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分かりきっていた未来 9

 あれから数日、暇な日々を過ごした。服も毎日同じで少し着飽きた。そのためチェルに図書館の場所を教えてもらい、大半はそこにいたが、読めるものがない。加えて図書館の二階、さらに上の三階以降へ行く手段もないときた。梯子はしごでもあればどうにかなる高さだったが、肝心のそれも見当たらない。


 そして気づく。


 魔人の図書館とだけあって、やっぱり魔法で飛ぶんすかね……いや飛ぶしかないっすよね。だって二階にも見える限り梯子は見えないっすよ、ここ……。


 わざわざ一日一回の頻度でしか使えない覚醒で登るわけにはいかないものの、


「何があるか気になるっすよねぇ」


 本は好きじゃない。ただアタシは興味が湧いたものにはとことんのめり込むというだけだ。


「よ、ここ最近毎日いるよな」


「ひっ!? アンタいるならいるっていってくれっすよ!」


 こんな物静かな場所で急に後ろから話しかけられれば、冗談抜きで寿命が縮む気がする。


「で、何の用すか?」


「ああそうだ。お前、戦えるか?」


「え、と……それなりに、なら?」


 模擬戦の相手をしてくれと言われたら即刻断ろう。


「そうか。じゃあ今日は手を貸してほしい。手伝え」


 青は答えも聞かずに結晶を手にした。


 は?




 光が消えると、周りの景色が知らない街に変わった。どこかに連れてこられたらしいが、大まかな位置は理解した。


 そこらを歩く魔物の大体がリザードだ。全員街中なのにかなりの武装している。頭や胴体は当たり前。膝だけじゃなく脛や足首、籠手までもしっかりと守っている。間接部だけ守っていたアルカナとは比べものにならない。さすが戦うことしか頭にないリザードだ。よく見たら辺りの建物のほとんども武具屋や鍛冶屋。ここまで必要なのだろうか。これで戦闘職と生産職の人数が釣り合っていたら怖い。


「あのー、返事する前に連れてくるのやめて貰えないすか。アンタの身勝手さには慣れたもんだから、もう毎度毎度ツッコまないすけど」


「悪いな。時間がないんだ」


 青は早足でどこかへ向かい始めたので、アタシも急いで後を追う。リザードの街はかなり魔物の数が多い。見失ったら――――。


「終わー…………り」


 見失った。


 次の瞬間、


「あだっ」


 肩に向かいから歩いてきたリザードがぶつかった。


「お、ワリワリ……ってオイ! 鬼がいるぞ!」


 ふえ?


 賑やかだった街中が一気に殺意や闘志で溢れた。既に兵士と思われるリザードが武器を構えている。


 これはまずい状況な気がした。いや、そうだ。とりあえず逃げないと捕まって事態を把握してないリザードの牢屋にとりあえず閉じ込められるか、最悪この場で殺されかねない。逃げてる最中に青と合流できたら助かるが、叶わない願いだ。


 アタシはぶつかられたリザードに腕を掴まれる直前、素早く動いて脇の下を通り抜ける。そのまま何があったのか理解していないリザードの股下や横を潜り抜けて逃走を図る。


「あ、まずいっすねー……アイツの向かった方向と逆なんすけど」


 今更引き返せるわけもない。路地裏にでも逃げよう。


 アタシは五分くらい走ったころに足を止めた。地べたに座り、壁に背中を預ける。


「一体全体ここはどこなんすかねぇ…………。何でこうなったかといえばいきなり連れてきたアイツせいなんすよね。刀持ってたら一発で鬼がいるって騒ぎになるくらい頭に入ってなかったんすか……?」


 今はグチグチ文句を言ってる場合じゃない。とりあえず気配のない場所に来たまでいい。しかしいつリザードが来てもおかしくない。都じゃなきゃあれほど大量に魔物を見ることはない。


 息を整えながら再度思考を巡らせる。


 これって襲われた場合、どうしたらいいんすかね。誤って殺しちゃうとかじゃなく、マジでこっちが殺されるんじゃないか心配でならないんすけど。


 返り討ちにできたらそれはそれで奇跡に等しい。説明して話が通じるかと訊かれたらまず言葉より先に刃物が飛んでくると返そう。アタシ一度交戦したことは過去にある。まともに戦えた覚えはない。当時まだ未熟というのもある。が、それ以上に戦ってはいけないものとしか言えない。


