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34 冒険者の作法

 代わりの人員が到着するまで『モレンターレ三号洞窟』は私たちが管理することとなった。

 早速私とセレナちゃんとで改めて洞窟へと入り直す。


 そしてもう一人の同行者……。


「S級冒険者のカトウさんです!! 拍手!!」

「ぱちぱちぱちぱちぱちぱち…………」


 セレナちゃん拍手にやる気のなさを紛れ込ませるのはやめて!


「モモコさん、また先日とは打って変わったフレッシュぶりではないですか?」


 アナタと違ってね!


「だってそうでしょう!? S級冒険者よ! 世界最高の冒険者よ! そんな超大物と行動できる機会なんて、そうそうないじゃない!?」


 そりゃテンションも上がるというものよ!


「モモコさんって案外肩書きでヒトを判断するんですね」

「女の子がブランドに弱くなくてどうする!?」


 ブランド品ならたとえ偽物だろうと買いあさるのが女の矜持でしょう!!


 そして一方、紹介される当人は照れた様子で……。


「……いや、心苦しいなあ。僕なんてそんな大したものじゃないよ?」

「またまた御謙遜をー」


 でも、そういう謙遜ぶりを見てたら私と同じ日本人だなということを確信深められて安心した。


「いや本当に。僕なんて所詮巡り合わせのよさでS級にまで登れた男でしかないのさ。つまりは運だよ」

「またまたー」

「じゃあ、そのことを証明するためにも今日は僕のスキルを紹介してあげようかな?」

「スキルを!?」


 それってカトウさんの奥の手じゃないですか!?

 みだりに他人に教えていいんですか!?


「冒険者の気構えをキミたちに教えることにも繋がるだろうから無問題だよ。有望な新人の指導もS級の務めってね」


 さすがS級! 人格者だわ!


「それでは勉強させていただきます!!」

「モモコさんって、目上に対してはとことん従順になりますよね?」


 前の世界では運動部に所属していたJK勇者の私よ! 上下関係の厳しさは部活でしっかり叩きい込まれたわ!!


「それでは発表します。僕が異世界召喚時に神から授けられたスキルは……」

「おお……!?」


 スキル。

 それは異世界から召喚された勇者が必ず備えているもの。

 人族に味方する天の神が、人族の助っ人になれるよう充分な力を与える。異界からの来訪者に。


 私も召喚された時、お城の人たちが狂喜乱舞する強力なスキルが備わっていたし。

 S級冒険者にまで登り詰めたカトウさんにはどんなスキルを持っているのか……。


「体毛を無限に伸ばすことができる」

「は?」

「体毛を無限に伸ばすことができる」

「二回言わなくてもわかりますから」


 ただ受け入れがたいだけで。

 体毛を伸ばす? そんなスキルが何の役に立つというのですか? そりゃ一部の男性の方には天啓となる能力かもしれませんが。


「そういうリアクションになるよねー? 僕が召喚された時、王様や神官もガッカリしたリアクションで、程なく城から追い出されたよ」

「えッ……!?」

「そして路頭に迷い、職を転々とした挙句、冒険者になったわけだね」


 そんな過酷な……!?

 異世界召喚者の生活って、本当に備わったスキルに影響されるのね……!?


「たしかに僕のスキルはショボい。会う人全部から『何の役に立つの?』と言われる。では実際どういう風に役立つかを見てみよう」


 そういうとカトウさん。

 腕まくりして前腕の肌を露出する。その表面には男性らしく、腕毛がビッシリ生え揃っていた。


「行け! スキル『万丈黒糸』!!」


 掛け声と共に腕毛がニュルニュル伸び始める。

 前説明に違わぬ壮絶な勢いの伸びようだった。


「ひッ!? 気持ち悪ッ!?」


 猛烈に伸びる腕毛を見た感想は、その一言に尽きる。


「あの、本気で気持ち悪いんで今すぐやめてもらっていいですか?」


 セレナちゃんですら嫌悪感を包み隠さぬレベル。


「まあ、そう言わずにもうちょっと観察していてよ」


 伸びる腕毛はまだニュルニュル勢いを衰えず、どんどん先へと伸びていく。


「? どこかへ向かっているような?」


 ちなみにここはダンジョン内。

 いつモンスターが現れるかもわからん部危険地帯で、何ネタ披露してるんだろうと思うんだが。


 そんなダンジョン内を腕毛は突き進み、曲がり角できっちり曲がった。


「本当に何やってるの……!?」


 曲がり角に隠れて見えなくなった先端。

 どこまで伸びて進んでいるやら……。


「……」

「どうしました?」

「モンスターがいるね」

「えッ!?」


 カトウさんの行動は早く。手に持つナイフで伸びた腕毛を切り落とす。

 切断された長毛は生命力を失って地面に落ちていった。


 そして次のタイミングで曲がり角から飛び出したのが……。


「ベルゼブフォ!?」


 あの大カエルモンスターッ!?」

 よし戦闘だ!

