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第23話 怪盗令嬢はまたもやとんでもないものを盗んでしまう

フェリシア「私、また何か盗んじゃいました?」

「魔法が使えない以上、そのガキはただの子供だ! やっちまえ!!」


 チンピラたちが一斉にフェリシアに襲い掛かってきた。

 手にナイフや棍棒のようなものを持っている。


「……まあ、別にそれは否定しないけどさ」


 フェリシアは不敵に笑い、軽やかなステップでチンピラたちの攻撃を避ける。

 そして樫の杖を振り……


「おりゃあ!!」

 

 チンピラの一人の股間を強打した。

 泡を吹いて倒れる男。

 これにはチンピラたちも青い顔で、後退りした。


「悪いけど、喧嘩は慣れているんだぜ」


 身体能力強化の魔法がなくとも、フェリシアは強い。

 マーリンから手解きを受けた杖術と、長年の戦闘経験がフェリシアを強くしたのだ。


 ただの数に任せただけのチンピラ風情はフェリシアの敵ではない。


「あ、相手は一人だ! やっちまえ!!」

「一対多はなれてるぜ」


 杖先で器用に喉を突き、反対側から襲い掛かってきた相手には片方の指をその眼球に突き刺す。

 軽やかな動きで敵の攻撃を避け、後ろ蹴りで顔面を強打させ、続けて杖で睾丸を殴りつける。


 先天的なバランス感覚と、ラグブライで鍛えられた動体視力、筋力を生かし、フェリシアは男たちの攻撃を避けていく。

 そして的確に急所を――頭、顎、腹、股間、脛――を杖で殴ったり、蹴りを入れたりして、一人一人片づけていく。


 

 その姿はまるで妖精のようだった。


(……綺麗)


 思わず、アナベラは見惚れてしまった。


「この、クソガキが!!」


 最後の一人がナイフを突き出す。

 ナイフは僅かにフェリシアの長い髪を掠るが……傷つけることはできなかった。


「これで、御終いだ!!」


 フェリシアの靴が男の股間にめり込んだ。

 さらに杖を振り、顎を強打し、意識を奪った。


「全く……役に立たないゴミ共め。おい、そのガキはしっかり押さえてろ」

「へ、へい!」


 魔法使いの男は杖をフェリシアに向けた。

 一方、フェリシアも樫の杖を男に向けて、身構える。


「魔法使い同士の戦いというものを、教えてやる」

「おう。ご教授願うぜ」

「その余裕、いつまで持つかな? 死ね、クソガキ!!」


 杖先が光り、魔力弾が放たれる。

 思わずアナベラは目を瞑る。

 

 だが……


「な、何!?」


 直撃したにも関わらず、フェリシアは無傷だった。

 

「物理結界だぜ。悪いが、お前の論理結界は解読させて貰った。一度解読できれば、干渉も簡単。私はお前と同様、論理結界の指定外……だから魔法も使えるぜ」


 これには魔法使いの男も驚愕で目を見開く。

 論理結界の解読は優れた魔法使いならば、不可能ではない。

 が、これほどまでに短い間に、十二、三歳程度に見える少女がそれをやってみせたのだ。


「驚いた……どうやら、その年でまとも(・・・)な魔法使いのようだな。中々、楽しめそうだ」

「お前の楽しみなんて、知ったこっちゃないぜ!」


 フェリシアは魔力を全身に流し、身体能力強化を行う。さらに杖にも魔力を流し、強度を強化。

 さらに足の先から魔力を噴射。

 瞬間的に急加速する。


 そのままの勢いで杖を振り下ろす。


 それに対し魔法使いの男は短い杖を構える。

 杖先から魔力の剣が出現し、フェリシアの杖を受け……弾き返した。


 弾き飛ばされたフェリシアは空中へと投げ出される。

 が、そのまま宙返りして体勢を整え、落下しながら杖を振る。


 杖先から無数の魔力弾が放たれ、魔法使いの男へと放たれる。


「ふん、この程度! 大したことはない!!」


 魔法使いの男は杖を振る。

 物理結界が出現し、魔力弾を全て防ぎきった……はずだった。


(な、なぜ? 完璧に防いだはず……い、いや……そもそもどうして、背後から?)


