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第04話 似た者同士

「──私は……ゆ、雪といいます」



 雪、か。綺麗な名前だな。しかし……どうやら、俺達は似た者同士だったみたいだ。

 

 ()()()同士。


 彼女が何故、その様な境遇なのかは分からないけど、妙に親近感が沸いて来るんだから不思議だ。


 しかし、前世から通して初めての友人候補が女の子とは……転生早々、幸先がいいな。しかも、魂で繋がった関係とか。まるで、アニメや漫画みたいだ。

 

 文字通り、リアルに魂が繋がっているんだから嘘も裏切りも心配無い。これ以上無いってくらい、信用は出来そうだ。友人なんて要らないと思ってたけど、もしかしたら彼女となら、俺でも良い関係が築けるのかも知れない……


 しかし、女の子か……某掲示板によると、異性間の友情は成立するとかしないとか。もしかしたら、友人から更に発展して……なんて事もあるかも知れない。いよいよ俺も、独り身を卒業する時が……まずは、健全なお付き合いから……いやいや、いきなり恋人とかじゃなくて、やはりここはじっくりと友情を深めてから……フフッ、妄想が止まらない。


 ──ん? 待てよ?


 俺の意識が一瞬、雷に打たれた様な衝撃に襲われた。大事な事を忘れていた。妄想に耽っている場合じゃ無かった。気付いた……気付いてしまった……


 ──彼女はもうすぐ死ぬ運命じゃないか。


 一瞬、頭の中がまっ白になった。よくよく考えてみたら俺、友人になっても彼女にはちゃんと会えないじゃないか。ましてや恋人なんて無理ゲーだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ──あっ! やばい!


 俺の不安が彼女に伝わっている様な気がする。俺が慌てて別の事を考える様にして、気持ちを落ち着かせようとしていたら……


「私とお話しするのは……嫌ですか?」


 何て事を言うんだ!


 そんな事はない! そうじゃないんだ!


 どうやら、俺が流した不安な感情は、彼女に対する不満だと勘違いされたみたいだ。とりあえずは誤魔化せたみたいで助かった。彼女には自分がもうすぐ死ぬ運命だなんて悟られたく無い。漠然とした感情は感じ取れても、思考までは意識しなければ伝わらない様で、今のは悟られずに済んだみたいだ。


(すまん。少し考え事をしてたんだ。転生して来たばかりで、この世界の事をまだ全然知らないからな。漠然とした不安が伝わってしまったみたいだ。不安にさせたみたいで悪かった)


 何とか誤魔化そうと出任せを言う。


「いいえ……良かった。初めてのお、お友達に嫌われたのかと思いました」


 彼女も少し不安だったみたいだな。変に戸惑わせてしまった……


(お互いまだ何も知らないのに、嫌いも何も無いだろう。それに、今だって嫌いじゃないって事は、俺の感情が伝わっているんだろ?)


「ふふふ……はい。少し恥ずかしいですけど……とても嬉しいです」


 やっぱり感情が伝わるのって、こういう時は便利だな。お互い、嘘をついて無い事が分かるから安心できる。


(なら良かった。で、ひとつ提案があるんだが)


 俺は気になっている事を話してみる事にした。


「何ですか?」


(俺は君の事やこの世界の事を、もっと知りたい。その為には、いろいろと話をしたいんだけど……試しに、声に出さずに話してみてくれないか?)


「あっ! 確かに……これじゃ、端から見れば怪しい独り言ですね……」


 そう言う事だ。このままだと、彼女はただの不審者になってしまう。彼女──雪は、そう言ってクスクスと笑い始めた。


『伝わってますか?』


 雪の()が鮮明に俺に伝わって来た。


(ああ……ばっちりだ。これで安心して話しかけられる)


『そうですね』


 そう言って、雪は足を止めると木陰にそっと腰をおろし、樹にもたれかかる様にして座った。そして、空を見上げて大きく息を吐き出す。腰を据えて話す準備は出来たみたいだ。


(そもそも、こんな森に女の子が一人で何してたんだ?)