 頭を抱えてどうするべきか迷っていると、


「どうしたんですか? こんなところで」


 落ち着いた声が前からした。


 顔をあげると、魔人と似た見た目の少女がいた。手足は折れそうなんじゃないかというくらい細く、肌もかなり白いし、傷やしみは見当たらない。地面につきそうなくらい長い直毛で空を思わせる色の髪。そして眠たそうな目をしている。服は反対に地味。白衣はくいの下にこれまた見たことのない生地の服と膝上くらいの長さのスカート。


 この少女は雪精。特徴である髪の色がその証拠。


「刀があるということはあなた、鬼なんですね。改めて訊ねますが、どうしてこんなところにいるのですか?」


「あの、アタシ青って魔人に連れてこられて、そのあとすぐにはぐれたんすよ。で、今迷子みたいな状態で、さらに街のリザード達に追われてて……」


「ああ、なるほど。それで一段と騒がしかったのですね」


 無表情な少女はトントンと会話を続ける。話を聞いてくれることにこれほど嬉しさを感じたのは久しぶりだ。どこぞの魔物三体はマイペースすぎて途中からついていけない。


「ひとまず、わたくしについてきてください。目的地は青と同じなので合流できますよ」


「え、でも見つかったらどうするんすか?」


「安心してください。私はいつも魔物通りの少ない道を通っているのでほぼ遭遇することはありません。もし見つかっても私が説明しますので御安心を。では行きましょうか」


 少女はアタシが立つのを確認してから歩き始めた。かすかにアタシを探すリザードの声がするが、どれも聞こえたあと遠ざかっていく。


「それにしても青は頭がおかしいのですかね。百回ほど死した方がよろしいのでは。刀を持たせたまま連れてくるからこうなるのですよ全く。災難でしたね、あなたも」


「もう慣れたんで気にしてないっすよ。気にしたら負けっす」


「分かりかねますね。なぜあのごみに慣れてしまうのか」


 そう、すかね。あの程度なら我慢できる範疇(はんちゅう)すけど。でもアルカナさんに対するあの言葉は許せなかったすね。


「にしてもボロクソに言うっすね、アイツのこと」


「そうですね。嫌いですから」


 まさかの同類がいたなんで。それもそうか。アレを好きになる物好きはチェルくらいだ。他にいるなんて考えられない。


 あと二年だったすかね。退位したら可哀想な未来しかないっすね。まあアイツにはちょうどいいっすよ。


 あまり深く踏み込まない話をしているうちに、目的地と思わしき屋敷が見えてきた。煉瓦れんが造りの街とは変わって、木造建築。鬼の国でも見る感じのものだった。てっきり要塞ようさいのようなものかと思いきや、予想の斜め上を行った。それはパッとみ、青のいる城の周りを連想させる。屋敷の周りは大きな池で囲まれている。簡単に表すと、巨大な池があって、真ん中に一回りくらい小さな屋敷がある感じだ。そこに行くには一本の橋を渡らなければならないようだ。


「あの、本当に大丈夫すかね?」


「大丈夫です。あなたは絶対に傷つけさせません」


 半信半疑で少女についていき、表通りに出ると、


「いたぞ!」


「せつな様、背後に鬼がいます!」


 情報の広がりが早ければ、見つけるのも早いときた。いらない協調性だ。門番までもがこちらに向かって走ってきている。


「止まりなさい!」


 せつなと呼ばれた少女が大声で言うも、声は周囲に掻き消される。


 あれ、既視感……。


 左右前方の三方向からリザードが迫ってきて、諦めかけたときだった。


「アイシクルロード」


 全てのリザードの足が止まる。


「な……」


 アタシの足元以外の地が瞬時に氷で覆われたからだ。勿論リザードの足も膝まで。範囲はかなり広い。屋敷を囲む池までもが凍りついている。しかも広範囲というのに後ろの方、つまりアタシのいる方向は一切凍っていない。力加減をし損ねたわけでなく、素でこれというのか。


「三度目はありません。止まりなさい。彼女は青の連れてきた客人。それを知って尚、刃を向ける者がいるなら名乗りなさい」


 少女は指を鳴らすと氷は弾け、飛び散り、溶けていく。


「さ、行きま」「あ、ちょっ!」


 少女は盛大にこける。それもそうだ。自分の足下の氷がそのままだったのだから。


 数秒前の気迫が嘘のように可愛い転け方だった。


 あまりの急展開に誰も動きも喋りもしない。


 あ、え…………えぇ……?

 連日投稿ですね。不定期更新と言ったのはいつのことやらです。やっと序盤が終わりに近づいてきました。これからがしっかりとした話になっていきます。それまではかなり展開が変わっていきますが、楽しんでもらえると何よりです

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