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33 深まる絆

 ダンジョンの奥底に眠っていたのは、無限に金を生み出せる機械だった。


 原料、モンスター。

 しかもこれまで何の役にも立たないと思われていた泥モンスター。


 これは世紀の新発見では!?

 技術革新ですよ!!


「でもこれ壊さないとダメだなー」

「ええッ!?」


 カトウさんの発言に私困惑。


「どうしてですか!? そりゃ今まで悪い人の資金源になってたかもですが、これからこっちで利用すればウハウハじゃないですか!?」

「この設備の技術骨子がね。法術魔法が使われている」


 え?


「さすがに地球の技術を丸々移すことはできないから。地球の技術を基本に足りない部分を法術魔法で補ったという感じだね。でも法術魔法はすべからく周囲に悪影響を及ぼす」


 たしかに……。

 戦争中、人間国が使いまくった法術魔法のせいで自然マナが浪費され、土地が枯れていうたというのは有名な話。


「自然と共に生きるのが魔族の魔術魔法なら、自然を利用し一方的に貪るのが法術魔法。残念ながらこれは原則的なものなんだよ。この魔法機械も動かせば動かすほど自然マナを歪めてダンジョンに負担をかけている……」


 このまま使用し続ければ、最悪ダンジョン自体が消えてなくなるかもしれないという。


「それに気づいてるかい? この階層モンスターがまったく出てこないだろう?」

「たしかに……?」


 モンスターが出てこないダンジョンなんてたしかに奇妙よね?


「これも法術魔法による効果だ。このスペースを工場として機能させ、かつ御上から追われている教団神官が隠れ家にするには、モンスターが入ってきてはならない。法術魔法でマナの流れを歪めているからダンジョンにとって相当負担なずだ」


 それを的確に看破するカトウさん。


「たしかに惜しいけど魔王軍を呼んで充分な検証と調査を済ませたら、即解体だな。反乱勢力への資金の流れを断っただけでも収穫と考えるか」

「いい気になるなよ……!!」


 恨む節を垂れ流すのは神官のマナサーグさん。

 もう聞くことも聞き終わったので、牢屋に戻そうと引っ立てている最中です。


「たとえ小生をここで葬ろうとも、正義の志が潰えたわけではない! 志を持つ者が必ずや魔族の邪悪な支配を粉砕するであろう」


 なんか滅びゆく悪役みたいなこと言ってる……!?


「そうだ小生は一人ではない! 同じように打倒魔族の使命を持つ同志は大勢いるのだ! この資金生産所とて、聖戦士たちの築き上げた施設の一つに過ぎないのだ!!」

「反乱分子が糾合して組織化されてるという噂を聞いたことがあるが……」


 ポロリと漏れ出た言葉を頼りにカトウさんが追加尋問する。


「実在していたのか。是非詳しく聞きたいもんだ」

「では謹んで拝聴するがいい! いずれ魔族を根絶やしにし、正義と神聖をもたらす救世主軍の栄名を! ……我ら、正義のレジスタンスの名は!」


 はい。


「……修道服反逆同盟だッ!!」


 ……。

 いやあの。

 もうちょっと他に何か……!?


    *    *    *


 修道服反逆同盟。


 その他分けたネーミングがどこまで本気かわからないが、でも魔王軍の占領から逃れた旧教団が地下に潜伏し、反抗組織を構築しているのは想像に難くないことだった。


 教団。


 かつて人間国で、王族と並んで権力の上層部にいた集団。

 人族の神ゼウスを信奉し、自分たちのあらゆる要望を『ゼウス神の御心』というお題目で押し通してきたのだという。


 彼らが過去の栄華を忘れられず、なんとかして占領する魔王軍を追い出したいと思っているのは確実だろうけれど。

 時計の針は戻らない。


 実際、人間国滅亡後に私が出会ってきた多くの人々が『今の方がいい、人間国滅びてよかった』という始末だもの。

 権力で好き放題やってきた人たちが没落したら哀れの一言。


 恐らく旧教団が勢力を取り戻すことは永久にないだろうけれど、現実を受け入れられない人たちがどんな暴走をするかわからない。


 修道服反逆同盟とかいうたわけた集団も暴走の一環と言えそうだし、私も世界の平和のため頑張って戦わないと。


 とりあえず私は、もうしばらく街に残りダンジョン攻略を進めることになった。

 教団逃走犯の潜伏が判明し、それを匿ったギルド支部長や冒険者も逮捕。


 一時でもダンジョン管理を疎かにしては危険なため、ちゃんとした代わりが着くまでは私やカトウさんが役目を果たすんだって。

 私も今は冒険者ギルドに所属している以上、嫌とは言えないわよね!


