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第6話 見習い魔導師は親友のために一肌脱ぐ

フェリシアちゃんが脱ぎます!(服とは言ってない)


あと、ライジングのキャプテンに名前がないのは普通に可哀想なので

マーティン・アシュリー

という名前を付けたしました

 秋も過ぎ去り、冬に差し掛かった頃。

 魔法学園全体はそわそわした空気に包まれていた。


 それもそのはず。


「あと一週間で学園祭だ」


 ライジングの副キャプテン、アーチボルトは朝の練習が始まる前のミィーティングでそう言った。

 一応、彼は副キャプテンということになっているが、実は事実上のキャプテンとなっている。


 というのも本来のキャプテンであるマーティン・アシュリーが卒業を控え、本格的に忙しくなり、ライジングで活動するのが厳しくなってきたからだ。

 そこで来年から正式にキャプテンとなるアーチボルトへ、現在その職務の引継ぎが行われている。


「そこで、これから一週間、一日に一時間だけ学園祭の練習を行うことにする。質問は?」


 やや興味なさそうにアーチボルトは言った。

 学園祭は主に文化系サークルや部活が主役となる、魔法学園の大イベントの一つ。

 大イベントなので楽しいには楽しいが……

 ライジングのようなラグブライのサークルや部活、チームには出番はない。

 勿論、やろうと思えばできるが……そんな時間があるなら練習して強くなりたいというのがアーチボルトの、そしてチームメイトたちの総意である。


「質問、良いか?」

「どうした、フェリシア」

「私たち一年生は、何をやるのか知らないぜ?」

「ああ、説明がまだだったな」


 アーチボルトはポンと手を打った。

 ラグブライに学校生活を捧げている彼は、それ以外のことには無頓着だ。


「ちょっとしたパフォーマンスをするのが例年通りだ」

「パフォーマンス?」

「編隊飛行や陣形、パス回しなんかを綺麗に見せるということだ。まあ、それなりに受けは良いし、練習にもなる」


 アーチボルトが言うにはライジングもノーブルも、それ以外のチームもそのパフォーマンスを行うようだ。

 一応、審査員もいて、より高い点数を取ったチームが優勝となる。

 もっとも、ラグブライの試合での優勝における栄誉と比べればそんなものはどうだって良いのだが。


「他に質問は?」

「私はないぜ」


 他のチームメイトからも特に質問はなかった。

 そのため、すぐにライジングは練習を開始した。




 さて、それから数時間後の体育の授業。


「いやー、なんかみんな学園祭に忙しそうだと、置いていかれたような気持ちになるなぁ」


 マット運動の順番待ちの最中にフェリシアはポツリと呟いた。

 実は運動系サークルと文化系サークルの二つを掛け持ちしている生徒は少なくなく、学園祭の準備に忙しくしている生徒はかなり多い。


「確か、お前たちも掛け持ちしているんだよな?」

「私は園芸部に入っています」

「お料理研究会と手芸部に……まあ、たまに顔を出すくらいだけどね」


 ケイティとアナベラはそれぞれ答えた。

 マネージャーは選手たちほど忙しいわけではなく、代わりが効くので文化系サークルとの掛け持ちは難しくない。

 もっとも、どの程度熱心に参加しているかは人による。

 ……アナベラはおそらく幽霊部員なのだろう。


「キャロルとクラリッサは管弦楽部だっけ? ブリジットもそうだったよな」


 フェリシアはブリジットと同様の幼馴染である二人に話しかけた。

 キャロルは背がやや低く茶髪にそばかすが印象的な少女で、クラリッサは黒髪で背が高くひょろっとしている。


 以前、ブリジットと共にフェリシアをイジメようと目論み返り討ちに会った二人は、今ではブリジットと同様にフェリシアとの関係を改善させている。


