第12話 元悪役令嬢は主人公に恐れられる
昨晩、日間一位を取れました
皆さまの応援のおかげでございます
ご期待に添えるよう努力致します
活動報告の方に、一応
(ああ、なんということ……まさか、私の行動でアルスタシア家が没落していたなんて……)
アナベラは一人で悶えていた。
軽い気持ちで作った木草紙がそれほど大きな影響を与えるとは、全く考えてもいなかった。
(これじゃあ、原作通りには絶対に動いてくれないわよね……)
アナベラがまず第一に心配したのは、物語が原作とは大きく変わってしまうことだ。
少なくともアナベラの知っている“悪役令嬢”とは、フェリシアは別人だ。
マルカムとは仲が良いし、チャールズとの関係も悪くなっていない。
これではどちらの攻略も難しいだろう。
しかし……そんなことよりも、アナベラには大きな懸念が、第二の心配があった。
実際のところ、「攻略」なんてものは出来なくても、最悪問題ない。
「推しキャラ」と恋愛ができたら素敵だなぁーというのがアナベラの願いではあるが、それが実現しなかったところで死ぬわけではないからである。
不味いのは……
(絶対に、恨んでるよね……うん、きっと恨んでる。私だったら、恨むもの……)
フェリシアが転生者か否かはこの際、問題にならない。
どちらであっても、自分の家を没落させた人間を恨むに違いないからだ。
そしてフェリシアは着々と取り巻きを――ケイティやマルカム、チャールズは無論、一度は敵対したブリジットまでも――作っている。
アナベラの目にはこれはフェリシアの壮大な復讐の準備段階に映っていた。
どうしてもゲームで黒幕として振る舞っていた、悪役令嬢の姿がフェリシアと重なるのだ。
(ああ、どうしよう……)
アナベラが頭を抱えるのと同時に……
ホイッスルの音が響いた。
さて、アナベラが頭を抱えているのと同じころ。
フェリシアは観客席から立ち上がり、歓声を上げていた。
「おお!! 逆転勝利だ!!」
キャッキャと大喜びするフェリシア。
フェリシアがいるのはロンディニア魔法学園の敷地内に存在するラグブライの競技場である。
ロンディニア魔法学園には公式・非公式を含めたラグブライのチームがある。
今は新入生への宣伝を兼ねた、公式戦の最中だ。
「いやぁ、やっぱり面白いな!」
「ふぇ、フェリシアさんは……やっぱり、やるんですか?」
「クラブに入るかってことか? 勿論だぜ」
右隣に座っていたケイティの問いに、フェリシアは大きく頷いて答えた。
ラグブライのない青春は青春じゃないというのがフェリシアの持論である。
「そ、そうですか……」(マネージャーとか、やろうかな)
ケイティは内心で呟いた。
貴族生まれではないケイティはラグブライよりも、蹴球とかの方が好きだ。
そしてプレイしたいとは欠片も思ったことはない。
「そう言えば……昔からフェリシアさんはラグブライが好きでしたわね」
「おお、そうだ! というか、お前も好きだったじゃないか。一緒にやらないか?」
と、フェリシアが誘ったのは左隣に座っていた縦ロールの少女。
ブリジットである。
雨降って地固まるとはこのことか、この前の一件から二人の仲は修復した。
……というよりは、そもそもフェリシアが全く気にした素振りを見せず、水に流してしまったために、ブリジットも敵意を持ちようがなくなってしまったから、というのが近いのだが。
「結構ですわ……見るのは好きですが、やりたいとはとても」
「えー、絶対楽しいぜ?」
「嫁入り前の娘として、怪我をするわけにはいきませんから」
澄ました表情で言うブリジットに対し、フェリシアは頬を膨らました。
「まるで私が、嫁入り前の娘としては失格みたいじゃないか」
「そこまでは言っていませんが……とにかく、わたくしはやりません。ま、まあ……マネージャーとしてなら、考えないことも、ありませんが」
頬を赤らめてブリジットは言った。ラグブライの選手を志望する女子はそう多くはないが、マネージャーを志す女子はそこそこ多い。
特にチャールズのような男子に、タオルを渡したい……などと夢見る女の子はそこそこいる。
「……フェリシアさんのマネージャーは私がやりますから」
「あら? あなた、ルール分かるの? 分からないわよね? やっぱり、マネージャーは最低限ルールは分からないとダメですわ」
「こ、これから覚えます!」
そしてフェリシアを挟んで睨み合うブリジットとケイティ。
どうやら二人がタオルを渡したい相手は、共通しているようだった。
一方、フェリシアは不思議そうに首を傾げるが……取り敢えず友人同士の仲が良いのは結構なことだと喜ぶことにした。
