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第17話 もう一つの転生と魔王

「──剣士さん、良かったら私達のパーティーに入って下さいませんか?」


 黒髪の少女は話を続けた。


「これから村の畑を荒らす魔物を退治しに行くんですけど、私達だけじゃ不安で……近接戦闘が出来るメンバーがいないんです」


 レオが周りを見回すと、少し離れた所で様子を伺っている少女達がいた。

 襟足が少し跳ね上がった赤毛の活発そうな少女と、それより少し身長が高い、胸元まで伸びた栗毛の大人しそうな少女。彼女達は、この黒髪の少女を含めた三人のパーティーだった。


「手伝ってくれるメンバーを探しに来たんですけど、私達の村の報酬じゃ誰も引き受けてくれなくて……」


 黒髪の少女は、少し悲しそうに目を伏せながら答えた。

 彼女達の目的はギルドでの仲間探しだったが、上手くいかなかった様であった。


「君達、魔法は使えるのか?」


 ふいに、レオが訊ねた。彼は、もし彼女たちが魔法を使えるのなら、拓海に見せてやれるかもしれないと考えていた。


『おい! 拓海! 魔法、見れるかもしれないぞ?』


(別に魔法とか見れなくてもいいよ。それより彼女達、困ってるみたいだし……)


『報酬とかはどうでもいいけど、この子達あんまり可愛くないしな……けど、魔法が使えるなら手伝ってもいいかもな』


(レオ……)


 レオの目的は、あくまでも魔法を拓海に見せる事だった。レオは人間の価値を顔だけで判断している為、彼女達が魔法を使えるかどうかにしか興味が無かった。


「は……はい。初級魔法なら全員使えます」


「そうか。なら、別に引き受けてもいいぞ。話は歩きながら聞こう」


「あっ……ありがとうございますっ!」


 少女は深々と頭を下げ、仲間の少女達の所へ走って行った。仲間の二人も恐縮そうに少し離れた位置でレオに頭を下げている。


『何とか当初の予定通り魔法を見せてやれそうだな』


 そう言ってレオは少女達の元へ歩き始めた。







 ──────────


 拓海達は少女達の村へと向かっていた。



「──それで、その魔物達はこの先の森に居るんだな?」


 レオは念を押す様に少女達へ語り掛けていた。




 少女達の村は、魔物の被害に頭を悩ませていた。

 これまでは被害も少なかった為、何とか耐え忍んでいたが最近になって、急に被害が大きくなり始めたらしい。困った村人達は意を決して、魔物の討伐に向かう事にした。彼らは戦力をかき集め、ようやく先日、討伐隊が森に入って行ったのだが、それ以降誰も森から戻って来なかったらしい。


 不安になった彼女達は救出に向かう事にした。しかし自分達だけでは戦力的に難しいと考えた彼女達は、ギルドに助っ人を探しに行く事を思いついた。

 そして、彼女たちはギルドで拓海達と出会った……これが少女達の話した、事の顛末である。


「目撃者の話からしても恐らく……ブラックドッグだろう。狂暴な魔物だけどC級の討伐対象だから、俺達でパーティーを組んで行動すれば問題無いだろう」


 レオは自分の見解を少女達に話していた。 


(C級? レオ、本当に大丈夫なのか?)


『心配しなくても大丈夫だよ! それより魔法、見せてやるから楽しみに待ってろ』


(本当に大丈夫かなあ……)


 初めての魔物退治で、拓海は少し不安になっていた。


「で、お前達は何の魔法が使えるんだ?」


 レオが少し偉そうに彼女達に尋ねた。


「えっと……私と彼女は火系統の初級で……」


「私は風系統の初級です」


 黒髪の少女が答えると、栗毛の少女も続いて答えた。


(魔法かぁ…………)


 拓海は何だかんだ言いつつも、魔法への期待に心を踊らせていた。




 ──ちなみに、この世界の魔法の法則はこんな感じである。


 この世界の魔法は人間や亜人など、体内に魔力を有する者でないと行使する事は出来ない。その魔力の有無や大きさ等については、個人の資質によるところが大きいらしい。レオは生まれつきこの魔力を持っていなかった為、魔法の適性は無しと判断されていた。


 魔力には属性があって主に、火、水、風、土、が『四大元素』と呼ばれており、他にも血族固有の属性や、稀に固有種として特殊な属性も存在する。


 魔力が強ければ強い程、比例して魔力量も大きくなる。魔力量とは俗に言うMPだ。

 各系統の魔法にはレベルがあり、初級、中級、上級、神級が存在する。ちなみに神級はここ数百年、使用者の存在は確認されていない。


 魔法自体は魔力の制御さえ出来れば、使用者がイメージする事で行使出来る様になるのがこの世界の魔法だが、これにはかなり個人差がある。




「──見えてきました。あの森です」


 黒髪の少女が指を指して説明すると、一気に全員の表情に緊張の色が浮かんだ。


「よし、行くか。日が暮れる前に片付けるぞ」


 四人は隊列を組むと、森の中へと入って行った。先頭のレオが木々を掻き分け、邪魔な枝を鞘に納められた剣で叩き折りながら進んでいる。しばらく森を進んで行くと、レオ達は目線の先に何かの死骸に食らいつく黒い生き物を見つけた。