 勝った!


「本当にカトウさんの言う通りモンスターが出てくるなんて……」

「あの毛ですか?」


 セレナちゃんが言う。


「伸びた毛の先にモンスターが触れた。それで存在を察知できた」

「正解」


 セレナちゃん正解した!?


「毛髪って、思ったより感覚を伝えるんだよね。伸びた毛先が離れた場所に触れて、その情報を本体である僕に伝えてくれる。これがダンジョン内では思いのほか便利なんだよ」


 今みたいに物陰の見えないものまで探知できるもんね。

 しかも安全に。


「所詮毛だから斬られても焼かれても痛くない。あとから無限に生えてくるしね。それにスキルのせいか毛先の感覚が強化されて、触れたものの質感や形状、あと温度まで正確に感じ取ることができるんだ」


 つまりカトウさんが体毛を駆使すれば。


「離れた見えないところでも、正確に状況を確認できる。ダンジョンでこれほど心強い能力はないですね」

「S級になれた人たちは、皆いずれもこうした超感覚能力を備えているんだ。こっちの方には例外はない」


 シルバーウルフは嗅覚。

 ゴールデンバットは聴覚。

 ブラックキャットは視覚。

 ピンクトントンは嗅覚。

 カトウさんは触覚。


「ダンジョンで怖いのは何より突発したトラブルだ。奥深くで思わぬピンチに陥って、誰からの援けも得られない恐怖は物凄い。だから優れた冒険者ほど慎重だ。石橋を叩く用心深さだけがダンジョンで身を守る術だ」


 その石橋を叩く棒の役目を、S級冒険者の人たちは各々の超感覚に担わせている。

 ただ一つ私が気にかかったのは……。


「嗅覚が被ってる人いません?」

「味覚は扱いづらいんだろうから……!?」


 ただ、この一事より読み取れる事実は……!?


「冒険者に必要なのは、危機を事前に察知できる感覚?」

「その通り、よく気づいたね」


『それを知ってほしかったんだよ』と言わんばかりのカトウさん。


「強い人はたくさんいる。しかしどんな強い人であろうともダンジョンの前では無力だ。ダンジョンは自然の一種だからね。人は自然に勝つことは絶対できないんだ」

「は、はい……!?」

「戦場から流れてきた人。特にスキルを持った勇者はそれがわからない。自分は強い。どんなダンジョンでも容易く攻略できる。そんな軽い気持ちでロクな準備もせずダンジョンに入り、帰ってこなかった元勇者あまりに多い」


 だからキミのことも心配だとカトウさんは言う。


「強力なスキルに恵まれ、戦場でちやほやされて自信に満ち溢れる。そういう人ほどダンジョンには格好の餌食だ。実際に異世界召喚者が冒険者になって一年以内に行方不明になる率は非常に高い」


 逆に一年越えると生存率は格段に上がるんだそうな。

 きっとその間にふるいがかけられてるんだろう。ダンジョンという大自然の驚異の前に、従順でいられる者とそうでない者を。


「キミは強力なスキルだけでなく、聖剣まで持ってるから。慢心しているなら早めにフォローしとこうと思ったんだが安心だね。意外なほど堅実だ」

「そんなことありません!」


 ここでふと思い出した過去の会話。


 ――『アンタとも短い付き合いだと思っていたが、そうはならないようだな』


 と言ったのは冒険者ギルドの王都支部長さん。

 彼だってギルドの偉い人だから、元勇者の慢心癖は心得ているはず。

 私はあの時にも品定めされてたんだね。


「私は、私の弱さをよく知っています! より強くなるためにカトウさん! ご指導ください!」

「心得た新人だ。ここまで強いのに堅実さを失わないなら、充分にS級の素質はありそうだね」


 そういうお世辞はいいです。

 私は強くなる。そのためにもS級冒険者に教えを仰ぐぞ!

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