「ええ、そうですの! この日のために、頑張って練習しましたわ」

「だから聞きに来てくれると嬉しいですわ」

「勿論、言われなくとも聞きに行くぜ。友達の晴れ舞台だもんな」


 クラリッサとキャロルに対して、フェリシアは親指を突き出して言った。

 それから尋ねる。


「そう言えば、何の楽器を演奏するんだ? いろいろ種類があるよな?」

「私はフルート、キャロルさんはチェロ、ブリジットさんはヴァイオリンですわ。そうですわよね? ブリジットさん……?」


 今までずっと押し黙っていたブリジットに対し話題を振るクラリッサだが……

 ようやく、ブリジットの様子がおかしいことに気付く。


「おい、ブリジット。顔がちょっと赤いが、大丈夫か?」


 フェリシアが心配そうに尋ねると、ブリジットは小さく頷いた。


「え、ええ……大丈夫ですわ」

「そうか? ……無理そうならちゃんと言えよ。今は大事な時なんだからさ」

「は、はい……分かっていますわ。ご安心を……大した事、ありませんもの」


 ブリジットはそう言って力なく笑った。

 フェリシアは医者ではないため、ブリジットに「大丈夫だ」と言われればそれを信じるしかなく、ムリに保健室へと連れて行くことはできない。


「そう言えば、フェリシアさんもヴァイオリンがお上手ですよね」


 ケイティが新たな話題を振った。

 フェリシアはヴァイオリンを弾くのが得意で、管弦楽部にも勧誘されたことがあるほどだ。

 もっとも、ラグブライとマーリンからの課題で忙しいフェリシアには文化系のサークルや部活に入る暇はないのだ。


「まあ……でも専門でやっているブリジットたちほどじゃないぜ? あくまで没落する前に家庭教師から習ったのと、あと師匠から教わったくらいだからな。最低限の基礎教養として」


「……き、基礎教養」


 フェリシアの言葉に反応したのはアナベラだ。

 どんよりとした表情を浮かべている。


「私……全然、楽器、弾けないのよね」

「ま、まあ……人間、苦手なものは誰にもあるぜ」

「う、うん……カスタネットなら自信あるんだけど」


 これにはケイティとフェリシアは苦笑するしかない。


「……カスタネットって、赤ちゃんレベルじゃないですか」

「苦手なら、苦手なりにちょっとは練習した方が良いぜ。実技は落第がない代わりに補習があるからな。……おっと、私の番が来たぜ」


 しゃべくっている間にフェリシアの順番が回ってきた。

 マット運動ではそれぞれの習熟度に合わせて、自由に技を披露する。

 実際のところ生徒の運動不足解消が目的なので、最低限真面目にやっていれば成績では秀がもらえる。


 そのため多くの生徒たちは簡単で、かつ安全な技を選ぶのだが……

 勿論、フェリシアがそんな妥協をするはずもない。


「よし、行くぜ!」


 助走をつけて走り出し、ロンダートから見事なバク転を成功させてみせた。

 これには他の生徒たちも、思わず見惚れてしまう。


「ふふ、どんなもんだ」


 目立ちたがり屋なフェリシアはアナベラたちの方へピースをして満面の笑みを浮かべる。そして列の最後尾に着くために移動する。

 そしてフェリシアの次に順番が回ってきたブリジットはゆっくりとマットの上に歩いていき……


 倒れた。


「お、おい! 大丈夫か!!」


 とっさに駆け出したのはフェリシアだった。

 フェリシアは額に手を当て、そして目を見開く。


「す、すごい熱だ……せ、先生!」

「誰か、担架を持ってきなさい!」


 フェリシアに呼びかけられてハッとした教師はそう生徒に命じると、ブリジットのもとへと駆け寄ってきた。

 フェリシアはブリジットを教師に託す。


(……大した事なければ、良いんだけどな)


