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第16話 人間の価値は顔だ。

 真人が無事に転生を果たした同じ頃、この異世界に転生したもう一人の少年がいた──







 ──────────


 彼の名は佐々木拓海(ささきたくみ)


 17歳。都内の高校に通う普通の高校生だ。

 いや、普通の、と言うのは少し違うかもしれない。彼はいわゆる……『美少年』というやつだった。それも、かなりの。


 彼はいつも女の子達に囲まれていて、それを妬んだ男達に嫌われていた。しかし、それでもいいと思っていた彼は、ある日、容姿だけを見て集まってくる女の子達では、心を許せる友人にはなれないと言う事に気付いてしまった。


 それ以降、彼は自分の内面を見てくれる本当の友人を欲する様になり、集まって来る女の子達には興味を示さなくなってしまった。


 ──そんな彼は今、この世界である少年に取り憑いていた。


 彼──拓海の人生は嘘みたいに呆気ない最後だった。

 拓海が登校中、いつもの様に女の子達に囲まれていると、突然トラックが突っ込んで来て──


 彼はあっさり死んだ。


 拓海が、見た事もない屋敷で意識を取り戻すと、ファラシエルと名乗る女神の声が彼の頭に響いた。混乱していた彼は、その女神の説明を受けて、ようやく自分の置かれている状況を理解した。


 自分は既に死んでいて、魂がこの少年に憑依している事。


 この少年の死後に、その体を使って再生を図るという事。


 ここは異世界で、自分のいた世界とは違うという事。


 ────転生。


 拓海はこうして、この異世界で二度目の人生を歩み始めた──





 レオ・デイビス。 14歳。

 拓海が今、取り憑いている少年の名前だ。

 彼はデイビス家の三男で王都の騎士団を目指している。小柄でずんぐりとした丸型の体形をしており、容姿も決して良いとは言えない。ひと言で言えば、残念な顔立ちの少年だ。

 そして彼は、この容姿に只ならぬコンプレックスを抱えている。彼はその容姿と、家督を継げない三男という立場から常に屋敷では冷遇されていた。

 そんな彼──レオは今、毎日の日課である剣の稽古に励んでいた。



(レオ、お疲れ!)


『ああ』


(相変わらずハードな稽古だね)


『俺には(これ)しか生きていく道はないからな』


 魔法の才能が無かったレオは、決意の籠った目をしながら声を出さずに答えた。


(騎士団、入れるといいね)


『ああ。騎士団に入れれば俺も父様や兄様に認めて貰える。それに……可愛い彼女が出来るかもしれない!』


 レオはそう言って拳を握り絞めると、メラメラと瞳を燃やし始めた。


(レオなら大丈夫だよ)


『はははっ。ありがとな、拓海』


 レオは額の汗を拭いながら答えると、汗だくになったシャツを脱ぎ捨て、新しい物に着替えた。


(この後どうする?)


『そうだな……町にでも出てみるか』


 こうして拓海達は町へ行く事を決めると、屋敷の外へ向かって歩き始めた。





 ──そして今、拓海達は町へと向かって歩いている。


 ここはイグラシア王国という王政の国で、拓海のいた世界で言うヨーロッパ辺りに位置している。

 この世界は、拓海のいた世界──前世の世界地図にそっくりな地形をしており、中には日本らしき島国もあった。この世界では大和の国と呼ばれている。


 レオの暮らしているこの町は、イグラシア王国の中では北西にあたる田舎町、ロンドだ。

 この国には王都を中心に幾つかの町があって、其々の領地を貴族達が納めている。デイビス家もその貴族のひとつで、この町はレオの父親のジョージ・デイビスが領主として納めていた。


 王都とはこの国の王が居城を構えている都市で、この国のちょうど中心辺りに位置している。レオの目指している騎士団はその王都で、王に直接仕えている精鋭部隊の様な物だ。

 各領地には、その地を納めている貴族が独自の自警団を持っていて、ギルドと協力しながら町を魔物等から守っていた。


 王都、騎士団、ギルド、魔物……まさに拓海のイメージする剣と魔法の世界だった。



 ──屋敷を出て、しばらく歩いた拓海達の目に町の外観が見え始めた。


 煉瓦造りの建物が建ち並び、石畳で舗装された歩道を人や馬車が忙しく行き交っている。ちょうど昼をまわったばかりの町は賑やかさを見せていた。

 拓海達は、これからの予定を話し始めた。


(これからどうする?)


『そうだなぁ……あっ! 拓海、魔法が見たいって言ってたよな?』


(えっ!? うん、見てみたい!)


『じゃあ、ギルドにでも行ってみるか!』


(ギルドに行けば見れるのかい?)


