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31 S級参上

 この街のギルドにたった二人しかいない冒険者。

 そのうちの一人がコージーさんだった。


 もう一人のアコプトの子分みたいな風貌で、特徴なく印象なく。

 まったくノーマークだったのに。


「よくやってくれたね新人ちゃん。キミのお陰で万事スムーズに収まった」

「はあ……ッ!?」


 コージーさんの落ち着きっぷりが威厳漂うレベル。

 初見とは印象がだいぶ違う!?


「キミが交渉役ぶって時間を稼いでくれたおかげで、長時間奴らの動きを止めることに成功した。おかげで僕のスキル『万丈黒糸』で彼らを残らず拘束できた」

「?」

「わからない? 彼らをよく見てごらん」


 あの『動けない』ってもがいてる人々を?

 よく見たって何が……? ……あ?


「黒くて細い……、何? 糸?」


 黒い糸がアコプトの体中に絡まっていた!?

 細いし目を凝らさないとわからないぐらいだけど、あれに縛られて身動き取れないの!?


「コージー! コージーテメエ!!」


 縛られながらアコプトが咆える。

 昼間はあんなにアニキ風吹かせてたのに、今や立場逆転。


「やっぱりお前ギルドのイヌだったのか!? 怪しいと思ってたんだぜ!」

「怪しんでいながら、新人の女の子ちゃんたち憎さに僕の監視を疎かにしたのが運の尽きだったね。おかげで自由に動けたよ」


 そうなんです?


「ギルドの指令で潜入したはいいけど、コイツらなかなか隙を見せなくてまんじりしてたところだったんだ。でもキミらが来たのがいい刺激になって一気に解決できたよ」


 昼間、私たちがアコプトのプライドをズタズタにしたことで、ヤツ暴走。

 さらに私を引き込もうとする神官の思惑も重なって。

 セレナちゃんをさらい、この秘密のアジトにまで連れていく。

 それをコージーさんは密かに尾行できたという。


「何ヶ月も見つけられなかった核心を、一晩で暴くことができた。全部キミたちのお陰だよ。ウォッティルトさんもいい援軍を送ってくれた」


 ウォッティルトさんて誰だっけ?

 あ、王都にいたギルド支部長さんだわ!


「コージー、テメエ一体何者なんだよ!?」

「すまんねアニキ。コージーというのは偽名なんだ」


 そしてコージーさんは、懐からあるものを取り出す。

 それはメダル。冒険者の身分を証明するっていう等級メダル?


 それは鉛色のE級メダルだった。


「これも本物じゃない。身分を偽装するために貸し出してもらったものさ。僕の本当のメダルはこっちだ」


 新たに取り出されるメダルは、プラチナ色に輝いていた。


「なッ!? ……それはS級メダル!?」


 えッ、S級!?

 それって最上級の!?


「聞いたことがあるぜ!? ……世界にたった五人しかいないS級冒険者。その中で唯一、獣人以外で頂点に登ったヤツがいる。……まさかお前のことか!?」

「せいかーい。他のS級さんたちはホント個性的な顔立ちばかりだから……」


 コージーさんは偽名。


「僕の本当の名はカトウ。冒険者仲間からはブラウンカトウなんて呼ばれてるがね」

「あの有名なS級冒険者ブラウンカトウ!? お前が、いえアナタが!?」

「E級冒険者アコプト。キミは冒険者として重大な規約を犯した。キミにはギルドから厳しいペナルティが下るだろう。その上で魔王軍からの裁きも受けるんだね」

「待って! 待ってください! オレは騙されただけなんですあの神官から! 調べてもらえばわかる! わかるんだああああッ!?」


    *    *    *


 こうして何かよくわからないうちに事件が起きて終わった。

 起きたことすらよくわからない感じだったが。


 あらかじめ用意されてたのか、街の外からあっという間に集団が雪崩れ込んできて、悪い人たちを拘束していった。


 何とかいう神官やアコプトを始めとし、つるんでいたチンピラ十数人。

 やっぱりグルだったダンジョンの見張り役さんたち。それにあと支部長のサザンナさんまで。


「ギルド支部自体グルでないとあの規模の隠ぺいはできないからねえ」


 次々お縄になっていくギルド支部の人たちを眺めつつ、コージーさんが言った。

 いやコージーさんではない。

 冒険者ギルドの最高峰、S級冒険者のお一人ブラウンカトウ様だ!


 シルバーウルフ!

 ゴールデンバット!

 ブラックキャット!

 ピンクトントン!

 そしてこのブラウンカトウ!


