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04 聖剣との出会い

 ベラスアレス様との修行を終えた私は、オリュンポスから下山する。


 凄まじい力を手に入れた。


 今の私は、山に登る前とは比べ物にならないほど強い。


 今の私なら烈○王にだって勝てる気がする。


 この力をもって、人族に戦う。

 つまり魔国に攻め入って魔王を倒せってことですね!? ベラスアレス様!!


 わかりました! この勇者モモコ、アナタに授かった力をもって必ずや魔王を打倒してみせます!!


 そこでまず、私は下山ルートにベラスアレス様の示してくださった道順を通っている。

 行きとはまったく違うルート。

 登山にはよくあることよ。


 ベラスアレス様の話では、ここを通るとめがっさいいことがあるという話だが。

 一体何なのだろう?


 神様たちの協定で、人にたくさん色々与えてはならないとかで、こんな回りくどいことしてるんだろうけど。


「パパッと手渡してくれたら早いのになあ……」


 しかも、このルートで遭遇できる『何か』が一体何なのか?

 私はベラスアレス様から一言も聞いていない。

 険しく、障害物の多い山道で、見逃す可能性はゼロじゃないどころかけっこう高い。

 知らない間に通り過ぎていた、とかなってたら最悪なんですけど。


 とまあ心配しながらの下山だったが、そんな心配まったくの杞憂だった。


 それ、は……。


 遥かな距離を隔てながら、しっかりと私に存在を示した。


 まばゆく輝きながら。


「えッ!? 何!?」


 光。

 どこかから鋭く差し込む。

 その光源に向かって、私は山道を駆け下りる。


 すると辿り着いた。

 光の大元。


 そこには剣があった。

 万年雪の降り積もるオリュンポス山の中腹に、光り輝く剣が深々と突き刺さっていた。


「剣? これが……!?」


 ベラスアレス様の贈り物?


 そうとしか考えられなかった。

 たしかにこれから魔族と戦っていくに際し、武器は必要不可欠。


 一応手元には王様から貰った人間国最高の宝剣とか言うのがあるけれど、これどう見ても鋼の剣。しかも余りで出来よくなさそう。


 代わりに神様プレゼンツのいかにも強力そうな剣を使えるなら、それはもう心強いんだけど。


 これはもう強いでしょう?

 だって光り輝いているし!?


 絶対光属性的なアレよ!

 魔王を倒すために必要だと思ってるようだが、なくても倒せる的なアレよ!


 遠慮せずに頂いておきましょう!


 剣、いかにも伝説風に地面に突き刺さっている。

 マスターな剣みたいに!

 それを右手、左手と柄に添え、お尻の穴に力を込めて、下から上へと引っ張る。


「ふんぬぬぬぬぬぬぬぬぬ………………!」


 はぎゃー!!

 抜けた!!


 力を込めてたくさん抜けました。


 デデデデーン!

 勇者は聖剣を手に入れた!!


 いや、聖剣かどうかは知らないけれど。


『いや、聖剣だよ』


 ええッ!?

 何今の!? 『声』が聞こえてきたわよ!?

 頭の中に直接語りかけてくるような!?


『オレだよオレ、オレがお前に語りかけているんだよ』


 精神的オレオレ詐欺!?

 振り込めっていうの!? でも異世界にATMなんかないわよ!?


『何をわけのわからんことを。オレはお前が今、手に持っている剣だよ』

「剣?」


 思わず声に出して確認してしまう。


『その通り、冥神ハデスが生み出せし七聖剣のうちの一振り、鏖聖剣ズィーベングリューンとはオレのことだ』


 と声。

 おうせいけん?

 聖剣?


 つまり、この剣は自分で意思をもって喋ってるってこと!?

 剣が!?


『そういうことだよ。三界の一つを支配するハデス神が創造した聖なる剣だもの。意思もあるし喋りもするさ』


 そういうものなんですか!?

 最高神が作った聖剣!

 なんか凄そうですね!?


『今日からオレが、お前の武器になってやるよ。それが負け戦の神ベラスアレスが勇者のお前に贈る餞別だ。勇者に聖剣、これほどしっくりくる組み合わせはねえじゃねえか?』


 素晴らしい!

 これで私の戦力大幅アップというわけね!


