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第19話 立ち合いと言う名の虐殺

 ──俺は今、絡んできた剣格達の道場に向かって歩いている。



『馬鹿な人達ですね……せっかく真人さんが見逃してくれてたのに』


 呆れたように雪が話した。


(こいつらは今日、死ぬ運命だったんだろ)


『真人さんの食事を邪魔したんです。これは仕方ありませんね』


 雪、お前……食事を邪魔されたから殺すって、どこの暴君だよ。


(雪……殺す基準が段々低くなってきてないか? まあ、別にいいけど。精々こいつ等には、今後の虫除けの為に役に立ってもらうさ)


『虫除け……さすがです、真人さん」


 何がさすがなんだかよく分からんが……雪とそんな話をしていると、少し先に立派な門構えの道場らしき建物が見えてきた。どうやらここが目的地みたいだ。大きな木製の門の横に、でかでかと看板が掲げられている。


 ──鬼道館。


 男に続いて門を(くぐ)り道場へ入ると、両端に門弟らしき男達が立ち並んでいた。正面の一段高い上座には、胡座(あぐら)をかいて座っている男がいる。肩くらいまで伸びた白髪混じりの髪を、後ろに撫で付けただけの目つきが鋭い男。鼻の下と顎にも、同じ様な白い髭を蓄えている。おそらく、こいつがここの館主だろう。


「貴様が我が流派を愚弄したと言う異人か」


 その男は不躾(ぶしつけ)にそう言い放つと、目を細め、こちらに鋭い眼光を浴びせてきた。


「儂がここ鬼道館の館主。猪熊(いのくま)清十郎(せいじゅうろう)だ」


「知らん。お前が誰だとかどうでもいい」


 猪熊と言う男の頬が一瞬ピクッと吊り上がった。しかし、すぐに平静を装うと、猪熊は淡々と続けて話しだした。


「町人共の口に戸は立てられん。貴様の様な異人風情にこの鬼道館が舐められたと噂されては、徳川家剣術指南役の名に傷が付くのでな。貴様には正々堂々、果たし合いの上でこの鬼道館に歯向かった報いを受けて貰わねばならん」


「その割には随分、大層な出迎えだな」


「何、相手をするのはひとりだけじゃ。それに、貴様が我が門弟に無様に殺される様を喧伝(けんでん)する者は多いほうがよかろう?  二度と妙な考えを起こす(やから)が現れん様にな」


「お前が相手してくれるんじゃないのか?」


「ふんっ! 貴様如き異人に儂が出るまでもないわ。──島田っ!」


 猪熊が話し終えると、呼ばれたらしき男が集団の右奥から俺の前に現れた。負けるとは微塵も考えていない様子で、薄笑いを浮かべながら見下した目で此方を見ている。


「師範代の島田宗治(しまだむねはる)だ。異人如きがこの鬼道館の門下生様に逆らったんだ。出来るだけ酷たらしく殺してやる。精々、無様に()(つくば)るんだなっ! 」


「ハハハハッ! 今更命乞いしても遅ぇぞ?」


「館主様もお人が悪い。師範代に敵う訳ねえのにっ!」


「少しは骨のある所をみせろよっ! 薄汚え異人がっ!」


「「「ハハハハハハハハッッ」」」


 館内が一斉に(あざけ)る様な笑いに包まれた。島田と言う男がニヤニヤしながら()()を構えている。自分達が優位にあると見れば、寄って集って途端にこの態度だ。全く、人間というのは本当に腐っている。


『はあ……怒らせちゃいましたね……』


 雪が呆れた様な、諦めた口調で溜息混じりに呟いた。


(ここまでクズなら容赦しなくてもいいな……元々するつもりは無いけど)


「どうでもいいけど、お前一人? 面倒臭いからまとめて殺っちまいたいんだけど。そっちのジジイも含めて」


 俺は猪熊の方を目線で指しながら鞘から刀を抜いた。自然体のまま、片手でだらんと切っ先を地面に向ける。これが俺の構えだ。


「フンッ! 何を……自分の置かれている立場もわからぬ愚か者がっ」


 猪熊が不遜に言い放った。


「貴様の様なゴミ、俺に殺して貰えるだけ有難いと思えっ!」


 島田と言う男は激昂している。


「まあ、どうせ皆殺しにするんだし別にいいか。身の程を教えてやるよ──【加速空間(アクセルルーム)】」


 俺はゆっくりと島田に向かい歩き始めた。そして、間合に入り込みながら、右手の刀をすくい上げる様に島田の首目掛けて斬り上げる。血が吹出すより早く、胴体と分かれた島田の首が足下に転がり、遅れて胴体が崩れ落ちた。