一方、ホイッスルの音で我に返ったアナベラはこれからのことを考えていた。
(とりあえず……私はゲームのシナリオ通りに動きましょう。これからはどこかのチームに入るか、それともマネージャーになるか、どのチームにも入らないという選択ができるけど……)
勿論、これには各キャラクターへの好感度に関わる。
尚、設定上はたくさんのチームがあるということにはなっているが、ゲームでは都合上、選べるチームは二つ。
貴族出身の生徒が多い『ノーブル』か、平民出身者の生徒が多い『ライジング』だ。
チャールズは前者に所属することになり、マルカムは後者に所属する。
マルカムとの好感度を上げる手っ取り早い方法は、選手になることだ。
彼はライバルや肩を並べて戦う相棒に対して、好意を抱きやすい。
一方チャールズとの好感度を上げるには、マネージャーになる方が効率的だ。
勿論、これらはあくまで効率的かどうかの話。
どこのチームの選手になろうと、マネージャーになろうと、攻略はできるし……それぞれで固有のイベントがある。
それとチームやマネージャーには倍率の違いがあり、ステータスが低いとなれないこともあるので、なりやすさも考慮に入れなければならない。
(確か、悪役令嬢のフェリシアは『ノーブル』のマネージャーになるのよね)
と、なればアナベラが所属するべきは『ライジング』だ。……悪役令嬢とは関わりたくないからである。
そしてチームかマネージャーの二択だが……
(マネージャーにしましょう)
神様特典である無限の魔力や、魔法の才能を考えれば選手になるのは難しくはない。
が、たまに死人が出ると言われるような危険なスポーツを、アナベラはしたくなかった。
(というか、インドアだし)
ついでに言えば『ライジング』の方がマネージャーになりやすい。
『ノーブル』のマネージャー倍率は高いのだ。
……しかし三日後。
アナベラは自分の選択を大いに後悔することになる。
「今年のマネージャー志願者は三人か。……まあ、全員採用で良いだろう」
『ライジング』の副キャプテン、四年生、十五歳のアーチボルト・ガーフィールドはそれほど興味もなさそうに言った。
十五歳にしてはガッシリとした体つきをしている美少年だ。と言っても、美しいとか、カッコイイとかよりは、逞しいという印象を受ける。
スポーツマン系の熱血タイプのイケメンだ。
日焼けした肌とは対照的な白い歯が印象的だ。
来年度にはキャプテンに昇格する彼は、青春のすべてをラグブライに捧げている。
だからマネージャーになどこれっぽっちも興味がない。
ちなみに彼は『恋愛ゲーム』における攻略難易度最難関キャラの一つだ。
というのも、彼にはすでにラグブライという恋人がいるからである。
アナベラにとっては、推しキャラではないにせよ、そこそこ好きなキャラの一人なので、本来ならばテンションが上がるところなのだが……
(え、嘘でしょ? ケイティはともかくとして、何で、ブリジットがいるの?)
ケイティはマルカムを攻略する上ではライバルとなるキャラだ。
シナリオではマネージャーとしてマルカムと恋を育むことになるケイティが、ライジングのマネージャーを志望する理由は分かる。
が、典型的な貴族であるブリジット・ガスコインがいる理由は全く分からない。
ミーハーな彼女はフェリシアについていき、チャールズのマネージャーとなるべく、ノーブルを志望するからだ。
(な、なんか、嫌な予感がする……)
アナベラの背中に冷たい汗が伝う。
「そんなことよりも、キャプテン! 新入部員の選定の方が大事ですよ! 今年は見込みがあるやつが、応募しているらしいじゃないですか!!」
瞳に炎を宿したアーチボルトが、キャプテンに迫る。
一方でそこまでラグブライに魂を捧げているわけではないキャプテンはアーチボルトを手で制しながら、アナベラたちを含めたマネージャーたちの方を向く。
「う、うんそうだね……今日の夕方に選手の選定をするよ。新しいマネージャーの諸君にとっては、初仕事だ。早めに競技場に集まってくれ」
「「はい!」」「……はい」
お願いだから、予想は当たらないでくれ。
と、アナベラは天に祈った。
ラグブライは空中でボールを奪い合うゲームだ。
妖精の羽と言われる、背中に装着する四枚羽根の魔導具を身に着け、空を飛びまわる。
ボールは三秒以上手で接触してはならず、通常は四枚ある羽のうちの二枚でボールを掴む。
敵のボールを奪う時は、タックルをしたり、ボールを手で毟り取っても良い。
ただし相手の体を掴むのは禁止。
フィールドは魔法の結界で覆われ、中は強風が吹き荒れている。
