第24話 見習い魔導師令嬢は転生者の話に懐疑を抱く
ファンタジーモノというか、創作物全般に言えることだけど「魔法とかあるわけないじゃん」とか言いだす人いるよね
そんなん誰だって知ってるんじゃい
自分だけが気付いた真理みたいな顔して言うなよ
という感じの回です
さて、次の週の休日。
フェリシアとアナベラは再びロンディニアの街へ行き……アナベラが事前に予約をしたお店に入った。
そこはお洒落な個室がある、雰囲気の良さそうなお店だった。
「ここなら、いろいろと話せると思うの」
椅子に座ってアナベラはそう言った。
一方、フェリシアは周囲をキョロキョロと見ながら尋ねる。
「ここ、結構高いお店だろ? ……本当に奢って貰って良いのか?」
「うん、良いの。私が誘ったんだし」
「そうか? ……まあ、そう言うならお言葉に甘えるけどさ。さて、念のために論理結界を張っておくか」
フェリシアは魔術式が書かれた紙を数枚取り出し、個室の中に等間隔で貼りつけた。
このような二次元的に記された魔法式を描き、固定することで、魔術の維持に神経を割く必要がなくなるのだ。
それから杖を振る。
魔法陣に魔力が満ち、個室の内側から外側への情報を遮断する論理結界が構築される。
勿論、念には念を入れて、四次元までの干渉に関しては遮断できる代物だ。
「店員を呼ぶときは、扉を開けてから言ってくれ。閉めている時は論理結界が作動するから、私たちの声は聞こえない」
「う、うん……それにしても、本当に凄いよね。そんな高度な魔法を使えるなんて」
「まあ……それほどでもあるぜ」
それから二人はそれぞれ食べたい物を注文した。
まず先に飲み物が二人のところへ届く。
紅茶を飲みながら……フェリシアは尋ねる。
「で、話したいことってのは?」
「う、うん……でも、その前に。本当に、本当に、ごめんなさい」
そう言ってアナベラは頭を下げた。
「だから、気にすることは……」
「それだけじゃなくて……私、あなたのことを、誤解していたの。私に、復讐をしようと、意地悪をしようと企んでいるんじゃないかって。今までも、酷い態度とか取っちゃったし……そのことが、気掛かりで……」
しょんぼりと、徐々に尻すぼみになりながら謝るアナベラ。
フェリシアは少し考えてから答える。
「正直に言うと、お前に対して全く思うところがないというわけじゃない。特に……没落した後は、お前を……というよりは、チェルソン家を、木草紙を恨んだ。逆恨みだけどな」
「うっ……当然のことだと、思う。……うん」
「あと……初対面の時は、正直お前の態度には腹が立った。ぶん殴ってやろうかと、脳裏にチラつくくらいにはな」
ふん、と鼻を鳴らしながらフェリシアは言った。
一方、アナベラは増々、縮こまる。本当に申し訳なさそうに何度も何度も頭を下げる。
「そして、今もちょっとムカっとした。私が復讐をしようとしている? それは全く以て、見当違い甚だしいぜ。私がお前に復讐して、何になる? 得るべきものなんて、何もない。ただ……友達を一人、失うだけだ」
フェリシアはそう言って、柔らかい笑みを浮かべた。
「私も聖人君子じゃない。だから……負の感情は抱く。でも、友達だ。お前への恨みというか、思うところっていうのは……お前という友達を失うことに比べれば、大したことじゃない。実際、思うところがないわけではないってだけで、そこまで恨みは抱いていないんだ。だから気にしなくても……あー、いや、全く気にされないのはそれはそれで腹が立つから、ちょっと気にするくらいで良いぜ?」
フェリシアはそう言って紅茶を口に運んだ。
そして肩を竦める。
「そもそも、私自身、お前の作った木草紙は使わせて貰ってるんだぜ? あれは安くて便利だ。まあ、本とか契約書とか、教科書とか、権威があるものはまだ羊皮紙だけど……メモ帳とか、簡単な記録媒体はもう全部木草紙に置き換わっているだろう? 木簡だとか、古布なんかにはもう戻れないしさ。まさか、自分も使わせて貰っているのに、その発明者を恨むほど、私は厚顔無恥じゃないぜ」
それからフェリシアは苦々しく、表情を歪めた。
「正直、私が本気で憎んでいるのは……両親だ」
「両親? ……ああ、そういえば、お父様と喧嘩していたもんね」
アナベラは申し訳ない気持ちを抱きながら言った。
フェリシアの家族が引き裂かれたのは、アナベラが遠因となっている。
