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第50話 見えない斬撃

※2019.02.15 新連載始めました!

こちらも宜しくお願いします!「電脳の妖精〜二次元美少女からの犯行声明」(作者ページから見に行けます!)

 慌てる事も無く、引き裂かれた自分の胸元を見つめるジン。


 (かわ)したと思われた斎藤の『左片手一本突き』が、ジンの胸部を斬り裂いていた。ジンの胸元からは(おびただ)しい量の出血が見て取れる。しかし、ジンは一向に動揺せずに淡々と傷口に手を当てて、自分の傷の具合を確かめている。そして、顔色一つ変えずに冷静に呟いた。


「躱したと思ったんですけどね……」


 その様子を伺っていた斎藤はニヤリと笑い、再び腰を落として『左片手一本突き』の構えを見せた。その斎藤が不敵に告げる。


「魔神ってのも大した事ねえな──」


 そう言って再び、爆発的な勢いでジンに突っ込む。『左片手一本突き』だ。


 ──やはり速い!


 しかしジンは、やはり慌てる事も無く、今度は先程より距離を取って大きく左に躱す。ジンの前を斎藤の残像が横切った。一瞬で距離を取ったジンと一撃を放ち終えた斎藤が、再び離れた位置で対峙する。


「っ!」


 ジンの背中が刀で斬られた様に斜めに引き裂かれた。


 背中を斬られて少しよろめいたジンが、流石に意外そうな顔をしてチラリと後ろに目を向けた。しかし、斎藤は先程から微動だにしていない。相変わらず不敵な笑みを浮かべながら、ジンを鋭い目つきで見つめている。


 どういう事だ……?


 確かにジンは躱した筈……しかし、斬られた。しかも後ろから。

 俺が理解に苦しんでいると、傍にいた半蔵が口を開いた。


異能(スキル)……でござる」


 異能(スキル)……。


 確かにそうとでも考えなければ説明がつかない。何か、特別な力が働いたとしか……躱した筈の斬撃に斬られる。果たして、そんな事が可能なんだろうか……


「そんな異能(スキル)があるのか?」


 半蔵が知っているとも思えないが、素直な疑問が思わず俺の口をついた。


「分かりませぬ……拙者もてっきり(斎藤)の異能はあの突き技その物(【左片手一本突き】)だとばかり……」


 確かにそうだ。そもそも、あの『左片手一本突き』自体が常軌を逸している技なんだ。あんな動き、異能(スキル)無しで普通の人間に出来る訳が無い。そう考えれば半蔵の言う通り、()()()()()()()()()()考える方が自然だろう。ならば、この不思議な現象も異能(スキル)のうちに含まれているんだろうか……『左片手一本突き』は、()()()()()()()()()()()()という事か?


 俺がそんな考えを巡らせている間も、ジン達の戦いは続いていた。


 全身至る所を斬り刻まれたジンと、その前を何度も飛び交う斎藤の残像。相変わらず戦況は思わしくない様だ。ジンは斎藤の()()()()()()に、今も斬り傷を増やし続けている。しかし、ジンは自身の体が切り刻まれているにも関わらず、冷静に何かを考える様に斎藤の動きを観察している。


「ふむ……」


 連続して襲う斬撃が少し収まったのを見計らって、ジンは手を顎に当てて呟いた。


「どうした、魔神っ! もう終わりか? だったらそろそろ止めを刺してやる──」


 動きを止めて考え込むジンを見て、斎藤は諦めたと思ったのかも知れない。今までより大きな剣気を込めて、斎藤はゆっくり腰を落として構えた。本気で止めを刺しに掛かるつもりだ。斎藤の顔から薄ら笑いが消え、真剣な表情(かお)でジンを睨みつける。そして斎藤は、今までで一番低い構えから驚異的な速度(スピード)でジンに向かって飛び出した。


 ──これはやばい!


 斎藤の本気(殺る気)がここまで伝わって来る。この一撃はおそらく、今までとは段違いの威力だ。思わずジンの方に目をやると、相変わらず顎に手を当てたまま、構えもせずに考え込んでいる。傍で戦況を見守っていたコンが思わず声を上げた。


「ちょっとあんた、いい加減に──」


 しかしジンは、全く意に介する事無くあっさりと斎藤の攻撃(一撃目)を躱す。ジンも今までより速度を上げたみたいだ。余りの速度に考え込むジンの残像だけがその場に残り、少し離れた位置に同じ姿(ポーズ)のジンが現れた。まるで瞬間移動の様な動きだ……俺も加速してない奴(普通の人間)から見れば、こんな動きに見えるのかも知れない。


 だが、問題はここからだ。


 今までのジンも初撃は全て躱している。この後が問題なんだ。俺がそう思いながら見ていると、ジンは更にその場で屈みこんだ。その直後、ジンの後ろの壁が何かに突かれた様に貫かれた。丁度ジンの首位の高さだ……躱さなければ、おそらくジンの首は吹き飛ばされていただろう。


「やはり思った通りみたいですね」


「テメエっ……!」


 何かに納得した様な清々しい表情(かお)のジンと、反対に怒の表情を浮かべる斎藤。どうやらジンは何かを掴んだみたいだ。


 斎藤は怒りに身を任せ、更に攻撃を繰り返す。全ての一撃が殺気を込められた、本気の突き(『左片手一本突き』)だ。しかしジンには当たらない。先程までの苦戦が嘘の様に、全ての攻撃を平然とした表情で躱していく。すると、ジンの周りの壁や床が次々に破壊されていった。そこで俺は、ようやく違和感の様な物に気が付いた。


「斬撃……真空刃か!」


 俺の【死神の刃(グリム・リーパー)】と同じ原理だ。斎藤は『左片手一本突き』を放つと同時に、真空の刃の様な()()を放っていたんだ。しかし、それだけではまだ説明がつかない。ジンは後ろからも斬られていた。斎藤がいた位置とは正反対の方向からの斬撃もあった。あれは一体……


『──目です』


 完全に答えが出せないでいた俺に、何かに気付いた雪が話しかけて来た。


(目?)


