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30 タフ・ネゴシエイト

 ええええッ!?

 何何何!? この声!?


 何処から聞こえてくるの? 怖ッ!?


『狼狽えないで。僕の声が聞こえていることを向こうに悟られてはいけない。もし悟られたら益々友だちを無傷で助け出す可能性がなくなってしまうからね』


 たしかに、アホやら神官たちは、この謎の声にノーリアクション。

 無視しているというより声に気づいていない感じ。


 私だけにしか聞こえていないってこと? 益々謎めいて怖い!


『いや待て小娘。オレにも聞こえているぞ?』


 聖剣さん。


『お前の手を通じて柄に響いてくる。なんだこの不思議な感覚は……!?』


 聖剣さんすら戸惑わせる謎の現象。

 一体、この状況はどこに進んでいくの!?


「オラ、ぼさっとしてんじゃねえ! オレの言うことを聞きやがれ!」


 そして冒険者アコプトが声を張り上げる。


「剣を捨てやがれってんだよ! 友だちの命が大事だろう!? 言うこと聞かねえと喉笛がパックリ割れて血が噴き出すぜ!!」


 やっぱりセレナちゃんを人質に使ってきた。

 卑怯者!


「待ちなさいアコプト同士! 彼女にはまだ説得が……!?」

「どうせ聞きやしませんよ、あのアホ娘! ならこの魔族娘共々殺すしかねえ! この場所を見られたからには!」


 神官と揉めてる風だけど、やっぱり私もセレナちゃんも始末する気ね!?

 黙ってやられるつもりは毛頭ないけれど、敵側にセレナちゃんが握られてる限り迂闊には動けない。


 一体どうしたらいいの。


『大丈夫。僕の言う通りにしてくれれば、きっと友だちは取り返せる』


 また謎の声さんが言う。


『まずはキミの持っている聖剣を振り上げてくれ。今にも「振り下ろすぞ」って感じでね』

「?」


 相変わらず怪しいことこの上ないけれど、他に望みも見えないため指示に従った。


 剣を振り上げると、敵側からどよめきが上がる。

 戸惑いと警戒、そして恐怖……。


「なんだやる気かあッ!? 人質がどうなってもいいのかあッ!?」


 アコプトの恫喝にも脅えが見えるが……。


『じゃあ次は、僕の言うことを復唱して。ここからだよ……』


 私にしか聞こえない声が言う。


『「大事なものを抑えられてるのは私だけかな?」』

「……だ、大事なものを抑えられてるのは、私だけかしらね?」


 細部は変えてもかまわないよね?

 相手からのギクリとした空気の応答。


『「周りにある機械、随分と物々しいじゃないか。こんな凄い設備他でもお目にかかったことがない」』

「まま、周りにある機械、随分と物々しいわね? こんな凄い設備他でもお目にかかったことがない……!」

『「ぶち壊したら、どうなるかなあ」』

「ぶち壊したらどうなるでしょ……、えッ!?」


 よくわからずに復唱して私までビックリ。

 たしかに隠されたダンジョン第二層には、所狭しと機械装置が並べられていてファンタジーの雰囲気ぶち壊し。

 ダンジョン内というよりは、どこかの工場の中という感じだった。


 その工場施設を破壊すると言ったら……。


「ま、待て!!」


 途端に神官が顔色を変えてきた。


『もしキミの友だちに傷一つつけようなら、その剣のパワーで工場の機会を吹き飛ばすと言ってやりなさい。これまでの苛立ちをこめて強い言葉でね』


 と声さんの指示。

 もう超オッケーっすよ!!


「やっぱり、この辺の機械を壊されるのは超困るみたいねえ!? でも壊すわ! ぶっ壊してあげるわよ! セレナちゃんの玉の肌に毛ほどの傷でもつけてみなさい! その数千倍の仕返しが、アンタの可愛い機械ちゃんに向かうからねッッ!!」


 聖剣さんの刀身に気をまとわせる。

 放たれる剣気の威力はアコプトも実際見て知ってるでしょうから充分脅しにはなる。

 聖剣さんがやや本気の剣気を放つだけで、工場機械なんてあえなく鉄くずよ!


「……アコプト同志! わかっていますね迂闊に動いてはいけませんよ! これは命令です!!」

「……くそ」


 アコプトの顔に『なんでお前が命令してんだよ』という感じの不満が浮かんだ。


『よし、これで膠着状態に持ち込んだ』


 声さんが言う。


『敵は、キミの友だちに手出しできなくなった。彼らにとっても大事なものの、生殺与奪の権をキミが握ってしまったからだ。互いが人質を取り合ってる、そういう状況になった』


 解説ありがとう!

 で、次はどうすればいいの!?


『また僕の言うことを復唱してくれ。「キミたちはもうとっくに詰んでいる」』

「アンタたちはもうとっくに詰んでるわ」


 信頼できるので益々従順に従う。


『「この秘密の場所を発見された時点でね。この場所自体がキミたちの犯罪の証拠だ。魔王軍もギルドも黙ってはいない」』

「この秘密の場所を発見された時点でね。この場所自体がキミたちの犯罪の証拠よ。魔王軍もギルドも黙っちゃいないわ!」


 言うと神官やらアコプトやらも「ぐぬぬ」と追い詰められた表情になった。

 図星を突いてる?


「……いいや! まだ終わってねえぜ! この魔族とお前の口さえ封じれば! ここの存在を知ったのはお前らだけだ! お前らさえ何とかすれば秘密は漏れねえ!!」

『「何とかできると思ってるのか」と言ってやりなさい』


 ラジャー!