アナベラのそんな感情を読み取ったらしいフェリシアは、諭すように言った。
「アナベラ、何もかも責任を自分で背負おうとするな。あれはうちの家族の問題で、お前は本当に無関係だ。お前が関係あるのは、アルスタシア家の経済力が木草紙の発明で衰えた……それだけだ。没落そのものは政争の結果で、家族関係が壊れたのは……ただひたすらに私の両親が、“クソ”だったってだけだ」
そのタイミングでサラダが到着する。
フェリシアは相変わらずの素晴らしいテーブルマナーでサラダを食べつつ、口では毒を吐く。
「そもそも、だ。母さんと父さんがもう少し、そこらの大人の半分程度にはしっかりしてくれてさえいれば、私はこんな大変な目に合わずに済んだんだ。特に父さんは論外だ。話にならない。一日中働きもしないで飲んだくれて、私が必死に稼いできたお金をギャンブルに注ぎ込んで、挙句の果てに逃亡だぜ? それだけじゃない。あいつ、私と母さんに暴力を振るったんだぞ? 酔っぱらってたは免罪符にならない! 大好きな父さんに殴られて、私がどれだけ傷ついたか……本当に信じられない。あいつは父親、失格だ! ……まあ、先週は少し言い過ぎたかなとも思っているけど、やっぱり許せないな」
思い出したら余計にイライラしてきた様子で、フェリシアはさらにヒートアップしていく。
「母さんも母さんで、最悪だ。父さんが出て行って、辛いのは分かる。心を病んだのも、病気になったのも仕方がない。でも……うるっさいんだよ! 毎晩、毎晩、死にたいだとか、どうとか言いやがって! ふざけんじゃねぇよ! 私は疲れてるんだよ! 寝かせろ! まあ、でもグチグチ言っているうちはまだマシだぜ。珍しく元気がある時は私に暴力を振るうんだぞ? あの夫にして、この妻ありって感じだぜ。しかも、私が頑張って用意した食事や服や毛布にも文句を言う! 食事が少ない? 寒くて辛い? そんなの、言われなくても知ってるんだよ! というか、私は病気のあんたを気遣って、自分の分を減らしてまであんたに分けてるんだぞ! ガリガリに痩せて、真冬に裸足で靴すら履いてない娘を見れば、分かるだろ? というか、分かれ。文句を言うな! 文句があるなら働け! あんたは母親で、私は娘だぞ! 逆じゃないんだ! なのに、どうして私が、子守をしなきゃいけないんだ! 病人だからって、限度ってもんがあるだろうが!! あのファッキン女ぁあああああああああああ!!!!!」
叫びながらフェリシアは髪を掻き毟り、そして強くテーブルを叩く。
フェリシアは息を荒げ……そしてアナベラが呆気に取られている姿を見て、我に返る。
「す、すまない……ちょっと冷静じゃなかったぜ」
「う、うん……大丈夫。あ、あの……これ、ハンカチ。先週借りたやつ……その、だから、涙を拭いたら?」
「……え?」
アナベラに指摘され、フェリシアは初めて自分の目尻に触れる。
そこは涙で濡れていた。
それに気付くと……ポロポロと瞳から雫が零れ落ちる。
「っく……本当に、すまない。ぐすぅ……情けない姿を、見せちまった」
受け取ったハンカチで涙を拭きながらフェリシアは謝る。
そんなフェリシアに対し、アナベラは遠慮がちに言った。
「その……泣くのは、悪いことじゃないと思うの。うん、だからさ……その、私で良ければ、聞くから! 私に関してのことでも、何でも、その……フェリシアが良ければ、だけど、聞くから。……それだけしか、できないけど」
「……本当に、悪いな。お前の話を聞きに来たのに」
「ううん、大丈夫。時間はまだまだ、あるから」
フェリシアは涙を拭ってから、ため息混じりに再び話し始める。
今度は落ち着いた声だ。
「そのさ、そんなどうしようもない両親だけど、私はそんな二人を愛しているし、今でも好きなんだよ。そして……昔は尊敬してた。如何にも貴族って感じでさ、カッコよかったんだよ。だから……だからこそ、幻滅したし、失望した。もう私は、あの二人を尊敬できない」
そう言いながら肩を落とすフェリシア。
アナベラにはそんなフェリシアの姿は少し意外だった。アナベラにとって、フェリシアは……もっと自信満々で、何でもできる、完璧な人間だったから。
「失ったのは……父さんと母さんへの尊敬だけじゃない。……そのさ、私って……可愛いだろ?」
「へ? ……う、うん、美人だと、思うけれど」
唐突に自分の容姿を誇り始めたフェリシア。
確かにフェリシアは美人で、それは疑いようがない……それを自分で口にする神経はアナベラには理解できなかったが。