 思わず俺は聞き返した。


『はい。目に能力(ちから)を込めて見てみて下さい。真人さんになら出来る筈です』


 そう言って雪は、見れば分かると言わんばかりに完結に説明した。


 目に能力(ちから)を込める……。


 どういう事だ? 


 よく分からないが、とりあえず俺は目をこらして斎藤の動きを追い続けた。すると、(おぼろ)げに斎藤の刀から何かが見え始め、やがてはっきりと見て取れるまでに認識できる様になった。【過重力世界(エクセス・グラビティ)】で身体を強化する時と同じ要領だ。それは意識を目に集中するだけで簡単に出来る様になった。見えなかった斬撃(真空の刃)が、今でははっきり見える。すると、ようやく全ての謎が明らかになった。


「斬撃が……反射……?」


 俺は思わず呟いた。


 そう。斎藤から放たれた見えない斬撃が、壁や床の至る所で、あり得ない角度に反射していた。そしてその斬撃が、自らジンに襲い掛かる様に、道場内を所狭しと乱反射している。これが、あり得ない方向からジンを襲っていた斬撃の正体か……!


 見える事が分かってしまえば、俺やジンにとってはどうと言う事は無い能力(ちから)だ。確かに四方八方から襲ってくる斬撃は厄介だが、見えてしまえば躱す事は容易い。現にジンの奴も、既に斎藤の動きを完全に見切っている。先程から斎藤の攻撃はジンに(かす)りもしていない。


「ハァ……ハァ……この野郎、ちょこまかと……」


 肩で息をする様になった斎藤の表情(かお)には、既に余裕の笑みは消えている。反対に、興味を失った様な表情(かお)のジンはフゥっと溜息をつきながら答えた。


「まあ、人間にしてはよくやった方でしょう。最初の一撃目には少し驚かされましたよ?」


 そう言ってジンは、初撃で引き裂かれた執事服の胸元を摘まんで見せた。


「なっ!」


 斎藤が驚くのも無理はない。なにしろ自分が必死になって負わせた傷が、よく見たら全て完全に塞がっているのだから。引き裂かれているのはズタズタになった衣服だけで、ジンは実質、無傷(ノーダメージ)だった。愕然として膝を折り、崩れ落ちる斎藤。どうやら、完全に戦意を喪失したみたいだ。


「どうやら身の程を弁えた様ですね。ただの人間風情が真人様に楯突こうと言うのが、そもそも間違いなのです」


 淡々と冷たく言い放つジン。


 斎藤は(ひざまず)きながらも気力を振り絞り、ジンを睨みつけながら問いかけた。


「ぐっ……魔神、最後に教えろ。何故、俺の異能(スキル)が分かった?」


 確かに俺も知りたい。ジンは俺や雪よりもずっと早くから、この可能性に辿り着いていたみたいだからな。するとジンは、何だそんな事かとでも言いたげな顔で話し出した。


「簡単な事です。私は貴方の初撃は完全に見えていました……なのに斬られた。()()()()()()()()()。そんな事が出来るのは、真人様を置いて他にはあり得ません。ですから私は、貴方が真人様の技を模倣していると考えたのです。後はこの(人間の目)が斬撃に慣れるのを待つだけでした」


 要するに、俺への盲目的な忠誠が見えない斬撃(真空の刃)に気付く切っ掛けだった訳か……全く、見上げた忠臣だな、この悪魔は。しかも、この目(人間型の目)が慣れるまでって……確かにジンは人間型の姿を崩してない。最後まで悪魔の能力は使わなかったという事は、一度も本気を出していないという事だ。さすが、魔神と言われるだけの事はあるという訳か。


「フッ……そんな馬鹿げた理由で見切られるとはな……俺の負けだ。さっさと殺せ」


 そう言って吹っ切れた様に笑みを浮かべる斎藤。


「残念ながら貴方を殺す事は、我が主の命により禁じられているのです。ですから殺しはしません。ですが、貴方の真人様に対する無礼な振る舞いの数々……黙って見過ごす訳にも行きません」


 淡々と説明していたジンは、話し終えるとそのままフッと姿を消した。そして、ほぼ同時に膝を着いている斎藤の前に現れる。そして……


「ぐはあっ!!」


 ジンに鳩尾(みぞおち)を蹴り上げられた斎藤はそのまま気を失った。


「これで見逃してやろうと言うのです。感謝しなさい」


 ジンは冷たい目で斎藤を見下ろしながら呟くと、そのまま踵を返して俺の傍へ歩いて来た。そして俺の前に跪き、静かに口を開く。




「──お見苦しい(戦い)をお見せしました。終わり(片付け)ました」



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