「…………いた」


 レオが声を殺して呟いた。


「何か……います」


「ちょっとっ! 押さないでよっ!」


「シッ!!」


(あれが……魔物……)


 レオ達は息を殺しながら近付いて辺りを確認した。


「……お前ら……あそこの木陰からぶっ放せ」


 レオが小声で少女達に指示をだすと、彼女達は小さく頷き、一斉にばらけて各々の配置についた。


「…………やれっ!」


 レオが挙げていた腕を振り下ろすと、少女達が一斉に魔法を放った。



「【火球(ファイヤーボール)】!」


「【火矢(ファイヤーアロー)】!」


「【風刃(ウインドエッジ)】!」



 炎の矢と球状の業火が黒い塊に向かって一斉に降り注ぎ、風の刃が吹き荒れた。黒い塊は堪らず身を屈め、呻き声をあげている。


〈グルルゥゥゥゥゥッッッ……〉


(うおおおおおっっ! すげえっ!)


 拓海は初めて見る魔法の迫力に興奮していた。

 レオは剣を抜くと一気に飛び出して、黒い塊に斬りかかった。胴体から赤黒い血が吹き出して、レオの顔に吹きかかる。


〈グオオオオオオオオオッッ!!!〉


 黒い塊は悲鳴の様な雄叫びを上げると、身を捩ってレオに対し向き直った。そして、レオの目に黒い塊の姿が顕になった。


「ブラックドッグ……デカいな」


 成体の牛くらいある体躯が闇の様な黒い毛並みで覆われて、赤い目が光っている。(あらわ)になったブラックドッグは、一般的な個体よりもかなり大きかった。


「お前等っ! 打ちまくれっっ!」


レオが続けて指示をだす。


「【火球(ファイヤーボール)】!!」


「【火矢(ファイヤーアロー)】!!」


「【風刃(ウインドエッジ)】!!」


「うおおおおおおおおっっっ!」


 絨毯爆撃の様な魔法と剣戟の総攻撃で畳み掛ける。


〈ガウゥアアアアアアアアアアッッッ!!!〉


 ブラックドッグは苦しみもがきながら、尚も反撃する。鋭い爪がレオの腕を(かす)めた。


「ぐぁっ! くそぉっ! 何なんだっ、この個体は……ブラックドッグにしちゃ……」


「お兄さんっ! 後ろっっ!」


 黒髪の少女が叫んだ!


「えっ!? な……ぐわああっっっ!!」


「きゃああああああっっ!!」


 突然、レオの背中を強烈な痛みが襲った。レオは何が起こっているのか理解できずに慌てて振り返り、信じられない光景を目にした。

 時が止まった様に、レオは固まっている。


「なっ……!」

(っっ……!)


 拓海もまた、唖然として言葉を失っていた。

 信じたくない様な光景だった……


 拓海達の目の前に広がる現実。


 ──拓海達は、黒い波の様な無数のブラックドッグ達に取り囲まれていた。


 拓海達の脳裏には絶望の二文字が浮かんでいた。

 彼等にとって最悪の状況が今、目の前に広がっている。一体でも苦戦を強いられていた魔物が、数十体も自分達を取り囲んでいるのだ。

 拓海達は呆然と立ち尽くすしかなかった。


 拓海達から少し離れた場所では、少女達がブラックドッグの凶牙に襲われていた。既に栗毛の少女と赤毛の少女はその四肢を食いちぎられ息絶えている。

 黒髪の少女もまた、絶命の危機に晒されていた。


「きゃああああああああああっっ! いっ、いやあああっ!!」


 一斉にブラックドッグの群れが襲い掛かり、彼女は一瞬にしてただの肉塊へと化した。辺りの木々に彼女達の返り血が飛び散り、森はまさに地獄絵図の様相へ姿を変えていた。


 拓海達を囲む数体のブラックドッグがその輪を狭め始めた。

 正面にいる個体は、もはや誰の物かもわからなくなった腕と思われる肉塊を咥えている。一番大きな個体が咆哮を上げると、魔物達は一斉に拓海達へと飛び掛かった。ブラックドッグの鋭い爪がレオの腹部を引き裂き、いくつもの凶牙が四肢に喰らいついていく。

 レオはブラックドッグ達に貪り喰われながら、自分の死を悟っていた。


『拓海……お別れだな……』


(ばっ! 何言ってんだっ!)


