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32 儲けのカラクリ

 こうして私とセレナちゃんと、あとS級冒険者のカトウさんは再びダンジョン最下層へと降りた。

 機械やパイプが縦横無尽に並んでいて、やはり何度見ても工場の印象。


「やっぱりミスマッチだなあ……」


 ファンタジーの世界に工場。

 どういう手違いがあればこんな景観が生まれるのか。


「やっぱり異世界から来たキミには、違和感があるかな?」

「え?」

「僕も同感だよ。ここはこっちの世界にしては、あまりも工業地帯すぎる。……でもね、工場ってことは、ここで何かを作り出してるってことなんだ」


 たしかに、現代日本から来た私たちから見ればそう思うのが自然よね。

 ……あれ?


「そこで、ここの施設にもっとも詳しそうな神官マナサーグさんにお越しいただきました」

「おのれ背徳者ども! この縄をほどけ!!」


 あ、さっきのイケメン神官。

 既にお縄にされて、手足をグルグルに縛られたまま引っ立てられてきた。


「心配しなくていいよ。彼らの使う法術魔法は協力だけど、直接戦闘には役立たないものばかりだ。こうして面と向かってる時点で彼らは無力なんだよ」

『歪めたり惑わせたり、卑劣なものが多いもんな法術魔法』


 聖剣さんまで同意してる。


「さて神官さん。捕まったキミは明日にも魔王軍に引き渡される」

「うぐッ!?」


 カトウさん、今度は直接恫喝。


「もうキミに逆転の目はないんだ。だったらできるだけ協力した方が、今後の囚人生活を快適にするためにも必要だと思うがね?」

「…………」

「教えてくれるかな? この装置をどう動かせばいいか?」


 エグい交渉してくるなあ。

 さっきの私を傀儡とした交渉といい、これがS級冒険者の手管。


「……これを動かすために、必要なものがある」

「ほう、何だいそれは? 遠慮なく言ってくれたまえ」

「わからないかね? 何故我々が、このダンジョンの奥底に施設を作ったか? このダンジョンにしかないものを思い巡らせればわかるはずだ」


    *    *    *


「というわけで用意しました。ヘドロイドです」


 このダンジョンにしか発生しない泥型モンスター。

 昼間に遭遇した記憶が新しい。もうちょっとでコイツに飲み込まれて溺死するところだったのよね。


「わざわざコイツを狩ってくるのに第一階層まで戻っちゃったよ。で、これどうするの? 死体でいい?」

「この泥死ぬんですか?」

「基本斬っても刺しても通じないけど、細かく飛び散らせてバラバラにしたら活動停止するよ。それを死と定義すべきかどうかは微妙だけど。そもそも生物なのか……?」


 なんか哲学的な問題になった。

 しかし、もはやヤケクソの神官さん。


「死んでようと生きていようとどっちでもいい、そこの投入口に泥を注ぎ込みたまえ」

「あーこれ?」

「それは排気口、もっと奥」


 指示に従い、機会の中に泥を流し込む。


「あとは魔力を流し込んで装置を起動させればいい。それができるのはゼウス神の恩寵を受けし私ぐらいのものだろうがな?」

「いや、純粋な魔力というなら法術魔術関係ないだろう。セレナちゃんといったね? お願いできる?」

「いいでしょう」


 セレナちゃん、いかにも魔法っぽい水晶のはめ込んである部分に魔力を流し込む。

 するとブルルンと駆動音が鳴り……!


「機械が動き出した……!?」


 鋼鉄の体躯を小刻みに揺らし、内部を何かが通り抜けているのがわかる。

 いや、さっき流し込んだ泥モンスターの死骸なんだろうけど。


 唸り、軋み、震えて、熱を発し……。


 最終的に機械の端から端まで渡って排出口から出てきたものは。

 キンキラに輝いていた。


「これは……金?」

「砂金だねえ」


 砂粒みたいに細かい金が、大量に流れ出てくるううッ!?


「これってもしかして!?」

「元はあのヘドロイドだってことだよね。ヘドロイドの泥の中には、金成分が含有されてたってことか。この機械は、それを精製して選り出すためのものだったか」


 なんか凄い!?

 ファンタジー異世界なのに文明開化の匂いが!?


