表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/69

第36話 竹中半兵衛

「──あやつの名は……竹中半兵衛ぢゃ」



 ──竹中半兵衛。


 確か、黒田官兵衛と並ぶ豊臣秀吉に仕えた二大軍師の一人だ。「両兵衛」とか「ニ兵衛」とか言うんだっけか。秀吉に三顧の礼で迎え入れられた男だ。


 ここで出て来るのか……

 けど、この世界ではどんな人物なのか、会ってみないとわからないからな……家康の例もあるし。


 実際この世界では、秀吉の家臣なのかどうかすら怪しい。そもそも、この世界に秀吉がいるのかどうかすらわからない上に、俺の前世では確か、最初は信長の家臣でもあった筈の人物だ。


 この世界は出鱈目だから、全くの別人として考えた方が良いのかも知れない。


「お主、あの男を知っておるのか?」


 考え込んでいた俺を見て、天鬼が不思議そうに俺の顔を覗き込んで来た。

 危ない、危ない……変に仲間だと誤解でもされたら、面倒くさい事になるかも知れない。


「いや、どんな人物なのか考えていただけだ。会った事もない」


 これは本当の事だしな。半兵衛がこの世界にいる事すら、今初めて知ったんだから。


「そうか……しかし、まさかお主達とあの鼠人が仲違いしておったとはの……誤解とはいえ悪かった。東の森の開墾も承諾して貰えるみたいぢゃし、お主達と争う理由も無くなった。集落を襲った事、改めて謝罪しよう。ボアルとやら……それに狼人と虎人の族長殿よ、申し訳無かった」


 天鬼がボアル達に頭を下げた。

 オウガ達もバツは悪そうだが、揃って頭を下げている。


 見た目は可愛らしい女の子だが、こういう所はさすがに鬼人種の首領だな。どちらに否があるのかを冷静に判断して、必要ならば頭を下げる。どこかのバカ館主達にも見習って貰いたい物だ。


「鬼人種の謝罪、確かにお受け致しました。聞けばそちらにもそれなりの事情がおありの様ですし、我等獣人種にも全く否がないとは言えますまい。ボアル殿、ベンガル殿、ここ等で手打ちにするのが良いと思うのですが……如何ですかな?」


 代表してウォルフが口を開いた。その表情は既に穏やかな物に変わっている。


「集落を滅ぼされた、狼人族のウォルフ殿が許すと言うのだ。我には何も言えますまい」


「うむ。儂もベンガル殿の意見に賛成だ。それに酒呑殿自らに頭を下げられてはなあ……許さざるを得んであろう」


 ハハハッと笑い、ボアルとベンガルもウォルフに同調した。オウガ達もホッとした表情だ。

 どうやら、何とか丸く納まったみたいだな……


「かたじけない」


 オウガが改めて、謝罪を受け入れたウォルフ達に礼を述べた。


 その様子を見てホッとしていたのも束の間、突然俺達の頭に念話の声が届いた。


『ハアッハアッ……やっと……ハアッ……繋がった……真人様っ! 兄様っ! 大変ですっ!』


 ラルだ。

 随分、息を切らしているみたいだけど……念話の届く範囲まで走って来たのか。かなり慌てているみたいだ。


『何事だ?』


 ウォルフが念話で聞き返した。


『ハアッ……ハアッ……町にっ、我等の町に人間達の軍勢がっ』


『何いっ!』


「「なっ!」」


 獣人達(ウォルフ達)三人が一斉に立ち上がった。

 ボアルとベンガルは驚きの余り、声に出して驚いている。


「何ぢゃ? どうしたのぢゃ?」


 念話が聞こえない天鬼達は、何が起こっているのかがわかっていない。オウガ達も動揺するウォルフ達を見て、何事かと困惑している。

 俺はラルを落ち着かせようと、至って平静に語りかけた。


『ラル。落ち着け……一体、何があった?』


 俺が話し始めた事で、ジンと獣人達(ウォルフ達)は大人しく事の成り行きを見守り始めた。皆、心配そうな表情(かお)で俺の方を見つめている。

 天鬼達も何かが起こっていると察したのか、黙って俺達の様子を伺っていた。


『人間がっ……ハアッ……突然、人間の軍勢が現れてっ……町をっ、私達の町をっ……』


 かなり取り乱しているな……話が要領を掴めてない。


『いいから落ち着け、ラルっ! 落ち着いて、何があったのか話してみろ』


『ハアッハアッ……申し訳ありません。真人様、それにジン様と族長の皆様……町が……町が人間達に襲撃を受けました……』


『人間だと……』


 ラルは少し落ち着いて来たみたいだな……むしろウォルフの方が動揺しているみたいだ。


『それで、被害の方は……町は今、どういう状況なんだ?』


 まずはそれを聞きたい。


『町は猪人族と虎人族の戦える者……それにカミルさん達、調査隊のメンバーも含め、総力を上げて防衛戦を展開しています。恐らく今も……』


 なるほど……それだけの戦力があれば、そう簡単にはやられやしないだろう。俺達が戻る迄、持ち堪えてくれれば何とかなりそうだ。


『わかった。どれくらい持ち堪えられそうなんだ? それとも、もう殺っちまったか?』


 しかしラルの返答は、俺の思っていた物と違う内容だった。どうやら俺の考えは甘かったみたいだ。


『それが……人間(てき)は地の利を上手く活かしている上に数の方も予想より多く……しかもその中に一人、化物の様な強さの人間が……恐らくこのままでは、そう長くは持ちません」


 能力(ちから)を得た筈の獣人達が堪えられないだと……あいつ等は俺に忠誠を誓って、そこ等の獣人よりも強くなっている筈だ。

 それが人間相手に……一体、どうなってる?