『上手く魔道士のいるパーティーに入れて貰えれば見れるんじゃないか? 俺は、その……魔法は見せてやれないからさ』


 レオは自嘲気味に答えた。


(……レオ。ありがとな)


『へへっ!』


 レオは、照れ臭そうに頭を掻きながら笑った。

 そして拓海達はそのままギルド会館のある方へ歩き出した──




 ──拓海達はギルド会館の両扉を潜り、フロアの中を見渡していた。


 ギルドは国からは独立した組織で、王政の管理下には置かれていない。国は、魔物の出現等、共通の脅威が発生した場合には協力するが、基本的に運営には一切関与しない事になっている。


 身分的に騎士団や自警団には入れない者等もギルドには多く集まる為、荒くれ者が多いのも特徴だ。この日も正面の受付カウンターで、受付嬢を相手に声を張上げている輩がいた。


(何だか思ったより柄悪いなあ……)


『あんな奴らばかりじゃないよ。貴族にだって冒険者はいるからな』


 三男とはいえ、レオもまた貴族の一人である。


『それに、ギルドに出入りするのは、ああいう奴らばかりじゃないからな』


 そう言うレオの視線はフロア内に併設された酒場にいる、セクシーな魔道士の胸元に釘付けにされていた。


(…………レオ)


『あ……いや、ほら。ちょうど魔道士がいたから……』


 レオは慌てて視線を動かした。


(けど、いきなり頼んで仲間に入れてくれるかなあ……レオ、C級だろ?)


 ギルドの冒険者にはランクがある。

 上からS級、A級、B級、C級でレオは一番下のC級だった。要するに駆け出しだ。


『冒険者の殆どはB級かC級だよ。何とかなるって』


 そう言ってレオは、魔道士の方へ向かって駆け出した。

 拓海にはレオの目的が、違う事にもある様な気がしていた。エロ的な意味で。


「あの、すいません!!」


「……何かしら?」


「あの……お姉さんのパーティーで剣士募集していませんか!?」


「剣士って……もしかして貴方の事?」


「はい! これでも騎士団目指してますんで少しは役に立ちますよ!」


 そう言ってレオは力こぶを作って見せる。


「はっ! 冗談でしょ? 貴方が私とパーティー?」


 その女魔道士は鼻で笑い、答えた。


「おいおい。どうしたレナ?」


 女魔導士とのやり取りに気づいた柄の悪い連中が、レオ達の周りに集まり始めた。


「この不細工なガキが私とパーティー組みたいんだって」


「何だってぇっ!? ぐはははっ! そりゃいいっ!」


「レナ、相手してやれよ!」


 ドッと笑い声が酒場中に響いた。周りにいた冒険者達が何事かと、レオ達の方に向き直している。


「冗談っ! なんで私がこんな恥ずかしいの連れて歩かなきゃならないのよっ!」


 レナと呼ばれている女魔道士は、持っていた木製のジョッキをテーブルに叩き付けた。飛び散ったエールがレオの顔を濡らしている。


「…………」


 レオは顔にかかったエールを拭おうともせずに呆然としていた。


(大丈夫か……?)


『は……はははっ! こんなの慣れてるし何て事ないよ!』


 レオは一瞬ハッとすると、誤魔化す様に笑いながら答えたが、拓海にはレオの悲しいとも、悔しいとも取れる複雑な感情が伝わってきていた。


「あんたと私じゃ釣り合わないでしょ? 他を当たりな」


 レナは馬鹿にした様な目で吐き捨てる様に告げた。


「でっ、ですよねっ! はははっ! あんまり綺麗だったんでついっ……失礼しましたぁ!」


 そう言ってレオは頭を掻きながら笑うと、(きびす)を返し、ゆっくりとその場を離れた。レオの去った酒場では男達の馬鹿にした様な笑い声が響いていた。



 ──拓海達はギルド会館を出た。


『ダメだったなぁ……』


(気にすんなよっ! 禄な女じゃなかったし!)


『ははっ……でも美人だったからさぁ』


(いくら美人でも中身はドブスだよっ)


『美人なら性格なんてどうでもいいよ。どうせ中身なんて見えないし。それに……』


 レオは一呼吸置いてから、自分に言い聞かせるように続けた。


『人の価値は()()()()()()なんかには無いよ』



 レオは、自分がこれまで外見でしか判断されずに育ってきた事から、人間の価値は、見た目で判断する事が正しい事なのだと信じ込んでいた。彼にとって人間の価値を判断する基準は、あくまで容姿であり、他人から見る事が出来ない内面等は価値の無い物だった。彼は、容姿の悪い人間が内面を磨いても、人間としての価値が上がる事はないと思っている。彼の価値観は既に、相当歪んでいた。


(そんな事ないよ。中身が伴わなきゃ──)


『拓海にはわかんないよ。人の価値は外見(かお)で決まるんだ』


(…………)


 拓海もまた前世での自分を思い返し、複雑な気持ちになっていた。

 レオとは逆に、拓海は外見だけで判断され、誰にも自分の中身に興味を示して貰えなかった。しかし同時に、容姿に恵まれて生まれてきた自分が、レオにかける言葉に説得力が無い事も理解していた。


『それより魔法……見せてやれなくて悪かったな……』


 レオはこの話はもう終わりだと言わんばかりに拓海に語りかけた。


(気にしなくていいよ、そんなの。機会は幾らでもあるし)


 その時、ふいに拓海達に声をかける者がいた。


「──剣士さん、良かったら私達のパーティーに入って下さいませんか?」



 レオが振り向くと、黒髪の少女がニッコリ笑って微笑んでいた。



※和風ファンタジーと王道の世界観の融合……そんな世界を描きたくてこういう設定が生まれました。魔法のある世界に戦国武将……そんな感じです。因みに今回は個人的にグサッとくるサブタイトルでした……。顔じゃない! 顔じゃないよ! ←必死の訴え。


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