第16話 没落令嬢は一時帰省する
物語における目標って、大切ですね
ところでレビューを頂きました
この場を借りてお礼申し上げます
ありがとうございました
ところでジャンルですが、「異世界(恋愛)」の方が良いという意見も散見されたので
取り敢えずは今の「ハイファンタジー」のままにし
もう少し話が進んでから、改めてご意見を聞きたいと思います
なろうって「アンケート機能」みたいなのありましたっけ?
ハーメルンだとあるっぽいんですけど
「まあ、当然か」
期末考査の結果を確認したフェリシアは満足し、鞄にしまった。
すべての科目で主席を取った。
これで無事に師匠のところへ帰れる。
「ケイティ、ブリジット、どうだった?」
「フェリシアさんのおかげです! 良い成績が取れました」
「まあまあの出来ですわ」
ケイティは嬉しそうに、ブリジットは澄まし顔……しかし機嫌良さそうに言った。
取り敢えず、二人はそれなりの成績が取れたようだ。
「ま、まあ……実技は良かったし……」
アナベラについては聞かないで上げた方が良さそうだなとフェリシアは思った。
彼女は座学が苦手なのだ。
というよりは、あの座学の成績であれだけの実技の結果が残せるのだから、フェリシアからすると驚きのセンスである。
「また次席……」
「よし! 留年は回避したぞ!」
クリストファー、マルカムの二人はなんとも対照的だ。
片や好成績で残念がり、もう片方は酷い成績でも喜んでいるのだから。
最後にチャールズの表情を確認する。
どこか安堵した表情だ。
王太子として最低限の成績は取れたようだ。
(さて、問題は部活か)
「強化合宿だ!!」
ライジングのメンバーを招集したアーチボルトは開口一番、そう言った。
まあ、だろうなとフェリシア含めたメンバーは頷いた。
「夏の練習試合は、まあ、良い。いや、良くないが、千歩……いや万歩譲って、良しとしよう。だが冬の校内リーグは負けられん!! そうでしょう! キャプテン!!」
「うーん、まあ、そうだね」
温度差があるキャプテンと副キャプテン。
これで一応、釣り合いは取れているのだろう。……来年度、キャプテンが卒業した後はどうなるか分からないが。
「情報によると、ノーブルの連中は七日間の強化合宿を行うらしい。そこで我々は十四日の強化合宿を行う!」
しかしこの副キャプテンの決定にはみんな不服なようで。眉を潜めている。
夏休みは九月から十月までの一か月。
このうち十四日を合宿に費やしたら、まともに実家に帰れない。
特に遠方から来ている者――具体的にはフェリシア――には十四日はあまりにも長い。
行き帰りの時間を考慮すると数日しか地元に滞在できなくなる。
「十四日は長すぎるから、八日にしよう」
話し合いの末、妥当な数字になった。
一応、ノーブルには一日だけ勝っていることになる。
一日だけでどれほど変わるかは分からないが。
「じゃあ、解散としよう。みんな気を付けて帰るんだ」
「自主練は必ずするんだぞ! ラグブライのボールを抱いて眠れ! 片時も忘れるな!!」
この日、アーチボルトがラグブライのボールを抱いて寝ていたという新事実が明らかになった。
さて、母親に顔を見せてから三日後。
フェリシアはマーリンのもとへ、報告のために向った。
「というわけで、師匠。割と早い時期にまた、学園に帰ることになる」
「……本当にあの野蛮なスポーツをしているのね。しかも真剣に」
マーリンはドン引きした様子で言った。
フェリシアは首を傾げる。
「楽しいぜ? 師匠もやってみればわかる」
「ふん……あんな、ボールを空の上で投げ合うだけの球遊びの何が楽しいんだか」
「師匠。それを言ったら球技は全否定だぜ?」
「そうよ、全否定しているのよ」
マーリンは鼻を鳴らした。
どうにも趣味に関する価値観は合わないようだ。
「まあ、校内リーグの時は招待状を出すからさ。来てくれよ」
「……考えておくわ」
これは必ず来てくれるだろうなと、フェリシアは内心で思った。
マーリンは素直じゃないが、なんだかんだで弟子思いであることをフェリシアは知っている。
「ところで、遊びを楽しむのは結構だけど……それ以外は大丈夫?」
「成績は主席を維持しているぜ?」
「そんなのは当たり前よ。まさか、忘れたの?」
「……ローブのことだろ。分かっているよ」
フェリシアは観念したかのように、落ち込んだ声で言った。
ローブの研究はお世辞にも進んでいるとは言えなかった。
ラグブライの活動が忙しかったのもあるが……
「知識不足……というよりは資料不足だぜ。学園の本だけじゃ足りない」
「ふーん……その様子だと、図書館の本はあらかた漁ったの? 分かっていることを言ってみなさい」
「分かったぜ」
フェリシアは研究成果をマーリンに話した。
するとマーリンは驚いた様子で目を見開いた。
「あら、もうそこまで分かっているのね。私の想像の二倍は進んでいたわ。遊びに夢中で本命を忘れたわけじゃなかったのね。安心したわ」
「それは良かったぜ。……ちなみに進展具合的には、全体の何割だ?」
「二割くらいね」
「マジかよ……もう、どうしようもないぞ」
図書館で関係のありそうな本は殆ど目を通した。
それで二割なのだ。
全く情報が足りない。
