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05 ある森の中

 鏖聖剣ズィーベングリューンはなおも語る。


『それにオレとお前の目的は、恐らく一致しているぞ?』

「一致? なんで?」

『「神聖障壁」を破ったのは魔族の連中だ。だからこそヤツらは人間国に侵攻してきた。「神聖障壁」を壊したのが真聖剣によるものなら、真聖剣は魔族が保有している可能性が高い』


 なるほど。


『具体的には、魔族のかなり上位の存在が得物としていることだろう。魔王か、その腹心の四天王か。それはお前にとっての標的にもなるだろう?』

「そうよね!!」


 勇者として、やっぱり魔王を倒すのを目指さなきゃね!

 たしかに目的は一致するわ!


『序列から言って、真聖剣の所有者第一候補も魔王だ。ここはお互いの目標のために、魔王を目指すのがベストなんじゃないのか?』

「異議なし! 行きましょう魔王の下へ!!」

『よろしく頼むぜ相棒!!』


              *    *    *


 こうして私は勇者として聖剣と共に魔王の下へ向かうことになった。


 オリュンポスから下山し、私は今鬱蒼とした森の中を進んでいた。

 案内は聖剣さん。


「……ねえ、この道で本当に合ってるの?」


 人気のない森の奥、長く進んで何の変化もなければ道間違ってるんじゃないのと不安になるのも仕方のないこと。


『任しとけよ。オレは冥神ハデスから地上へ放たれる時、大体の地理をインプットされてきた。強いヤツが集まるだろうからって、魔都の位置は特に明確に覚えてるんだぜ』


 その情報を頼りに魔都を目指すという。


 魔都と言えば魔族の本拠地。ならばそこに魔王がいる可能性はひたすら高い。


『それに人間国が滅びた今、お前だってお尋ね者だろう? 人のいる街道を大っぴらに歩ける身分じゃねえだろうに。こういった裏道を進むのが適切じゃねえか。文句言わずに進もうぜ』

「そう言われると、そうだよねとしか……!」

『険しい山間部をぐるっと回って、人に会わない安心コースで魔都を目指す。目的地に達するまでトラブルは避けたいだろ?』

「うん……!」


 剣に言い負かされちゃうアタシって……。


 私の精神に直接語りかけてくる聖剣は、私の心の中のつぶやきも明確に読み取って、会話しようと思えば心の中だけでもできるけど、つい口に出しちゃうのは慣れが足りないから?


「聖剣って、皆アナタみたいに意思をもって、お話しできるものなの?」

『すべての聖剣に意思はある。ただ人と意思疎通できるのはオレだけだ。オレはベラスアレスに回収されたあと、天界で微妙なメンテナンスを受けたからな。マスターとして認定された剣士とだけ対話可能になった……』

「色々限定されてるんだね……」

『そうだなー、どうせ改造するなら性能も上げてほしいと思うんだけど、メンテ担当した神が「せ、せ、制作者の意図に反した機能追加はボクのポリシーに反するんだな」とか言ってさー、つまんねーよなー』


 なんすかそれ?

 細かい機能は追加されたけど、戦闘力自体は据え置きってこと。


『だから早く、他の聖剣へしおってパワーアップしたいぜ。一刻も早く魔都へ到達しよう!』


 何だか物騒な物言いの聖剣だった。

 この血の気の多さは、勇者である私には不釣り合いかもしれない。


「でも、こんな険しい森の中を何日もかけて突っ切るのは、さすがにしんどいわよ? 食料の備蓄も心配だし……」

『その辺の木の皮剥して食えばいいだろう? 勇者が空腹程度で音を上げるんじゃねえよ』


 この剣……!

 自分が器物だから、食事をとる必要がないからって……!


『どうしても腹が減ったんなら動物でも狩って……! おう?』

「どうしたの?」

『噂をすれば影だぜ。獣の匂いがしてきやがる』


 ん?


 私も、ベラスアレス様との修行で鍛えられた感覚を研ぎ澄ませ、周囲を窺う。


 静謐であるかのように感じた森の中から、かすかなる喧騒が木々の間から漏れ聞こえる。


「それに獣の匂い……?」

『随分遠くだが何かいるな。どうする? 上手くいけば夕食にありつけるかもしれんが?』

「そうね。マジで草や木の皮が御馳走なのは勘弁だし、試しに行ってみてもいいか」


 私は地面を蹴ってジャンプ。

 前の世界にいた時からは考えられない跳躍力で、木の枝の上に乗った。

 元の世界だっから間違いなく垂直飛びの世界新。

 これもベラスアレス様との修行のお陰よ。


「あっちに気づかれないように接近するわ。速やかにね」

『お好きなように』


 次々枝を飛び移って、気配を察した先へと向かう。

 進むたび、気配が濃くなるほどに、まだ目に見えない先の状況が推測できて、輪郭が明確になってきた。


「……戦っている?」

『そうだな。少なくとも二体以上、ガチの殺し合いをしていやがる。しかもただの戦いじゃないぜ。空気をビリビリ振るわせる衝突。こんなのは人や動物の出せる物じゃねえ……』

「モンスター」


 私も勇者として召喚されたからには、モンスターと戦ったことがある。


 大体は魔族が使役するオークやゴブリン、スケルトンばっかりだったけれど。今向かう先から響いてくる戦いの圧力は、そんなザコモンスターとは比べ物にならない!?


