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第8話 見習い魔導師はあの人物と再会する

 学園祭、当日。


「第一位、ライジング!!」

「「「うぉおおおお!!!」」」


 フェリシアたちは大歓声を上げていた。

 互いに手を取り合い、叩き合う。


 そして気付くとフェリシアはチームメイトに担がれ、胴上げされていた。


「優勝、万歳!」

「この調子で、校内リーグも勝つぞ!!」

「うぉおおお!!!!」

「うぉおううぇぇ……き、気持ち悪い……と、とりあえず、お、下ろしてくれなのぜぇ……」


 フェリシアが死にそうな顔で訴えるが、その訴えは大歓声によって掻き消された。




「ぅぅ……気持ち悪い」

「いやー、すまないな。フェリシア」


 青い顔のフェリシアに対し、アーチボルトは満面の笑みで謝った。

 あまりすまなそうではない。

 

「わ、私を胴上げする必要はあったのか?」

「いや……その場のノリだな」

「まあ、だと思ったぜ」


 優勝したらとりあえず胴上げしたくなるのが、ラグブライのプレイヤーだ。

 丁度、フェリシアは小柄で軽いので、胴上げするには手ごろだったのだろう。 

 

 ボール扱いされたフェリシアはため息をついてから、アーチボルトに尋ねる。


「というか……このパフォーマンス大会、勝ったところで意味はないって言ってた割には、嬉しそうだな」

「勿論。勝ちは勝ちだからな。校内リーグへの景気付けとしては丁度良い。……だからそちらで優勝しなければ、本末転倒だ」


 ライジングに一歩及ばなかったノーブルは、校内リーグでは本気で(勿論いつも本気なのだが、今回ばかりは特にという意味で)来るだろう。

 自分たちも負けていられない、とアーチボルトはフェリシアに対して熱く語った。


「なあ、アーチボルト先輩」

「おう、マルカムか。どうした?」


 マルカムが会話に割り込んできた。

 彼は周囲の様子を伺ってから、小声で尋ねる。


「……打ち上げはあるんだよな?」

「勿論! 安くて旨い店を予約している」

「……ジュースはあるか?」

「葡萄のジュースと麦のジュースが飲めるぞ」

「よっしゃぁ!」


 小さくガッツポーズを取るマルカム。

 フェリシアは思わず苦笑いを浮かべる。……勿論、フェリシアもあったら飲む。


「くちゅん……」

「ん? フェリシア、どうした? 風邪か?」

「いや……ちょっと、急に鼻がムズムズしただけだぜ」


 心配そうに尋ねるマルカムに、フェリシアは何でもないと答える。

 それから元気そうないつもの笑みを浮かべる。


「まあ、とりあえず今日は早く寝ることにするぜ」

「お大事にな」

「校内リーグも迫っている。体調には気を付けろよ」


 マルカム、アーチボルトに対しフェリシアは頷くと、フェリシアはアナベラとケイティを探しに向かった。

 

「くちゅん……んー、誰か、噂でもしてるのかな?」


 フェリシアは小さく首を傾げた。




 さて、アナベラやケイティと合流したフェリシアは大講堂へと向かった。

 ブリジットが所属する管弦楽部の演奏会があるのだ。

 ブリジットは演奏会の調整のために、ラグブライチームによるパフォーマンス大会の現場にはないかったため、ライジングが優勝したことを伝えるためでもある。


「おーい、ブリジット。いるかぁ?」


 フェリシアたちは管弦楽部の控室へとやってきた。 

 部員たちは待ち時間を思い思いに過ごし、コンディションを整えている様子だ。


「おお! フェリシア君。よく来てくれた!!」


 フェリシアを出迎えてくれたのは管弦楽部の部長だ。

 彼はフェリシアの手を固く握る。


「君のおかげで、ブリジット君も治った。君は僕らの救世主だ!」

「い、いや……そ、そこまで言われると照れるぜ」


 少し頬を赤くし、戸惑った表情を見せるフェリシア。

 そんなフェリシアに対し、部長は強く迫る。


「そうだ、フェリシア君。これは来年度からでも良いんだが、正式に我が部に入らないかい?」

「え、ええ!?」

「いや、丁度六年生が卒業する影響で、ヴァイオリンの席が一つ空くんだ。どうかな?」

「い、いや……その、私にはライジングの活動があって……」

「そこを何とか……頼むよ。きっと練習すれば、君はうちの部のエースになれる。なあ、お願いでき……」

「部長、ムリに誘ってはいけませんわ。フェリシアさん、困っているでしょう」


 そう言って部長をフェリシアから引き離したのは、ブリジットだった。

 部長は致し方がないという表情でため息をつき、もし考えが変わったら連絡をくれと言ってその場から立ち去った。


「あの人は強引な人ですから、もっときっぱり断らないとダメですわ」

「おう、ありがとうな。それで、ブリジット。体調は大丈夫か?」

「問題ありませんわ。全部、フェリシアさんのおかげですわ」


 にっこりと微笑むブリジット。

 元気そうなので、フェリシアは一安心した。


「そうだ、フェリシアさん! 丁度、今、あなたの話をしていたのですわ!」

「私の話? 何なのぜ?」


 フェリシアは首を傾げる。

 くしゃみが出るので、誰かが噂をしているのでは? と冗談半分に考えていたフェリシアだが、まさか本当に誰かが噂をしているとは、少々驚きだ。


「さあ、こっちに来てください!」

「そう急かすなって……誰か、来ているのか?」


 ブリジットの両親でも丁度来ているのではないかと思いながら、フェリシアは言った。

 そう親しかったわけではないが、幼い頃に幾度か会話をしたことがある。

 もっとも……諸事情により、フェリシアはブリジットの両親に対しては、それほど良い印象を抱いてはいなかった。

 

