第40話 闇の中の真相。そして、江戸へ
「つまり今回の計画は、初めから兎共に筒抜けだったと言う事ぢゃ。そもそも、どうして真人殿の動きを知る事が出来たのか……更にそ奴は、わしら鬼人族の計画まで知っておったと言う事になる。そう考えれば、自ずと一つの仮説が浮かび上がろうかという物ぢゃて」
どうやら天鬼は、俺と同じ可能性に辿り着いているみたいだ。俺にも確証は無いが、今の所これしか考えられない。
コンとボアルは、未だにピンと来ていないみたいだけど。
「恐らく兎共は何らかの方法で、九尾の小娘が自分達の集落に攻め入って来る事を知ったのぢゃ。だから、わしらとの計画は無視して、自分達だけで逃げおった。その小娘が相手では挟み撃ちどころの話では無いぢゃろうからの──」
そう。恐らくラビリア達は、早々に鬼人族に勝ち目が無いと見抜いたんだ。自分達は計画通りに加勢したくても、コンがいたんじゃ俺達を後方から襲う前に殺られてしまう。それでは計画通りに、鬼人族と挟み撃ちなんて出来る訳が無いからな。
「更に兎共にその情報を流した者は、真人殿が町を出るタイミングまで知っておったと言う事になる……小娘が来る時期を知っておったんぢゃからの。そしてそ奴は、わしら鬼人族に勝算は無いと判断したんぢゃろう──」
天鬼は淡々と説明を続けているが、その表情は今にも忌々しいっ、と吐き捨てそうな雰囲気だ。
「もし、わしらの計画が失敗して、鬼人族の侵攻が難しいとなれば、今後、東の森で一番の驚異は何ぢゃと思う? そう、わしらを倒した真人殿達ぢゃ。だからそ奴は、真人殿のいない隙を突いてこの町を襲ったのぢゃ。そ奴にしてみれば絶好の好機ぢゃからの」
ボアル達もようやく薄っすらと言いたい事が見えてきた様だ……
天鬼はもう分かっただろと言いたげに話しを終えて、続きを俺に引き継いだ。
「つまり、そう言う事だ。俺達の戦力……つまりコンの存在を知っていて、今後、俺達が邪魔になる様な人物。更に鬼人族の計画を知っていて、ラビリア達が鬼人族の仲間である事を知っている人物。そしてラビリア達を助けるメリット……つまり、恐らくだが東の森で扱い易い獣人の協力者が欲しい人物──」
ゴクリ、と生唾を飲む音が聞えそうな緊張感が、場の空気を包み込んだ。
俺は皆に伝わる様にゆっくりと口を開き、確認を促す様に説明を続けた。
「その人物は恐らく、竹中半兵衛と鼠人族のマウロだ。この二人が繋がっていたとすれば、かなりの部分で説明が着く。まあ、あくまで憶測だし確証がある訳では無いけどな……マウロは既に殺っちまったし。それにまだ、説明がつかない事も多い──」
恐らくマウロはコンと繋がりながら、半兵衛とも繋がっていたんじゃないだろうか。
鬼人族と獣人種の諍いの原因は、間違いなくマウロだ。そして、その上でコンを獣人達に焚き付けたんだとしたら……コンが勝てば鼠人族は東の森で支配領域を得る事が出来る。
それに万が一コンが負けたとしても、半兵衛を通して人間と何らかの密約があったのだと考えれば……鼠人族としてはどちらに転んでも安泰だ。
では、半兵衛の立場としてはどうなんだろうか。半兵衛がマウロを使い、鬼人族を焚き付けて獣人達を襲わせたとする。更にその獣人達とコンも、マウロを使って敵対させていたのだとしたら……鬼人族が勝てば計画通り東の森を共有出来るし、コンが勝てばマウロの支配領域を共有する手筈だったのかも知れない。
どちらにとっても旨味のある話である様に見える。
いや、実際は半兵衛からすると、鼠人族等は後からどうにでも出来ると考えていた可能性が高い。何せ鼠人族は樹海でも最弱に近い種族だからな。
そう考えれば組む相手として鼠人族は、半兵衛にとって一番都合が良い相手だったのかも知れない。
まあ、ここまではあくまでも俺の憶測にしか過ぎないのだが……
「どちらにしろ、半兵衛が何か重要な手掛かりになると俺は考えている。だが、半兵衛と晴明が繋がっていると言う確証は何も無い。それに、今話した半兵衛とマウロの繋がりも、あくまで俺の憶測でしか無い。そもそも、何故半兵衛達がそこ迄して、東の森を欲しがるのかも分からん。何もかも憶測でしか無いんだ」
とにかく分からない事が多過ぎる。
誰が何の為にこんな事をしたのか……