 そしてあともう一人……。


    *    *    *


 救出から大分時間が経ってしまった。

 だってカトウさんとの出会いとか、謎の魔法機械とか情報が雪崩のように押し寄せてきて整理に手いっぱいだったんだもん。


 でもようやく一段落して向かい合うことができる。


 セレナちゃんに。


「いやー、もうすっかり夜が明けてるねー」


 騒動の始まりは深夜だった。

 潜ったダンジョンから出てみれば、もう空は白んでいる。


 セレナちゃんは私と一緒に朝日を浴びるのだった。


「とりあえず昨日から頑張り通しだったから、今日は丸一日休みでいいって! もー眠いから昼まで寝ちゃおうかー?」


 冗談めかして言う者の反応は来ない。


 重い!

 沈んでいるのセレナちゃん!?

 敵に捕まったことが、そんなに魔王軍人としてのプライドを傷つけたの!?


 元気出してよ!

 命があればよかったじゃない!


「……聞いてもいいでしょうか?」

「はいッ! はいはいはいはいッ!?」


 何でも聞いてちょうだい!

 それでアナタの心が晴れるなら!


「何故私を助けたんです?」

「えー?」

「私はアナタの監視役です。煩わしいでしょうし、信頼されていない証として存在自体が不快でもあったでしょう。これを機会に見捨てても差し支えなかったはずです。それなのに……」

「そんなことないよッッ!!」


 私は力いっぱい否定した。


「セレナちゃんはもう既に私の友だちなんだから! 言ったでしょう! お姉さん代わりになってあげるって! 妹を見捨てるお姉さんなんかいないわ!!」

「…………」


 大真面目な私だったが、セレナちゃんは一瞬虚を突かれた表情になって……。

 心底空白になったような顔になって……。


「……フフッ」


 笑い出した。


「フフッ。フヒヒヒヒヒヒヒ……!? まさか本気で言ってたなんて! フヒヒヒヒヒヒヒヒ……!?」

「笑うなんて酷い!? しかも笑い方気持ち悪い!?」


 しかしセレナちゃんの笑いなんて初めて見た。

 笑いのツボが変なところにあるんだね!?


「……いえ、失礼しました。それに言うべきことをまだ言っていませんでしたね」

「何?」

「助けていただきありがとうございました。アナタのお陰で命が助かりました」


 深々と頭を下げられた。


「本当なら助けられてすぐにお礼申し上げるところを、ここまで遅れてしまってすいません」

「いッ!? い、いいのよゴタゴタしてたし! それに人として当然のことをしたまでだもん! お礼の必要もないわ!!」


 何!? 何何この!?

 セレナちゃんが一気に心開いた感じ!?


 デレなの!?

 ツンデレのツンの氷河期が過ぎ去り、デレの春がやってきたの!?


「それはそれとして監視任務は引き続き続行しますんで振る舞いには注意してくださいね。裏切る素振りでも見せたらすぐ報告しますから」


 変わってなかった!!


「とりあえずは冒険者の仕事を真面目に頑張ってください。ちゃんと励めば、今日助けてもらった分好意的に報告してあげますので」

「わかったわよ! 明日から全力でモンスター駆除の仕事に打ち込んでやるわよ! あとカトウさんのお手伝いも!!」

「は? 『明日から頑張る』とはまさに怠け者のセリフ。今日これから頑張るのではないのですか!?」

「だから私たち徹夜明けでしょうッ!?」


 何だか距離も縮まっている実感だか錯覚だかを覚えつつ。

 私たちは今日も元気に生きてます。

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