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第2話 GMのお仕置きは想像以上にヤヴァかった。

「お~イセアよ、死んでしまうとはなさけない」


かなり昔に流行った、某RPGのセリフをNPCから言われてカチンときた。


「え~っと、退会申請のボタンはドコかな……?」


「すいません、悪ふざけが過ぎました。 許してください!」


NPCの筈のアーウェンが、他の新規プレイヤーの前で土下座を始める。

その所為で、他のプレイヤー達がゲームを始められずに困惑していた。


「さっきまでNPCだったけど、もしかして今は中身が入っているのか?」


「あ、これは失礼しました。 わたしはこの時間帯のお仕置き担当のGMをしてます、ジャッジと言います。 新規で始められた方から開始直後にPKをされたと抗議が多数着ているので、こうして現状を確認しに参りました。 プレイヤーの皆さん、PK行為をしている者が近くに居りますのでセーフティエリアからは出ない様にお願いします」


「お仕置き担当のGM?」


「はい。 このゲームの企画当初から問題となっていたのが、新規のプレイヤーをPKして楽しむ者が出るかもしれないというMMO時代から有る問題でした。 特にこのゲームでは痛覚を取り入れてますので開始直後にPKされた方の痛みや苦しみは、想像以上の物となっている筈です。」


「たしかに意識が遠のく感覚とか、2度と味わいたくは無いな」


「アカウントの停止措置もしくは削除とゲームの開始時には伝えてありますが、それとは別にわたし達お仕置き担当のGMも配属されております。 悪質なPK行為をするプレイヤーに対して、お仕置きを実行する事となっております」


「お仕置きってどんな内容なのかな? 一応、知っておきたい」


「では周囲に居ます新規プレイヤーの方々も良い機会ですので聞いて下さい。 プレイヤーの皆様からは見る事が出来ませんが、スタッフだけ見えるステータスとして、PKまたはMPKを仕掛けた人数や時間が全て記載されております。 そして、お仕置き担当のGMはそのステータスを見てお仕置きが必要と判断した場合、内部規約に基づきPK行為をしているプレイヤーに対してお仕置きを実行するのです」


「全てのPK行為のデータが残る訳か」


「はい、そしてここからが最も大事なことですので皆様も聞いて下さい。 そのお仕置きとはそのプレイヤーがPKした人数分、我々GMの手でそのプレイヤーがキルされるまでログアウト出来なくなる罰が下ります」


俺をPKした奴はGMが来るまでに、一体何人のプレイヤーを殺していたんだ?


「悪質なPK行為の確認は取れましたので、これよりお仕置きを実行致します。 既にプレイヤーの方は身動きが取れない状態にしてますのでPK被害を受けてしまった方は、このお仕置きをもって水に流して頂ければ幸いです」


【本日もフリーファンタジーオンラインをプレイして戴き有難うございます。 スタッフより、全プレイヤーの皆様にお知らせ致します。 フロンティア平原の召喚神殿付近にて悪質なPK行為が確認されましたので、該当するプレイヤーに対しお仕置きを実行致します。 このプレイヤーは18:00~19:30の間に20人ものプレイヤーをPKしておりました。 お仕置きの内容は公表を差し控えさせて頂きますが、全てのプレイヤーが楽しめる様にご理解とご協力のほどよろしくお願いいたします。 スタッフ一同】




それからの光景は、本当に凄まじかった。

PKをした際にどの部分に攻撃をしたかまで記録に残っており、このプレイヤーは、殺したプレイヤー達と同じ死に様を何度も繰り返し味わう事になった。

そして丁度20人目、イセアが受けた様に胸に矢が突き刺さり死ぬと同時にその悪質プレイヤーはログアウトしてしまった。


「以上でお仕置きは終了しました、今のプレイヤーはおそらくもうログインする事は無いでしょう。 やり過ぎと思われる方も居ると思いますがこのお仕置きにつきましては、法務局立会いのもと死刑廃止後の新たな刑罰として試験的に許可が出ております。 例えゲーム内であったとしても、先程のプレイヤーが行った行為は無差別殺人の様な物ですから」


……どうやら、このゲームを甘く考えていた。

何をするのも自由なゲームだが、悪質な行為に下される罰は現実と同じかもしくはそれ以上。

自分が殺した人数と同じだけの死を体感する、こんなお仕置きが出来るのは国がバックに居ない限り無理だ。


「今回PKの被害を受け不快な思いをされてしまった方々には、後日運営からメールでお詫びの品を贈らせて戴きます。 大変申し訳ありませんでした」


その言葉を最後にアーウェンは最初の位置に移動して、NPCの状態に戻った。

GMによる残酷なお仕置きを間近で見たイセアは、PKされる前までは徹夜する気でいた。

しかしこの日は東に在る【始まりの村】に到着するとそのままログアウトした。


部屋の時計の針はまだ23時を過ぎたばかり。

けれどもお仕置きの光景が目に焼きついて離れず、ようやく眠る事が出来たのは時計が3時を回る頃だった。

こうしてイセアが抱いていた【自由の幻想】は、初日からどこかへ消えて行ってしまったのだった……。




お仕置きの内容は全プレイヤーに告示されなかったが、間近で見たプレイヤーの一部が掲示板に投稿して翌日各局のワイドショーで大々的に報じられた。

更に次の日にはその話題が国会にまで及んで、野党が人命尊重等を理由に与党の足を引っ張ろうと総理を追及する。


「総理。 たかがゲームで悪質な行為を行った人間を何度も殺すのはお仕置きのレベルを超えていると思いますが、どうお考えですか?」


「たかがと仰いましたが、ご自身はこのゲームをプレイされておりませんよね? 悪質な行為を行ったプレイヤーは、わずか90分の間に20人ものプレイヤーをPKの名の下に殺害しております。 それだけ多くのプレイヤーに苦痛を与え殺した責任を、アカウントの停止や削除だけで済ませても構わないと言いたいのですか?」


