第14話 スポーツ令嬢は幼馴染と自主練する
ジャンルに関して、皆さんご意見をありがとうございます
重要となるのは、恋愛と魔法、どちらをメインとしてやっていくかという意見が多数ありました
私としましては両方を両輪として据えて、特にどちらかを上位とするつもりはありません(少なくとも私の中では)
ただ、「異世界(恋愛)」タグの場合は恋愛が一本であるかのように感じる一方で、ファンタジーであれば恋愛も同時に内包するように感じましたので
ジャンルは「ファンタジー」に変えることにしました
今後とも、よろしくお願いします。
ライジングの、というよりは、どのチームも練習は朝と放課後の二回行われる。
朝は筋トレや走り込みなどの基礎体力を鍛える練習。
放課後は飛行訓練やタックル練習、競技場が空いていれば試合形式の練習が行われる。
さて、七月の初旬。
フェリシアがライジングに所属してから二か月、気温が高くなり、日差しがキツくなり始めた頃。
「暑いなぁ……」
「全くだぜ……」
ぐったりとした様子でマルカムとフェリシアは日陰で休んでいた。
今は水分休憩の時間だ。
練習中は時折休息も挟むので、決してオーバーワークになることはない……のだが、フェリシアもマルカムも真夏での練習は初めてだ。
一か月ほどでハードな練習にも慣れてきたはずだが、今は再びついていくのがやっとの状態だ。
先輩たちはフェリシアたちほど疲れている様子はないので、純粋に体力と慣れの問題だろう。
「はぁ……」
パタパタと服の胸元の生地を掴み、風を送るフェリシア。
ちょっとは気休めになる。
胸元が見えてしまうので、女子としてはあまりよろしくない行動だが……スポーツ活動の最中はどうしても警戒が緩む。
それはフェリシアとて、同じだった。
そんなフェリシアの姿をできるだけ視界に収めないようにするマルカム……とはいえ少し気になるようで、チラチラと視線を送っていた。
「まぁ、暑さは別に良いんだけどさ……それより日差しが気になるぜ」
「日差し? ……どうして?」
「日焼けしちゃうだろ。私は女子だぞ? 分かっているのか?」
「大して焼けてないだろ」
マルカムはチラリとフェリシアの方へ視線を送る。
汗が僅かに浮かんだ、伸びやかな手足は白く美しいままだ。
「日焼け止めの魔法薬を塗っているからな。でも、ちょっとは焼けてる。……ほら、ちょっとだけ色が変わっているだろ?」
フェリシアはそう言って半袖を腋まで捲った。
なるほど、確かによく見ると少しだけ色の境界ができている。
「お、おお! そうだな!」
マルカムは少しきょどった声を上げた。
ちょっと思春期の少年には刺激が強すぎたのだ。
「二人とも! 丁度、一緒にいるようだな!」
と、ちょっとした青春をしていた二人のところへ大柄の少年がやってきた。
フェリシアとマルカムは体感で三度くらい気温が上がったような気になり、少しだけゲンナリした。
アーチボルト・ガーフィールドだ。
別に悪い人物ではなく、二人とも彼のことは嫌っていない……が休憩中は一緒にいたくない。
休憩している気になれないからだ。
「二人ともかなり動けるようになったし、そろそろ本格的な試合形式の練習に組み込もうと思うんだが、大丈夫か?」
「それって、拒否権あんのか?」
フェリシアが尋ねると、アーチボルトは首を左右に振った。
「ないな」
アハハハと笑うアーチボルト。
そして笑ってから。尋ねる。
「でも、そもそも拒否するつもりはないだろう?」
「もちろん」
「ようやくって感じかな」
二人ともラグブライがやりたくて入ったのだから、それを拒否する理由はない。
拒否するくらいなら退部すれば良いのだ。
結局、二人はアーチボルトの同類なのだ。
「フェリシア、君はタックルが弱いな。自覚はあるか?」
「むむ……まあ、それなりに」
練習後、アーチボルトに指摘されたフェリシアは頷いた。
体重が軽いフェリシアは機動力は高いが、代わりに人とぶつかった時は弱かった。
「どうすれば改善できるんだ?」
「手っ取り早いのは、体重を増やすことだな! 俺のような体型を目指せ!」
「そいつはいろんな意味でムリな相談だぜ」
フェリシアは肩を竦めた。
女の子をやめたつもりはフェリシアには欠片もなかった。
「ガハハ、冗談だ!」
「おう……本当か?」
半眼になるフェリシア。アーチボルトに体型や体重を気にする女子の気持ちが分かるとは思えなかった。
もし彼が本気でそういう女心が分かっていたら……ライジングのメンバー全員で彼を病院に連行することになっただろう。
「当然だとも! 闇雲に体重を増やしたら、君の持ち味である軽やかな飛行が失われてしまうだろう!」
「あー、なるほど。安心したぜ」
やはりアーチボルトとラグブライの関係は蜜月のようだった。
フェリシアは胸を撫でおろす。