「そう、可愛いんだ。絶世の美少女だと思っている。花も恥じらう乙女だ。というか、私より可愛い子に私は出会ったことない」
「……」(自分で言うんかい)
「それだけじゃない。私はアルスタシア家の娘だ。数少ない、現代にまで生き残る、由緒正しい歴史ある貴族家、アルスタシア家の青い血を引いている。勉強も幼い頃からできたし、運動も、礼儀作法も、あらゆるものが完璧だった。しかも婚約者は次期国王であるチャールズ王太子だ。だから、私は自分が世界で最も優れた人間だと思っていたし……それ故に、自分よりも下のものを、見下してた。今だから、言うけどさ」
フェリシアは少し恥ずかしそうに、髪を弄りながらそう言った。
どうやらフェリシアにとっては黒歴史らしく、本当に恥ずかしそうに、しかしはっきりと口に出しながらそれを告白する。
「チャールズには、偉そうにいろいろと、高慢な態度を取った。使用人にも我儘をいろいろ言った。ケイティには……いや、本当に、迷惑を掛けた。私の我儘でいろいろ引きずり回したし……御飯事で犬役をやらせたことと、乗馬ごっこで馬をやらせたのは、いや、あれは私、本当に最低だな。うん、帰ったら謝らないとダメだな……」
(あ、それは本当にやったんだ)
原作でケイティが涙ながらに主人公へと語る過去回想を思い出しながらアナベラは思った。
フェリシアは小説でよくある「本当はそんなに悪くない令嬢」ではないかと思っていたが、その過去は悪役令嬢そのものだったようだ。
「と、とにかく……私は、そんな感じだったんだ。でも……家が没落して、全部、失ったんだ」
フェリシアはそう言ってため息をつく。
ギュッと拳を握りしめ、僅かに涙を滲ませながら、当時の思いを口から吐き出す。
「私が誇っていたものは、何もかも、役に立たなかった。ゴミ以下同然のものになったんだ。それに伴って、私自身も、ゴミ以下同然の人間に成り下がった。貧民街じゃ、元貴族なんて、侮蔑の対象でしかない。勉強は何の腹の足しにならないし、礼儀作法は生ごみを漁る上じゃ、意味がない。容姿も……あそこじゃ、目立つんだ。信じられないかもしれないけど、貧民街だと、強姦なんて日常茶飯事なんだぜ。子供だからって、容赦ない……いや、子供だからこそ狙われる。楽だからな……あいつらは穴さえあれば、何だって良いんだ。道を歩いている鶏だって、使うような奴らなんだぜ? 凄い話だろ?」
上品な作法でスープを飲みながら、壮絶な話をするフェリシア。
アナベラには……そんな世界はまるで、実感が湧かなかった。
「だから、顔は泥で汚した。自慢だった金髪は、早々に切った。……体を洗うことさえできなかったから、体臭は相当、臭かったろうな。すぐに虱や蚤も湧いてきた。そんな汚い姿でさ、道を歩けば……当然避けられる。それだけならマシだけど、邪魔だと、汚いからと蹴られたり、水を掛けられたりは、しょっちゅうだ。私が馬鹿にしていた、見下していた、貧乏で教養もないような最下層の平民にすら、私はコケにされ、見下され、人間扱いされなかった」
丁度、メインディッシュのステーキが運ばれてきた。
フェリシアはやはり上品な作法で――しかし手を僅かに震わせながら――ステーキを切り、口に運ぶ。
「ん、美味しいな。と、そんな感じで、見下してた人間に見下される屈辱は……本当に最悪だったぜ。そのころからかな? 自傷を始めたのは。最初は手首を掻きむしったり、髪を引き抜いたり、自分の肌を噛んだり……そしてガラス片で傷つけたりした。当たり散らせるものが、自分自身にしかなかったんだ。情けない話だろう? 私は自分自身を見下すことで、自分を保とうとしたんだ。……まあ、虚しいだけで、その行為すらも自己嫌悪の対象になるんだけどな」
アナベラはフェリシアの手首に視線を移す。
無数の線のような傷痕が残っている。
高価な魔法薬を使えば、おそらく治せるだろう……それでも治さないのは、おそらくキリがないから。
彼女の癖は治っていないのだ。
「私のアイデンティティーは、価値観は、崩壊したんだ。ぶっ壊れた。粉々にな。そんな時、かな? 私を助けてくれた、魔導師ローランの姿が……思い返せば思い返すほど、輝いて見えた。そして幸運な偶然から、師匠に、魔導師マーリンに出会うことができた。師匠も……私には本当に、輝いて見えたんだ。そんな師匠に、私は見込みがあるって言われた。正直……死ぬほど、嬉しかった。私は、ゴミ以下の人間じゃなかったんだって……」
