第67話 勇者パーティー
※【重要なご報告】
いつも本作を読んで頂きありがとうございます!
突然ですが本作「憑依彼女と死神と呼ばれた転生者」をシリーズ化し、三章の終了と同時に【前編】と【後編】に分割する事に致しました。
【前編】は次話で第三章の終了をもって完結と致します。同時に【後編】の第一話を【前編】の最終話の投稿と同日に初投稿する予定です。(詳しくは【活動報告】を参照頂けると嬉しいです)
どうか引続き【後編】も、これまで同様にブクマ等を頂戴できますと幸いです!是非、本当の完結まで続きを読んでみて下さい!何卒、宜しくお願い致します。
──真人が江戸の都で、猪熊による騒乱に巻き込まれていたのと同じ頃、イグラシア王国の拓海は疲弊していた。
「見てな、ソフィアちゃん! これが、神託で選ばれた勇者の実力さ!」
そう言って、得意気な表情で大袈裟に構える、勇者アルス。彼の目の前には、大型の蛇の魔物……『双頭の影蛇』が、今にも襲い掛からんと、戸愚呂を巻いて睨んでいた。アルスがブツブツと小声で詠唱を始め、掌を双頭の影蛇に向けて翳す。
「──【火炎竜巻】!!」
双頭の影蛇の足下から、炎の竜巻が唸りを上げる。何本もの炎柱が絡み合い、一瞬にして双頭の影蛇の体は焼き尽くされた。プスプスと白煙をあげ、黒焦げになった双頭の影蛇を尻目に、アルスが意気揚々と踵を返す。キャーキャーと彼を持て囃し、出迎えているのは彼の仲間……すなわち、『勇者パーティー』の者達だ。
拓海が始めて王都の土を踏んでから、数か月の時が経っていた。王都に来て直ぐ、拓海はギルドの指示書に従って、レスト山に異常発生した翼竜を全滅させた。そう。本当の目的は、勇者の仲間を選抜する事……。その為に用意された、国からの特別な依頼だ。たった二人で翼竜を全滅させるという、これ以上ない成果を果たした拓海達は、当然、王国の目に留まる。そして、当たり前の様に勇者のパーティーへ招集された。そして今日も、その『勇者パーティー』の一員として、突如現れた凶悪な蛇の魔物、双頭の影蛇……こいつを討伐する為に、王都から離れたこの森まで、わざわざやって来たという訳だ。
「凄い! 中級魔法なんて始めて見たわ!」
「流石は勇者様! かっこいいーー!」
アルスの中級魔法に驚くのは、『聖女』のマリア。サラサラの長い金髪に、碧い瞳。修道服に包まれたその身体は、服の上からでも分かる程のナイスバディ。清楚そうな見た目とのギャップが、更に男の目を引くであろう美しい女性だ。 そして、アルスを褒め称える、もう一人の『魔導士』……。長い黒髪に、大きくはだけた胸元から、これでもかと言うほどの色気を振りまく女……レナ。そう。生前、ロンドの酒場でレオを散々馬鹿にした、セクシー魔導士。彼女はその美貌をアルスに買われ、このパーティーに加わる事を許されていた。
「フンッ! 何が中級魔法よ。拓海が本気になれば、神級魔法だって……ムググッ」
騒ぐアルス達を尻目に、毒付き始めたソフィアの口を拓海が塞ぐ。急に口元を抑えられ、バタバタと苦しそうにもがくソフィア。そして、ようやく解放された彼女は、拓海に食ってかかった。
「──ブハァッ! もう! いきなり何すんのよ、拓海!」
「それはこっちのセリフだよ、ソフィア。僕の能力は内緒だよって言ったじゃないか」
すかさず言い返す拓海。
「だって……」
悔しそうな表情で、言い訳したそうに渋るソフィア。彼女は、拓海からその能力について、口留めをされていた。そう。拓海はまだ、この勇者達の前で、本当の実力を隠しているのだ。
