第38話 化物の様な人間
「ラル、報告で言っていた化物みたいな人間について聞かせてくれ」
以前より強くなった筈の獣人達を、蹂躙し尽くした人間……ラルがあんなに驚く程、化物みたいに強い人間って一体、どんな奴なんだ。
「はい。町を襲った人間達はそれ程大群と言う訳ではありませんでした。恐らく私達より少し多いくらい……ですので私達も最初は善戦していたんです。あの男が現れるまでは……」
人数で圧倒された訳では無いみたいだ。するとやはり、その男の力による所が大きいのか……
「あの男?」
「はい。奴は戦場に突然現れて、必死で町を守る為に戦っていた私達を、まるで嘲笑うかの様に淡々と蹂躙し始めたんです……その大魔法で」
「大魔法?」
何だそれ……この世界に魔法があるのは知ってるけど、何をもって大魔法なんて言うんだ?
魔法ならジンやウォルフ、それに町に残っていた調査隊の奴等の中にだって使える奴は結構いたじゃないか。
「大魔法というのは人間で言う所の上級魔法……つまりジン様が使用される【地獄の爆炎】クラスの魔法と言う事です。そんな魔法、私達獣人は疎か、強い魔力を持つと言われる精霊種ですら滅多に使える者等おりません。まして人間が使えるなんて……」
人間以外の種族では初級、中級魔法より上は全て『大魔法』と呼ばれるらしい。人間で言う所の上級と神級の魔法を引っ括めた形だ。
ジンの眉がピクリと動いた。自分と同等の魔法を使うと言う人間に興味でも湧いたんだろうか。それとも同列に見られたのが気に入らなかったのか……
「それは聞き捨てなりませんねえ……【地獄の爆炎】は確かに上級魔法ですが、私のそれは別物ですよ? 真人様に頂いた黒炎で劇的にレベルアップしていますからね」
「あっ、いやっ、も、申し訳ございませんっ! そんなつもりではっ」
なるほど、どうやら後者だったみたいだ。だけど自分の魔法が同列に扱われた事じゃなくて、俺の能力を軽く見られた事の方が気に入らなかったらしい。全くどこまで俺を崇拝しているんだ、この悪魔は……
「いいから続けろ、ラル。話が進まん」
恐縮するラルを促してジンを黙らせた。
何事も無かったかの様に平然とした顔で、一礼してジンは引き下がった。俺に言われたラルが再び報告を始める。
「は、はいっ。それで……その突然、現れた人間が大魔法で……守衛に当たっていた者達は一瞬で焼き尽くされました。そこからはもう一方的で……一気に雪崩込んできた人間達に為す術もなく、町は全滅に追いやられました……」
ラルは俯いて着物の裾を握り締めている。目の前で同胞達が蹂躙されるのを見ていたんだから当然だ。悔しくて仕方ないだろう。
話を聞く限り化物みたいな人間って言うのは、その大魔法を使う人間と言う事で間違いなさそうだ。全く、次から次へと厄介な奴が出てくるな……何者なんだ、そいつ。
「で、その突然現れたとか言う大魔法使いはどんな奴なんだ?」
「そ、それが遠目であったのと、目深に白いフードを被っていた為……」
よくわからなかった、と。
手掛かり無しか……やはり、先に半兵衛の方から当ってみるしかなさそうだな。
俺がその男の詮索を諦めかけていた、その時だった……
「──ご主人様、その大魔法使いに心当たりはあるのかい?」
声のした方に視線を向けた。
よく知る人物がフフフと笑いながら、ゆっくりと近づいて来る。
「コン、戻ったのか」
ラビリア達の方を任せていたコンだ。
上手く下流の獣人達を抑え込んではくれたみたいだけど……そっちの話も詳しく聞いとかないと。ラビリア達がどうなったのか……
報告は後で聞くとして、それよりも今、何だかこの魔法使いに心当たりでもある様な口振りに聞こえたけど……もしかしてコンの奴、何か知っているのか?
「たった今戻ったわ。ご主人様の匂いがしたから急いで戻って来たら、面白そうな会話があたしの遠耳に聞こえて来たんでね……ちょいと聞き耳を立てさせて貰ったよ」
相変わらず妖艶な笑みを浮かべながら、紫の瞳で見つめて来る……コンの癖に。
「そうか……ご苦労だったな。ラビリア達の話は後で報告を聞こう。それよりコン、お前この魔法使いの事、知っているのか?」
「知っているって程じゃないけど……昔、バカ狸が話していたのを思い出してね。確か人間の癖に何百年も生きている、化物みたいな人間がいるとか……確かその人間は、大魔法を使えるとか言ってたわ……」
バカ狸と言うのは恐らく、西端の森に棲んでいるとかいう化け狸の事だろう。確かウォルフの報告にもあった筈だ。コンとは犬猿の仲だって言ってたっけ……
それにしても、何百年も生きる人間……それ、もう完全に本物の化物じゃないか。そんな奴まで居るなんて……全く、どこまでもめちゃくちゃな世界だ。さすが異世界クオリティー。
「大体、大魔法が使える人間なんて、そうそういる訳無いじゃない。それでピンと来た訳。町を襲ったって言う奴はそいつなんじゃないか、ってね」
なるほど……確かに一理あるな。もしコンの言う、その何百年も生きている人間が、町を襲った奴と同一人物なら探す手間も省けそうだ。
「コン、そいつの事を詳しく教えてくれ。どこのどいつだ。名前とかわからないのか?」
とりあえず、もしそいつが犯人なら町を襲った落とし前だけはつけて貰う。何が目的で俺の町を襲ったのか……誰の指示で動いているのか。直接聞けばハッキリするだろう。
「わかるわよ。確かバカ狸が言うにはそいつ、京に住んでるって言ってた様な……名前は確か……あれ? ええっと、何だっけ……」
京。確か西にある、帝とか言う奴が支配している町だ。
そう言えば楓が言ってたな……古来からこの国を治めてきた一族の末裔が支配している町があるって。聞いておいて良かった。俺はもう少し、この国の事を知っておいたの方が良いのかも知れないな。
「あっ!」
人差し指を口元に当ててコンが叫んだ。
「思い出したっ! そいつの名前は確か……」
そして本日二度目のビックリだ。
まさか、その名前が出て来ると思わなかった……
ある意味、半兵衛よりも洒落にならん。
この異世界の出鱈目さを、俺は改めて思い知った。
「──安倍晴明っ!」
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