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第62話 地獄絵図

「──お前等、皆殺しだ」



 静まり返った道場に、俺の声が響き渡る。すると、猪熊の傍らにいた男が腰を上げた……近藤だ。


「土方から、大凡(おおよそ)の報告は受けている……我が主の非礼、どうか許して頂きたい」


 そう言って近藤は、俺に深々と頭を下げた。どうやら、ここまでの経緯も、土方の使いか何かから聞いていたらしい。厳つい見た目の割りに、腰の低い男だ……流石に、親衛隊を纏めているだけの事はある、という事か。


 ──近藤勇(こんどういさみ)


 前世では新選組の局長、そして、異世界(こっち)でも親衛隊の隊長……やはり、それなりの人物ではある様だ。黒髪のオールバックに、精悍な顔付きをした壮年の男。忠勝に比べれば一回り小さいが、それでも、他の者よりは大きい。がっしりとした体格で、どこか落ち着いた雰囲気を持っている。俺は、そんな近藤に向かって静かに告げた。


「別にいいよ……忠勝(あいつ)がバカなのは、家康や土方から聞いて知っていたからな。それに、お前には随分、楓が世話になったらしいし。こっちこそ礼を言う……ありがとう」


 俺は、(うずくま)る忠勝の方を見ながら近藤に告げると、楓の件について礼を述べた。家康や土方、それにコンまでがざわついている。どうやら俺が、素直に礼を言った事が意外だったらしい。失礼な奴等だ……俺だって、近藤(こいつ)みたいにちゃんと礼を尽くされれば、素直に頭ぐらいは下げる。いくら、俺が人間の事を好きでは無くても、誰にでも噛み付く無法者という訳では無いんだ。


 そんな事を考えていると、近藤が口を開いた。


「元々、人質を取るなどという姑息な真似、親衛隊(我等)は反対だったのだ……猪熊(この男)が忠勝様を(たぶら)かして、我等に命令さえさせなければな。あのくノ一には悪い事をした……むしろ、誤るのは我等(こっちの方)だ。礼などいらぬ」


 大した人物だ……素直にそう思う。土方や新八達、親衛隊の奴等から、慕われているのも納得が出来る。どうして、こんな奴等が忠勝(あのバカ)を、こんなに慕い、仕えているのか……不思議だ。すると、近藤は俺の考えを見透かした様に、言葉を付け足した。


「忠勝様は、ああ見えて……とても人情に溢れたお方なのだ。我等、忠勝様にお仕えする者は、必ず一度は、その優しさに救われておる。ただ、余りに純粋で真っ直ぐなお方(ゆえ)……その力を、利用しようとする輩が後を絶たぬのだ……」


 近藤は、傍らで震える猪熊を睨み付け、少し悲しそうな顔で話した。


 なるほど……親衛隊の連中は、皆んなある程度、忠勝に恩があるという訳か。そして、騙されやすい忠勝を、利用しようとする家臣達(奴等)から守る為に、その傍に仕えている……他にも家柄とか、理由は色々とあるのかも知れないけど。少なくとも、嫌々仕えている訳では無さそうだ。家康も、忠勝の事は気にかけていたみたいだし……おそらく何か、人を惹き付ける魅力(カリスマ)みたいな物があるのだろう、忠勝には。


「大変だな……お前等も。まあ、安心しろ。どうせ、そういう面倒臭そうな家臣達(連中)は、殆どここに集まっているんだろ? だったら今日で、そいつ等は全滅だ」


 俺は近藤に労いの言葉をかけ、そして、ここに来た本題を口にした。忠勝と近藤について、大体の事情や、人と成りは分かった……後は、()()を済ますだけだ。


 俺が腰の刀に手をやると、猪熊がビクリと反応した。それを見て俺は、眼下の猪熊に声を掛ける。


「安心しろ……お前は最後だ」


 これから何が始まるのかと、固唾をのむ道場内の家臣達。家康や土方、そして近藤も、俺の動きに注目している。忠勝も、朦朧(もうろう)とした意識のまま、何が起こるのかを伺っている様だ。ジンとコンは、平然とした顔で見守っている。そして唯一、猪熊だけが、今から繰り広げられる惨劇を想像し、恐怖に震えていた。


「勘違いするなよ? 悪いのはお前等だ……人の留守中にコソコソと、くだらない真似をしやがって──【死神の刃(グリム・リーパー)】」


 一閃。


 軽く振り抜かれた刀から真空(死神)の刃が放たれると、道場の脇に固まっていた五~六十人が、一瞬で真っ二つに斬り裂かれた。余りにも一瞬で斬られた為、少し遅れて、腰から上が床に転がる。次々と下半身から切り離され、ボトボトと家臣達の胴が落ち始めた。道場内に無数に転がるその(かお)は、どれも、自分が斬られた事すら分かっていない。