理由はただ一つ。この、明らかに色ボケの勇者アルスを、拓海は信じる事が出来ないからだ。拓海にとって勇者とは、当然、魔王を倒す者……所謂、英雄である。しかし、同時にパーティーに入る以上、それは、自分の運命を預ける相手でもあった。拓海は自身が勇者ではないと知ってから、自分はモブではないのかと常に恐れ、疑い初めている。そんな彼にとって、勇者のパーティーに入るという事は、必ずしも決定事項という訳では無かった。
「バレたら絶対、魔王を討伐する為の『勇者パーティー』に入れられるだろ? 僕はまだ、この勇者とパーティーを組む気にはなれないんだ」
「まあ、その気持ちは分からない訳じゃないけど……」
勇者のパーティーに入れば、王国から多額の援助が受けられる。魔王と戦うにあたり、装備や生活の心配をしなくても良いと言うのは大きい。だが、拓海はそもそも魔王の討伐に対し、本当に自分が参加しなければいけないのかとまで考えていた。参加すれば、自分は魔王に殺されるかも知れない……なにしろ、自分は英雄になる事を約束された、勇者という立場ではないのだから。未だに異世界をゲーム感覚で見ている拓海にしてみれば、そう考えてしまうのも当然の事だった。
「確かに、アレじゃあねえ……」
拓海の考えに同意する様に、ソフィアはアルスに蔑みの目を向けた。
──勇者アルス。
教会に降りたという神託で、勇者として生きる運命を背負わされた男。その容姿はいかにも勇者……少しウェーブのかかった金髪に、薄翠の瞳。バランスの取れた肉体と、優しい笑顔の色男だ。だが、その本性は英雄などとは程遠い、欲と権力に溺れる男だった。勿論、勇者として指名されただけの事はあり、あらゆる属性の魔法……それも、中級までは全て使いこなせるという、人間としては規格外の才能は持っている。
だが、それはあくまで、この世界での人間基準……要するに、転生者である拓海にとって、アルスは凡庸な能力に過ぎなかった。そして、おそらく自分と同じ転生者である『魔王カズヒコ』。拓海はこの魔王が、何故か転生者であると確信していた。そして、自分と同じ反則級の能力を持っている筈だという事も。だからこそ、このアルスとパーティーを組んで勝てるとは、微塵も思えなかったのだ。
「見ていてくれたかい、ソフィアちゃん! 俺の雄姿…」
得意満面な顔のアルスが、髪をかき上げながらソフィアに歩み寄る。その様子を、嫉妬の眼差しで見つめるレナとマリア。アルスは最近、この、自分に対して一向に靡こうとしないソフィアに対し、酷くご執心だった。面白く無さそうな表情で、その様子を見ていたレナとマリアが愚痴を零す。
「あんな亜人のどこがいいのかしら?」
「あのエルフが連れている男、本当に気持ち悪いわ……」
聖女とは思えない差別発言をするマリアと、レオの面影を拓海に見て、不快感を隠そうともしないレナ。二人は、人を外見で判断する、拓海の一番嫌いな中身をしていた。そんな二人の事などは気にも留めす、ソフィアは冷たく吐き捨てる。
「フン! 何が雄姿よ。わざわざ格好つけて、必要も無い詠唱の真似事なんかして……あんた、本気であれが格好いいとでも思っているの? 生憎、私はそんな偽物に騙される程バカじゃないの」
「うぐっ!」
中級魔法には詠唱が必要ない事をばらされ、顔を真っ赤にするアルス。しかし、尚も彼は食い下がった。
「い、いや、あの魔法はちょっと特殊でね……勇者にしか使えない魔法なんだ。ま、まあ、俺にしか使えない魔法の事なんて、言っても仕方無いか。それより、そんな嘘をソフィアちゃんに吹き込んだのは、どうせその醜男なんだろう? ダメだよ、ソフィアちゃん……連れて歩く人間は選ばないと。こんな醜男と一緒にいたら、折角の君の美しさまで台無しだ」
そう言って、アルスは眉間に皺を寄せ、まるで汚物を見る様な視線を拓海に向けた。その様子を見たソフィアが憤る。
