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そして1つの真実へ 6

 外に出ると、リザードの姿は一切なかった。代わりに多くの魔人がいた。他の種族はほとんど見られない。


 よくよく考えるとまたかなり寝ていたと我ながら思う。疲れすぎというわけではなさそうだが、思い当たる節がない。覚醒の反動もそこまで大きくないため、その線もない。たしかに二度使ったけれどもこの程度で雷咎が注意するとは考えずらい。自分の体を一番知っているのは自分だと言うが、アタシの場合は知らないことが多すぎる。なんとも不思議なことだ。


 一概に言えないが、まあ賑やかな街だ。大して治安が悪そうにはとても思えない。魔人はみんな青やあの観客のように思っていた。さすがに思い込みが過ぎたようだ。若干他の魔物――――――エルフや雪精もいる。リザードは見当たらない。


「謳架、今から言うことを守れ。今の俺はシオンという一人の傭兵として扱え。お前は先日の戦いで顔が知れてるだろうが、あくまでも魔人として振る舞え。最後に、青についての話が出たら、周りに合わせろ。それだけだ。理由は聞くな」


「それはいいすけど……」


「理由は?」


「……聞くな」


 そう言うと青は人混みをスルスルと抜けて歩いていくので、アタシは以前のように離れないよう後を追う。全身がなまって歩きにくい。もっとゆっくり歩いてほしいものだ。


 周りが見えていないのをどうにかしてほしいっすねぇ。あ、見えてなかったすね。二つの意味で。




 青の目的地はそこまで遠くはなかった。


 そこはどこにでもありそうな武具屋。店内には喫煙中の女性が一体。女性は長い髪をしていて、顔半分がそれで隠れている。

 店の中はかなり煙草たばこ臭い。これは壁や棚にかなり臭いが染みついている。


「やあ、久しぶりですね」


 はあん?


 青が、誰だお前みたいな優しい声と敬語で店主と思わしき女性に声をかける。


「おー、シオンか。久しぶりだねぇ。てっきり死んだかと思ったよ」


「この僕が? 冗談も程々にしてくださいよ」


「ハッハッハッハ! かの有名な白狐がそう簡単にくたばるわけないか。そうだ、また今度宝探し付き合ってくれ。やっぱシオンと潜らないと深くまで進めないからよ」


 女性は煙草を皿に押しつけ、そこに吸い殻を捨てる。皿の上は吸い殻で山ができていた。


「はい、また今度。それと僕も今ではそれほど名は知れ渡ってませんよ。試しに訊いてみてください、今の傭兵や街の兵に。誰だって知らないと返されるのが目に見えてます」


「気が向いたら訊いてやるさ。それはさておき、例の頼まれたモンだ。ほらよ」


 女性は布に包まれた何かを下の棚から出して、青に投げつけた。長さは手首から肘までくらいのものだった。中身は見当もつかない。


 青が包みを取って中の物を取り出す。


「ほぉ…………」


 刃は夜空を思わせるものだった。これは何かの一部を素材に作られたものだと思う。金属とは思えない。中身は生きているかのように何かの流れができている。


「ところでそこのガキはどうしたんだい? 彼女かなんか?」


「同業者。それ以外の何でもないです」「なっ、ちが」


「シオンが誰かと組むこともあるんだねぇ……ってあんた噂のガキじゃないかい?」


「え、噂?」


 噂になるほどのことをした覚えなんてない。


「あたしみたいな奴らの間でだけどね。第二の英雄を倒したらそりゃそうさ」


 第二の英雄……ああ、あの二体どちらかすよね。いや、眼鏡やろーの方すね。アレ、が英雄呼ばわりされるわけない。


「眼鏡やろーってそんな強いんすか?」


「戦うための訓練と経験をしっかり積めば強いの一言じゃ済まないだろうねぇ。あの試合ばかりは経験の有無が勝敗を分けたと思うよ。聞いた話、実戦を想定したことはしてないらしいから、これからの成長を見届けるしかないさ。今回は今までの基礎や応用を思いつく限り使ってみたらしい」


 言われてみれば戦い慣れてなかったのは伝わってきた。どちらかと言うと試されてるような。とっとと追撃してこない、戦術の意図が不明、何かに縛られたような戦い方、勝てても不思議じゃない。


 そういえば第二がいたってことは第一もいたんすよね。別に気にすることじゃないと思うすけど。


「それよりどうだい? 今回の依頼品は。迷宮の獣からとれた角から作ったんだよ」


 迷宮の獣?