 一体何と何が戦っているというの!?


              *    *    *


 現場に到着して、私の顔から脂汗が噴き出した。


「ドラゴン……!?」


 そこにいたのは、なんとドラゴンだった。

 初めて見たわけではない。


 忘れもしないドラゴンとの初遭遇は、魔族との戦場で。

『聖者キダンの下僕』と称するドラゴンの気迫に、私は圧倒されて動くこともできなかった。


 今日目撃したのは、それとは別の個体だろうけれど、やはり圧倒感は格別。足が硬直して動かない。


『怖気づくなバカ!』


 聖剣からの叱咤で、乱れた心が収束する。

 それがなかったらいよいよ腰を抜かしているところだった。


『ビビってんじゃねえ! あんなの、ただのレッサードラゴンじゃねえか!!』

「レッサードラゴン?」

『ドラゴンから知性と魔力を奪い取ったのがレッサードラゴン。残っているのはパワーだけ。もちろん本物のドラゴンから見ればなんてことのないザコだ!』


 レッサードラゴン。

 あれが……!?


 たしかに、その動きをよく観察してみると、やたら吠えて荒ぶったり、無駄に同じ動作を繰り返したりして、知性が感じられない。

 前に出会ったドラゴンとは覇気からしてまったく違う。


『オレもドラゴンの業界には詳しくないが、竜の皇帝ガイザードラゴンの勘気に触れた罰として知性魔力を奪い取られることがよくあるらしい。そうなったドラゴンは獣に成り果て、二度と元には戻らないと……!』

「あのドラゴンは、別の偉いドラゴンを怒らせたせいで、ああなっちゃったってこと?」

『さあな、ただ言えるのは、知性のないドラゴンなんてただのデカいトカゲってことだ。必要以上にビビったら勇者の名が泣くぜ……!』


 聖剣の言う通りだ。

 たしかに落ち着いてよく観察すると、今目の前にいるドラゴンから感じる圧倒感は、前にあったヤツよりも数段落ちる。

 私は過去の記憶を刺激されて、過去の幻影に怯えていたの?


 情けない。しっかりしなさい私!


「……で、レッサードラゴンって食べられるのかしら?」

『落ち着きを取り戻したと思ったら! ……まあ、たしかに最初はそういう話だったけど、さすがに無理じゃね?』


 ドラゴンは食べられないのか。

 うーむ、残念?


「でも、ここまで来る途中に察した気配では、何かが何かと戦ってたわよね?」

『うむ、衝突の振動がビンビン伝わってきたな』


 私たちの推測が確かなら、ここにはレッサードラゴンの他にもう一つ何かがいて、しかもそれはレッサードラゴンと戦っているはず。

 でも、それらしいものの姿は確認でき……!

 ……いや。

 いる。


 私のいる位置からじゃレッサードラゴンの巨体の陰になって見えなかっただけ。

 でもたしかにいて、あの堕ちたドラゴンと正面から戦いあっている。


 その何者かの正体は……。


 クマ。


「クマがドラゴンと戦っている!?」


 何故クマ!?


 強力な生物であろうことはたしかだけど。

 クマはドラゴンと正面切って戦っていい生き物なんですか!?


『あのクマ。ただのクマじゃないな……?』


 えッ? そうなの?

 ただのクマじゃないクマって、たとえばイノクマ?


『あれはモンスターだ。クマ型モンスター』

「モンスター?」

『オレも知らない種類だが、モンスターであることはたしかだ。新種か? しかしレッサー化したとはいえドラゴンと正面切って渡り合えるとはな……』


 そのクマ型モンスターとレッサードラゴンとの戦いは一進一退で、形勢は拮抗。しかしどちらの方にも一気に傾いたしまいそうな危うさがあった。


『……で、どうする?』

「え?」


 聖剣の感情ない問いに、私は戸惑う。


『向こうはオレたちの存在にまだ気づいてないようだ。かなりいい立ち位置にいるということだ』


 この戦いに介入するとするなら。

 どっちの味方をする?


 レッサードラゴンか。

 それともクマか。

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