「金は、こっちの世界でも貴重で有用だ。高値で取引される。それをザコモンスターから無限に取り出せるって凄い発見だね」

「これが反乱分子の資金源というわけですか?」

「そういうことだねえ。しかもヘドロイドなんて今まで何の役にも立たないと思われてた害モンスに使い道を生み出したんだから革新的だよ。価値観が覆るんじゃないかな」


 カトウさん手放しの評価だった。


「ただ、こんな革新的な仕組みを誰が構築したかが気になるところだよね。この外観、機能。明らかにこの世界のものじゃない。まるで僕たちの元々の世界から持ち込まれたような……」

「あのッ!?」


 まだまだ話の途中だったが、私はいい加減辛抱できずに割って入った。

 確認したいことがあって。


「あの……、カトウさんは機械に詳しそうですよね?」

「え? いやエンジニア並みの知識を期待されても困るよ?」

「そうじゃなくて、この世界のものじゃないものに詳しくて……! それにカトウってお名前……!」


 アナタはまさか、いや……!


「アナタも異世界からやってきたんじゃ!?」

「そうだよ」


 あっさり認めた!?


「いや言ってなかったっけ? まあカトウなんて名前で察してくれると思っちゃったからね。……申し遅れましたが僕のフルネームは火藤健といいます。出身は千葉です」

「私福岡です!」


 遠い!

 でも同じ日本人というだけでも奇跡の遭遇!


「いや嬉しいねえ、異世界召喚者といっても地球でもないまた別の世界から召喚される人もいるし、案外同郷と出会えないんだよねえ」

「嬉しいです! 同じ日本人と出会えて嬉しいです!」


 私たちは、一秒前までの状況も忘れて握手し、上下にブンブン振った。

 セレナちゃんや神官さんどもの呆れた視線が痛い。


「僕が召喚されたのは、かれこれ二十年は前なんだけどね。スキルがショボいからってすぐ城から放り出されて、色々行き場を探すうちに冒険者の職に出会ったってところかな。運のよさもあってなんとかS級にまで上がることができたよ」

「とんでもない! 先輩が才能豊かなおかげです! 千葉の誇りです!!」


 とにかく同郷と出会えて嬉しい。

 最後に同じ故郷の世界の人と会ったのっていつだっけ?


 それこそ召喚されたばかり、同時期に召喚されたオジサン以来のことじゃないかな!?

 あの人も今何してるんだろう!?


「なんですか? 何をそんなに盛り上がってるんですか?」


 セレナちゃんがドン引きしている。


「えー? 知らない土地で同郷と出会えるなんて超嬉しいじゃない? 『つまづいたっていいじゃない』」

「『にんげんだもの』」

「「だものー!!」」


 ネタが通じる嬉しさ!

 同郷じゃなければ味わえない!


「じゃあじゃあこれは? 『アホちゃいまんねん』」

「?」

「あッ、これはダメか」


 カトウさんが寂しげな表情をした。


「何故だ……!?」


 そこへわなわなと震える声を上げるのが神官さん。

 怨嗟に感情に満ち満ちている。


「モモコ殿も、カトウ殿も、異世界より召喚された勇者。人族のために戦う使命をもって呼び出されたものたちではないか? なのに何故我々に敵対する!?」

「えー?」

「滅ぼすべきは、神聖なる人間国を蹂躙した魔族だ! それなのに敵に阿り、正当なる国土回復運動を邪魔するとは! 使命を蔑ろにするのか! 勇者の誇りはどこに行ったのだ!?」


 思う様に私たちへ罵倒をぶつけてくる。

 言われっぱなしも嫌なので何か言い返そうとしたところ……。


「待って」


 カトウさんに止められた。


「……たしかに神官さん。僕たちを召喚したのはアンタたちの使う法術魔用によってでしたね?」

「そうだ! 我々はアナタたちに世界を救うよう望みを懸けたのに裏切られて……!!」

「でも考えてごらんなさいよ? 僕たちはね、前の世界でそれぞれの生活があったんです。それをかまわず問答無用で呼び出され、戦いを強制され、多くの者は命を落とした。帰りたくても二度と変えれない……」


 そんな扱いを受けて……。


「……怒らないとでも思ってるんですか?」

「おへッ? ぐるべおおおおッ!?」


 カトウさん怒りのパンチが神官さんの鳩尾に突き刺さった。

 やはりS級冒険者の腕力は相当なもので、殴打の瞬間、即座に衝撃がこみ上げて吐瀉物を吹き上げる神官さん。


「おげえええええッ!?」

「この程度で怒りが収まるわけないけど、残りはギルドか魔王軍の尋問官さんにお任せしますよ。拷問官かな?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 相田みつをが通じてひょうきん族が通じないカトチャよりネタが古いJK・・・?!
[一言] この章特に誤字がひどすぎて読むのがきつかった。書き終えた後1度くらいは読み返した方がいいかと思います。
[良い点] 1部分から通して読んでしまいました。ストーリーにおける各場面のの状況がイメージしやすく、場面展開のテンポも興味を引き付け続けられるように思えました。 [気になる点] 誤字報告で申し訳ありま…
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