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06 SAFE THE BEAR

 魔都に乗り込むため、人目を避けて進むつもりだった森の奥。

 そこで私は、とんでもないものと遭遇してしまった。


 劣等竜レッサードラゴン。


 本来のドラゴンから魔力と知性が奪われ、肉体的暴力のみとなってしまった単純災厄。

 それだけでなく、そのレッサードラゴンと互角の攻防を繰り広げる謎のモンスター。

 クマ型。

 よくはわからないけれど、レッサーとはいえドラゴンとまともに戦えるのだからザコではないと思う。


 無秩序なドラゴンからの攻撃を的確に捌きつつ、隙を見出してはカウンターの爪を叩きこんでいる。


『クマの方は、かなり知性が高そうだな……』


 森の中、私は木の幹から伸びる大枝の上に立ち、枝葉に身を隠しながら戦いを見守っていた。

 ここなら存在に気づかれることはまずないだろう。


 そうして高みの見物を決めこむ状況から……。


『どうする? ドラゴンの味方をするか? クマの味方をするか?』


 と聖剣に方針を問われる。


『いや、それ以前に戦いに加わるかどうか自体決めた方がいいがな。一番順当なのは、このまま見物を続行する』

「……」

『決着がつくのを待って、そして勝った方をオレたちで倒す。どっちが勝っても疲弊しているだろうから、普通に戦うよりは楽に勝てるはずだ』

「それって、ズルくない?」

『戦いは結果がすべてだぜ。モンスターにしろレッサードラゴンにしろ人にとっては大きな脅威だ。ここで両方とも倒しておくのが最適解だろう』

「そうよねー」


 聖剣の言っていることは全面的に正しい。


 私たちは発見されていないのをいいことに、このまま静観し続けて決着がついたあとに美味しいところをもっていこう。

 つまり漁夫の利作戦。


 ガツンガツンガツンガツン。


 肉と肉がぶつかり合うにはあまりにも剛直な、筋肉の衝突音が響き渡る。


『……どうした? クマの動きが止まったな?』


 聖剣の解説通り、それまで可能な限りレッサードラゴンの爪をヒラヒラかわしていたけれど、あるタイミングから石のように固まって、正面から受け止めている。


 クマモンスターは、そりゃ人から見れば巨体だけれど、ドラゴンはさらにその何倍も大きい。

 正面からぶつかり合えば小兵の方が不利であろうに、何故回避を辞めてしまったのだろうか。


『まあ、順当に行けばやっぱりドラゴンの方が勝者だろうよ。覚悟しとけ勇者、オレと組んで、いきなり竜殺しになれるチャンスが来たぜ』


 たしかにこのままならクマはレッサードラゴンの前に敗れ去るだろう。

 でも。


「ズィーベングリューン、出るよ……!」

『え?』


 私は、乗っている枝から跳躍。

 枝のしなりを利用して天高く舞い、レッサードラゴンの頭上に飛び出る。


「絶好の……、きゃッ!?」


 想像以上にレッサードラゴンの動きは速い。

 完全に不意打ちできたと思ったのに、それでも反応されて間に合われた……!