「禁書庫を調べなさい」
「……禁書庫?」
「魔法学園の蔵書の三割は、特別な許可がない限り閲覧できない禁書となっているわ。読むだけでも危険な魔導書や、とてつもなく凶悪な、また非道徳的とされる魔法が記されている本がある。そこを当たれば、まあ掴めるでしょう」
「……掴めなかったら?」
「あなたは私の見込み違いということになるわね」
となれば、できるだけ早く禁書庫とやらを閲覧し、知識を集め、研究を進めなければならない。
フェリシアにとってマーリンに見捨てられることは、とても悲しいことだ。
「でも、禁書庫って言うからには、禁じられているんだろ?」
「そうね。まあ、閲覧の仕方は自分で考えなさい。手段はいくらでもあるでしょうし」
「……分かったぜ」
まずは上級生に聞いてみるかとフェリシアは考えるのだった。
マーリンへの報告を終えたフェリシアは、母の住む家へと向かった。
フェリシアがたどり着いたそこは、以前のようなぼろ小屋ではなく、集合住宅ではあるがしっかりと風雨や暑さ・寒さを凌げる部屋だった。
「帰ったぜ、母さん!」
「おかえりなさい、フェリシア。食事はできているわよ」
フェリシアが魔法学園に行っている間に、フローレンスは大きく成長していた。
昔は料理など全くできなかったが、最近になって覚え始めたようだ。
フェリシアに振る舞うため、この数か月、練習を重ねていたらしい。
「ど、どうかしら? ……美味しい? 近所の方に習ったのだけど……」
「ん……ちょっと焦げてるな。でも、母さんが作ったものなら、何だって美味しいぜ」
フェリシアは快活そうに笑った。
フローレンスは儚げな笑みを浮かべる。
「……本当に、迷惑をかけて、ごめんなさいね」
「迷惑なんて、そんな……」
「大丈夫、良いのよ。最近ね、改めて思ったの。私、本当にダメな母親だったって。……重荷に思ったこと、逃げ出したいと思ったこと、あるでしょう? 八つ当たりで、あなたのことを叩いてしまったこともあった」
「……」
病気が治っても、心まではすぐには治らなかった。
精神的に不安定だったフローレンスは度々フェリシアに当たり、「お前も私を見捨てるつもりなんだろう!」と心無い言葉を浴びせたり、暴力を振るったこともあった。
フェリシアも人間だ。
不満に思うこともあるし、イライラすることもあるし……こんな女、見捨ててしまえば自由になれる、楽になれると思ったこともあった。
「過ぎたことだ、母さん。私は……母さんが元気になってくれて、嬉しいんだ。……父さんも加えて、またいつか、三人で暮らそう」
「……ありがとう、フェリシア。でも、私もいつまでも、あなたに甘えているわけにはいかないわ」
フローレンスはそう言って微笑んだ。
「ところで、いつ帰るの?」
「十日後には発つ予定だぜ」
「そう……なら、間に合いそうね」
「間に合う?」
フェリシアは首を傾げた。
が、フローレンスはすぐに首を左右に振った。
「ううん、何でもないわ」
さて、時間はあっという間に過ぎ、フェリシアが学園に戻る日になった。
「フェリシア……これを受け取って」
「これは?」
フローレンスはフェリシアに何かを手渡した。
広げてみると……それは毛糸の手袋とマフラーだった。
お世辞にも上手な品とは言えないことが、フローレンスが自らの手で作ったことを示していた。
「もうそろそろ、誕生日でしょう?」
フェリシアは目を見開いた。
確かにあと少しでフェリシアは十三歳となる。
だが……ここ数年、誕生日を意識したことはなかった。誕生日を祝う余裕もなく、プレゼントなども贈られることはなかったからだ。
「まだちょっと暑いけど……これから、寒くなるでしょう? だから持っていって」
「母さん……」
ギュッとフェリシアは手袋とマフラーを握りしめた。
目頭が熱くなる。
「母さん!!」
フェリシアはフローレンスに抱き着いた。
そして互いに頬にキスをする。
「じゃあ、春の長期休暇にはまた帰るから!」
「ええ……行ってらっしゃい」
さて、家を出てから暫く。
フェリシアは後ろを振り向いた。
「お前ら、相変わらずだな」
「へへ、兄貴!」
「いや。姉貴!」
自称舎弟の二人がフェリシアの前に現れた。
前と全く変わらない顔ぶれ……と、フェリシアは眉を顰める。
「あれ? お前ら、ちょっと小綺麗になったな」
「お、わかりますか兄貴!」
「実は、最近はまともに働くようになったんす」
「へぇ……凄いじゃないか」
これにはフェリシアも感心してしまう。
根っからの不良が更生したのだから。
「頑張ったんだな!」
「へい!」
「姉貴も……難しいことは分からないっすが、頑張ってください!」
「おう! じゃあ、元気でな」
フェリシアはウィンクをしてから、ふわりとスカートを浮かばせ、踵を返した。
去っていくフェリシアの背を見送りながら、こそこそと元不良二人は話し合う。
「……ちょっと、大きくなってたよな?」
「ああ……本当に姉貴になったっていうか……」
二人は成長期の神秘に感動した。
目標、未成年が見てはいけないような本を入手すること(意味深)
次回、合宿です
フェリシアちゃん、賢い可愛いと思う方はブクマptを入れて頂けると
「は、恥ずかしいのぜ……」と言ってフェリシアちゃんが赤面します