第17話 スポーツ令嬢は合宿で挫けそうになる
全米が涙します
アナベラさんが珍しくガチギレします
学園へ戻ったフェリシアに待っていたのは、楽しい楽しい強化合宿だった。
当初、フェリシアは「合宿って青春っぽくて楽しそう!」とかなり楽観的なことを考えていた。
が、しかしだ。
ラグブライボールと一夜を共にするほどラグブライを愛するアーチボルトが企画した訓練メニューが甘いはずなかった。
「ぜぇ……ぜぇ……っくぅ……はぁ……」
「フェリシア、遅れているぞ! このままだと、間に合わない!」
「わ、分かってる……分かってるから、休ませてくれぇ……」
フェリシアは息を荒げながら、後ろから声援を送ってくるアーチボルトに答えた。
少し遠くには自分から随分と離れてしまったチームメイト。
フェリシアたちは今、アーチボルトの特別メニューの一つ、長距離マラソンに挑んでいた。
ルールはとても簡単で学園の校庭からスタートし、ルートをぐるりと一周してから戻るというものだ。
ただし……道中には山がある。
そして背中には重い荷物を背負って。
今、フェリシアは中間地点である山に挑んでいる最中だ。
ちなみに荷物の重さや、走る距離――校庭で調整するのだが――は年齢や性別によって変えている。
最年少女子であるフェリシアは最も負担が少ない……はずだが、それでも最後尾を走って、いや歩いている状態だった。
「我がチームの問題点は体力がないことだ! だから逆転されてしまった。特にフェリシア! 君は他の仲間よりも劣っているから、頑張らなければならない!」
フェリシアが後半戦で不調になったのは、チャールズのラッキースケベ……もあるのだが、それ以上に体力が切れてしまったという理由が大きい。
もちろん、十二歳最年少女子という年齢と性別のハンディがあるのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが、ラグブライの試合ではそんなことは考慮されない。
だから最低限のスタミナは身に付けなければならない。
ということはフェリシアも当然、承知している。
だがそれにしても、だ。
(い、一歩が重い……これでまだ、中間かよ……)
すでに息も絶え絶えとなっていた。
後ろからアーチボルトが声援を送る。
「タイムオーバーした場合は、その分追加で校庭を走ることになるぞ! 頑張れ!」
「くぅ……はぁ……わ、分かっている、くそぉ……」
「よし、その調子だ!」
と、必死に足を動かしたフェリシアだが、間に合わなかった。
結果、追加で校庭を十周ほど走ることになった。
「ぐはぁ……もう、ダメ……」
フェリシアは大の字になり、横たわっていた。
残暑の暑さもあり、びっしょりと汗を掻き、衣服が肌に吸い付いている。
「よし、よく頑張った、フェリシア!」
(この、化け物……)
フェリシアは半眼でアーチボルトを睨んだ。
フェリシアよりも重い荷物を背負い、より長い距離を走り、そして最後にフェリシアに付き合って校庭を走った副キャプテンは。フェリシアからすると化け物だった。
文句の一つ二つ言いたいところなのだが、最後に付き合って一緒に走ってくれた手前、言うわけにはいかない。
「次は時間内に走れるように頑張ろうな」
「ま、待ってくれ……次もあるのか?」
「あと二回やる予定だ」
「う、嘘だろ……」
「成果次第では、普段の練習にも取り入れようと思っている」
「そ、そうか……はは」
フェリシアは力なく笑った。
そんなフェリシアの肩をアーチボルトはポンポンと叩く。
「まあ、筋肉痛を治す魔法薬は用意してある。何とかなるさ。今日はしっかり寝るんだ」
「ああ……」
夜の空いた時間は禁書庫の調査に当てようとフェリシアは考えていたが、予定を変更するしかなさそうだった。
ちゃんと寝ないと死んでしまう、というよりは殺されそうだ。
さて、合宿八日目。
「ぐはぁ……走り切れた……」
ゴールで膝から崩れ落ちながら、フェリシアは声を漏らした。
目尻には少し涙が浮かんでいる辺り、相当辛かったことが良く分かる。
チームの仲間たちも拍手とお祝いの言葉を贈る。
フェリシアは辛さとは違うタイプの涙が出そうになってしまった。
「フェリシアさん!」
「よく頑張りましたわ!」
タオルを持ってフェリシアに駆け寄ってくるケイティとブリジット。
フェリシアはタオルで少しだけ浮かんだ涙を拭う。
「やったじゃん、フェリシア」
マルカムもまたフェリシアに近づき、労いの言葉を掛けた。
ぜぇぜぇと息を荒げながらも、フェリシアは頷く。
「というか、あれだな。お前も普通の人間だったんだな! 魔法も座学も、授業の体育の成績も良いから、てっきり完璧超人かと思ってたぜ」