そして無数に立つ『木』と呼ばれるポールが障害物として、また気流に変化を生む。
これらを巧みに利用し、敵の陣地に攻め込み、ゴールへシュートを叩き込む。
と、これを空中で、さらに高速で飛び回り、時には体当たりし合うという、とてつもなくデンジャラスでクレイジーなスポーツがラグブライである。
さて、ライジングはマネージャー人気はないが、チームに入りたい、選手になりたいという人からはとても人気があるチームだ。
そのため毎年、競技場で選定試験が行われる。
マネージャーとなったアナベラはその様子を見守ることになった。
飛ぶことすら覚束ない生徒が大勢いるなか……飛びぬけている者が二人ほど、いた。
そのうちの一人はやはりゲームの通り……マルカムだった。
「今年は中々、豊作だね。アーチボルト」
「はい! 特に、あのマルカムという少年は良いですね! あの強烈なシュート、あれならノーブルのやつをぶっ殺せます。前衛で決まりですね!」
「いや、殺しちゃダメだよ……」
ゲームで見た通りの漫才を近くで聞くアナベラ。
もしこれが普通の状況ならば、ゲームのファンとして悶絶するほど嬉しい。
しかし、だ。
「でも、それ以上に……あの金髪の子、良いね」
「ええ! 素晴らしい機動力と速さ、そしてバランス感覚! 投球速度はそれほどではありませんが……中衛として、大活躍してくれますよ! いやー、素晴らしい!」
「名前はなんだっけ? えっと……」
「フェリシア・フローレンス・アルスタシア君ですよ」
「ああ……あの有名な。へぇー、彼女がねぇー」
(なんで、あんたがここにいんのよぉぉぉおおおお!!!)
アナベラは頭を抱えた。
これでは何のためにライジングに来たのか分からない。
アナベラが困惑していると……試験終了のホイッスルが鳴った。
ある者は不安そうに、ある者は自信に溢れた表情で地上に降りてくる。
「最初はこんなんで飛べるか不安だったけど、コツを掴めば意外に簡単だったぜ」
美しい金髪を束ねたフェリシアは楽しそうに笑って言った。
額に僅かに汗を掻いてはいるが、それほど疲れている様子は見えない。
持ち前の運動神経は健在だった。
「ふぇ、フェリシアさん……!」
「タオルですわ!」
「おう、ありがとう。……でも、二つもいらないぜ」
フェリシアの前でタオルを突き出し、そして睨み合うケイティとブリジット。
この二人がいる時点で、少し察してはいたが……まさかフェリシアがライジングの選手になるとは、アナベラは少しも予想していなかった。
(ああ、何でライジングに……選手になるにしても、ノーブルでしょ? ま、まさか、私に復讐するために近づこうとしているんじゃ……)
アナベラの表情が青くなる。
そんなアナベラにフェリシアが気付く。
「お、アナベラ! お前もマネージャーになったんだな!」
「え、ええ」
戸惑った表情を浮かべるアナベラのところへフェリシアは歩み寄っていく。
「これからよろしくな!」
ニッコリと快活にフェリシアは笑った。
アナベラにはその笑みはとても意地悪く見え、フェリシアの言葉も「お前、これから覚悟しておけよ? 徹底的に虐めてやるからな? 五体満足で卒業できると思うなよ?」という脅しに聞こえた。
アナベラの妙な態度にフェリシアがきょとんと不思議そうに首を傾げていると、そこへマルカムがやってきた。
フェリシアと同様、汗で顔や髪が濡れている。
「なあ、俺にもタオルをくれないか?」
「う、うん……、どうぞ。濡らしたタオルよ」
アナベラは手に持っていたタオルをマルカムに手渡した。
「おお、ありがとう。うん、冷たくて気持ちいいな!」
ゲーム通りの台詞を口にするマルカムに対しアナベラは少しだけ感動しながら、しかしこれからどうしようと悩むのだった。
ブクマ、評価等応援ありがとうございます
これからもご声援のほどをよろしくお願い致します
実は展開速度が早いのか、遅いのか、丁度良いか、ちょっと気になっています
まあ、何だかんだでここまでの話がウケたことは分かるので、現状では丁度良いくらいなんじゃないかと私は思っているんですけれど
問題はこの後の展開速度ですね。
実は序盤はかなりテンポを速くするように心掛けていまして、七話を五話に圧縮とか、描写を削ってまで展開速度優先して書いていたのですが(マルカムとの友情とかは本来、一話丸々使ってました)、ここから先はそこまでストイックに圧縮はしていないので。
だからちょっと遅くなったなとか、早すぎかなとか、その辺り、何か思うところがあれば、ご意見を頂けると幸いです
つまらなくなった、は効き過ぎるので禁止ワードでお願いします