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第49話 左片手一本突き

「いきなり新選組の三強が相手か……面白い!」



 前世から良く知る有名人達を前にして、俺は少し興奮気味だった。


「……しんせんぐみ?」


 怪訝そうな顔で新八が聞き返して来る。ああ、そうか。この世界でのこいつらは忠勝の親衛隊だったな。


「ああ、すまん。こっちの話だ。それより楓は無事なんだろうな?」


 ここに来た理由を興奮して忘れる所だった。


 新八は俺の言葉を聞くと、近くにいた男に何やら目で合図を送った。すると暫くしてその男が、後ろ手に両手を縛られ猿靴和をされた楓を連れて戻って来た。特に外傷は無さそうだ。


 楓は俺達が居る事に気付くと、申し訳なさそうに俯いて目を逸らした。捕まってしまった事と、人質に使われてしまった事の両方で、自分を責めているのかも知れない。そもそも、楓は忍びだしな……そう意味では、今の状態は楓にとって相当屈辱なんだろう。


 男は楓を連れてくると新八達の前に突き飛ばした。両手を縛られた楓は成す術も無く、新八達の前に転がされる。


「──【死弾(デス・パレット)】!」


 ドバアアアアンッ!


 直後、楓を突き飛ばした男の頭が、爆発した様に飛び散った。


「な……」


 一瞬の出来事に新八は言葉を失っている。目の前で頭を吹き飛ばされた新八達は(おろ)か、道場内全ての人間が息を飲んだ。殆どの人間は何が起こったのかさえ理解していない様だ。俺が()()()()()()()()()と気付いてるのは、おそらく新選組の三人だけだろう。


 ダラリと下げた右腕、半銅貨を弾き出した俺の右親指から、シュウウと白い煙の様な物が漂っている。俺は怒りに震えそうな自分を敢えて抑え、平静を保ちながら口を開いた。


「丁重に扱えと言ったよな、新八?」


 元々目付きが異常に悪い俺は、淡々とした態度で睨みつけた方が恐れられる事を知っている。俺は敢えて無表情のまま目だけを細め、新八に言い放った。


「聞いてるのか? それとも皆殺しが希望か?」


 俺は家康から新八達は殺すなと頼まれたが、雑魚までも殺さないとは約束してない。俺が本気である事が伝わったのか、それとも部下を殺られるのを恐れたのか、新八は渋々口を開いた。


「ぐ……むぅ……お前ら、このくノ一をそこの脇にでも座らせておけっ……くれぐれも丁重にな!」


 新八は苦虫を嚙み潰したよう様な顔で俺を見て、皮肉を込めながら吐き捨てた。


 指示を受けた男達が慌てて楓を抱き起し、道場の脇へと連れて行く。自分もいつ頭を吹き飛ばされるかも知れないと、まるで腫れ物に触れるかの様に丁寧に楓を扱っている。全く……初めからそうしてればいいんだ。


 俺がその様子を一通り見届けると、タイミングを見計らっていた様に声を掛けて来る男がいた。


「……で、俺の相手は誰がしてくれるんだ?」


 斎藤だ。


 オールバックの黒髪に、少しだけ垂れた前髪の奥に光る、切れ長の鋭い目。細身の体は新八達の中でおそらく一番身長が高そうだ。その斎藤がニヤリと口角を吊り上げながら、不敵な表情(かお)で俺達の事を見据えていた。


「一人目は斎藤か……」


 そう呟いて俺が名乗り出ようとすると、傍らにいたジンに引き止められた。


「あの者の狙いは最初から私の様です。どうかここは私にお任せを」


 何やら嬉しそうな顔でジンが俺の前に立つ。どうやらここ(斎藤)は譲る気は無いらしい。まあ、さっきも斎藤はジンを狙って来たみたいだし、ここはこいつ(ジン)の言う通りにしてみても良いだろう。


「ジン……分かってるな?」


 俺は目でジンに対して念押しをした。殺すなよ、と。


「はっ、お任せ下さい」


 何も心配は要りませんといった顔で、ジンはゆっくりと道場の真ん中へと歩き始めた。それを見た斎藤もニヤリと笑い、まるで相手が始めから決まってたかの様に、ジンに合わせて歩き始めた。やはり、最初から狙いはジンみたいだ。


 斎藤の戦いを見守る様に、後ろに控えている新八と沖田はその場から動こうとしていない。やはり、こいつ等は一騎討ちがご所望の様だ。まあ、殺すなと頼まれている俺達にしてみれば、この(一騎討ち)方が都合が良い。無駄に殺さなくて済むからな。