 人間(てき)はそこまで数が多いのか?

 それともその、化物みたいな人間が原因なんだろうか……?


「真人様っ! 一刻も早く戻りましょうっ!」


「くそっ! 人間どもがっ……!」


「真人様、ご指示をっ!」


「クックックッ……」


 獣人達(ウォルフ達)は一刻も早く戻りたそうだ。焦りと怒りで冷静になれてない。まあ、同胞が襲われているんだから、当たり前と言えば当たり前か……

 ジンだけは相変わらずの平常運転だな。明らかに、戦いになるかも知れないこの状況を喜んでいる。


『状況はわかった。ラル、お前は先に戻って現状を確認しろ。様子を探るだけでいい……どこかに身を隠しながら確認して、何か動きがあれば逐一、俺に報告するんだ』


『はいっ、かしこまりましたっ!』


 さて……厄介な事になって来たな。

 それにしても、まさか俺の町が襲われるとは。

 一体、何か目的で……


「天鬼、悪いが急用が出来た。俺達は急いで戻らなきゃならん。森を使用する件については、さっきも話した通りだ……お前達の好きにやってくれ。何かあれば、誰かうちの者に伝えてくれればいい──」


 ちょうど話もついてた所だ。放っておいても、とりあえず今は問題ないだろう。

 半兵衛の件は少し気になるけど……その辺りはまた、後で考えよう。

 とりあえず今は早く戻らないと……


「何があったのぢゃ?」


 急ぎ、立ち去ろうとする俺達をみて、天鬼が心配そうに問いかけて来た。


「ああ、ちょっとな……どうやら、うちの町が人間達に襲われたらしい」


「人間ぢゃとっ? それで、お主等の町は無事なのか?」


 相手が人間、というのが意外だったみたいだな……


 それに心底、心配そうな顔だ。

 どうやら、本気で心配してくれているらしい。やっぱりこの天鬼とか言う鬼は、見た目通り本当は優しい奴みたいだ。


「どうだろうな……今の所、持ち堪えてはいるみたいだけど。どっちにしろ、早く戻らないとヤバそうなのは間違いない。悪いけど、話があるならまた今度にしてくれ──」


「待つのぢゃ」


 早々と部屋を出ようとしたら、食い気味に呼び止められた。


人間(てき)の戦力もまだ、はっきりしておらぬのぢゃろう? ならば此方の戦力も多いに越した事はないぢゃろう。わしも一緒に行ってやる……お主には遠く及ばんが少しは役に立つぞ?」


「しゅっ、酒呑様っ! な、ならば我も共に──」


「ならん。族長のお主が里を空けてどうする。わし一人で十分ぢゃ。まあ、わしの助力なぞ真人殿には必要ないかも知れんがの」


 本当はお前一人で十分なんだろと、天鬼は意味深な笑みを浮かべて視線を向けて来た。


 まあ、言ってしまえばその通りなんだが……何なら多分、ジンだけでも大丈夫な気がする。

 化物みたいな人間、というのが少し気にはなるけど……


「酒呑殿、かたじけない」


 今度はボアルが頭を下げた。


「構わぬ。お主達にも迷惑をかけたでの……その詫びぢゃ。それにこれからは、お主等に世話をかける事になるやも知れんでの。同じ東の森に棲む者としてな」


「心遣い、感謝します」


「酒呑殿が一緒とは心強いな」


 ウォルフとベンガルも続けて頭を下げた。

 やはり天鬼は、樹海でも相当な実力者として認識されているみたいだな……


「お前等、グズグズするな。さっさと行くぞ!」


「「「はっ!」」」


「参りますか……」


 しかし俺の町を襲うとは、随分舐めた真似をしてくれる……何者かは知らんが、さっさと行って皆殺しにしてやる。


 それにしても、このタイミングで襲って来た人間……

 一体、何が目的なのか。



 この目で何者か見極めてやる──



★補足

ちなみに竹中半兵衛重治の最初の主君は美濃の斎藤義龍(後に龍興)ですが、作中では真人は、そこ迄歴史に詳しくないと言う設定上、敢えて有名どころである信長だと思っています。


読んで頂いてありがとうございました。

応援してもいいよ!って思って頂けたら、評価・ブックマーク等を頂けると嬉しいです。※最新話の最下部から送信できます!

頑張って更新しますので応援よろしくお願い致します。


↓なろう勝手にランキング投票にご協力をお願いします!※クリックするだけです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