「あったり、前だろぉ……体力は、常識の、範囲内だぁ……男子と、比べるなぁ……」
フェリシアの体力は決して低いわけではない。
同年代の女子の中ではトップクラスだろう。
ただ……年上や男子に比べれば劣るというだけの話だ。
「おお!! フェリシアぁぁぁぁ!! 俺は、感動しているぅぅ!!」
なぜか泣きながらフェリシアを抱きしめるアーチボルト。
フェリシアもちょっと貰い泣き気味で涙ぐむ。
取り敢えず呼吸が落ち着いたフェリシアはよろよろしながら立ち上がった。
そこへ遠慮がちそうにアナベラがやってきた。
「えっと……おめでとう。フェリシア」
「おう! ありがとうな!」
フェリシアはいつも通り、快活な表情を浮かべるのだった。
「ふむ、それにしても完走できたということは、それだけ体力がついたということ。うん、この練習には効果があるな。普段の練習に取り入れよう!」
「お願いだから、それだけは、勘弁してくれぇ……」
勘弁してくれなかった。
さて、合宿最終日の夜。
「えー、というわけで、お疲れ様でしたということで、肝試し大会を行います!」
キャプテンはチームメイトを集め、そう宣言した。
「よっしゃぁああ! そういうの、そういうのを待ってたんだよ!!」
大歓声を挙げるフェリシア。
合宿という名の苦行が終わったこともあり、フェリシアのテンションは高い。
「こ、怖そうですけど、が、頑張ります!」(フェリシアさんに抱き着くチャンス!)
「あら、楽しそうですわね」(吊り橋効果でフェリシアさんとの仲を深めるわ!)
邪なことを考えている者が約二名。
二人ともやはりテンションは高い。
ほかの面々も楽しそうにしている。
一方……テンションが低いのが二人。
(ま、マジかよ……肝試しって、ちょっと、そういうのは……い、いや、怖くはないけど……)
(何で、こういうところだけは原作通りなのよぉ!!)
マルカムとアナベラは死にそうな顔をしていた。
もっともマルカムは男として、プライド的に「怖い」などとは言えず……アナベラは何だかんだで日本人的な気質を引きずっているので、周りがやろうと言っている場でやりたくないとは言えなかった。
「まず下準備として各々、怖い話をして場を盛り上げよう。肝試し本番のルールは後で説明する。まずは俺から話そう!」
灯りを薄暗くし、怪談話をし始めるアーチボルト。
丁度話し終えた時……ガタッと物音がした。
「「ひぃぃぁぁぁぁあああ!!」」
マルカムとアナベラが揃って大声を上げる。
「あ、すみません。水筒を倒しました……」
申し訳なさそうにケイティは言った。
するとマルカムとアナベラは大声で怒鳴る。
「本当に、気をつけろ!」
「そうよ! びっくりしたじゃない!!」
「す、すみません……」
小さくなるケイティ。
お化けよりもこの二人の剣幕の方が、ケイティには怖かった。
「まあまあ……そう怒るなよ」
二人を宥めるフェリシア。
そこへアーチボルトがフェリシアに尋ねる。
「フェリシア、何か怖い話はあるか?」
「怖い話かぁ……うーん、ホラーってあんまり読まないからわからないんだけど……」
フェリシアはこめかみに手を置いてから、話し始める。
「鏡ってさ、私たちの姿を映すじゃん」
「「「うんうん」」」
「こっちが見つめると、あっちも見つめ返してくるじゃん? まあ、当たり前なんだけどさ。……たまに思うんだよね」
「「「ほうほう」」」
「私たちがさ、目を逸らしたり背中を向けている時に、鏡の中のやつらがこっちを睨んだり、笑ったりしているんじゃないかなって。にたぁーって」
にたぁーっと笑って見せるフェリシア。
マルカムとアナベラの顔が青くなる。
「フェリシア!! お前、本当に、マジでやめろよ! お前のせいで、もう、鏡を見れないだろ!」
「見てる時は大丈夫だろ? 不味いのは見ていない時だぜ?」
「ああ、もう、やめてくれぇ!!」
耳を塞ぐマルカム。
一方アナベラは原作での肝試し大会の内容を思い出していた。
(……確か、この肝試し大会って……鏡が関係しているよね? ああ、もう……間違いない、こいつ、転生者だ!!)
原作イベントの一つ、『自己紹介の鏡』だ。
フェリシアちゃんの身体能力は、テレビとかで出てくるスーパー中学生程度だと思ってください
体の使い方は上手ですが、体力はないです。成人男性には負けます。
身体能力強化の魔法無しだと、そんなものです。
ただルール無用の喧嘩なら勝てます。
フェリシアちゃんは無慈悲なので、容赦なく金的を狙ってきます。
次回予告
自己紹介をします
フェリシアちゃん、よく頑張った。偉い!
という方はブクマptを入れて頂けると
全ライジングが感動で涙を流します