「──なっ!」


「こ、これ程とは……」


「こ奴、一人でも江戸城を落とせるという話……ハッタリ等では無かったか……」


 目を剥いて驚く近藤と、自分の想像を上回られて、言葉を詰まらせる土方。家康は以前の俺の言葉を、思い出している様だ。しかし、そんな驚愕に(おのの)く家康達に、コンが軽い口調で釘を刺した。


「何驚いてんのさ……ご主人様、全く本気なんか出して無いのに」


「何っ!?」


 コンの言葉に、土方が食いついた。コンはフフンと鼻を鳴らし、得意気な顔で土方に返す。


「当り前じゃない。ご主人様の本気なんて、(あたし)達でも見た事が無いんだから」


「そ、それは誠の話なのか……?」


 信じられないといった表情で、少し取り乱した土方が聞き返した。コンからも目線を向けられて、促されたジンが口を開く。


「ええ、そうですねえ……恥ずかしながら。私が全力で挑んでも、真人様に本気を出して頂く事は、叶いませんでしたので。あの方の本当の強さ(おちから)は、私達程度では底が知れません……」


「お、お主も相当な強さだと、新八達からは聞いていたのだが……」


 土方は、ジンの言葉に驚きを隠せていない。家康も、信じられない事を聞いたという様な顔をしている。そんな二人に、ジンはハッキリと言い切った。


「次元が違います」


 バッサリと言い切られ、家康と土方は愕然とする。すると、ジンが更に付け足した。


「ただ、今回は……少し、怒っていらっしゃる様ですねえ」


 そう言ってジンは目を細め、俺に視線を向けて来た。どうやら、俺の気持ちを汲んでくれている様だ。そう、その通り……俺は正直、怒っている。当然だ。せっかく築き上げた自分の町を、こいつ等は焼き払いやがったんだから。どんな理由があるにしろ、どうせ猪熊の逆恨みか、人間社会(こいつ等)の勝手な都合だ……許す訳にはいかない。俺は、握っていた刀に力を込めた。


「ジン、コン! 一人も道場(ここ)から逃がすなよ。──【死神の刃(グリム・リーパー)】!」


 入口付近にいる二人に指示を出し、俺は再び刀を振るう。再度、繰り出された真空(死神)の刃が、先程とは反対側にいた集団をあっさりと斬り裂く。あっという間に、半数以上の家臣が()()()()()()()。道場内が一瞬にして、血の匂いが蔓延(はびこ)る地獄絵図に変わる。


「う、うわあああああああああああっ!!」


「ひ、ひいいいっ!」


「バ、バケモノ……」


 ようやく、事態を把握できた者達が騒ぎ始めた。一斉に我先に逃げ出そうと、道場の出入口に向かい殺到する。そんな家臣達に向かい、ジンとコンが冷たく言い放った。


「主の命は絶対です。誰一人、逃がす訳にはいきませんねぇ……【悪魔の爪(デビルクロウ)】!」


「逃がす訳ないでしょう、この人間(ゴミ)共が! ──【狐火(フェンファイア)】!」


 ジンの黒く鋭い爪が、次々に家臣達の首を落としていく。そして、コンの両手からは、無数の火の玉が放たれた。火の玉は家臣達を焼き尽くすと、まるで意思がある様に漂い、他の火の玉と結合する。一際大きくなった火の玉は業火となり、更に他の獲物に襲い掛かる。時に分裂し、時に結合する、意思を持った自由自在に動く炎……これが、樹海で東端の森を統べる者、コンの得意技【狐火(フェンファイア)】だ。


「ぎゃあああああああああああああっ!!」


「がはあっ!」


「熱いいいいっ! た、助けてえええ!!」


 まさに阿鼻驚嘆(あびきょうたん)……道場は完全に地獄と化した。俺は、腰を抜かしている猪熊を尻目に、次々に家臣達を斬り裂いていく。まるで、羊でも追い立てる様に、逃げ惑う家臣達をゴミの様に斬り捨てる。そんな、死体の山の上を歩く俺を見て、呆然と立ち尽くしていた家康が呟いた。




「────し、死神……」



★補足

近藤勇。言わずと知れた新選組の局長ですね。天然理心流四代目宗家でもあり、幕末を生き抜いた彼がやっぱり新選組最強という声もあります。講談などでの近藤の決め台詞「今宵の虎徹は血に餓えている」は有名ですね。愛刀の長曽祢虎徹の真贋は諸説あるみたいですが。新選組の隊服を製作する際、近藤は尊敬する赤穂浪士の装束を真似た羽織、袴を発案したと言われています。個人的には近藤の「醜女は貞淑。貞淑な女性を妻にしたい」という持論も好きですね。



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