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第9話 魔導師の弟子は師匠の過去を知る

ようやく、二章の書き溜めが終わったので

記念に投稿

「へぇ……やっぱり、ローラン様とホーリーランド学長と師匠は同期だったんですね」


 しばらくしてフェリシアはようやく落ち着いてローランと話をすることができた。

 いろいろと聞いているうちに、前々から薄々勘付いていたことが事実であったことを確認する。


「ああ、その通りよ。昔はいろいろ馬鹿をやったものだぜ。……正確には、俺とオズワルドの馬鹿にチェルシーが付き合わされたってのが正しいけどな」


 愉快そうにローランは笑った。

 どこか、昔を懐かしんでいる様子だ。


「しかし……チェルシーは元気にしているか? 実はここ数十年、会ってなくてな。久しぶりに会いたいものだぜ」

「元気だと思います。……今度、校内リーグに招待するつもりなんです。だから、その……もし、よろしければ、来て頂ければ……」

「おお! それは良いことを聞いたぜ。確かに、チェルシーのやつは何だかんだで付き合いが良いからな。嫌々言いながら、来てくれそうだ。いや、しかし……」


 ローランはじっとフェリシアを見つめる。

 フェリシアは少し恥ずかしそうに視線を逸らした。


「全く、あのチェルシーが弟子を取るとは。驚きだぜ」

「そんなに変ですか?」

「あいつは人見知りだったからなぁ……それに人と会話をするのも苦手な奴だったぜ。今はそうでもないのか?」

「あー……いえ、変わってないと思います」


 フェリシアは自分の師を思い返しながら言った。

 するとローランはうんうんと頷く。


「だろう? しかし……それを考えると、君はチェルシーに似ていないな」

「えっと、それは……」

「随分とヤンチャで元気な子だと、オズワルドから聞いていた。ブリジット君からも、君の人柄については聞いているぜ? 今はちょっと、猫を被っているのかな?」

「……」


 フェリシアの顔が真っ赤に染まる。

 この分だと、普段の言動はほぼすべてローランに伝わっていると考えても良いだろう。

 フェリシアは一瞬だけ視線をブリジットに向けて、軽く睨んだ。

 ブリジットは思わず目を逸らす。

 

 ……一方、フェリシアの後ろではアナベラとケイティが小声で話していた。


「猫を被っているというか、借りてきた猫みたいになっているわよね?」

「分かります。……ちょっと可愛いですよね」

「うんうん、新鮮な感じがする……それにちょっと、面白いわよね」

「フェリシアさんも、憧れの人の前だとお淑やかになるんですねぇー」


 フェリシアは顔を真紅に染め、顔を俯かせ、体を震わせる。

 そしてやや低い声で、後ろの二人に言った。


「……おい、お前ら。聞こえているぞ」

「「ひぃ……」」


 フェリシアの機嫌の悪そうな声に、アナベラとケイティが怯えた表情を見せた。

 一方、ローランはそんなフェリシアの肩を叩く。


「まあまあ、そんなに怒るな……ごめんな? フェリシア君」

「べ、別に……お、怒ってなんか、ないです……」


 恥ずかしそうに、蚊の鳴くような声でそう言うフェリシア。

 いつもとは全く違うフェリシアの表情と態度に、アナベラたちは少し得をした気持ちになった。


「だが、似ているところもあるぜ」

「どの辺ですか?」

「大切な人のために、一生懸命になれるところは、そっくりだぜ。ブリジット君のために、ムリを言って薬を作ったんだろう? ……昔、オズワルドがラグブライの試合間際に病気をしたことがあってね。その時、チェルシーのやつが珍しく、一生懸命に薬を作ったんだぜ。懐かしい……」


