強まる……まあ、そういうことだろ。……文化系サークルとかは、やっぱり個人で競い合うことが多いし、チーム戦になると弱いんだと思うぜ」


 特別、ラグブライのプレイヤーが精神的に強かったりするわけじゃないだろうと、フェリシアは語った。

 気付くとフェリシアの話に、みんなが耳を傾けていた。

 フェリシアはジュースの効果もあり、ますます饒舌に話し始める。


「あと、ライジングは成績が良い人が多いってのもあると思うぜ。キャプテンも、アーチボルト副キャプテンもそこそこ良いんだろ?」  

「まあ、確かにね」

「俺もそう悪くないなぁ」


 ラグブライ馬鹿のアーチボルトの成績が良いのは意外に思うかもしれないが、彼はそれなりに勉学も頑張っている。

 もっとも、それは「成績を心配しているとプレイに悪影響を与えるから」という、あくまでラグブライのためであるのだが。


「そ、そうなのか?」


 やや焦った表情のマルカム。

 マルカムの成績は……お世辞にも良くない。


「やっぱり、メリハリがあるからだと思うぜ。ぶっちゃけ、部活をしていないからって、その分勉強に費やすやつは少ないぜ。案外、適度に忙しい方が勉強にも身が入る」


 もちろん、クリストファーのような例外もあるのだが。

 

 そう語ってからフェリシアはマルカムに忠告するように言った。


「お前は、もうちょっと勉強を頑張った方が良いぜ。ライジングが就職に強いって言っても、限度があるぜ。……全員が全員、良いところに行けるってわけでも、ないだろうし」

「はは、まあ、そうだね。卒業した先輩の中には、失敗した人もいるよ」


 フェリシアに同意するようにマーティンは言った。

 マルカムは縮こまり、「もう少し努力しよう」と心に誓う。


 と、最初はみんなそこそこ真面目な話をしていたのだが……

 ジュースが体に回ってくると、徐々にくだらない話や、下ネタが飛び交うようになる。


「って、感じでさぁー、マルカムのやつが、私の寝間着にケチ付けたんだぜ? じゃあ、逆に聞くんだが、大人っぽい寝間着って、なんだよって感じだよなぁー。全く、何を考えているんだか……このムッツリスケベめ!」


「お、おい! 語弊があるぞ、語弊が!」


「うわ……最低ですわ、マルカムさん」

 