「どうやって作ったんです? 硬いの言葉で済まないですよ? あの角は」


「ああそれなら鍛冶屋の店主に聞いた話、ちょいと熱したら金属と同じ硬さになったらしいよ。あとは普通の工程を踏んで作ったんじゃないのかい?」


「まあ要望通りの出来なので礼金はこれくらいで」


 青は手で何かを掴むように指を動かすと、そこには手に収まるくらいの袋が現れた。短剣を投げつけられたのと同じように青は

女性にそれを投げつけた。


「いいですね」


「重さ的に金貨10枚前後……? そっちこそさすがに冗談キツいんじゃないのかい?」


「まあ開けてみてください」


 女性が袋を逆さまにして中身を手に出す。金貨が何枚か出たところで、白く輝く硬貨が数枚落ちた。女性の口が開く。


「プラチナ硬貨三枚と金貨八枚、それに加えて煙草を数箱の報酬で文句があるならそれこそ冗談キツいです。次は同じやつを出来たら五本頼みますね」


 女性からの返事はない。礼金がどのくらいのものなのか分からないが、余程のものらしい。開いた口が塞がらないとはこういうことか。


 青は女性に背を向け、店を出ていこうとするので、アタシは黙ってそのあとを追った。手元には短剣はもう握られていなかった。どこにもない。






「あのー、迷宮の獣ってー、なんすか?」


 またどこかへ向かおうとする青の後ろ姿を何とか追いながら、アタシは訊ねる。


「僕ら魔物を超越したものであり、最も退くべき存在。魔人領土には昔から階段というものがありまして、それは降りると迷宮という危険地帯へ入ることができます。その迷宮にいる化け物達が迷宮の獣ってわけですよ。傭兵や、さっきの店主みたいなトレジャーハンターがそこに潜るのは理由は分かりますよね?」


「素材が、売れるんすよね」


「御名答。迷宮の獣は絶命すると個々で必ず決まった部分を残して灰になります。それもかなりの値段で。物によっては金貨二百枚もくだらないものもありますね」


「あのー、金貨二百枚ってどんくらいなんすか」


 金というのだからそれなりに高いのだけはわかる。


「そうですね……。ちょっとした館くらい余裕で買える、食べ物で例えるなら不自由ない食事が一年から二年弱……できるかもしれませんね」


 あー……なんとなく理解したっす。一年も安定して物が食えるならかなり良い礼金だと思う。


 でも、それだけ命懸けなのかもしれない。危険なくして多く得られるなんてうまい話はないのだ。青が言ったように魔物を超越したものを相手にするなら尚、死を覚悟して行くはず。


 アタシには到底似合わない生業なりわいだ。死、というものが本当に怖い。勇気を出してもなぜかどこかで怖じ気づいてしまう。悪い癖だ。そんな状態で戦場に立つ資格は本来ない。


「ちなみにさっき渡してた額はどのくらいなんすか?」


「金貨に換算すると九百八枚」


「なんで中途半端な枚数を?」


「……変なことばかり訊いてきますね。半端な八枚は依頼した回数です。まあ訊かれたくないところを追求してこないのはありがたいのですが」


「自覚なかったんすけど…………そうなんすか?」


 おかしな質問をした、だろうか。単純に気になったから深掘りしただけであって自分自身はそんな質問をしている気がしない。


 アタシはどうにか後ろまできた。


「あ」


「今度はなんだ?」


「アンタ背中から刺されてたすけど動いて大丈夫なんすか?」


「見間違えですね。僕は刺されてない」


「え、でも」


「僕は、刺されてません」


 僕は、――――シオンは、すか。あくまで今はその立場で会話するつもりなんすねアンタ……。


 調子が狂うというか、中身を知っていると正直気持ち悪い。何が楽しくてこうしてるんすかコイツ。それに一日この調子で過ごされたら気が滅入めいる。早く元に戻れと願うばかり。早ければ早いほどいい。いや戻ったらそれはそれで悩みものだ。


 アンタが問題ないなら、いいんすけど。


「あー、はいはい。で、次はどこに行くんすか」


「ああ、言ってませんでしたね。準備に必要なものは回収したので」


 青は足を止めて振り返る。


「謳架の故郷に行きます」


「ほえ?」


「緊急事態が度重なるので、護衛をするはずの彼らにはそれぞれの都合を優先してもらったので、この僕が代わりに付き添います。まあ一体だけですが安心してください。傭兵は請け負った依頼はきっちりこなすので」


「設定を受け入れてほしいなら最初からそう言ってほしいんすけど。アンタの言ってることが嘘か本当から分からなくなるんで」


「分からなくていいですよ」


「はい?」


「どのみち今日で僕の役目は終わるのですから」

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