大魔導師の弟子はとんだとばっちりを受ける
次話から後期編が始まります
取り敢えず、前期編のエピローグ兼、後期編のプロローグです
首都、ロンディニアの地下を通る広大な下水道。
そのとある一角には、不自然な空間が存在した。
地図上では決して記されていない、王国政府ですらも把握していないその空間で、二人の人物が対面していた。
一人はフェリシアに敗北を喫したあの魔法使いである。
そしてその魔法使いは……別の男に対し、頭を垂れていた。
「お前ほどの魔法使いが、魔法学園の一生徒に敗北した……か」
若々しい声でその男は言った。
フードに隠れているためその表情は見えないが、声からおそらく“見かけの年齢”は二十代半ばほどであろう。
少なくとも、外見は若々しいことは推測できる。
「も、申し訳ございません……我が師よ」
「謝らずとも良い。……ところで、お前を圧倒したというその生徒は、どのような人物だった?」
師と呼ばれたその男は、否、魔導師は弟子の魔法使いに尋ねた。
弟子の魔法使いは当時のことを思い出しながら答える。
「小さな、おそらくは一年生とも思われる、女の子でした。髪と瞳の色は金色で、容姿は整っておりました。口調は……なぜか、中性的でしたが」
魔法使いの弟子がそう答えると、魔導師は顎に手を当てながら呟いた。
「……ふむ、一致するな」
「一致する、とは?」
「あのマーリンめが弟子を取り、その弟子が魔法学園に入学したと、聞いている。その弟子の容姿に関する情報と、お前を圧倒したその女子生徒の外見情報が一致する」
そう答えてから魔導師は……
「っく、くくく、はははは、あははははははは!!!」
腹を抱えて笑いだした。
その異様な様子に、弟子の魔法使いは呆然とするしかない。
そして……
「ふざけるなぁ!!!」
強く、地下水道の壁を蹴った。
石材が砕け散る。
「どこまで俺をコケにすれば気が済むというのだ、マーリン!! 自分の弟子の方が、俺の弟子よりも優れているとでも言いたいのか!!」
「し、師よ……あ、アコーロン様! そ、その……」
「黙っていろ!!」
アコーロンと呼ばれた魔導師は弟子に怒鳴り散らした。
そしてソファーに腰を下ろし、ローブから酒を取り出した。
酒瓶に口をつけ、グビグビと飲み始める。
それから乱暴に口元を拭った。
「実に気に食わん……マーリンめ!! ふん……どうせ、奴には俺のことなど、眼中にも入っていないのだろうな! 弟子の優劣など、競っているつもりは欠片もないだろう。ああ、腹立たしい!! この俺を、我が一族を、道中の雑草のように踏み潰しおって!!」
アコーロンは地団駄を踏んだ。
彼は元々、錬金術で名を馳せた一族の出身だった。
彼の両親もまた、高名な錬金術師であり……彼の一族はいくつもの魔法薬の特許権を持ち、相応の財産を持つ貴族としての地位を持っていた。
しかし……彼が幼い頃、一族は没落した。
マーリンのせいだった。
彼女は次々に安価で、より簡易的に作れる魔法薬のレシピを作り出し、従来の製法を時代遅れのものとしてしまったのだ。
そしてその中にはアコーロンの一族が生み出した製法がいくつもあった。
先祖が生み出した特許権を財政の基盤としていたアコーロンの一族は衰退し、没落してしまったのだ。
幸いにも貴族としての名は残り、魔法学園に入学することはできたが……
酷く惨めな思いをした。
それでも彼は苦学の末に、錬金術師としての職を手にした。
そして仕事の傍ら、いくつかの論文を仕上げ、学会で発表した。
しかし……アコーロンの前に立ちはだかったのは、またもやマーリンだった。
「論拠があやふや。論理の筋道がまるでなってない。研究内容も二番煎じどころか三番煎じ。独自性がまるで見られない。で、これはあなたの意見はどこ? 何を主張したいの? ふん……学生のレポートにしては、頑張ったわねって、ところかしらね?」
