第60話 三代目服部半蔵
「こ、これは……」
突然、全身を光に包まれ始めた楓は呟いた。何が起こっているのか分からず、戸惑っている。
(雪……これって……)
俺は雪に同意を求めた。
『はい。繋ぎました』
やはり楓も、俺と魂で繋がったらしい。つまり、楓の忠誠は本物だという事だ。だが、どう見てもこれは新しい能力に目覚め始めている。この光は、ジン達の時と同じ現象だからだ。確かに今、俺は楓を部下として受け入れたけど……勝手に能力が発現するなんて初めてだ。
(もしかして、雪の仕業か?)
なんとなく、そんな気がした。
『はい。彼女の真人さんを想う気持ちが物凄く強かったので、直接繋がれる様に手配しました』
(……いいのか?)
普段なら黒雪が出てきそうな話なんだが……。
『私は魂を繋いだだけです。受け入れたのは、あくまで真人さんですよ』
俺の許可待ちの状態にして、能力が発現する手前までを繋いでいたという事か。そんな事も出来るんだな……初めて知った。だがそれより、雪が楓を、そこまで気遣っていた事の方が驚きだ。そんな事を考えていた俺に、雪が答える。
『同じ人を愛しているから……私には、彼女の気持ちが痛いほど分かるんです。だから私、少しでもそれに応えてあげたくて……』
(そ、そうか……)
なんだか照れるな……だけど、改めて思った。やっぱり、雪は優しい……最近、黒雪ばかりだったから、余計にそう感じるのかも知れない。すると雪が、照れ隠しする様におどけて来た。
『ほ、本妻の余裕という奴ですっ!』
(ははは……そうか! そうだな!)
『むううう……』
なんとなく、膨れっ面の雪が目に浮かぶ。何だか、悪い気分じゃない。俺は、そんな雪の事を微笑ましく思いながら、目の前の楓に目を向けた。体中を包んでいた光は薄くなり、ようやく治まりかけている。俺は、困惑している楓に話しかけた。
「どうやら、本当に俺の部下になっちまったみたいだな」
「ど、どういう事でしょうか……?」
戸惑いを隠せない楓が、恐る恐る俺に尋ねて来た。
「お前は今、俺と魂で繋がったんだ……ジン達と同じ様にな。詳しい事は後で説明してやる。おそらく、新しい能力も発現しているはずだ。後でそれも確認してみるがいい」
「新しい……能力……」
楓は自分の掌を見つめ、俺の言葉を噛みしめている。何とか理解しようとしているのだろう。もしかしたら、既に何か感じる物があるのかも知れない。すると、その様子を驚きの表情で見ていた、家康が問いかけて来た。
「お主……いったい今、何をしたのじゃ?」
突然、謎の光に包まれたかと思えば、治まった途端に能力が発現したと言う。家康だけでなく、この場にいる全ての人間が、驚きを隠せないでいた。面倒臭くなった俺は、適当に簡略化して説明する。
「ああ……まあ、簡単に言えば儀式みたいな物だ。俺の部下になる為のな。で、合格したら俺が能力を授ける……まあ、魔法みたいな物だ」
かなり適当だが、まあ間違ってはいないだろう。別に、詳しく教えてやる義理も無いし。
「お、お主の配下になれば、皆その様に能力を授かるのか?」
驚きを隠せない家康が、興味津々に食い下がって来る。俺は、適当に答えてやり過ごす事にした。
「皆んなじゃない。俺が認めた者だけだ……しかも、どんな能力が発現するか、俺には分からん。あ、それと……上辺だけ俺に忠誠を誓っても、能力は発現しないから。俺を利用しようとしても無駄だぞ?」
「そ、そうか……」
少し期待が外れた様に、残念そうな顔をする家康と、明らかにガックリと肩を落として落ち込む新八達。やはり俺に頼んで、能力を授かれるかも知れないと考えていた様だ。先に釘を刺しておいて良かった……下手に噂にでもなって、新八みたいな奴等が押し掛けて来だしたら、鬱陶しい事この上ない。実際、知らない人間にいきなり忠誠を誓われても、授ける気なんか無いし……能力。
何を期待していたのか、思惑が外れて沈んだ空気が漂う中、今まで黙っていた半蔵が口を開いた。
「真人殿……楓は強くなったのでござるか?」
単刀直入に尋ねて来る半蔵。俺は素直にそのまま答えた。
「分からん……だが、弱くなっている事はないだろう。どんな能力が発現したのか知らんが、仮に戦闘向きな能力じゃなくても、身体機能は上がっている筈だからな」
ウォルフ達がそうだった。一族全員の身体機能が向上し、それなりに強くなっていたからな。おそらく、新しい能力の発現と同時に、全体的に底上げされるんだろう。すると、俺のその言葉を聞いて、半蔵が真剣な表情になった。そして、そのまま楓の顔を見つめ、話し始める。
「楓よ……おそらくもう、お主は師である拙者を超えた筈でござる。ならば、引き継がねばなるまい……当代として『服部半蔵』の名を。拙者からの餞別でござる。お主はこれより、三代目『服部半蔵・楓』と名乗るがよい」
そういって半蔵は、装飾の施された短剣を楓に差し出した。おそらく代々『服部半蔵』が受け継いで来た物なのだろう。
「代々、服部半蔵が受け継いできた宝剣……『童子切安綱』でござる」
半蔵の言葉を聞いて、コンがピクリと反応した。童子切……確か天鬼は『酒呑童子』。もしかして、何か関係でもあるのだろうか。そんなコンを他所に、楓は仰々しく半蔵の方を向いて座り直し、短剣を両手で受け取った。
「これで拙者も肩の荷が降りたでござる。これからは拙者も、ただの正成として暮らすでござるよ」
半蔵はそう言ってニッコリ笑った。その姿はまるで、どこにでもいる普通の好々爺だ。それを見て、家康が茶化す様に横槍を入れて来る。
「半蔵……いや、正成。お主にはまだ徳川家の忍として、御役御免は言い渡しておらんぞ?」
「ほっほっ。まだこの老体を扱き使うつもりでござるか」
そう言って、満更でもない笑みを零す半蔵……いや正成と、笑顔を浮かべる家康。その様子を見守る土方達の顔にも、笑みが零れていた。
何だこの、ほのぼのとした空気は……。俺が今から、忠勝と猪熊達を、皆殺しに行く事を忘れているんじゃないのか? 俺はそんな事を考え、少し居心地の悪さを覚えていた。しかし、確かに俺も気持ちが変わり始めている。
望んで無いとはいえ、まんまと楓を引き取ってしまったからな……。
家康の出した、楓を差し出すから忠勝を見逃せという条件……結果的に、楓は無条件で差し出すという事にはなったが、何だか無料で物を貰うみたいで気持ち悪い。俺は余り、借りとかを作るのが好きではないんだ。
「仕方ない……忠勝だけでも見逃すか……」
──俺のそんな独り言を、家康達が聞き逃す筈もなかった。
★補足
「童子切安綱」は天下五剣に数えられる名刀にして筆頭。酒呑童子を斬ったという伝説があります。足利将軍家の家宝として伝わったのち、豊臣秀吉、徳川家康、徳川秀忠らの手に渡りました。作中では短剣として描かれていますが、本物は大包平と共に「日本刀の東西の両横綱」と称される、最も優れた名刀として評価されている日本刀です。
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