「よく病人にそんなこと言えるわね」


「大人っぽい……ごくり!」


「ぎゃははは!! 大人っぽいって、つるぺったんのガキに、そんなの似合うわけないだろ! あはははは!!」


「うわ……もっと最低な奴がいるぞ! 見損なったぞ、アーチボルト!!」


「アーチボルトさん……おさ、ジュースが入らなければ、ちょっとだけ紳士なのに……残念ですわ」


「ちょっとだけなのね……」


「ちょっとも紳士じゃないマルカムさんよりも、マシでは?」


「だから、誤解だ! 誤解だって言ってるだろ!!」


 無礼講のどんちゃん騒ぎとなる。

 普段は言えないようなことも、ジュースのせいにしてしまえば言えてしまうのが恐ろしい。


「ちょーっと、トイレに行ってくる。おい、お前ら! 俺が席を外している間に、飲み物に変な物仕込むんじゃねぇぞ!」


 アーチボルトは立ち上がり、チームメイトに言い含めた。

 マルカムが笑いながら尋ねる。


「変な物ってのは、具体的に?」

「そりゃあ……惚れ薬とかよ! 俺のことが好きだからって、入れるなよ? 女子生徒諸君!」


 ゲラゲラと笑いながらアーチボルトが去っていく。

 と、そこでフェリシアはニヤリと笑う。


「よーし、何か入れようぜ! 何入れる?」

「ビネガー入れて、めっちゃ酸っぱくしてやろう!」

「よし、マルカム! それ採用だ!!」


 卓上に置いてあるお酢を手に取り、ドバドバとアーチボルトの飲み物に振りかけるフェリシア。

 それを見てチームメイトたちは大笑いしながら囃し立てる。


 と、そこで意外に早くアーチボルトが返ってきた。

 真っ赤な顔が、真っ青になっている。


「どうしたんだよ、アーチボルト。……もしかして、漏らした?」


 フェリシアが笑いながら尋ねると、大爆笑が起こる。

 だがアーチボルトは笑わず、真っ青な顔で怒鳴った。


「不味い、先公の見回りだ!! お前ら、酒を片付けろ!!」


 一瞬で騒然となる。

 校則では儀礼を除いて飲酒は禁じられているのだ。


「ま、不味い! 飲み干せ!」

「一気しろ、一気しろ!!」

「けほっ……ダメだ、飲めない……」

「私に貸せ、マルカム!! 飲み干してやるぜ!」

「うげぇ!! 誰だよ、俺の酒に御酢入れたのは!! 本気で入れる馬鹿がいるか!!」


 大慌てでテーブルの酒を胃の中に隠すフェリシアたち。

 と、丁度フェリシアがマルカムの酒を飲み終えたところで、バーノン講師がやってきた。


 いつもの不機嫌そうな顔で、ライジングのメンバーの顔を確認する。

 ライジングの面々はわざとらしい作り笑顔を浮かべる。


「諸君……随分と、盛り上がっていたようではないか」

「は、はい! ちゃんと節度を守り、楽しく過ごしています」


 ニコニコとマーティンは笑顔で対応した。

 するとバーノン講師は鼻で笑う。


「節度を守る、か……ふむ、妙にアルコール臭い気がするが、これは私の気のせいかな?」

「き、気のせいですわ。先生……きっと、他のお客さんのお酒ですわ。ねぇ?」

「そ、そうです! 私たちは……ジュースしか飲んでないです!」


 ブリジットとケイティはやや赤い顔でそう言った。

 その顔を見れば、酒に酔っていることは丸わかりだ。


「そうか、そうか……それは実に結構。ところで、Miss.アルスタシア」

「うっぷ……な、何なのぜ?」


 自分の酒に加え、マルカムの酒まで飲み干し、ややグロッキーになっているフェリシアに対し、バーノン講師が尋ねる。


「顔が赤いようだが、まだ風邪は治っていないのかな?」

「そ、そうなのぜ! あー、ちょっと、風邪がぶり返して……げほ、げほ……」


 わざとらしく咳き込むフェリシア。

 バーノン講師はにっこりと、ゾッとするような笑みを浮かべた。


「それはお大事に。今日はゆっくりと、休みたまえ」

「お、おう……早めに寝ることにするぜ」


 フェリシアがそう答えると、バーノン講師は大きく頷いた。

 そして大きな声で、念を押すように言った。


「諸君らも、体調には気を付けて。くれぐれも……明日の授業を、頭痛で欠席するような真似はやめてくれたまえ?」


 そういうとバーノン講師は立ち去って行った。

 ほっと、ライジングのチームメイトは肩を落とす。


 そしてポツリとアーチボルトは呟いた。


「次回はもう少し、学園から遠い店にしよう。……ここは巡回範囲みたいだしな」


 誰一人として、反省する者はいなかった。


「諸君らも、体調には気を付けて。くれぐれも……明日の授業を、頭痛で欠席するような真似はやめてくれたまえ?」


意訳

「しゃーない、今回は学園祭の後だし特別に見逃してやる。でも飲み過ぎて体調を壊しちゃダメだぞ。羽目を外し過ぎないように。先生との約束だからね?」



勿論、現実でやったら危険な行為というのは人が席を立っている隙に飲み物の中に御酢やタバスコなどの調味料を入れるような行為のことです。





こんな素行の悪い金髪不良娘にはお仕置きをしなければ!

という方はブクマ、ptを入れて頂けると

フェリシアちゃんがお仕置きを受けるとか、受けないとか





次回予告

フェリシアちゃん、ついに先生に呼び出される!?

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