 正直なところ顔を合わせたくないと思いながら、フェリシアはブリジットに手を引かれるままにその現場に向かう。

 そこにいたのは、妙に場違いな筋肉質の男性だった。


 服の上からでもはっきりと分かるほど盛り上がった筋肉。

 手には金属製の鈍器としても十分に使えそうな杖。

 陽気で周囲を明るくするような笑顔。


 そんな男性が管弦楽部の部員たちと談笑していた。


「毎年、来てくださってありがとうございます!」

「ワハハハ! 可愛い後輩たちの雄姿を見に来るのは、人として当然のことだぜ?」

「金銭的な支援もして頂いて、本当に感謝の言葉しかありません!」

「管弦楽にはいろいろと金が掛かる。だが、俺は貴族や富裕層だけでなく、平民や奨学金に頼らなければならない子供たちにも、その楽しさを理解してほしい……そんな老人のお節介だぜ」

「老人だなんて、まだまだお若いではありませんか」

「ハハハハ! よく言われるが……こう見えても、ここの学長と同期なんだぜ? 若作りしているだけよ」


 フェリシアは文字通り、固まった。

 

「お、おい……あ、あの、お、お方は……」


 まるでゴーレムのようにガチガチに固まってしまったフェリシアに、サプライズ大成功とブリジットは内心で喜んだ。


 一方、ブリジットがフェリシアを連れてきたことに気付いたらしい、その男性は立ち上がった。

 ゆっくりと、快活な笑みを浮かべながらフェリシアへと近づいていく。


 二メートル近いその高身長の男性を、フェリシアは唖然とした表情で見上げた。


「ブリジット君、彼女がチェルシーの?」

「そうですわ。魔導師マーリン様のお弟子さんで、私の恩人、フェリシア・フローレンス・アルスタシアさんですわ」


 ブリジットはそう言うと、硬直したままのフェリシアに話しかけた。


「ご紹介いたしますわ、フェリシアさん。このお方は管弦楽部のOBであり、かの高名なる魔導師……」

「おっと、お嬢さん。紹介してくれるのは嬉しいが……名前は、俺の口から言わせて貰えると嬉しいぜ」


 男性はそう言うと、ゆっくりとしゃがみ、フェリシアの目線に顔を合わせた。

 そしてフェリシアの白い手を握り、にっこりと笑う。

 白い歯がキラリと光る。


「ローラン・ド・ラ・ブルタニュールだ。初めましてだな、チェルシーのお弟子さん」

「……」


 それに対しフェリシアは……無言だった。

 しばらくの沈黙が続く。


「……フェリシア君? 大丈夫か?」


 ローランはフェリシアの肩を掴み、軽く揺すった。

 するとフェリシアは我に返ったのか、背筋を伸ばした。


「は、は、はい!! 大丈夫ですなのぜ! じゃなかった、大丈夫です!!」

「ワハハハ! 聞いていた通り、愉快なお嬢さんだな」

「は、はい!!」


 フェリシアは大いに混乱していた。


(ま、不味いのぜ……不味いのぜ! 何でいるのぜ? というか、どういう口調で話せば良いのぜ? ぜって、言って影響受けているアピールをした方が良いのぜ? でも、笑われたら恥ずかしいのぜ……と、というか、私、汗臭くないよな? パフォーマンス大会のあと、体は拭いたけど、水浴びはしていないのぜ……ああああ!! ぜがゲシュタルト崩壊してきたのぜぇ……)


「そう言えば、先程……ライジングのパフォーマンス大会を見てきたぜ」

「は、はいのぜ!」

「素晴らしいパフォーマンスだったぜ!」


 グッと親指を突き出すローラン。

 フェリシアは頭がクラクラするのを感じた。


 と、ようやく少し冷静になってきて……ふと気づく。 

 ローランは自分に初めましてと、言ったのだ。


「あ、あの、ローラン様!」

「ふむ、どうした?」

「じ、実は……昔、今から五年ほど前、ろ、ローラン様に助けて頂いたことがあるのですが、お、覚えていらっしゃいませんか! あ、アルバ王国で、盗賊に襲われていたのを、助けて頂いたのですが!」

「……ふむ、すまない」


 ローランは眉間に皺を寄せながら唸る。


「何分、毎日のように人助けをしているのでね。助けた人の顔を一人一人、覚えてはいないんだぜ。……まあ、つまり、あれだな」


 ニヤリ、とローランは笑った。


「お前は食ったパンの枚数を覚えているか? ってことだぜ」

「な、なるほど!!」


 カッケェェェェエエエエエ!!!

 と、フェリシアは感激した。


ちなみにローランさんの専門はヴァイオリンです



憧れの人を目の前にテンパっちゃうフェリシアちゃんが可愛いという方は

ブクマ、ptを入れて頂けると

フェリシアちゃんが顔を真っ赤にして「恥ずかしいのぜ……」と言いながら頬を掻きます





次回予告

ローランとマーリンの関係が多少、明らかになったりならなかったり


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