「いい加減にしなさいよ、この色ボケ勇者! 気持ち悪い目で私達を見ないで頂戴! 大体、拓海はあんたなんかより、本当は何倍も強くて格好いいんだから!」
キレたソフィアが、アルスを怒鳴りつける。すると、アルスはまるで、その言葉を待っていたかの様に、ニヤリとその口元を歪ませた。
「それは聞き捨てならないなあ……この醜男が俺より強いだって? この、神託で選ばれた勇者より! だったら、それを証明して貰わなくちゃなあ? 神託を受けたと言う教会にも示しが付かねぇしな!」
演技がかった大袈裟な仕草で、両手を広げて騒ぎ立てるアルス。初めから彼の目的は、ソフィアの目の前で拓海を甚振る事……要するに彼は、自分が拓海よりも強いと示す事で、ソフィアの気を引く事が出来ると、本気でそう考えていた。勿論、自分が負けるかも知れないなんて事は、夢にも思わない。
アルスが侮蔑を籠めた目で、拓海に「逃げるなよ?」と勝負を促す。拓海は面倒臭そうに、恨めし気な視線をソフィアに向けた。自分がキレてしまった事が原因で、面倒な事になった……そう気付いたソフィアが、気まずそうに苦笑いを浮かべる。こっそり腰の下で両手を合わせ、「ごめん」のサインを拓海に送っていた。拓海はそれを見て、やれやれと溜息を零す。
「はぁ……。ソフィア、もういいよ。僕もそろそろ、潮時かなって思っていた所だし……」
そう言って、拓海は覚悟を決めた様に、持っていた荷物を地面に降ろした。そして、アルスに向かって軽い口調で宣言する。
「──いいよ。いつでもかかっておいで」
拓海の口から放たれた、余りにも軽いノリの宣言に、アルスは顔を真っ赤にして憤る。どうやら、舐められたと思ったらしい。そして事実、拓海はアルスを舐め切っていた。これまでの戦いで、既に勇者の実力は見切っていたから。
「テ、テメエエエエエエエエエエエエエ!!」
怒りに震えるアルスが、腰の大剣を正眼に構えた。それを見て拓海は、右手を天に向かって無造作に掲げる。
「ごめんね。まともにやり合う気は無いんだ。──【雷の魔弾】!!」
突然、上空から稲光が迸り、アルスの頭上に落雷した。
「ぐわあああああああああああああああ!!」
強烈な稲妻に撃たれ、悲鳴と共に気を失ったアルス。その様子を見て、拓海はボソリと吐き捨てる。
「【雷の魔弾】……ただの初級魔法だよ。ただし、込めている魔力は桁違いだけどね」
同じ魔法でも、使う者によってその威力は変わる。拓海のそれは、文字通り桁違いの威力を誇り、既に初級魔法と呼べる様な代物では無かった。
ポカンと間抜けな口を開け、呆然と立ち尽くすレナとマリア。目の前で無様に失神する、勇者。そして、それを見下ろしている、自分が今まで見下していた醜男。二人はアルスの身など案じる余裕も無く、ただその場で言葉を失っていた。
そんな彼女達を尻目に、拓海はソフィアに向かって声をかける。
「行こう、ソフィア。ここまでやっちゃったし、もう『勇者パーティー』には居られない。」
「そうね。本当に時間の無駄だったわ……」
清々しい笑顔で答えるソフィア。彼女は拓海の、パーティーを抜けるという選択が嬉しかった。
「あっ! その勇者に、私達抜けるからって言っといて!」
未だ、呆然と立ち尽くしたままのレナとマリアに、ソフィアは一方的に別れを告げた。そして、何事も無かったかの様に、屈託のない笑顔で拓海に問いかける。
「で、これからどうするの?」
拓海は、そんな彼女に向かい答えた。
「──そうだなあ。とりあえず一旦、王都に戻ろう。勇者が頼りにならないという事は分かったし。とりあえずもう一度、片倉さんの話を聞いてみるよ」
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