 突如背後から数発の魔力弾が出現。

 とっさに身を捻った男の頬を切り裂いたのだ。


 混乱している魔法使いの男を他所に、地面に着地したフェリシアは杖を振る。

 再び魔力弾が男を襲う。


「今度は、三百六十度すべてを物理結界で!!」


 自分の周囲を強固な物理結界で覆う。

 これで完全に防げるはずと、魔法使いの男は安堵する。


 だが……


「な、何!?」


 魔力弾はあっさりと、まるで結界などないかのようにすり抜けた。

 そして魔法使いの男の目の前で炸裂する。


 魔法使いの男は吹き飛ばされた。

 手から杖が離れる。


「な、何が……起こったんだ……」

「次元を屈折させただけだぜ。結界を張るなら、最低でも四次元以上の干渉を防ぐ結界を張るんだな」


 魔法使いの男は目を見開く。


「ば、馬鹿な……そんな高度な魔法、そう簡単に使えるはず……」

「現実として、私は使えるんだぜ」


 そう言ってフェリシアは杖で男の頭を思いっきり殴った。

 魔法使いの男は気絶し、地面に倒れることになった。


(す、すごい……き、綺麗で、カッコイイ……)


 一連の戦いを見守っていたアナベラは、素直にそう思った。

 ドキドキと心臓が高鳴る。


(って、相手は女の子なのよ? ど、どうして……胸が高鳴るのよ)


 アナベラは顔を赤くしながら、自分自身に突っ込んだ。


 一方……フェリシアは魔法使いの男を昏倒し終えると、ゆっくりとアナベラとアナベラを拘束しているチンピラへと近づいていく。


「ち、近寄るな! こ、この女がどうなっても良いのか!!」


 アナベラを拘束していたチンピラが、ナイフを振りかざして言った。


「さ、刺すぞ! こいつを、刺し殺すぞ!」

「そいつはムリだぜ。勝負はもうついたって、私は言ったはずだ」


 飄々とフェリシアは答えた。

 その表情には自信の色があった。


 アナベラはフェリシアを信じることにした。


 一方、最後のチンピラは手を震わせながら叫ぶ。


「こ、この……本当に、殺すぞ! 言ったからな!!」


 そう言ってチンピラはアナベラの胸にナイフを突き立てた。

 アナベラは思わず目を瞑る……が、痛みはない。


 恐る恐る目を開けると……アナベラの胸の前に妙な“揺らぎ”があり、ナイフの刃先は途中からその中に沈んでいた。

 そして前を向くと……ナイフの刃先の部分が、どういうわけかフェリシアの目の前から突き出ていた。

 フェリシアはその刃先を指先で掴み、強く引っ張る。


 アナベラの胸に突き付けられていたナイフが、揺らぎの中へと完全に沈む。

 気付くとナイフはフェリシアの手の中にあった。


「ど、どういう、ことだ!?」

「ちょっと、空間を屈折させただけだぜ。三次元に囚われている限り、私には勝てないぜ」

「ひ、ひぃぃ!!」


 チンピラはナイフを放り出し、逃げ出した。

 フェリシアはそんなチンピラの背に杖を向け、魔力弾を放つ。

 魔力弾はチンピラに当たり……チンピラは地面に倒れた。





 

(た、助かった……)


 アナベラは全身から力が抜けるのを感じた。

 今更になって、恐怖が湧き上がってくる。


「大丈夫か? ……もう、安心だぜ」


 フェリシアはそんなアナベラの背中を摩ってくれた。

 思わず、アナベラの瞳に涙が浮かぶ。


「怪我はないか?」

「う、うん……その、ありがとう……」

「礼には及ばないぜ。友達を助けるのは、当たり前のことだ」


 フェリシアは快活な笑みを浮かべた。

 少し前に喫茶店で悲しい声を上げていた人物には、到底思えない。


 再びアナベラの心に罪悪感が浮かび上がる。


「……どうして、助けてくれたの?」

「まだ言うのか? 友達だからって、言っただろ?」

「でも……私のせいで、あなたの家は没落したのよ!」


 一度感情を吐露し始めると、止まらなかった。


「私が考え無しに木草紙なんて作ったせいで……あなたを不幸にした。あなたを傷つけた。追い詰めてしまった。私はあなたの家族を引き裂いてしまった……」

「……もしかして、父さんとの会話、聞いてたのか?」

「あ、……その、ごめんなさい」

「盗み聞きは趣味が悪いぜ」


 フェリシアは困ったように頭を掻いた。

 その顔は少し赤く……恥ずかしそうにしている。


「そ、その、悪気はなかったの……た、ただ、聞こえたから……」

「分かっているぜ。お前は悪いことを進んでするような奴じゃない。私が知っている。それに大きな声で話してた私の方が悪いぜ。面白くもない話を聞かせちまって、すまないな」