 遠くを見るような目でローランは言った。

 ふと、フェリシアは今まで疑問に思っていたことをローランに尋ねてみることにした。


「ローラン様は、師匠の“哲学”を知っているんですか?」

「ん? それは勿論……変わっていなければの、話だが。君には教えていないのか?」

「師匠は自分のことについては、話してくれないんです」


 フェリシアがそう言うと、ローランは眉を顰めた。

 顎に手を当てて、少し考えてから答える。


「ふむ……まあ、チェルシーが語っていないのにも関わらず、俺がそれを言うわけにはいかないな」

「そう……ですか」

「君の“哲学”は決まっているのかな?」


 ローランの問いに、フェリシアは恥ずかしそうに首を振った。


「まだ、全然分かっていません。ただ……知識は社会の役に立たなければならないと、思っています」

「なるほど……やはり君は、チェルシーの弟子だな」


 これにはフェリシアは思わず、首を傾げてしまう。


「師匠はよく、役に立たない学問こそが、本物の学問だって……言っていますよ?」


「ハハハハ! 確かに、あいつは日頃からそういうことを言っていたぜ。……だがな、フェリシア君。多分、君が思っているよりも……君の師匠は、夢想家で、理想主義者だぜ。勿論良い意味でだ。彼女はきっと……今でも、昔の“哲学”を貫いているんだろう。オズワルドも、また同様だろうな。年を取ってしまったのは、俺だけだぜ……」


 最後のは何気ない、独り言のようだった。

 聞いてはいけないような気もしたが、しかしどうしても気になったフェリシアは尋ねる。


「ローラン様の“哲学”は、何ですか?」

「俺か? 俺は……今も昔も、“人助け”さ。まあ……変わってしまったものも、多いけどな」


 そう言うローランの笑みは、どこか寂し気だった。

 それから彼は時計の時刻を確認し、やや大袈裟な仕草で言った。


「おっと、長居し過ぎてしまったようだな。俺はそろそろ、退散しよう。……そうだ、フェリシア君。一つ、忠告を」

「何ですか?」

「チェルシーは素晴らしい人物だが……あの性格だ。少し……いや、かなり人の恨みを買いやすい質だ。もしかしたら、君を逆恨みするような輩もいるかもしれない。気を付けるんだ。まあ、オズワルドが守るこの学園では、早々妙なことは起こらないと思うがね」


 ローランはそう言って立ち去っていった。

 そしてローランの背中を見送ってから……


「あああ!!」

「フェリシア?」

「どうしましたの?」

「何か、あったんですか!?」


 唐突に大声を上げたフェリシアに、心配そうにアナベラ、ブリジット、ケイティが尋ねる。

 フェリシアは頭を抱えた。


「サイン、貰うの忘れてたぁ……」


 



 魔法学園は普段、オズワルド・ホーリーランド学長が管理をする強力な論理結界によって守られている。

 広大な魔法学園を覆い隠すこの論理結界は、学生や教師などの学園関係者、および学園に招かれた者以外の人間による干渉――侵入は勿論のこと、視覚などによる観測を含む――を、六次元まで遮断するという、非常に強力な代物だ。


