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35 ダンジョンで雑談

 そうしてしばらく私は、一緒にダンジョンを攻略してカトウさんの戦い方を学ぶ。


「僕自身も最初はね、こんなスキル何の役に立つのかと思ったよ。ただ体毛が伸びるだけとかね。でも色々試していくうちに色々できるようになってさ」


 私たちの目の前で、大カエルのベルゼブフォが身動き取れなくなっていた。

 別に死んでもないし怪我してもいない。

 万全状態でも指先一つ動かせないのは、黒い糸でがんじがらめに縛られてるからだった。


「これ……、昨夜神官たちを縛ったのと同じですよね?」

「そう、髪の毛だよ」


 この黒い糸が髪の毛!?


「人毛って意外に強度があるのは有名な話だからね。聞いたことない? お寺の鐘を女性の髪の毛で吊るしたって話?」


 だから細い髪の毛でも、充分動きを止めることができる……!?


「ハサミやナイフで切ったりはできるけど、引きちぎるとなったら人の筋力じゃまず無理だね。他にも……」


 カトウさんは、人差し指を私に向ける、そして指の上部からニュルリと伸びてくる毛が……。


「ひぃッ!? 今度は指毛!?」

「大丈夫、動かないで」


 でも気持ち悪いものは気持ち悪いです!

 指毛の先が私に触れ、いよいよゾクゾクしてきたら……。


『あーあー、聞こえるかね?』

「!?」


 聞こえる。

 声が!?

 これは昨夜、セレナちゃんが人質に取られていた際に聞こえたのと同じもの!?


 その声の主はカトウさんだと、もう判明したけれど……。

 気づけば私に触れているカトウさんの伸びた毛が、ピンと張っていた。

 真っ直ぐな毛が振動で揺れている。


「これはッ! 糸電話の原理!?」

「案外便利だよ。モンスターから隠れつつ、密かに仲間と意思疎通したい状況なんてしょっちゅうだもの」


 一件何の役にも立たないと思われる変なスキルを、鍛えて研究して万能の域にまで高める。

 それがこの人を異世界で、今日まで生き残らせたんだな。


「でも過信はいけない。どんなスキルにも限界はある」


 そして慢心しないS級冒険者。


「髪で敵を縛れると言っても、通用するのは精々三つ星のモンスターまでだ。それ以上いくと普通にパワーで引きちぎってくる」

「髪の毛を引きちぎる!?」

「S級冒険者でもまともに相手ができるのは精々四つ星までなんだよ。五つ星モンスターまで行ったら蹴りらされるばかりだし、ダンジョン主のドラゴンやノーライフキングにまでなったらとてもとても……!?」


 だから昇格しても決して万能感に浸らないでねとカトウさんが言う。

 実際B級やC級に昇格したばかりで調子に乗ってしまい、平凡なミスで帰らぬ人となることが実に多いらしい。


「S級に過剰な憧れは持たないでね。どっちかっていうと強さよりは生き延びる能力でのし上がってきた人たちだから」

「なんだか意外ですね。人族のS級冒険者といえば、魔族の四天王に相当するぐらいかと思っていましたが」


 セレナちゃんが口を挟む。


「四天王とS級冒険者が正面から戦ったら、まず間違いなく四天王さんが勝つと思うよ? 向こうには魔術魔法があるでしょう? 火力が違い過ぎるよ」


 人族の魔法は教団が独占している。

 そう考えると人族の冒険者さんたちって厳しい状況で戦ってるんだなあ。


「それでも、たとえば一緒にダンジョンの中に放り込まれたとしたら最後に生き残るのは僕たちだろうけどね」


 そこはハッキリ言いきったカトウさん。

 あるべきところでは自信に満ち溢れている。


「それぞれの発揮する強さの種類があるということなのですね」

「まあ、それでもS級冒険者の待遇は四天王並みにいいと思うよ? 何にせよ人族最高峰の技量者だから色んな方面から優遇してくれるし……。……あ!」


 どうしたんですカトウさん?

 急に何か思い出したようなそぶりを見せて?


「優遇で思い出した! モモコちゃんにプレゼントしたいものがあったんだ!?」


 私にプレゼント!?

 S級冒険者から!?


 何ですそれは? 冒険者必須の七つ道具とか!? S級カトウさんからのお下がりの伝説装備とか!?

 嫌でも期待が高まる私の手の平に……!


「はい、どうぞ」


 ポンと置かれたのはパンツだった。

 女性用のパンツ。

 シルクの刺繍入り。


「あれ? なんで聖剣振り上げるの? そしてこっちを狙ってるの? なんで!? 気に入らなかった!?」

「まさかファンタジー異世界にまで来てセクハラを受けることになるとは思いませんでしたよ……!」


 カトウさん好青年だと思ってたのに。

 裏切られた!!


