第19話 不良令嬢は校則違反をする
ライジングは飲みサーです
肝試し大会が終わった後のアーチボルトの一言はこうだった。
「面白い鏡だっただろ?」
「……全くだぜ。体が動かなくなった時には肝が冷えた」
フェリシアは肩を竦めた。
他のチームメイトも同じ気持ちのようで、人によっては青い顔をしている者もいる。
もっとも、自分の欠点を洗いざらいにされたというのもあるのだが。
「ははは! あれを見つけた時、絶対に肝試しをやろうと思ったんだ! 他にも、この学校にはいろいろ面白いものがある。みんなも探してみてくれ。中には真夜中にしか動かないようなものもある」
「無許可の深夜徘徊は校則で禁止されているから、推奨はしないけどね。……今日は特別に許可を貰ったけど」
キャプテンがフォローを入れる。
ライジングの公式見解として、「決して校則違反を推奨していない」ということを明らかにする。
「というわけで、今日はこれで御終い! 解散だ! みんな、気を付けて寮に帰るんだ! ……僕はキャプテンとして言ったからね?」
意味深にキャプテンはそう言った。
しかし二年生以上のチームメイトたちは立ち上がる様子はない。
フェリシア含む一年生組は不思議そうに首を傾げるが……
「では、ここからは自己責任だ。残りたい奴は残れ!」
そう言ってアーチボルトは近くに置いてあった大きなリュックサックから、何かを引っ張り出した。
大きなガラスで出来たボトルが何本も。
「麦や葡萄のジュースだ。……ジュースだぞ? ジュースだからな? 俺はこれをジュースだと思って持ってきた。あと、俺は別に強要もしていないし、促してもいない。飲むのは自己責任だからな? 見つかった時に、俺の責任にするな?」
「つまり酒か」
「ジュースだ。フェリシア!」
ポツリと呟いたフェリシアの言葉を、大きな声で否定するアーチボルト。
フェリシアは、ニヤリと笑ってから頷く、
「おう、分かったぜ! ジュースだな?」
ちなみにエングレンド王国では飲酒に関する年齢制限はない。
が、魔法学園としては原則として、校則で酒類の持ち込みは禁止されている。
そして生徒たちが無断で酒を飲むのも、校則で禁じられている。
何らかのパーティーや儀式に於いて、儀礼として葡萄酒が振る舞われることはあるが、生徒が酒を持ってきて飲むのは校則違反だ。
もっとも……禁止されたらやりたくなってしまうのが人の性だ。
「一応、本物のジュースもあるから、飲まない人は安心してね」
酒精の入ってない飲み物はキャプテンが持ってきたようだ。
もし一部のメンバーが悪酔いした時、介抱に回るために彼だけは酒を飲まない予定のようだ。
他にも二年生以上の面々は作ってきた、買ってきたと思われるお菓子や料理、肴を広げた。
「……私たちは何も持ってきていませんが、なんだか申し訳ありませんわ」
ポツリとブリジットが口にすると、アーチボルトは首を左右に振る。
「一年の時、最初の合宿の時は毎度そうだ。……次の合宿では忘れずに持ってきてくれれば良い。勿論、参加したければの話だ」
それからキャプテンは咳払いをして、ジュースを入れたコップを掲げる。
「では……改めて、合宿、お疲れ様でした! 乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
「っく……ぷはぁ!」
麦酒を飲んだフェリシアは口元を拭った。
するとアーチボルトは赤い顔でフェリシアに寄ってくる。
「ほう! フェリシア、お前は飲めるんだな!」
「勿論! あのクソ鏡には『自分勝手で規則を守らない』って言われたぜ!」
「ガハハハ! 俺も似たようなことを言われた!」
何が面白いのか、ゲラゲラと大爆笑をする二人。
それからアーチボルトはフェリシアの肩を叩く。
「しかし、この合宿でよく頑張った! ……かなり厳しいメニューにしたが、よくついて来れた!」
「まあ、無茶ぶりは慣れているからな。それに体力不足は私も自覚していたところだぜ」
フェリシアは最高効率で身体能力強化の魔法を扱える。
なので、もしこの場で魔法使用を含む何でもありの乱闘が始まれば、最後に立っているのはフェリシアだ。
他のチームメイトとフェリシア一人の戦いでも、フェリシアが勝つだろう。
が、しかし身体能力強化の魔法がなければその体力・筋力は年相応の範囲内だ。
勿論、運動神経抜群で日頃からそれなりに鍛えていることもあり、同年代の女子の中ではその能力は最上位のもの。
しかし……上級生や男子と比べれば、どうしても劣るのだ。
フェリシアとアーチボルトが合宿での体力強化について話していると、そこへキャプテンが現れた。