毅然とした態度で反論された議員は、別方向から揺さぶりを掛ける事にした。


「しかし総理! 私が得た情報によりますとこのお仕置きは死刑に変わる新たな刑罰として試験的に許可されたとGMが発言したそうですね? これが事実だとすれば、それはゲームの名を借りた人体実験ではありませんか?」


「あなたは人体実験と言いましたが、ゲーム内で殺された20人の苦痛を実際に味わってみないと、自分がどれだけの事を起こしたのか理解出来なかったのではないでしょうか? 大勢の人に苦痛を与えて、自分はアカウントを凍結もしくは削除だけで許されるならばその後も同じ行為を繰り返すでしょう。 このゲームのお仕置き担当として勤務しているGMは、実際に死刑を執行している刑務官の中からランダムで配置しています」


「では総理、このゲームは政府主導で運営されているのですね?」


「厳密に言いますと、我が国だけではありません。 現在も死刑を行っている国々で、今後死刑廃止の代わりにどの様な刑罰を行うべきか検討しております。 死を体感させる刑罰も、その話し合いの中で出た提案の1つに過ぎません」


総理の口から、複数の国が関与している事が明らかとなった。


「これは国民全体、世界全体で考えていかないとならない問題なのです! 現実世界での1度の死と、仮想世界で殺害した人数と同じ回数の死の体験。 どちらが凶悪犯罪に対する抑止力を発揮するのか実際に調べてみなければ分からない事です! 先程のプレイヤーはその後の調査で、他のMMOでも同様に行っていたPK行為を一切しなくなったと報告が上がっております。 実際に痛みを感じた事で、殺される恐怖を覚え反省したと見るべきではないでしょうか?」


「それこそが、人体実験の証拠では無いのですか。 あなたは、人が死ぬところを見て楽しむ殺人鬼だ!」


勝利を確信し、勝ち誇った顔で総理をなじる議員。

だが総理から返ってきた答えは、誰も予想していないものだった。


「私がこの死の体験を一切する事無く、許可を出したと思っているのですか?」


「それはどういう事ですか?」


「実際の証拠の映像を残してありますので、皆様にも見て頂きましょう」


秘書の手によってプロジェクターが用意された。

そしてスクリーンには総理が実際にVRヘッドセットを繋ぎ色々な死を体感している様子が、国会内だけでなくTVの生中継でも映し出される。


「私はこのゲームの認可を出すにあたり、合計で15回の死を体感しました。 あなたは私と同様に15回の死を体感する勇気をお持ちですか? 意識が遠のく感覚、視界が闇に包まれていく感覚、口の中に鉄の味が広がる感覚など、様々な感覚を経て死に至る経験をしました。 あなたもこの中の最低1つの死の経験をしてみてください。 そしてもう1度よく考えてみてください、我が国の死刑のあり方についてを……」




翌日の新聞各社の一面は、このゲーム一色となった。


【殺人ゲーム】


【ゲームの即時終了と内閣退陣を求める署名運動始まる】


否定的な内容ばかりだったが一部の新聞内で掲載された、ある読者からの投稿が注目を集めた。


『わたしは家族4人を犯人の身勝手な理由で殺されました。 しかしその家族を失った苦しみや怒りを、本当に理解してくれている政治家の方はどれだけ居るのでしょうか? 犯人の命を奪うのが許されないのならば、殺されたわたしの家族の命の価値は犯人よりも低いのでしょうか? 1度の死では無く、殺された家族と同じ回数の死の体験を与えて欲しいとわたしは願います。 同じだけの苦痛を味わい、己が犯した罪と向き合って欲しい。 そうして頂けるのであれば、現実での死刑を廃止しても構わないと思っております。 そして今回の問題のゲームを認可する前に15回もの死を体感された、総理の勇気ある行動がより多くの方に評価される事を望みます』


帰宅途中の車中で聞いていたラジオでも、この意見が取り上げられ賛否両論となっていた。

しかし実際にPKされて死んだ聖亜の側からすれば、あのお仕置きをやり過ぎだったとは思えなかった。

与えられただけの苦痛と同じだけの罰が与えられなければ、水に流そうと思う事は出来なかっただろう。


残業が続き数日の間プレイする事が出来なかったが、久々に入ってみるとゲーム内に居る人の姿が明らかに減っていた。

仮想現実での死の体験を恐れたユーザーが、こぞって退会した為だ。

軽い気持ちで始めたゲームが、実は幾つもの国が協力して作られた人体実験場だった事実も後押ししている。


それでも聖亜は、このゲームを続けていく決意を固めていた。

実際に痛みを感じる事の出来るこのゲームのお陰で、命の大切さをもう1度学ぶ事が出来たからだ。

翌日、運営からとある発表が有った。



【お仕置き事件の後、PK等の被害を経験せずに退会された方47319人】

【お仕置き事件でPKされた被害者20人の中で、退会された方0人)



被害に遭った人と被害を受けなかった人との温度差を感じさせる発表だった。

そしてこの結果を、聖亜はしばらく忘れる事が出来なかった。

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