 そんな事を考えていると、斎藤がジンに対して話しかけた。


「よお……噂はきいてるぜ? 魔神さんよお。あんた、樹海で一番強えんだってな?」


 なるほど……どうやら斎藤は、ジンの事はある程度分かった上で、戦いを望んでいるらしい。こいつも新八に負けず劣らずの戦闘狂の様だ。


 しかし、一体どこでジンの事を……樹海の亜人達ならともかく、人間にまで知られていたとは考えにくい。ふと、何気無しに楓の方に目をやると、俺の考えを察した楓は、訴える様な目で首を横に振り始めた。自分は喋って無いと言いたいのだろう。

 確かに、忍びである楓がそう簡単に口を割るとは思えない。だったら一体誰が……そんな事を考えていると、ふと俺は、雷に打たれた様な衝撃で根拠の無い憶測が閃いた。


 ──半兵衛!


 こいつしかいない……何の根拠もない癖に、何故か俺には自信があった。一度そう思い付いてしまえば、もう、そうとしか考えられなくなった。半兵衛……ここでもこいつが出て来るのか。


 そんな考えに(ふけ)っている俺を他所に、ジンと斎藤の戦いは始まりを迎えようとしていた。


「私の事を知って尚、挑んで来ますか……なかなか面白い人間ですね。まさか、真人様以外にそのような者がいるとは思いませんでした」


「フンッ、こっちはテメエの話を聞いた時から、一辺、()ってみてえと思ってたんだ……」


 余裕の表情で淡々と話すジンに対し、少し興奮気味の斎藤。この世界の斎藤は、相当、血の気が多いらしい。斎藤はジンと道場の真ん中で対峙すると、左手に抜いたままの刀をそのまま水平に持ち上げた。


 右半身で大きく両足を開き、左足に重心を乗せた独特の構え。真っすぐジンに伸ばされた、右手の親指と人差し指の間に乗せただけの水平の外刃は、何となくビリヤードの構え(フォーム)の様にも見える。おそらく斎藤の得意技──『左片手一本突き』の構えだ。


 対するジンは後ろ手に両手を組んで、まるで構えらしい構えは取っていない。そんなジンを見て斎藤が口を開いた。


「余裕だな……樹海の魔神。悪いが俺はテメエが本気じゃなくても容赦はしねえぜ? 俺は新八とは違うから──なっ!」


 斎藤は話しながら隙を伺うと、喋り終える前に、いきなりジンに斬りかかった。こういう所は新八とは正反対だ。


 はっきり言って、新八は甘い。一騎打ちだの全力だのと、正々堂々とした勝負に拘っている。その点、この斎藤は勝つためになら手段を選ばないタイプだ。どちらかと言えば、俺やジンの考えに近い。


 爆発的な脚力で左足が床板を蹴り、そのままの構えでジンに突進する斎藤……やはり『左片手一本突き』だ。


 それも、相当速い!


 おそらく、昨日の狼男(ワーウルフ)化したウォルフ以上……とても人間の動きとは思えない。しかし、所詮それレベルだ……これくらいなら、ジンなら全く問題ない。


 ジンに向かい高速で突進する、斎藤の左手から平突きが放たれた。


 特に慌てもせずに、後ろ手を組んだ姿勢のままで、落ち着いて横に躱すジン。その脇を、残像が通り過ぎた様にしか見えない勢いで、斎藤が刀を突き出したまま通り過ぎた。


 先程と同じ様にそのまま少し離れた位置で、勢いを殺して振り返る斎藤。ジンはその姿を確認すると、余裕の表情を崩さずに淡々と言い放った。


「人間にしては大した物です。しかしこの程度では、まだまだ私に挑むには早すぎましたね」


 そう言って、まるで敵とは認識もしていない様な扱いで、斎藤に不敵に笑いかける。すると斎藤もその笑いに応える様に、不敵に口角を歪めたままジンに言い返した。


「魔神……余裕ぶっこくには早すぎるんじゃねえか?」


「どういう事ですか?」


 思いがけず余裕の反応を見せる斎藤に、ジンが(いぶか)し気な視線を向けた矢先。


「ぐはっ!」



 ──ジンの執事服の胸元が裂け、大量の鮮血が道場内に飛び散った。



★補足

一番手は斎藤一! 左片手一本突きは実際の斎藤も使った得意技ですね。まあ、あれです。牙突です、アレの。新八の「沖田は猛者の剣、斎藤は無敵の剣」と言うセリフは余りに有名ですね。斎藤が最強と言われる所以の一つです。一説では新選組で一番戦場に立ったのは斎藤だとも言われてますね。(*^^*)


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