もし、町を襲ったのが本当に半兵衛や晴明だと言うなら、殺るだけなら俺にとっては簡単な事だ。だけど、何故俺の町を襲ったのか位はハッキリさせとかないとスッキリしない。
裏で絵を描いていたのは本当に半兵衛なのか。
大魔法を使うと言う人間は晴明で間違いないのか。
半兵衛と晴明は繋がっているのか。
東の森を欲しがる理由は何なのか。
そして何故、俺の町を襲ったのか。
どこまで俺の推測が当たっているのかはわからない。
だけど、ひとつひとつハッキリさせて行くしか方法は無さそうだ。まずは鍵を握る男……半兵衛と会って話を聞く必要がある。その為にはまず、半兵衛の情報を集めなければ……
半兵衛はどんな人物で、何処に行けば会えるのか。
この世界ではどんな立場で、誰に仕えているのか。
もしかしたら、家康なら何か知っているかも知れない……
問題点はある程度見えて来た。
そうと決まれば早目に動くに越した事は無い。
ウォルフ達が捜索から戻り次第、早速江戸に向かう事にしよう。
「ジン、ウォルフが戻り次第、江戸に向かうぞ」
「畏まりました」
「ちょっ、ちょっと待ってよご主人様っ!」
俺とジンの間に、コンが慌てて割り込んで来た。
「あたしも着いて行くからねっ!」
「駄目だ。お前は──」
言いかけたと同時にコンが紫色の煙に包まれた。
「──コンッ!」
何てわかり易い……漫画みたいな変化のセリフだ。
煙が晴れて姿を現したコンは、獣耳も尻尾も無い、完全な人型になっていた。流石に狐だけあって変化は得意だったみたいだ。
「これなら文句ないでしょ? 今回はどうしてもって言うから別行動で我慢したけど、あたしはご主人様の奴隷なんだからね! 何処までも着いて行くのは当然でしょ?」
は? 一体、こいつは何を言ってるんだ?
奴隷って……何かこいつの忠誠って、どんどん間違った方向に進んでいる気がする。
もう、変態である事すら隠す気は無いのか!?
『…………』
ハッキリ言って、雪もコンの扱いだけには手を妬いている。何せ、お仕置きがご褒美になってしまうからな……
「それに、ご主人様を待ってる間、酒呑の世話になるなんて真っ平ごめんだよっ!」
「ハッハッハッ! わしは何時でも構わんぞ、九尾の小娘?」
「抜かせっ!」
ああ……なるほど。そこも問題だった訳か。
どっちにしろ大人しく待っている奴じゃ無さそうだ。
「分かった、分かった。まあ、別にその姿なら問題ない。その代わり町で変に目立つ様な事はするなよ?」
「わかってるよっ!」
仕方なく俺が同行を認めると、コンは嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねてはしゃぎ回った。
(何だか騒がしくなりそうだな……)
『…………』
俺は軽く頭を抱えて呟いた。
まあ、仕方ない。
とりあえず江戸には俺とジンとウォルフ、それにコンの四人で行く事にしよう。
「天鬼。すまんが後の奴等の事、面倒を頼む。それから──」
「分かっておる。半兵衛に動きがあればお主に連絡すれば良いのぢゃろ? あのラルとか言う狼人の小娘にでも伝えに行かせるわい」
さすが天鬼だ。皆まで言わなくても察してくれている様だ。これなら安心してボアル達を預けられる。
「悪いな……よろしく頼む」
俺は天鬼に軽く目で礼を告げた。
ふと見るとウォルフ達も戻って来たみたいだ。
残念ながら生き残りは見つけられなかったみたいだけど……
ウォルフが跪いて朗報が無かった旨を報告して来た。
まあ、こればっかりは仕様がない。
俺はウォルフ達を労い、早速江戸へ向かう旨を伝えた。
俺達、江戸に向かうメンバーを除いて全員が、天鬼を中心に集まって来た。ボアルとベンガル、そしてラルが少し残念そうに付いて来たそうな顔で見送っている。
「よし……ジン、ウォルフ。行くぞ」
俺は残るメンバー達から目線を外し、ゆっくりと歩き出した。
「畏まりました」
「はっ!」
「ちょっ! ご主人様、置いてかないでよぉっ!」
こうして俺達は急遽、江戸の町へ向かう事になった。
家康と楓に会い、真相を突き止める為に……
そしてこの時の俺はまだ、この決断によって後の大事件に巻き込まれて行く事になるとは、夢にも思っていなかった──
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