「「「──────っっ!!!!」」」


 誰一人、何が起こったかわかっていない様だ。彼等には、俺がフラッと揺らめいたら島田の首が落ちた、くらいにしか見えていないはずだ。


「なっ……何がっ……」


 猪熊がわかり易いくらい狼狽(ろうばい)している。周りの門下生達も、徐々に目の前の信じられない光景を現実だと認識し始めて狼狽(うろたえ)えだした。


「ひっ! しっ……師範代の首がっ!」


「ひっ! ひいぃぃぃぃっっっっ!!」


「這い蹲らせてくれるんじゃなかったのか? まあ俺はお前等みたいに甘くないけどな。命乞いさせてやる暇もやらん──【死神の刃(グリムリーパー)】」


 スパアアアアアアアアアアアアンッッ!!


 右片手に持つ刀を、逆手で左から右へ横薙に振るう。すると、振りぬかれた刀から死神の刃が放たれ、右側にいた集団が一瞬で真っ二つに切り裂かれた。無数の死体がその数を倍にして道場に転がり、遅れて床をその血が赤黒く染め始めている。


『相変わらずとんでもない技ですね……』


 雪が呆れた様な声で話しかけてきた。


(これでも手加減してるんだぞ?)


『十分、無慈悲な威力ですよ』


(確かに……慈悲は無いかな)


『だと思いました』


 雪は諦めた様な声で答えた。少しは俺の事を理解し始めたのかも知れない。


「さて……あと半分」


 俺は振り返ると残りの集団を見据え、ゆっくりと刀を右側へ水平に構えた。


「ひいっ! たっ助けっ……」


「こっ……殺さないで……」


 先程まで威勢の良かった門下生達は、俺と目が合うと一斉に命乞いを始めた。這い蹲って逃げようとしている者もいる。


「お前等の言葉をそのまま返してやる。少しは骨のある所を見せろよ。薄汚い人間が──【死神の刃(グリムリーパー)】」


 左手を添え、右手の刀を左へ水平に斬りつけると、門下生達の体が死神の刃で紙のように切り裂かれた。俺は少し踏み込んでいた体を起こすと、最後に残った一人に対してゆっくりと向き直った。


 目の前には腰を抜かして尻餅をついた猪熊がいる。猪熊はガタガタと震え、口が鯉のようにパクパクと動いていた。すると猪熊は、意を決したのか絞り出す様に言葉を発し始めた。


「み……見事だ! こ、これ程の腕前……儂の睨んだ通りだ! わ……儂はお主を試す為にここに──」


 びっくりした。絵に描いた様な雑魚の言い訳だ。


「はあ? 何言ってんの、お前?」


「だ……だから儂は……そ、そうじゃ! 儂がお主を次期徳川家の剣術指南役に推薦しよう! ど、どうじゃ? 異人であるお主にはまたと無いチャンスであろう! 儂なら……儂が言えば──」


「馬鹿かお前? 俺は人間が嫌いなのに、そんな物に興味がある訳ないだろう。それにお前、さっき俺を殺すとか何とか言ってたじゃないか。何を今更、試してたとか……どうせなら、もう少しマシな嘘をつけ」


 あまりにも馬鹿馬鹿しい話に呆れていると、猪熊は恥も外聞もかなぐり捨てて命乞いを続けた。


「た、頼む! 命だけは! 命だけは助けてくれ、いや下さい!」


(…………)


 俺は少し考えて、猪熊を見逃す事にした。鬼道館は事実上壊滅したので、見せしめとしては十分だろう。しかし、この男は生かしておくと(ろく)な事をしなさそうなので、剣客としては止めを刺しておく事にした。


「わかった。命だけは助けてやる。命だけはな」


 俺はそう言って、猪熊の両腕を切り落とした。


「ぎゃああああああああああぁぁっっ!!」


 猪熊は前屈みに倒れ込み、のたうち回っている。両腕の肘から先が無くなり、上手くバランスが取れないみたいだ。


『まさか真人さんが、お見逃しになるなんて……意外でした』


 俺は雪の中では相当、血も涙もない男になっている様だ。まあ、完全に否定も出来ないが。


(ちょっとな。どう転ぶかはわからないが、少し考えがあって見逃す事にした)


『やっぱり何かお考えがあったんですね。そんな事だろうと思いました』


(どうなるかは……わからんがな)


 俺達はそう話しながら鬼道館を後にした。後ろでは、いつまでも猪熊の悲鳴の様な叫び声が響き渡っている。



 徳川家剣術指南役の鬼道館が、たった一日で、それもたった一人の異人に壊滅させらせた噂は、その日のうちに町中に拡がった。




 ──そして、その噂がこの町の領主である徳川家の耳に入るまで、然程(さほど)の時間は要さなかった。



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