どうやら一人一人を巡回し、悪酔いしていないか確かめているようだ。
実に真面目な人である。
「そう言ってくれると嬉しいよ。正直、僕は厳し過ぎやしないかと心配していたんだ」
「厳し過ぎなのは本当だぜ? それに辛かった。でも……」
フェリシアは酒の影響か、それともこれから口にする言葉が気恥ずかしいのか、その両方か。
少し頬を赤らめながら、小さな声で言った。
「みんなが、応援してくれたから……」
「ハハハ!! 可愛いことを言うじゃないか!」
フェリシアの肩を抱くアーチボルト。
どうやらフェリシアはアーチボルトの“お気に入り”になったようだ。
「あんたはちょっと、暑苦しかったぜ」
「そんな、酷い!」
と、そこでフェリシアはまだ酔いがさほど回り切っていないうちに聞いておこうと、話題を変える。
「そう言えば、アーチボルト先輩。この魔法学園の構造とか、そういうのには……詳しいのか?」
「勿論! 興味があるのか? あの鏡以外にも、面白いのがたくさんあるんだ。同じ鏡の魔導具でも、あと五種類くらい……」
「いや、鏡は別に良いぜ」
フェリシアは首を左右に振った。
フェリシアが気になるのはただ一つ。
「なあ、禁書庫って知っているか? 行ってみたいんだ」
「ああ、勿論! 図書館の地下三階以下にある」
「地下三階? ……二階までじゃなかったのか」
フェリシアは図書館の中を探索し、地下二階から地上五階までは確認している。
地図にも地下二階から地上五階までは記されていたが……地下三階以下の階層は見たことがない。
「隠されているんだ。基本的に生徒は禁書庫には用がないから、存在も知られていない。俺も話は聞いたことがあるが、行ったことはないな」
「どうすれば入れるんだ?」
「以前、副校長に聞いたら、教員の許可と監視のもとなら入れると答えてくれた。……だが、よほどのことがない限り、許可は下りないらしいぞ。俺も門前払いされた」
少なくとも一年生は入れさせてもらえないだろう。
と、アーチボルトは語った。
「そうか?」
「そもそも地下は十五歳未満のお子ちゃまは侵入禁止だ。……エッチな本があるからな!」
「セクハラだぜ、先輩」
フェリシアはジト目でアーチボルトを睨んだ。
地下の区域は性的・グロテスクな記述のある書籍が収められているため、十五歳未満の子供は入れない。
勿論、官能小説が置かれているわけではない。
この世には性交渉や人間の死体などに関係する魔法がいくつかあり、地下にはそういう類に関係した本が置かれているのだ。
子供の精神衛生に悪影響を及ぼしたり、興味本位で性交渉を行われれば大問題となる。
故に十五歳未満の生徒は侵入禁止となっている。
「うーん、しかし……となると正攻法じゃ入れないな」
「せめて十五歳になるまで待ったらどうだ? ……さすがに忍び込むのは危険だぞ。忍び込めるかどうかは別として」
いつになく真面目なことを言うアーチボルト。
深夜の校内を歩き回る分は別に命の危険性はないが、禁書庫となれば話は別だ。
フェリシアは小さく頷く。
「ご忠告、感謝するぜ」
「……まあ、痛い目を見るのもいい経験か。罰則は意外に厳しいから、覚悟しておいた方が良いぞ」
どうせ禁書庫には入れないだろう。
そう考えたアーチボルトは、「おそらく忍び込もうとして失敗し、フェリシアは罰則を受けることになるだろう」と予想し、そう忠告した。
それに対し、フェリシアはニヤリと笑った。
「合宿の練習を耐えきった私には、どうってことないんだぜ」
さて、二日後。
始業式と共に後期授業が始まった。
とはいえ、フェリシアにとってそれはさほど重要なことではなかった。
「私の予想では、始業式の後だから、教師も疲れているはず。その分、監視も緩いはずだぜ」
深夜。
図書館の扉の前でフェリシアはニヤリと笑う。
扉のレバーを掴み、何度か引っ張る。
やはり鍵が掛かっていた。
「魔法的な施錠みたいだな」
フェリシアは右手に杖を持ったまま、左手を扉に掲げる。
すると、扉から三枚の魔法陣が現れ、空中へ浮かび上がった。
「三重式か。やっぱり厳重だ……だけど、この程度は問題にならないぜ」
丁寧に魔法陣を一つ一つ、解除していく。
砕け散るように三枚の魔法陣が消滅した。
フェリシアは再びレバーを手に取り、扉を引っ張った。
問題なく開いた。
「ではでは……まずは失礼するぜ」
スカートをふんわりと揺らしながら、フェリシアは図書館の中へと入った。
金髪
だぜっ子
泥棒
図書館
うっ……頭が……
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