 総勢五名が世界最高の知恵と技能と勇気を持った冒険者の中の冒険者!


「新人ちゃん。目を輝かせるのはいいけど、友だち放っておいていいの?」

「あッ!?」


 そうだった!

 悪い人たちがお縄になったことで無事解放されたセレナちゃん!

 その安否をこそしっかり確認しないと!?


「セレナちゃん大丈夫だった!?」


 既に猿ぐつわも縄も外され自由を取り戻したセレナちゃん。

 しかしどこか雰囲気は沈んでいた。


「どうしたのせっかく解放されたのに!? 何処か痛いの!? 怪我した? ……まさかくっころ的な展開があったとか!?」

「問題ありません。ただ自分の不甲斐なさに腹が立っているだけです」

「ああ……」


 たしかに魔王軍の軍人さんなのに、チンピラ紛いに捕まったらプライド傷つくかあ……。


「し、仕方ないよ。卑怯な手で魔法封じられたんでしょう? そしたらもうどうしようもないじゃない」

「そのことです、お聞きしたい」


 セレナちゃんの追及がカトウさんへ?


「この事態は一体何なのです? この街で何が起こっていたのですか? ダンジョンの下層にあった施設は? 教団の神官が潜伏していたことも見過ごせませんがその調査にS級冒険者のアナタが投入されたことも……」

「どうどうどう……、わかったよ順を追って説明しよう」


 ブラウンカトウさんが大人の貫禄で宥める!?


「すべての始まりは、やっぱり魔王軍による人間国の滅亡かな。あれでかねてから権力者の座にいた連中がまとめて没落した」

「そこは言うまでもないことですね」

「そう言うヤツほど過去の栄光に執着するということで。旧人間国のそこかしこに今反乱分子が潜伏してるんだよ。構成者のほとんどが旧教団の幹部クラスでね」


 教団。

 人族の創造神ゼウスを信仰する宗教団体。かつて王族と共に人間族の権力構造の頂点に君臨していたという。


 今日睨み合ったマナサーグも教団関係者だよね。


「権力への執着を捨てきれず、去日の栄華を取り戻そうという連中ですね。まこと権力の亡者というのは見苦しい……」

「キミたち魔王軍も、その対処に手を焼いてるんでしょう? だからウチにも依頼が来た」

「え?」

「教団主体の反乱分子に、何処からか資金が流れ込んでいる。その大元を見つけ出してくれってね」

「まさか!? 魔王軍が冒険者ギルドに調査依頼したというのですか!? 初耳です!?」

「キミ下っ端っぽいし仕方ないんじゃない?」


 カトウさんが言いにくいことをズバッと!?

 たしかにセレナちゃんは若いしいかにも重要な情報伝えてもらえなそうだけれども!?


「色々な調査の結果、この街の……しかもギルド支部が怪しいってなって僕が派遣されたってわけ。でも、相手もなかなかしっぽ出さなくてね。一番怪しいと睨んだダンジョン内には厳重に見張りがいて、冒険者として入る時には常にアコプトさんが隣にいる」


 ガードが固すぎてお手上げ状態になっていたところに私たちが来たと。


「キミたちが引っ掻き回してくれたおかげでアコプトもいい具合に冷静さを失って、上手く隙がつけた。……ってのはさっきも言ったがね。キミたちを送り込んできた

ウォッティルトさんの名采配だよ」


 そう言えば、王都支部長さんが私を送り出す間際に言ってたような。


『お前が見込み通りのヤツなら、アイツの援けになるだろう』

 と。


『アイツ』というのはカトウさんのことだったんだ!?

 最初から、この土地に潜んでいる犯罪を暴くために私たちを派遣!?


「そんなに怒らないでよ。この功績を評価されてE級に上がれることは確実だろうからさ。もしかしたら一っ飛びでD級になれるかも?」


 マジですか!?

 それは頑張ったかいがあった。


「そんなことはどうでもいいです」


 セレナちゃんが割って入ってきた。

 どうでもいいとか言わないで!?


「まだまだ説明不足です。いまだ人間国に潜伏して燻る反乱分子は魔王軍にとっても懸念事項。その資金源がこの街にあるとはどういうことです? 何故その調査を冒険者ギルドが? きちんと説明していただかないと納得できません!」

「わかったよ、真面目な子だなあ」


 カトウさんは真摯に受け止めて……。


「じゃあ、実地で解説しよう。僕も検証が必要だと思っていたんだ。実際に試してみるさ」

「試す? 何を?」

「このダンジョンが生み出す、巨万の錬金術についてさ」

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