 フェリシアは心配そうにブリジットを見つめた。





「五日熱だって!?」


 授業が終わった後、保健室に見舞いに訪れたフェリシアは女性医師の言葉に目を見開いた。

 アナベラが首を傾げる。


「……五日熱って、何?」

「五日熱ってのは、約五日間高熱が続く病気だ。まあ、死ぬような病気じゃないし、基本的に五日程度で治るから、重病ってわけじゃないが……学園祭までに間に合うか……」

「怪しいも何も、ダメに決まっているでしょう」


 ブツブツと呟くフェリシアに医者はそう言った。


「五日熱の病み上がりに楽器の演奏なんて、私が絶対に許しませんからね」

「そんな……先生、ブリジットはこの日のために、練習をしてきたんです」

「そ、そうです。ブリジットさんは……」

「どうか、お願いします!」


 フェリシア、ケイティ、アナベラの三人は医師に頼むが……彼女は首を左右に振るだけだった。


「ダメと言ったら、ダメです。……まあ、魔法薬があれば別だけれど」

「そうだ! 五日熱には特効薬になる魔法薬があったじゃないか!! あれなら二日まで短縮できる!! 先生、ないんですか?」

「五日熱は珍しい病気だから、置いていないのよ。取り寄せることはできるけど……間に合わないわね」


 仮に学園祭まで間に合わせるのであれば、体力の回復を考慮に入れて、今日から三日以内のうちに飲ませたいところだ。


「けほっ、けほっ……フェリシアさん」

「安静にしていなさい!」


 ベッドから起き上がろうとするブリジットを、女性医師は再び寝かす。

 だがブリジットは弱々しい力で抵抗する。


「ま、待って……けほっ、フェリシアさん、頼みが、ありますの」

「な、何だ! 何だって言ってくれ!」

「私の代わりに、演奏会に出て、貰えませんかしら?」

「な、何を言って……できるわけないだろ!」


 確かにフェリシアはヴァイオリンは弾ける。

 だが演奏会となれば、周囲に合わせなければならない。フェリシアはそんな訓練をしていないため、到底できるとは思えない。


「フェリシアさんなら、できますわ……」

「い、いや……でも、お前、頑張ってただろ!」

「私は、良いんですの。来年が、ありますもの……」


 ブリジットは縋るように、フェリシアを見た。


「先輩方の中には、今年が最後の方もいらっしゃいますの。……迷惑を掛けたくありませんわ」

「……クソ。やれば、良いんだろ、やれば!」


 フェリシアは乱暴に答えた。

 ブリジットは嬉しそうに笑った。




 放課後。

 フェリシアは管弦楽部の練習に参加した。

 最初こそはぎこちなく、周囲に合わせることもできなかったが……


「まさか、三時間でここまで合わせられるようになるなんて……君は凄いね」

「こんなの、まだまだだ。これじゃあ、ブリジットの、空いた穴は埋まらないだろう?」


 あくまで周囲についていくことはできるようになったが、それで精一杯。

 到底、ブリジットの代わりにはなれないとフェリシアは首を左右に振る。


「それは……仕方がない。こればかりは、仕方がないことだ。僕らも……君に多くは求めない」


 少し悔しそうに部長は言った。

 その表情を見たフェリシアは……乱暴に髪を掻きむしり、大きな声を上げた。


「ああ、もう、やめだやめだ! 私には務まらない!」

「ま、待ってくれ! 君がいないと……」

「要するに、ブリジットが治れば良いんだろ!?」


 そしてフェリシアは啖呵を切った。


「三日以内に、五日熱を治せる魔法薬を作れば良い。そうすれば解決だ!」


本来はブリジットの代わりにフェリシアがヴァイオリンを弾く話だったんですが

私の中のフェリシアちゃんが「私はそんなことしないのぜ」と囁いたので、薬を作ることになりました

結果、少し長くなります

更新速度的な意味でも


カスタネットでうんタンしているアナベラさんが可愛いという方は

ブクマ、ptを入れて頂けると

アコーロンさんが「タン」で潰されて「うん」で弾き飛びます

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