そんなフェリシアの話を聞きながら、ふとアナベラは過去を思い出していた。
(ま、マーリンかぁ……そう言えば、マカロン食い逃げされたなぁ。うん、でも、良かったわ。フェリシアの話を聞くと、凄く勉強しなきゃいけないみたいだし。うん、本当に見込みがなくて良かった)
マカロンを食い逃げされたことは、少々遺憾ではあるが。
「魔導とは“真理”を探究することだと、師匠は言った。勿論、私もその“真理”には……興味があったし、今はそれを目指しているつもりだ。でも……今だから思うけどさ、最初はその“真理”よりも、私は自分自身のアイデンティティーを再構築するために、勉強をしていたんじゃないかって、努力していたんじゃないかって、思うんだよ」
そしてフェリシアは深いため息をつく。
「……誰かに見下されたく、なかったんだ。私が見下していた存在に、見下されたくなかった。また、見下し返せるように、なりたかった。醜い話だろう? みんな私を努力家だとか、勇気があるとか、優しいとか、いろいろ言うんだけど……私の本性は、根底のところはそこさ」
そしてフェリシアは自虐気味に笑った。
「私は今でも、自分が優れていると思っている。優秀だと、努力すればどんなところにでも手が届く人間だと、信じている。そこは変わらない。でも、“善人”とは、“良い人”だとは、欠片も思えない。というか、実際にはそんなんじゃないんだからさ。優しいって、言ってくれる人はいるけどさ、それは打算があるんだ。今も、お前のことを許したのは、打算があったからだ。私は……その、人に嫌われたくないんだ。好かれていたい。だから、その、お前に私を……好きでいて欲しい。だからなんだ……その、幻滅、したかな?」
フェリシアは不安そうな表情でアナベラに尋ねた。
目を涙で潤ませ、縋るような表情で……本気でアナベラに嫌われることを恐れているような、そんな様子だ。
アナベラは大慌てで、首を左右に振った。
「そんなことない!! ちょっと、意外だなって思ったけど……でも、その、人に好かれたいってのは、大なり小なり、みんなあると思うし、その……うん、だから、フェリシアは醜くなんてない!」
「そうか……建前か、本音か分からないけれども、そう言ってくれると、嬉しいぜ。いや、ごめんな。まさか、嫌いになったなんて、正面切って言えるはずもないし……いや、本当に質の悪い質問をした。私は卑怯者だな……」
「当然、本音だよ! 私……嘘をつくのは下手だし……あ、でも……」
「……でも?」
フェリシアが首を傾げる。
アナベラは……やや遠慮がちに言った。
「自分のことを可愛いって、自画自賛するのは……正直、どうかなって、思う。というか、自分よりも可愛い子と出会ったことがないって、よく口に出して言えるなって、その神経が……いや、本当に理解できない、かな?」
するとフェリシアは目を丸くし……噴き出した。
ケラケラと、お腹を抱えて大爆笑する。
呆気に取られるアナベラを他所に、フェリシアは涙を――悲しみではなく笑いによって溢れた水分を――拭う。
「っく、さ、最高だぜ……はは、そうだな。そう、思うよな。でも……それは改めるつもりはないぜ。だって……本当のことなんだからさ。私は、世界一可愛い! これは否定しようのない、真理だぜ!」
「い、いや……ないわぁ……それはいくら何でも、ないわ……」
ドン引きするアナベラを他所に、フェリシアは一人で勝手に納得し、楽しそうに、晴れやかな笑みを浮かべながら言った。
「本当に、お前は面白いぜ。友達になれて良かった。いやー、本当に、あの時、イラっとした感情に流されてお前の顔面を殴らなくて良かったぜ」
「そ、それは……うん、本当に、良かったです。はい」
アナベラは先週、フェリシアに殴り倒されたチンピラを思い浮かべながら言った。
フェリシアがその気になれば、アナベラなど一捻りだ。
「いや、でも、ありがとう。……かなり楽になった。ああ!! そうだ、お前の話を聞きに、ここに来たんだったな。よし、話してくれ。ドンと来い!」
フェリシアは胸を張っていった。
アナベラはそんなフェリシアを頼もしく思いながら……両親にも話したことのない秘密を打ち明ける。
「私……前世の記憶があるの!」
「……それは前、聞いたな。えっと……何か、小説でも書いているのか? その、相談、とか?」