 それからフェリシアは頬を掻きながら、「聞かれたのはちょっと恥ずかしいぜ」と言った。

 そしてウィンクをする。


「あのことは、他言無用で頼むぜ」

「う、うん! ぜ、絶対に言わない!!」


 こくこくと頷くアナベラ。

 フェリシアはそんなアナベラの手を取り、立ち上がらせた。


「じゃあ、学園に帰ろうぜ。……それと、木草紙とうちが没落した話のことだが」

「う、うん……」

「別にお前のせいなんかじゃないぜ」


 フェリシアは優しく、そう笑って言った。


「で、でも……」

「あれは便利な発明だ。誇って良いぜ。私も使わせて貰っているしな」

「ち、違うの! あれは私が考えたんじゃなくて……その、知っていたというか、人の発明を盗んだというか……」

「そうなのか? まあ、でもこの国にそれを紹介したのはお前だぜ。こういうのは、やったもん勝ちなんだ。木草紙を発明したのが誰なのかは知らないが、そいつが文句を言う権利はないはずだぜ。この国にそれを持ち込んで、特許を申請しなかった、そいつの怠惰が悪いんだからな」


 フェリシアはポケットからハンカチを取り出した。

 そして少し背伸びをして、アナベラの涙を拭ってやる。


「だから、胸を張れ。そもそも……お前が作らなくても、どのみち、ああいうのは数十年後、もしくは百年後にでも誰かが発明したさ。たまたま私が貧乏くじを引いちまったってだけ。それに羊皮紙も完全に駆逐されたわけじゃなくて、ちゃんと高級路線で生き残っているところもある。つまり悪いのはうちの経営のやり方だぜ」


 木草紙に負けるような、粗悪な羊皮紙を作って、それに依存してた歴代のアルスタシア家の怠惰。そのツケをたまたま、不運なことに自分の代で清算する羽目になった。

 単純に運が悪かっただけ。


 と、フェリシアは語った。


「それとも、私の家を没落させようって、考えて木草紙を作ったのか?」

「そ、それは……違うけど……」

「なら、お前は何も悪くない。一切、気にすることはないぜ。もし……そのことでお前を責める奴がいたら、私にいえ。私がぶっ飛ばしてやるぜ」


 ニカっと笑うフェリシア。

 その可愛らしく、そして同時にカッコいい笑顔を見た途端……アナベラの心臓はこれ以上ないほど、高鳴った。

 顔が真っ赤に染まる。


「ふぇ、ふぇ……」

「ん?」

「フェリシアさーん!!!」


 思わずアナベラはフェリシアに抱き着いた。

 これにはフェリシアも驚き、バランスを崩して倒れてしまう。


「お、おい、ちょっと……」

「フェリシア、フェリシア、フェリシア……うわぁーん!!」

「な、何なんだよ……」


 フェリシアは困惑しながらも、アナベラの頭を撫でた。



「ご、ごめんなさい……ハンカチ、後で返すね」

「まあ、気にするなって」


 後からフェリシアに抱き着いて号泣したことを恥ずかしくなったアナベラは、恥ずかしそうに頬を掻いた。

 一方、フェリシアは特に気にしていない様子だ。


 アナベラは何かを考え込みながら歩き……そして足を止める。


「どうした?」

「……その、今度、時間を貰えないかしら?」

「別に構わないが……何なのぜ?」


 フェリシアが尋ねると、アナベラは意を決した様子で言った。


「あなたに……話さなければいけないことがあるの」




自分もフェリシアにとんでもない物を盗まれてしまったという人は

ブクマ、ptをいれて頂けると

第四の壁を超えてフェリシアへの思いが伝わります



次回予告

アナベラがフェリシアに話さなければならないこととは?

今、明かされるアナベラの真実とは!?


フェリシア「やっぱりお前、病院行った方が良いぜ?」


乞うご期待


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