 ただし……学園祭の日だけは、その結界は緩められ、“悪意を持たない者”であれば出入りが可能となる。

 故に精々四次元までの干渉が限界である、未熟な魔導師であるアコーロンであっても、学園に入ることができるのだ。


「懐かしいな、我が母校」


 アコーロンは学生たちの展示や出店を眺め……そして小さな声で呟く。


「俺には無縁だったがな」


 家を復興するため、毎日必死に勉強を続けた。

 だから遊びや部活動に興じている暇は、精神的にも肉体的にも時間的にもなかった。


 もっとも、そのおかげでそれなりに良い成績を取ることができ、そして良い職も手に入れた。

 ……闇に堕ちた時点で、そのすべては無に帰ったが。


「マーリンにさえ、復讐できれば良い。俺の人生を壊した、マーリンにさえ……」


 暗い顔で呟くアコーロン。

 どう見ても“悪意を持つ者”である彼だが、論理結界を超える時にだけ、その悪意を封じ込めば出入りは可能だ。

 半端者の魔導師であるアコーロンだが、その程度のことはできる。


「さて、マーリンの弟子の顔を、フェリシア・フローレンス・アルスタシアを、拝んでやろうか」


 フェリシアを探しながら、アコーロンは弟子が集めたフェリシアの情報を整理する。


 エングレンド王国、三大貴族家の一角、アルスタシア家の生まれ。

 家が没落した後、マーリンに師事。

 学園には主席で入学し、そして現状でも主席を維持。

 スポーツ万能で、魔法学園でも一、二を争う大人気チームである『ライジング』のレギュラー。

 交友関係も広く、社交的で、同学年では常に騒ぎの中心にいる。

 教師からも目を掛けられている。

 ここ最近では、友人を救うために五日病の魔法薬の新たな調合方法を開発する。


「……調子に乗りやがって」


 鬱憤たる思いを抱いていると……、ちょうど大講堂の近くまで来た。

 どうやら丁度、管弦楽部の演奏会が終わったらしく、人の流れができていた。


 人込みの中に……一際目立つ、金髪の少女がいた。


「フェリシア、大丈夫? 顔が赤いけど」

「けほ、けほ……急に、咳が出てきた」

「風邪ですかね?」

「ま、まさかわたくしの五日熱がうつったんじゃ……」


 友人たちに心配されながらも、快活な笑顔を浮かべている少女。

 思わず……アコーロンの手が杖へと延びる。


「もしや、そこにいるのはピーターかのぉ?」


 その時、背後から声を掛けられた。

 いつの間にかアコーロンの後ろに、白い髭を蓄えた老人が立っていた。


 オズワルド・ホーリーランド。

 この学園の学長である。


「今の自分は、アコーロンですよ。学長先生」


 ピーター・アトリー。

 それがアコーロンの本名だった。


 アコーロンの名は彼の師である、マーリンと同格の大魔導師から与えられたものだ、

 そして……アコーロンの名は、エングレンド王国では闇に堕ちた魔導師として、凶悪犯罪者として有名だった。

  

「ワシにとっては、今でもお主はピーター・アトリーじゃ」

「俺の名を覚えていて下さるとは、光栄です。学長先生」

「当然のことじゃよ。ワシは教え子の名は、すべて覚えている。まずは元気そうで、何よりじゃな」


 そう言って嬉しそうに微笑むホーリーランド学長。

 アコーロンはその笑顔に対し、強い憎しみを抱いた。


(こいつには、こういうやつらには、俺の気持ちは分からないんだろうな)


 ギリギリと歯ぎしりをし、アコーロンは踵を返す。


「もう行ってしまうのかのぉ? もう少し、話でもせんか? 思い出話でも……」

「生憎、自分には……この魔法学園での思い出など、何一つないので」


 アコーロンは人の流れに任せ、その場から逃げるように立ち去った。 



今更ですが、次元魔法で言うところの四次元とかは、三次元+時間 的なものではなく、空間座標の軸が四つある 的な意味合いの方です

ドラえもんの四次元ポケット的なニュアンスです。フェリシアちゃんのローブはドラえもんのポケットです。調べると「ユークリッド計量空間」的な次元、というらしいですね。

まあ、あれです。めっちゃ空間が折り重なっている的な理解でお願いします。


フェリシアちゃんとアコーロンさんは四次元、ホーリーランド学長とマーリンは七次元まで、干渉できます。

まあもっともマーリンは錬金術が専門で、次元魔法は専門ではないので……

それを専門とする最高峰の魔導師はもっと高次元まで干渉できるとか、できないとか





アコーロンさんの「思い出なんて一つもない」という言葉に対して妙に共感性を抱いてしまう方は

ブクマ、ptを入れて頂けると

フェリシアちゃんが「これからきっと、人生、良いことあるのぜ!」と優しく慰めながら頭を撫でてくれます



次回予告

「くちゅん」の伏線を回収します


どうでも良いけど、「くちゅん」って可愛いですよね

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