 ドラゴンの尻尾に叩き落とされる。

 凄まじい勢いで地面に叩きつけられながらも、受け身を取って着地。

 ベラスアレス様の修行を受けていなかったら全身の骨が砕けて死んでいただろう。


『お前、バカか!? 参戦するのはクマとドラゴン、どっちかが倒れてからって言っただろうがよ!』


 クマさんの方も、突如現れ私たちに戸惑いを見せながらも、しっかり警戒の体勢を追っている。


『ああもう! クマも完全にこっちに意識を向けてやがる!! 最低、この二体を同時に相手にしないといけなくなるぞ!』

「ううん、そうはならない」


 私は、鏖聖剣をかまえレッサードラゴンに対峙した。

 クマさんの方には、何の警戒も払わない。


「聖剣、クマさんが急に動かなくなったの、なんでだと思う?」

『は?』


 ドラゴンと戦っていたクマさんは、敵との体格差を理解してしっかり攻撃回避に専念していたのに、ある時から足に根が生えたように動かなくなり、正面から攻撃を受け始めた。


 明らかな不利だとわかっているのに。


「私はそれが気になって仕方なかった。それで、クマさんの背後に注目してみた。クマさんの後ろに生えている木、根元に大きな洞があるでしょう?」


 犬猫でも入れそうなぐらいの大きさの。

 その洞の中に、実際生き物がいた。


 人間の小さな女の子。


『人がいた!? マジかよ!?』

「クマさんが動かなくなったのは、女の子が避難している木を、ドラゴンから守るためよ!」


 その身をもって子どもを庇っていた。


「あのクマさんが何者かは知らないけれど、人を守ろうとするならいいヤツよ! 私はいいヤツの味方をする! 何故って勇者だから!!」


 私をも完全に標的と見定めたレッサードラゴンが、こちらへ爪を振り下ろす。

 ドラゴンの巨体から繰り出される攻撃は、空が丸ごと降ってくるかのような迫力だけど、鏖聖剣で受け止める。


「はあッ!!」


 刀身を巧みに操り、ドラゴンの爪先を絡めとって跳ね上げると、同時にドラゴンの指一本が飛んだ。


『ギャアアアアアアア! オオオオオオオオオッッ!!』


 痛みに呻くドラゴン。


『当たり前よ! オレ様こそ冥神ハデスの生み出した七聖剣の一振りだぜ! 魔力を失い、魔法障壁すら展開してないドラゴンぐらい斬り刻めなくてどうするよ!!』


 得意げになるのはいいとしても、まだ戦闘続行中なので油断しないでね。


 横では、クマさんもドラゴンのもう片方の腕を全身で受け止めている。


「クマさん! そのまま!」


 膠着状態となっているドラゴンの前足に、鏖聖剣を振り下ろす。

 気持ちいいぐらいにスパッと切断。


 たった一、二合の指一本と腕一本を失った竜。

 痛みにたじろぐ。


「凄い……! ドラゴン相手にここまで戦えるなんて……!!」


 私にだってわかる。

 この力は元々私に備わっていた力ではない。


 戦いの神ベラスアレス様に漬けてもらった半年間の修行。

 そしてこの手にある鏖聖剣ズィーベングリューンの斬れ味あればこそドラゴンと互角以上の戦いをできている。


 かつて、目の前に現れたドラゴンに戦慄して呼吸もできなかった私とは違う。

 明らかに成長しているんだ!


「グルアアアアアアアッッ!!」


 ッ!?

 クマさんが、突如唸り声を上げてドラゴンに突進した!?


 全力の体当たりにドラゴンはよろめき、バランスを崩す。


『チャンスだ勇者!!』

「えッ!?」

『わかんねえのか!? あのクマはアシストしやがったんだ! 即座にこっちの戦力を見抜いて、お前ならドラゴンにとどめを刺せると、その隙を作りやがったんだよ!!』


 ……ッ!?

 たしかに。


 バランスを整えようとするドラゴンにさらに追い打ちをかけて、注意を自分に惹きつけるクマさん。


「やるよ……、聖剣!」

『おうよ、クマのおかげで余裕はたっぷりある。焦らず力を溜めろ……!』


 ズィーベングリューンの刀身から、深緑の剣気が宿る。

 まるで弓を引き絞るイメージで刀身に力を凝縮し、一気に解き放つ。


「斬れちゃえええええええええええええッッ!!」


 鏖聖剣を振り下ろすとともに放たれる深緑色の剣閃が、レッサードラゴンに命中した。


 まばゆい光にしばらく目が眩んだけれど。


 やがて光が収まり視界がハッキリした時、私の目に映ったのは、真っ二つになって絶命したレッサードラゴンの姿だった。


「勝った……!?」


 ドラゴンを撃破した。

 かつて視界に入れてしまっただけで、すくんで何もできなかったドラゴンを……!


「やったー! やったー!」


 私はもうあの日の弱い私じゃない。

 あの日動くこともできなかった相手、ドラゴンに勝つこともできるぐらい成長したんだ!


 ベラスアレス様との修行の日々は無駄じゃなかった!


『いや……、勝ったゆーても、モノホンドラゴンより数段格落ちしたレッサードラゴンだからね!』


 やったー! 勝った!

 私凄い!


 私勇者!!

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