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分かりきっていた未来 2

同時刻更新だと書くことがないですね。苦笑いしかできないです。

「おはよ……うーん、こんにちはかな?」


 目を開けると、そんな言葉が聞こえた。


 体を起こして自分が知らない場所にいると分かると、慌てて辺りを見回した。綺麗に掃除された部屋、そこまで広くはないが、名前の見当はつかないがおそらく寝るために使うのであろう、脚の付いたふかふかした台やら、表面がツルツルしてそうに見える机。誰かが使うには問題ないくらいの物が揃っている。窓の外はまだ明るい。昼前くらいだと思う。


 頭が若干痛い。しばらく寝ていたらしい。そこまで長くなくとも、少なくて約一日。


 何か無くなっているような気がして体のあちこちを触ると、刀がないのに気づいた。腰に何度も手を当てて確認した。完全に無くなっている。


 二本あるうちの両方がない。たしか、――――頭がまだはっきりしないせいか思い出せない。


「落ち着いて落ち着いて」


 アタシは幼い子供のような声がした方を向く。


 そこにはし使いと思わしき女性がすぐそこで座っていた。腰まで届きそうな長い茶髪、両腕にはひじまで隠す純白の手袋。服の上から見ても、当たり前だがとても戦いを心得た者には見えない。ただ、良くない気配が漂ってくるのは確かだ。全身を撫で回すような気持ち悪い感覚がする。


「えと、ここは……」

「客室だよ。倒れてたからとりあえずここに運んだんだよね。あ、怪我はも……治しておいたから大丈夫だよ。服はちょっとまだ直してないから、あー、分からないか。パジャマっていうちょっと遠くの文明から持ってきた服なんだけどね、体におかしな感じない? 体に合わないとか、凄くどこかかゆいとか」


 パジャマ……?

 遠くの文明からというだけあって、触ると言葉で表せない感覚がする。第一触ったことがないのだから無理もない。それはさておき、体におかしな感じがするとするなら、


「あの……した」


 アタシが言い終わる前に女性が再び口を開く。


「下着も上着と変わらない状態だったから直す予定かな。でも穿いてようが穿いてまいが変わらない変わらない。あ、そういうの気にする性格?」


「めっ…………さ! 気にするんすけど!」


 そういうのが当たり前じゃないんすか! 魔人の頭はどうなってるんすか全く……。


 そう思った時、ふと違和感を覚えた。


 何を根拠にアタシは目の前の魔物を魔人と呼んだのか。そういうきっかけになることがあったような気がする。最近、本当に最近、記憶にしっかり残る出来事が。しかし一番新しい記憶はたしか子どもを守ろうとして、それから、それから、それから。


 少しだけ頭ん中がはっきりしてきたのに……思い出せないなら後回しでいいっすね。今はそれより大事なことがあるっす。ともかく魔人がいるということは。


「どうしたの? 深刻そうな顔してさ」


「ラグナログすよね、ここ」


「あ、そうだよ。魔人まじん、リザード、雪精スノーフェアリー、エルフの四種族はこの世界の名前をそのままとって、この仮の大国をラグナログと名付けた。ちなみにいつ気づいたの」


「アンタを何となく魔人って感じたからっすよ。で、アタシをどうするつもりすか?」


「それはわたしに答えられない質問だね」


「どういうことすか」


「そういうことだ」


 聞いたことがある声とともに部屋の扉が開く。そこにはローブを身に纏った魔人がいた。


 なんすかこの感覚……知っているはずなのに思い出せない。もどかしい。


「チェル、どうして戻した。処分は任せただろ」


「へ」


 反射的に意味を察して部屋の隅に逃げようとすると、


「あはは、無理かなぁ」


 チェルに手首を掴まれた。


「ちょ、放してくれっす!」


「落ち着いて」


「理由は?」


「ここで鬼を殺したらさ、一ヶ月後に鬼が絶滅しちゃうじゃん。生かしておくのが得策なんじゃない?」


「こいつら鬼は話をする気がない。不死人の戦力になる前に殲滅せんめつするべきだ。まあお前がそむいたところで」


 魔人が右手を外側から内側に胸の前へ持ってくると、そこにはあるはずのない短剣が握られる。つまり、突然それが何もない空間に現れたということだ。


「直接殺ればいいだけだからな」


 殺される……。刀がない、腕を掴まれて逃げられない……。


 チェルの力は尋常じゃない。どんなに力を入れて振りほどこうにも、びくともしない。こんな筋肉もついてない腕のどこにそんな怪力があるのだ。


 でもまだ手はある。


「覚醒」


 アタシは空いている手で枕をチェルの顔面に投げつけ、そこから全力で殴り付けた。それではまだ終わらない。掴む手の力が緩んだところでさらに追い打ちをかける。手を振りほどき、その場で窓に向かって跳躍した。


 パリンッ!


 逃走成功の喜びはつかの間。下を見たときそれは不安に変わった。


「っ高!?」


 下まで数十メートルはある。覚醒状態でそれが耐えられるのか否か。何事にも限度はある。体の限界を超えているとしても、これはかなり無理があったのではないか。


 そう考えている頃には、アタシは地面に触れるところまで落ちていた。


「受け身をッ……」


 などしている余裕はなかった。本来出来たはずだろうが、予想外の事態にその行動に移せなかった。


 ドオン!


 足の裏から地面につき、片膝が次に地に触れる。着地した場所が凹んでちょっとした穴ができた。ここまで覚醒が強力だとは自分でも驚いている。城自体を囲む壁すら越えるほど、飛び出したときに跳んでいたらしい。


「…………痛くない」


 足の裏に少し痺れが残るも、体は耐えられたようだ。あとは、


「長いっすね……」


 前方に続く長い大きな石橋を通過するだけだ。先の門をよく見ると鎖で頑丈に封鎖されている。柵がそこまで高くないからそこを飛び越えていけばあの二人も見つけれない。なぜならそこを越えれば広大な街があるからだ。木を隠すなら森の中、魔物を隠すなら魔物の中だ。魔法が得意な魔人でもさすがに見つけ出せない。


 アタシは勝ちを確信して走り出した。


「飛び降りるのは予想外だ、驚いたよ」


 しかしまた希望は、すぐ消し去られる。


 外に出た後の第二歩は、飛び降りたはずの部屋だった。

後書きで言えるのは二つだけ。感想と誤字脱字の報告の二つをよろしくお願いします。

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