「ち、ち、ち、ち、ち、違うし! しょ、小説なんて、い、痛々しい、恋愛小説なんて、か、書いてないし!」
「お、おう! そ、そうか……うん、そうなんだな!」(こりゃあ、書いてるんだな……)
フェリシアはアナベラの名誉のために聞き流すことにしつつ、頷いた。
「よし、とりあえず……一応聞くが、創作の話じゃ、ないんだな? 嘘偽りじゃなくて、少なくともお前自身はそう信じている。……そうなんだな?」
「う、うん……その、信じられないかもしれないけど……」
「お前は嘘を言ったりしない。私はそう信じている。話の真偽は別として、だけどな。……よし、取り敢えず全部話せ。黙って聞いてやる」
フェリシアは大きく、力強く頷いた。
アナベラはたどたどしく、自分の記憶について、前世について話し始める。
それは要領の得ない説明ではあったが……フェリシアは真剣にアナベラの話を聞いた。
「と、言うわけなの」
「……ふむ」
丁度、デザートが運ばれてきた。
フェリシアはフォークを手に取ってから……アナベラの顔を見つめ、言った。
「お前、やっぱり病院に行った方が良いぜ」
「な、何でよ! ほ、本当のことなのよ!」
「分かっているさ。嘘は言ってないって、知っている。でも……お前の頭の中にしか、証拠がないものを証明することはできない。昨晩寝る前の私と、今の私が同一人物であると確実に……つまり昨晩の私が殺され、そのあと創り出された可能性を、否定できないように、な」
フェリシアはそう言ってからケーキにフォークを突き立てる。
そして口に運ぶ。
フェリシアの表情が綻ぶ。
「そ、それは……分かっているけど……」
「ん、まあ……そのイセカイってのが、ニホンとかいう国が、実在したと仮定しよう。で、この世界がその国のゲームだと、チェスやらポーカーの一種だったと、仮定する。そこまでを真実にしたとしても……お前の勘違いだと、間違いである部分が、二つある」
フェリシアはそう言って指を二本立てた。
「ふ、二つ?」
「ああ。まず、一つ目。その神様とやらに、無限の魔力を貰ったという話。あり得ないね。絶対に断言するが、あり得ない。それはエネルギー保存の法則を無視している。無限のエネルギーをお前が内包しているとしたら、歩く永久機関だとしたら、それこそ、お前、神様だぞ? 世界の、宇宙の、絶対的な普遍法則を超越している」
「で、でも……私、魔力が尽きたことないよ?」
「それは無限のエネルギーを有している証拠にはならない。お前、この世界がどれほどのエネルギーに満ち溢れていると思っているんだ? 私たちが使う量なんて、たかが知れている」
「じゃ、じゃあ……どうして、なの?」
「どうしても何も、お前が使いきれないくらいの魔力量を持っているか、それともどこかから供給されているだけだろう。まあ……でも人間の体はそれほど多くの魔力は内包できないし、いくら魔力量を正確に計測する方法が確立されていないとしても、そんな尋常じゃない量を内包していたならさすがに分かるから……多分、後者だな」
呆然としているアナベラに対し、フェリシアはもう一つ、指を立てる。
「あと一つ。良いか? アナベラ。お前は転生したと、前世を持っていると、言ったな?」
「え、ええ、そうよ! それも違うって、言うの?」
「ああそうだ。あり得ないね。少なくとも、私は信じられない」
「ど、どうして!?」
「どうしてって、そりゃあ、お前……」
フェリシアははっきりと、その理由を口にした。
「この世に魂なんてものは、存在しないからだ。記憶も意識も感情も、すべては頭の中で発生する反応に過ぎない」
フェリシアちゃん、まさかのマジレス
フェリシアがアナベラを攻略しているかに見せかけて
地味にアナベラもフェリシアを攻略しています
お互い秘密を共有する仲なんて、もうそれ恋人でしょ
ところでフェリシアは「初対面では殴ろうと思った」とか言ってますが、殴るまでとはいかずとも掴みかかる展開が、最初にありました
取りやめたんですけどね
フェリシアも聖人君子ではないので、アナベラから「アルスタシア家は先の時代の敗北者じゃけぇ」と煽られれば、「やめやめろ!」と怒ります。
幻滅なんかしてないよ。敗北者なんかじゃないよ。賢い、可愛い、可哀想なフェリシアちゃん大好き
ついでにアホの子アナベラも好き
という方は、ブクマptを入れて頂けると
二人ともセットで笑顔になります
幸せな世界ですね