 拓海もこれが、どうしようもない状況である事は理解していた。しかし、あまりに突然過ぎる展開に目の前の友人の死を受け止められないでいた。


『まったく……碌な人生じゃなかったな。最後は……魔物の餌とは……やっぱり見た目の悪い奴に関わると……碌なもんじゃない……』


 レオは虚ろな目をしながら、少し自嘲気味に笑った。


(馬鹿野郎ぉっ! 何、馬鹿な事言ってんだっ……)


『俺も、今度は……もし生まれ変わったら……もう少しマシな人間になれるかな……』


 レオの顔は薄く笑っている。


(何を……君は十分いい奴だったじゃないか……今日だって俺に魔法なんて見せようとしなければ……)


 拓海は自暴自棄気味な友人を必死に肯定しようとした。


『いい奴って……俺は……こんな顔だぜ……? そんな事言ってんの……拓海(おまえ)だけだ』


(お前は良い奴だよっ! 顔なんて……顔なんて関係ないっ!)


『関係あるよ、馬鹿……人間は顔が……顔が。見た目が全てだ。醜く生まれてしまった人間は……こうなる事が、運命なんだよ……』


(そんな事はないっ! 君は本当にいい奴で──)


 拓海は必死に説得を試みたが、どの言葉もレオには響かなかった。そして、レオの意識が力無く呟いた。


『そろそろダメみたいだ……』


 レオは自分の意識が遠のいて行くのを感じていた。

 既に体は見るも無残な姿になっており、レオの血は辺りの土を真っ黒に染めあげていた。


『それでも、最後は……最後に拓海に会えてよかったよ……出来れば一度……一度、お前の顔を……見てみたかっ……た……な……』


(レオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!)


 拓海の中でレオの意識が完全に途絶えた。


(馬鹿野郎ぉ……顔なんて関係無いじゃないか……)


 拓海は語りかける様に、自分の意識から消えてしまったレオへ向けて呟いた。


(僕が……僕が君は不幸な運命なんかじゃなかったって事を証明してやる──)


 ──拓海はこの時、自分がこれからどうするべきか……ある決意を固めていた。



 レオの体は既に、完全に息絶えていた。

 もう動かなくなっているレオの頭に、ブラックドッグが喰らい付きはじめた、その時。


 突然、レオの体が白い光に包まれ始めた。

 その体は徐々に光の粒子に姿を変え始め、やがて蒸発する様に空へと立ち昇り消えていった……






 その様子を()()()()()()()()()者がいた。


《どうやら無事に転生が始まったようですわね》


 その女神は薄く微笑みながら呟いた。







 ──────────


 イグラシア王国、王都。玉座の間。


 ガヴァン・コレット=イグラシア。

 ここ、イグラシア王国の現王である。

 短い黒髪を後ろに流し、鼻髭を蓄えた精悍な顔つき。歳の割りに鍛えられた褐色肌の肉体と、射貫く様な鋭い眼光は実年齢よりも幾分若く見える。彼は今、この玉座の間で臣下から重大な報告を受けていた。


「──で、その後の情勢はどうなっている?」


「は……」


 片膝をついたまま、問われた騎士は報告を続けた。


「調査隊からの報告によりますと、既に周辺国家を含め、王族、貴族等は、ほぼ全て壊滅状態との事。軍も既に機能はしておらず、リカーナは奴らの支配体制に組み込まれてしまっているものと思われます──」


「ふむ……」


 イグラシア王は鋭い目をさらに細めた。

 騎士は一呼吸おいてから意を決して、最後の言葉を口にした。


「──リカーナは……リカーナは、完全に彼の者の手に墜ちました」


 騎士は最後まで言葉を言い終えると、この後、当然かけられるであろう王からの問に備えた。彼自身にとっても信じられない内容の報告だった。そして、彼が王の反応を伺っていると、静かにイグラシア王が口を開いた。


「リカーナが……まさかリカーナがこの短期間で墜とされるとはな。しかも、周辺の国家までまとめてとは……で、其奴は何者なんだ?」


 イグラシア王も、リカーナが何者かの軍勢に襲撃を受けていた事は聞いていた。しかし、まさかこんな短期間で陥落するとまでは予想もしていなかった。


「はっ……報告によりますと、彼の者は強大な魔族を従え、魔物を使役するとの事……」


「……なっ! 魔族だとっ!?」


 イグラシア王は思わず立ち上がりそうになるのを堪えた。


「はっ! ……そして、自らも『魔王』を名乗っていると」


「ま、魔王……」


 イグラシア王はあまりの驚きに目を見開いて、絞りだす様に呟いた。そして、一呼吸おくと玉座にドサッと倒れかかる様に凭れ掛かり、思考に(ふけ)り始めた。

 魔王の出現という話になれば、事はリカーナだけの問題では済まない。イグラシア王国にとっても看過出来ない脅威であった。


「して……その魔王と名乗る者の名は?」


「はい。魔王の名は……カズヒコ」





「────『魔王』カズヒコ・ヨシオカです」




※第一章完結しました! ここ迄は登場人物の転生までを中心に描いて来ましたが、いよいよ二章から物語は本格化! 戦国武将も遂に登場し始めます。


読んで頂いてありがとうございました。

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頑張って更新しますので応援よろしくお願い致します。


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