はじまり
ある日絵画は死んだ。もうぴくりとも動かない。それは北窓からのやわらかな日差しの中に佇んでいる。アトリエの真白な壁には、作品を掛けるために撃ち抜かれた無数の釘穴があった。モノクロームに抵抗した光の傷跡。
貴方はもういない。絵の具がこびり付いて固まった筆を握りしめ、僕は虚ろな視線をその屍に向けた。身震いするほど美しかった。多くの人間が貴方に魅了され己の生を費やした歴史が…途切れた瞬間に、僕は立ち会えた。
しかし、絵画の中の一瞬の輝き、今まで人々を魅了してきたもの。僕らが絵画に夢見たあの時間は何処に行ってしまったのだろうか。もはやあれは何だったか。あの美しい絵画の最後を見ても、僕はまだあの輝きを探した。
光る感覚はどこへ。痛ましい壁面の下に白紙のキャンバスが散らかっている。眩しく真白な画面が、あの絵画の死のように美しくみえた。為す術はないのか、僕は躍起になり作品を剥がし割いてしまった。混沌とした室内。
あれほど耳に馴染んだ無数の息遣いは途絶えてしまった。静まり返るこの空間にもはや価値はない。それでもここから動けない僕は…ああ、僕は一体何を期待しているのだろうか。
蹲る僕に貴方はもう何も答えてくれない。