 さすがベラスアレス様、心憎い気づかい!


『冥神ハデスの作り出した聖剣の力、千年かかってやっと振るう機会を得たんだ。暴れてやるぜ!』


 …………ん?


「ちょっと待って? アナタってハデス神が作ったっていうの?」

『だからそう何度も言ってるじゃん?』


 それっておかしくない?


「冥神ハデスって、魔族側の神様でしょう? そのハデスが作った剣がなんでベラスアレス様から私に手渡されるの?」


 ベラスアレス様は人族側の神様なんでしょう?

 いわば敵同士。

 そんな神々の手をどうして渡り歩いているの?


『そこは色々と事情があってな、順を追って説明してやろう』


 説明してくれるんですか。


『オレが冥神ハデスによって創造されたのは事実。冥府の主にして地母神の夫であるあの神は、オレを含めて七振りの聖剣を同時に作り出した。


 怒聖剣アインロート。

 貪聖剣ツヴァイブラウ。

 邪聖剣ドライシュバルツ。

 堕聖剣フィアゲルプ。

 怨聖剣フンフヴィオレット。

 妄聖剣ゼックスヴァイス。


 そして鏖聖剣ズィーベングリューン。

 私の持っているこれね。


 それらの聖剣は、『神聖障壁』を壊すためにハデス神が送った魔族への手助けらしい。


『「神聖障壁」は天神ゼウスが用意した人魔戦争の人族側の切り札だ。「神聖障壁」ある限り魔族の方から人間国に攻め込むことはできない』

「それを何とかするために、聖剣が作られたと?」

『そうだ、七振りの聖剣が戦い、殺し合うことで真の聖剣が完成する。他六剣の力を吸収し、一まとまりとなった真聖剣は「神聖障壁」を打ち砕くことができる』

「なんでそんな回りくどいことを……?」

『冥神ハデスと言えども、そこまで全知全能ではない。造形神ヘパイストスならともかく、「神聖障壁」を砕くほどの聖剣をまるっと作り出すことはできなかったのだろう』


 だからハデスは、自分に作れる最高のクオリティの聖剣を七本も作り出して、互いに戦わせることで強化しようとした。


『加えて「さらなるものを与えてはならない」という神々の取り決めに抵触しない抜け道のつもりでもあるんだろう。「神聖障壁」を破る切り札ではなく、役立たずの聖剣を地上にばら撒いただけにすぎないという……』


 どの神様も大変だねえ……。


『しかし、そんな冥神ハデスの計略に気づいた者がいた。それがベラスアレス神だ。聖剣が地上に放たれた直後、ベラスアレスは密かに聖剣の一振りを回収し、天界に保存した』


 そっか。

 一つでも聖剣が失われて、聖剣同士の戦いに参加できなくなれば決着は永遠につかず真聖剣は完成しない。


 それを狙ってベラスアレス様は、この聖剣を天界に持ち去ったんだ。

 頭いい。


『しかし、その工作も無意味になった。「神聖障壁」が壊されたからだ』

「ええッ!?」

『でなければ魔族どもが人間国に攻め込める道理がない。魔族どもはどういう方法を使ったのか知らんが、このオレ抜きで真聖剣を完成させやがったんだ』


 そうだよねえ?

 七本の聖剣が戦いあって、たった一本まで残ってついに完成する真聖剣。


 そのうちの一本、鏖聖剣ズィーベングリューンが天界にあるというのに真聖剣は完成し、『神聖障壁』は壊されてしまった。

 これはミステリー?


『「神聖障壁」が壊れた以上、もうこのオレを天界に隠匿する意味はない。だからお前の武器として放出することを決めたのだろう。オレにとっても望ましいことだ』

「どうして?」

『オレがいない間、他の聖剣どもがどうやって戦い、どうして真聖剣が完成してのか突き止める。そして今からでも残った聖剣を倒し、オレこそが聖剣の頂点に立つ!!』

「好戦的だねえ……!」

『剣に生まれたからには当然のことだろう? 戦いの道具が戦いを欲せずしてどうする!?』


 なんか納得してしまう理屈だった。


 これが私と聖剣との出会い。

 私はこの異世界を生き延びる、最良の相棒を手に入れたのだった。

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