「で、どうすればいいんだ?」
「体重の無さは速度で補うんだ。タックルの時だけ、高速でぶつかれば良い。ただし……その分危険が伴うし、体力も使う。繰り返し練習をして、ペース配分にも気を配り、飛ぶときも緩急をつけろ。常に全力で飛んでいては、いざという時に速度が出ない」
「ほう……意外にまともなアドバイスだ」
「……君は俺のことをなんだと思っているんだ?」
「勿論、頼りになる先輩だぜ」
さて、練習終了後。
フェリシアは競技場で飛行用の魔導具を付け直していた。
「帰らないのか? フェリシア」
「それはこっちの台詞だぜ、マルカム」
同じく魔導具をつけていたマルカムにフェリシアは返した。
二人とも、考えることは同じようだ。
「お前は何を言われたんだ?」
「飛び方が直線的過ぎると言われた。それじゃあ、敵の中衛を突破できないと」
「つまり私とは真逆なわけだ。丁度いいな。……お前はボールを持ってゴールを目指せよ。私はそれを止める」
「よし、分かった。……飛び方、アドバイスもくれよ?」
「お前もぶつかり方を教えてくれ」
……ちなみにそんなやり取りに聞き耳を立てていたアナベラは「なんで悪役令嬢が攻略キャラとスポ根しているのよぉ……」と頭を抱えていたが、二人にとっては知る由もないことだった。
さて、一時間後。
二人は練習を切り上げて、部室に戻っていた。
「はあ、汗ビショビショだよ」
「喉乾いたなぁ」
フェリシアは椅子に座り、タオルで汗を拭き始めた。
ユニフォームは汗を吸って肌に吸い付き、うっすらと肌色が透けて見えている。
そこへタオルを突っ込み、汗を拭う。
「個人的にもう少しやっても良かったが……」
マルカムは目のやり場に困りつつ、少し気まずい気持ちを抱きながら、誤魔化すように呟いた。
するとフェリシアが肩を竦める。
「自主練は結構だが、体を休めるのも重要だから、一時間程度にしておけ。と、アーチボルトが言ってたぜ?」
「あの人、狂っている割にはまともなこと言うよな」
「まともって言うか、まあ、試合当日に体を壊されたら許せないってだけな気がするけどな」
フェリシアは自分のバッグを漁りながら言った。
そして水筒を取り出し、グビグビと飲み始める。
「それに私は私でやることがあるからな。どっちも手は抜けないのさ」
「大変だな」
「……いや、お前の方が大変だろ。八月末には期末考査があるんだぞ?」
フェリシアはマルカムの成績がどの程度のものかは知らないが、かなりヤバイということだけは認識している。
「クリストファーが心配してたぞ? お前、練習から帰って夕飯を食べてから、勉強もせずに寝ているんだろ? 授業中もずっと寝てるし……留年するんじゃないかって」
クリストファーとマルカムは実は同室だ。
クリストファーがわざわざ図書館まで来て勉強をしているのは、マルカムを寝かせてやるためなのだ。
もっとも本人は「あいつ、イビキがうるさい」と言っているが……これは照れ隠しだろうとフェリシアは思っている。
「え? クリストファーが? ……というか、お前とクリストファーって仲が良いのか?」
「夜はたまに、図書館で会うぞ」
「……そうなのか」
マルカムは若干、もやもやした気持ちを抱いた。
どうしてそんな気持ちを抱くのかマルカムは分からなかったが……とにかく行き場のない気持ちを抱きながら、水筒の蓋を開ける。
しかし……
「あ、ない……」
休憩の時に飲み切ってしまったことを思い出した。
「じゃあ、これ飲むか?」
するとフェリシアが自分の水筒を差し出してきた。
マルカムはフェリシアの顔と水筒を何度も見比べる。
「どうした? 水分補給はちゃんとした方が良いと、我らが副キャプテンも言ってたぞ?」
「いや……ああ、貰うよ」
マルカムは割とやけくそ気味にフェリシアから水筒を受け取り、口を付けた。
それからフェリシアは水筒を飲むマルカムに言う。
「ちょっと、アッチ向いててくれ」
「ん? ああ、分かった」
何も考えずにマルカムが後ろを向くと……背後から布が擦れる音がした。
一応更衣室もあるので普段は女子も男子もそれぞれ別々に着替えるが……面倒な時や急いでいる時は、同じ部室で着替えてしまうことも多々ある。
いろいろと問題なのだが、ルール上肉体的接触が多いスポーツなためか、この辺りの感覚は麻痺し易い。
(……冷静に考えると、凄い状況だな)
その夜、ふと部室での出来事を思い出してしまったマルカムは悶々とした時間を過ごすことになった。
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励みになります
どうでも良いですが、フェリシア敬語問題は
教師に対して←教えを受ける立場だから敬語
生徒に対して←同じ生徒同士だからタメ口
特に例外がない限りはこれでいく予定です。