 俺は何気なく聞いてみた。俺の常識では余り考えられないシチュエーションだし。


『食べ物……木の実でも、雑草でも。食べる物がないか探してたんです』


 意外な答えが返ってきた。


(……食うに困るような生活なのか?)


 まさか。


『はは……毎日、腹ペコです』


 雪は苦笑いを浮かべながら、自嘲気味に答えた。何となくだが、雪の表情は感覚で把握出来る。


 しかし、驚いた……そんなところまで前世の俺と被るのか。何だかもう、他人事とは思えなくなってきた。この子に腹いっぱい食べさせてやりたい。だけど俺、何もしてやる事が出来ないんだよな……体が無いし。せっかく転生して来たのに、何だかもどかしい。


(俺には……何もしてやる事が出来ない。俺は他人の事なんてどうでもいい人間だけど……今は、凄く悔しい)


『ありがとう。その気持ち……伝わってるから分かります』


 今度は、はっきりと笑っているのが分かった。


『それより、いっぱいお話しませんか? 真人さんの事、聞かせて下さい。私の事も知って欲しいし、この世界の事も知りたいでしょ?』


 雪が悪戯っぽく笑っているのが、何となくわかる。雪はそう言うと、更に言葉を付け加えた。


『それにお話ししていると、お腹ペコペコなのも忘れられるくらい楽しいんです』


 何だか凄い無力感を感じるな……だけど、本当に話をするくらいで空腹が紛れるのなら、いくらでも付き合おう。どうせ何もしてやれないんだし。その方が、俺も少しは気が紛れる。


 この世界については正直、いっぱい聞きたい事があるんだけど……その前に、まずは今の状態を、もっと正確に把握しておかないとまずい。俺が共有出来る感覚を、ちゃんと確めておいた方が良さそうだ。いまいちまだ、よく分かってないし。確認したい事は山程ある。


 お互いの感情ってどこまで伝わるのか?


 雪が見ている物が俺にも見えているみたいだけど……音とか匂いとかも俺に伝わるのか?


 痛みとか空腹とか、そういう体の感覚は?


 とりあえず、ひとつひとつ、確認していくしかなさそうだ。



 ──俺達はお互いに話し合いながら、ひとつひとつ確認作業を繰り返した。



 最初は、この歪な関係に少し戸惑った。だが、確認作業が終わる頃には、いつの間にか俺達は、当たり前の様に打ち解けあっていた。気が付けば俺も雪も、たわいもない話を夢中で話し続けている。


 本当は俺も、心を許せる話し相手に飢えていたのかもしれない。そして、どうやら雪も、今までずっとひとりで暮らして来たみたいだった。特に親しい人間はいないらしい。俺と同じだ。


 俺達はまだ出会って間も無いにも関わらず、いつの間にか、お互いに強く惹かれる様になっていた。こんな事は初めてだ。人間を信用できない俺が、雪とは何故か安心して話す事が出来る。裏切られる心配が無いからだろうか。それとも、人間同士(普通)の関係じゃ無いからか? やはり、魂が繋がっているのが大きいのかも知れない。お互いに心の奥底で繋がっている様な、全てを分かり合える様な……そんな、不思議な感覚だった。


 そして、俺達はようやくお互いの感覚の共有状況を確認し終えた。


 ・お互いの感情は()()()()()()()でなんとなく伝わる。感情の揺れが大きい程、伝わる波も大きくなる。


 ・相手に話しかけるつもりで呼びかけないと、思考までは相手に伝わらない。


 ・視覚は雪の視界の範囲しか俺には見えない。


 ・聴覚は雪の聞こえているものしか俺には聞こえない。


 ・触覚、嗅覚、味覚は俺には伝わらない。


 みたいな感じだ。


 因みに雪の表情くらいなら、何となく伝わる感情で分かる。そして、嘘をつくと不安や罪悪感で感情が乱れて、相手に伝わってしまうみたいだ。気をつけよう……

 



 雪の体に干渉……所謂(いわゆる)、乗っ取りみたいな事もしてみたが、それはダメだった。決して(よこしま)な理由では無い事は分かって貰いたい……



読んで頂いてありがとうございました。

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