「待ってほしい。これもS級冒険者が優遇されている結果なんだ。説明を聞けばわかってもらえるに違いない」

「優遇からどうパンツが繋がるんですか!? セクハラしても咎められない特権ですか」

「順を追って話そう。発端はやはり人間国が滅んだことから」


 魔王軍が人族の領土に入って統治を始めたことで、代わったことがいくつもあった。

 その一つが、交易。

 魔国と旧人間国が商売を始めた。


 戦争中は当然のように国交断絶。経済の繋がりもなかったのだが、魔王軍に支配されたおかげで大手を振って両国の特産品が互いに入ってくるようになる。

 お金で買えるようになる。


「そこはS級冒険者はお得でね。魔国の商品を優先的に取り寄せられる特権を貰えたんだ。通販だね」

「マジで?」

「試しに色々買ってみたら、一つ滅茶苦茶いいものを見つけてね。服なんだけど」


 服!?


「ファームとかいうブランドの服がめっちゃ肌触りが良くて、着居心地よくて。まるで前の世界の服を着ているような感じなんだよね」

「あ、それ私も聞いたことがあります」


 セレナちゃんまで話に食いついてきた!?


「今、魔都で大ブームになってる新ブランドですよねファームって。魔王妃様も愛用していて、貴族や将校がこぞって手に入れようとしているとか。そんなものを国外から取り寄せられるなんて、やっぱりS級冒険者は凄いんですね!?」

「とは言っても売れ残りをテキトーに詰めて送ってもらうのが精々なんだけど。その成果変なものが混じっちゃってさあ。それがこのパンツ」


 このパンツだったの。


「女性用なんて僕にはどうにもできないし。せっかくだからモモコちゃんに上げるよ。有効に使ってあげて?」


 なるほど……。

 つまりこれが魔族さんたちの使う中でもっとも高級なパンツ。


 見た目は前の世界で穿いてたパンツに瓜二つなんだけれど?

 こっちの世界で、ここまでのクオリティのパンツにお目にかかったことは一度もない。


 皆、麻製のチクチクするパンツなんだもん。

 お尻にチクチクする感触があって穿いてられないし、元々あっちの世界から穿いてきたパンツは当の昔に擦り切れてしまった。


 そして今……。

 様々な因果を巡って私に手に、現代風パンツが……!?


「じゃあ、せっかくなので穿いてみることにします。カトウさんは向こうに行っててください」

「え!? まさか今ここで!?」

「覗いたらぶっ殺しますからね!? 絶対覗かないでくださいよ!?」


 追い立てられてダンジョンの曲がり角へ消えていくカトウさん。

 それでは息を整えて、私はパンツを穿いてみた。


「凄い穿き心地がいい……!?」


 お尻を包み込むシルクの感触が素晴らしすぎて泣いた。

 異世界召喚されたからこそ味わえる感動。

 パンツを穿けるってこんなにも素晴らしいことだったのね。


「っていうかなんでパンツ穿いてなかったんですか?」

「ぎゃあッ!? セレナちゃんに一部始終を見られてた!?」


 女の子同士だから別にいいか!?


「しかたないでしょう!? 異世界から来た私にとっては譲れない拘りがあるのよ! 麻パンツなんか穿いてお尻がチクチクして鮫肌になるぐらいならノーパンで通すわ!!」


 それに比べて、このパンツは最高よ! シルクよシルク!!

 こんな素晴らしいパンツをこっちの世界で作れるなんて! 魔族は凄すぎだわ戦争で勝てるわけね!?


「そんなに凄いんですか? やはり大ブームブランドは違うんですね。……私も欲しくなってきましたけど私程度の安月給じゃとても……!」

「カトウさん! カトウさーん!!」


 呼ばれて物陰から出てくるカトウさん。

 覗いてないわよね?


「覗いてないよ!? ……えっとどうだろう? 気に入ってくれた!?」

「お願いです!! これからも魔国の服を取り寄せる時は女性用下着も一揃い! お金は出します! 必ず払いますから! お願いします!」

「ええええええええッ!?」


 縋りつく私にカトウさんは困惑なのであった。


「できればセレナちゃんの分も一緒に! 彼女に! 彼女に教えてあげたいんです! お尻をシルクで包まれる感触をおおおおおッ!?」

「何言ってるんですかこの人は!?」


 こうして私は、またしても魔族の凄さに打ちのめされるのだった。

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