「何とかできると思ってるの? アンタたちごときが私のことを?」


 アコプトが押し黙った。

 昼間の経験を思い出してるわね。


「アンタも見たわよねえ私の超絶な強さを? アンタたちが束になってかかっても私を倒すなんて無理よ」

『アドリブいいよいいよ』


 相手が二十人いようと蹴散らす自信があるわ!


『さらにこう付け加えるんだ。「万が一負けるとしても、その間に大暴れするから周囲の機械がどうなるかわからない」とね』

「万が一、万が一のもしもよ? アンタたちが勝つ可能性もあるかもしれない。でもそれまでに私は大暴れして、聖剣さんから剣気をたくさん放つ。周りの機械も無事じゃすまないでしょうね」


 完全崩壊するでしょうね。アンタたちの大事な機械。


『「どっちにしろキミたちの負けは決まっている。諦めて降参したらどうだ」』

「もうアンタたちの負けは決まってるのよ。大人しく諦めて降参なさい!」


 私の勧告に悔しげに……。


「あるいはそうかもしれません」


 ……応えたのは神官の方だった。


「しかしだからこそ、せめてもの慰めにアナタたちを道連れに、という選択肢もある。アナタの大事な友だち諸共滅びへと突き進みましょうか?」


 やぶれかぶれ!?

 どうしよう追い詰めすぎちゃったわ!?


『落ち着くんだ。また僕の言うことを復唱してくれ。友だちを助けるために……!』


 わかったわ何でも従っちゃう!

 ここから先は、すべて謎の声さんの言うことを私がそのまま繰り返したことよ!


「たしかにアンタの言う通り。セレナちゃんを抑えられているのは私にとってどうしようもない不利だわ。事実上の敗北と言っていいぐらいにね」


 少し譲歩っぽい口調。


「だからこそアンタたちにはまだ生き残る目がある。そう思わない?」

「どういう意味です? 私どもが詰みだと言ったのはアナタ自身ではないですか?」

「完璧な勝ちを得るのは無理だって意味よ。でも勝つのは無理でも、命だけは助かる選択があるわ」


 その指摘に、敵集団がざわめく。

 やっぱり命は惜しいみたいね。


「セレナちゃんを盾にアンタたちが逃げれば、私は追うことができない。セレナちゃんの安全が第一だから。それでアンタたちは逃げられる」

「しかし、それでは……」

「この工場は失うことになるでしょうね。でも命は助かるわよ。ギルドや魔王軍が本格的な追っ手を出すより早く姿を晦ませられれば、充分に逃げ切れる可能性はある」


 命が助かる希望を見せて、自暴自棄の危険を封じる。

 助かると思えば欲が出る。


 でも、冷静に判断する余裕は与えない。


「決めるんなら早く決めるのね。一応言っといてあげるけど、やぶれかぶれになる権利は私にだってあるのよ……!」


 脅しつける一言。

 その一言によって神官は落ちた。


「よろしい、アナタの提案を受け入れましょう」


 と。


「この精製工場を失うのはたしかに痛いが、命さえあれば何度でもやり直しは利く。人質の安全を保障する代わりに、アナタは私たちを追わない。約束できますか?」

「約束するのはアンタたちの方よ」


 約束破り上等の犯罪者なんだから。


 でもこれで互いが約束を守ればセレナちゃんは無事帰ってくる。

 そのことにひたすら安心していると……。


「……待て、気に入らねえぜ」


 まとまりかけた状況を混ぜっ返す空気読まずが。

 冒険者のアコプトじゃない。


「神官さんよ、アンタはそれでいいだろう。だがオレたちはどうなる?」

「共に逃げればいいでしょう。そして別の隠れ家にいる同志たちと合流します」

「それが気に入らねえってんだよ! アンタと一緒に行けばオレまで犯罪者だ! 魔王軍にもギルドにも追われる立場になる!!」

「だからなんだというのです? 我々は元からそうだ」

「そりゃアンタだけの話だろう!? オレは違う! この街の常駐冒険者として安定した暮らしを捨てて逃走犯? そんな転落人生真っ平ごめんだぜ!」


 アコプトがキレ出した!?


「オレは、アンタの商売のおこぼれに与れるって言われたから協力しただけだ! 仲間になった覚えなんかねえ! このまま冒険者の資格を剥奪されるくらいなら、全員道連れにここでしんでやらあ!!」


 いけない。

 私も神官もやぶれかぶれにならなかったけどコイツがやぶれかぶれた!?


 手に持つナイフをセレナちゃんに突き立てようとして……。


「うぐぼッ!?」


 止まった?


「なんだ? ……体が動かねえ? ピクリとも動かねえ!?」

「え? そういえばオレも……!?」

「なんだ体があッ!? 金縛りか魔法かあ!?」


 アコプトだけじゃなく、二十人近くのあらくれ者たちも同じよう。

 体が動かない? 何故?


「新人ちゃんに交渉を任せたのは……」

「え?」


 この声は、私に的確なアドバイスをくれた謎の声!?

 でも今度は空気を通じてハッキリ伝わってくる肉声!? 神官やアコプトどもにも聞こえてる。


「時間が欲しかったからだ。交渉自体は上手く行かなくてもどっちでもいい。交渉で時間を引き延ばすことが大事だったんだ」

「アナタは……!?」


 機械だらけのダンジョン空間の物陰から出てきた姿に、私は驚いた。


「たしかアナタは……、コージーさん!?」


 最初にアコプトと一緒に登場した先輩冒険者の一人。

 アナタが私をサポートしてくれてたの!?

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