第13話 再生と再会
境界のない白一色の世界。
ファラシエルの去った何もないその空間で、俺は一人、転生の完了を待っていた。
肉体の再生が本格的に始まったのか、指先の方から徐々に身体が創られて行く様な、奇妙な感覚が俺を包み始めた。のっぺらぼうだった俺の身体が少しずつ色味を帯びて、バキバキと身体の内部から骨格毎創り変えられて行く。精神体だからなのか、不思議と痛みはない。腕や足が膨らんでは縮み、一度無くなったかと思えばまた新たに生えてくる。俺は軟体生物の様に再生を繰り返しながら、ボコボコと身体の組織を形作っていった。
何か、自分が人間だとは思えなくなってきたな。
若干、苦笑いで俺は自分の身体を見守っていた。やがて変成は少しずつ落ち着いていき、俺はようやく定着した自分の手の平を眺めてから、徐々に身体の其々の部位やその感覚の確認作業に入った。
新しい体は前世に比べると随分若いみたいだ。鏡が無いので顔の造りはわからないが、どうも十代後半くらいのようだ。若返った!! 体つきは、マッチョではないが適度に締まった筋肉もついていて、なかなかいい感じだ。
顔が気になるところだが……まあ、今は気にしても仕方ない。イケメンならいいんだけどな……いや、贅沢は言うまい。
身長は百七十~百七十五センチくらいだろうか……正確にはわからんが。なにしろ、ここには基準になる様な比べる物が何もない。あくまで俺の感覚だ。そして、胸元ぐらいまで一気に伸び放題になった髪なんだが……
──雪と同じ碧髪だった。
これがファラシエルの言っていた、体への影響ってやつなのかもしれない。自分じゃわからないが、瞳も同じなんだろうか?
体の力を抜いて、意識を自分の体の内面に向けてみると、体の奥底から力が沸き上がって、漲って来るのを感じる。なんとなくだが、自分の持つ能力について理解が出来た。
──こりゃとんでもないチートだ。
俺の一人遊び……妄想、夢想の賜物か。俺は自分の能力に若干、気恥ずかしさを覚えながら、この能力について何故この力が発現したのか考えていた。
やはり某アニメの影響だろうか……それとも俺が無意識に何かを求めていたのだろうか。それなら、何を求めたらこんな能力になるんだろうか。そんな事を考えていると、ふと背後に人の気配がした。俺はそこにいる人物を確信して、ゆっくりと振り向いた。
(雪……)
そこには綺麗な淡い水色の着物を着て、生前よりも瑞々しい姿の碧髪碧眼の美少女──雪がいた。
『真人さん……』
雪の瞳には今にも零れそうな程涙が溢れている。
(やっと会えたな、雪。まあ、俺は前世の姿そのままではないみたいだが──)
言い終える前に、雪が俺の胸に飛び込んできた。俺はそのまま、雪を黙って暫く抱き締めた。ようやく自分の腕で抱き締めてやる事が出来たのが嬉しくて、つい力が入り過ぎてしまう。
『苦しいです、真人さん』
そう言いながらも、雪は目に涙を浮かべながら笑っていた。
(すまん、つい)
俺は苦笑いをしながらゆっくり両手を雪の肩において、息のかかるギリギリくらいの距離をとった。
『まさかこんな形で真人さんに会えると思わなかったです』
(精神体だけどな)
『けど、その髪の色……瞳も……』
(綺麗だろ? あ、やっぱり瞳も雪と同じなのか。自分じゃわからんからな)
『瞳も……同じです。もしかして私のせいですか?』
(雪のせいじゃない。俺が望んだからだ)
『……』
雪は最初、申し訳なさそうな顔をして考え込んでいたが、すぐに顔を上げると吹っ切れた様にニッコリ笑った。どうやらもう、自分の髪や瞳の色の事で落ち込むのは止めたらしい。
『そうですか……なんだか照れ臭いですね。私も真人さんと同じなのは嬉しいです。それで、あの……ここは、真人さんの中ですか?』
(そうだな。みたいなもんだ。女神に頼んで雪の魂をここで起こして貰ったんだ)
実は俺は、現実世界に戻る前にどうしても一度、雪に会っておきたかったのでファラシエルに頼んでこの状況を作って貰った。
(いきなり俺の中で目覚めたら混乱すると思ってな。俺がそうだったから……)
『そうだったんですね。ありがとうございます。今の状況なんですけど……何となくですが不思議と理解出来るんです。多分、真人さんの意識が私に影響してるんじゃないかと……それに、ちょっと前までは似たような状況だったので。今度は逆ですけど』
そう言うと雪は悪戯っぽく笑って見せた。
(そうだな。理解が早くて助かる。簡単に言えば雪の言う通り、今までの俺達の関係が逆になっただけだ)
俺は雪に理解出来るよう、今の状況を整理、再確認する為に説明する事にした。俺が憑依していた時と若干だが違うところがあるからだ。
(逆になっただけで、基本的には今までの関係と同じだが、今回は少し違うところがある。俺が雪の中にいた時には出来なかった事だ。俺の時は雪の視覚と聴覚しか感じ取れなかったんだが……意識すれば味覚も感じ取れるようになった。つまり、俺が食事をすれば、雪も食事した感覚になるって事だ)
俺は雪にもっと美味い物を食べさせてやりたかった。そんな思いからファラシエルに頼んで味覚を共有出来る様にして貰ったのだ。
(それから、俺の魂の中にいる間だが……雪もここと同じ様な、自分だけの空想の空間を創造出来るはずだ。今いるこの白い世界は俺の創造した世界だから、本来なら誰も立ち入れない。しかし雪ならこことは別に、俺の中で自分の空間を創る事が出来るはずだ。その空間の中でなら体を持って過ごすことも出来るし、眠る事も出来る)
これなら俺が眠っている間でも雪に苦痛は無いはずだ。何も出来ないのに眠れないのは辛いからな……
本当にこれがベストなのかはわからないが、俺なりに改善出来るところはしたつもりだ。後はこれから、一緒に過ごしながら考えていけばいい。今のところこんなもんだろう。
『何だか思っていたより自由なんですね。何より、これからも真人さんと一緒にいられるんですね……今度こそずっと一緒に』
(そうだな。本当の意味でずっと一緒だ)
『凄く……私、凄く嬉しいです。これから、その……変な感じですがよろしくお願いします』
雪は頬を薄らと紅く染めながら俺を見上げると、その後、腰を深く折り曲げてお辞儀をした。
(そうだな。こちらこそよろしく頼む)
俺は、雪の頭を軽く撫でながら視線を遠くに向けた。
世界がぼやけ始めている。
(いよいよか……)
──どうやら、そろそろ現実の俺の体が目を覚ますらしい。
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