マーリンはアコーロンの論文をボロクソに非難した。
他の学者たちもマーリンと同じ意見を抱いたのか、それとも同調したのか、アコーロンの研究を否定した。
その時からだ。
アコーロンはマーリンに対し、強い嫉妬と憎しみを抱くようになった。
「幸運にも、マーリンと同格以上の魔導師に師事し、力を得た。だが……俺では、やはりマーリンには勝てないのか? あの女に屈辱を味わわせることは、できないのか……くっそ!!」
アコーロンは酒瓶を地面に叩きつける。
そして……アコーロンは自らの師を、マーリンの兄弟子を名乗る大魔導師の言葉を思い出した。
――お前には、ムリだろうなぁ。チェルシー、いや、マーリンには勝てない。マーリンの方がお前よりも早くに魔導を極め始めたとか、そういう問題じゃねぇんだわ。お前、センスがねぇ。つまり、才能がないのよ。絶望的にな。魔法学園の成績、いくつだった? 十三番? ふん、“猿のお遊戯会”で十三番程度の実力じゃあ、百万年経ってもマーリンには、勝てねぇだろうなぁ。いやー、現実は残酷だねぇ。世の中、結局は持って生まれた才能、気質なんだわぁ。ぎゃはははは!!――
アコーロンは血が滲むほど、手のひらを強く握りしめる。
――でもまぁ、俺様はそんな身の程知らずのおめぇが気に入ったぜ? だから弟子にしてやった。まあ、これ以上は本当に見込みがなさそうだし? もう教えることはなんにもねぇが……でもな? お前はマーリンに復讐をしたいんだろう? なら、方法はいくらでもあるぜ? 勝てないなら、勝てないなりに、頭を使いな。凡人はそうでもしなきゃ、天才には勝てねぇ。まあ、汚い手段を考えるのも、ある意味才能だから、本当の意味では凡人は天才には逆立ちしても勝てねぇんだが……保証してやるよ――
「お前は悪知恵だけなら、マーリンに優っている。……くくく、はははは……ああ、そうか。その通りだな……――――様」
アコーロンはニヤリと、笑った。
そして自分の弟子に命じる。
「マーリンの弟子に関する情報を集めてこい。どんな些細なことでも良い」
「は、はい!」
弟子の魔法使いは頷くと、一目散に駆けていく。
アコーロンは愉快そうに笑った。
「さーて、マーリンよ。もし、可愛い可愛い愛弟子が……絶望と苦痛で死に絶えたら、お前はどうする? ぎゃははははははは!!」
アコーロンは楽しそうに笑うのだった。
さて、この世界のどこでもない、次元と次元の狭間。
その小さな、ある種の“世界”とも言える場所に、一人の男がいた。
次元魔法の最高権威として名高いその魔導師は、アコーロンの様子を遠隔透視魔法で鑑賞していた。
男はゲラゲラと楽しそうに笑う。
「おお、おお!! 我が弟子よ……相変わらず、お前は愚図で、馬鹿で、卑怯だなぁ!! 俺様の、万分の一の才能もないくせに、クソみてぇな性格だけは、似やがってよぉ。くくく、ああ、愉快愉快」
それから遠隔透視魔法を解除し、どこか遠くを見る目で呟いた。
「ああ、愛しの妹弟子よぉ! 俺様の不肖の弟子と、お前の才能溢れる弟子、どっちが勝つか……勝負と行こうじゃねぇか。片や四十年間、お前への復讐を胸に抱いて努力を続けてきた屑な魔法使い、片やお前が見出した才能溢れる、しかしまだ幼い半人前以下の魔導師……いやぁ、良い勝負だと、思わねぇか? ひひひひひ!!」
その男は、その大魔導師は……いつまでもいつまでも、笑い続けたのだった。
マーリン様はあの性格なので、いろんな人の恨みを買ってます
踏み潰した雑草は認識しないタイプの人です
アコーロンさんのこととか、欠片も覚えてないです
とばっちりを受けるフェリシアちゃん可哀想……
と思う方はブクマ、ptを入れて頂けると
フェリシアちゃんが可哀想、じゃなかった、とても可愛らしくなります
次回予告
お風呂に入ります
……あ、混浴ではないです(当たり前)