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28 パン屑の導

『おい小娘、起きないか』

「むにゃむにゃ……、ナタデココ、ナタデココ……!?」

『変な夢見てるんじゃねえ。起きろ、なんか怪しいぞ!?』

「むにゃ……、次はタピオカが来る……、……はッ!?」


 私、勇者モモコ。

 今起きた。


「……夢か」

『本当にどんな夢見てたんだよ? いや今はそんなことどうでもいい』


 何よ聖剣さんが起こしたの?


 もう朝?

 って窓見たら外はまだ真っ暗じゃん。

 なんて変な時間に起こしてくれやがるの? ダメね、この目覚まし機能付き聖剣。


『誰が目覚ましだ!? それよりも隣のベッドを見ろ!』


 えー、隣?

 隣のベッドにはセレナちゃんが寝てるだけでは……、いない?


『さっき起きて出ていった。眠れなくて夜風に当たりにでも行ったかと思ったんだがな。ちょっと帰りが遅すぎる』

「マジで!?」


 何十分ぐらい帰ってないのよセレナちゃん!?


「わかった。セレナちゃんを探しに行きましょう」

『急げ小娘、さっき微弱だったが自然マナを掻き乱される変な感覚が伝わってきた。嫌な予感がする』


 聖剣さんがセレナちゃんのことめっちゃ心配していた。


 私はベッドから飛び降りると最低限の身支度だけして聖剣さんを腰に差して、宿屋から出た。


『まずは、自然マナが掻き乱された大元へ向かおう。何かがあったはずだ』

「おっけー」


 何が起きたかわからないけど、元々狭い村のような街、走ればすぐに到着した。


 誰もいないし何もない。静かな大通りだった。

 月光で夜が明るい。


「ここでいいの? 特に何かある気もしないけど……?」

『バカ者何も感じないのか。この辺一帯「聖域」にされてるぞ!?』


 せいいき?

 何なのそれ?


『人族の神官が、法術魔法で一定の範囲内を「聖別」してしまうことだ。「聖別」された区域には自然精霊が入れなくなる。精霊に触れられなくなった土地は生命を失って枯れていくだけだ。酷いことをする……!!』


 聖剣さんの苛立ちが伝わってくる。

 どうやら相当酷いことのようだ。


「でも、どうしてそんなことをしたんだろう?」

『精霊を追い払うことの効果はもう一つある。魔族の使う魔術魔法は、その大半を自然精霊の助力によって発生させる。亜神クラスの上級精霊ならともかく、下級精霊なんてこの結界を破れないから初歩的な魔術魔法は軒並み使用不能になるぞ』


 それじゃあ、もしこの中にセレナちゃんがいたら……。


『見たまんまの小娘だからなあ。魔法が使えなくなったらそれこそただの小娘だろ』


 もし、セレナちゃんを襲おうとしてる何者かがいて……。

 セレナちゃんを無力化するために『聖域』ってのを作り出して魔法を封じたんだとしたら……。


「セレナちゃんが危ない! セレナちゃんはどこにいったの!?」

『連れ去られたと判断するのが妥当だな。手を縛って猿ぐつわでもすれば呪文も唱えられないし印も組めない。「聖域」の外に出ても魔法を封じられる』


 それで拘束したセレナちゃんをどこかに連れていった?

 だとしたら今すぐ追わないと! 探さないと!


「でもどこに連れてかれたのかわからない!? どっち行けばいいの!? 聖剣さん匂いで追えない!?」

『できねーよ、どんだけオレに多機能を求めているんだ!?』


 そう都合よくはいかないわよね!?


 だったらどうする? ギルド支部に行って捜索願いとか出す?

 いや指名手配!?


『落ち着け小娘……、面白いものが落ちてるぞ』

「面白いもの?」

『そこの地面だ、暗いから屈んでよく見ろ……』


 聖剣さんに言われる通り地面をまんじリ見詰めると……。


「髪の毛?」


 ……が落ちていた。

 しかも一本とか可愛い数じゃない。

 一房。


「こんなに一度に毛が抜けるなんて……!? 可哀相!?」

『アホ違うわ。これは抜けたんじゃなく抜いた。いや切り落としたのか?』

「どういうこと?」

『ほら見ろ。向こうにも一房落ちている』


 こんな夜の暗がりによくわかるなといった感じで、聖剣さんはもうちょい向こうにも落ちている髪の毛の房を見つけ出す。

 今度は私も見つけた。

 さらに向こうにもう一房。

 さらにその向こうにも一房落ちてるんじゃないかなって気がしてきた。


「道なりに順々に落ちてる。道しるべみたいに……!?」


 さながらヘンゼルとグレーテルのパン屑だわ。

 もしこれが、セレナちゃんが連れていかれながら落としたものだとしたら……。


「この先にセレナちゃんがいる!?」

『拘束されてるあの娘にそんなことする余裕があるのか疑問だが……、手掛かりがこれしかない以上追っていくしかないな』


 そうだよ追おう!!

 私たちは臆さず、一定間隔で落とされている髪の毛の房を追った。


 推測通り、探せば見つかる程度の距離に、必ず次の房が落ちている。

 それを何回も繰り返す。


「セレナちゃん……、こんなにたくさんの髪の毛を切り落として……!?」

『いやこれさすがに多すぎない?』


 繋ぎ合わせたらもはや三千丈になるかと思える量の髪の毛を追っていった結果。

 辿り着いたのは……!?


「ここはッ!?」


 この街の冒険者ギルド支部!?

 どういうこと!?


『待て小娘。髪の毛は中まで続いているぞ?』


 聖剣さんの言う通り。

 私たちは髪の毛の導きに従ってギルド支部内に入る。

 深夜のせいか誰もいなかった。


 建物内を通り抜けて……。


「まさか!?」


 髪の毛の道は、ダンジョンの入り口まで続いていた。


「この分だとダンジョンの中にも髪の毛落ちてそうだよね……!?」

『魔族娘はダンジョンに連れ込まれたのか?』


 しかしそれだと腑に落ちない点が一つあった。


 ダンジョンの前には見張り役の人たちがいる。

 深夜の今でも松明燃やして目を光らせている。


 彼らはギルドに許可なくダンジョンに侵入しようとする者。ダンジョンから溢れ出すモンスターを遮断するための重要な役どころだった。


「すみません……!」


 私は見張り役の人たちに詰め寄る。


「ダンジョンの中に誰か入りませんでしたか? ついさっきです。私より年下の女の子か、一緒に誰かいたかもしれないんですが……!?」

「はあ? 何を言ってる夜はダンジョン立ち入り禁止だ? 入りたかったら朝になってから出直して……!?」


 その時私は見逃さなかった。

 見張り役さんたちの目が泳ぎまくっていることに。


『小娘』

「わかってる。この人たち嘘ついてる」


 私は躊躇なく聖剣さんを抜刀。

 居合いの刃風だけで数人いる見張り役さんたちを吹き飛ばした。


「うぎゃあああああッ!?」

「ぐへッ!?」


 ダンジョン入り口周囲の壁にぶつかって、のされる。


『果断即行はいいことだが、お前明日になって早速ギルドから登録抹消されないか?』

「それより今はセレナちゃんだよ!」


 私はそのままダンジョンに入る。

 やはりダンジョン内にも髪の毛の道は続いていて、それを真っ直ぐ追っていくと……。


「……あれ?」


 道は止まった。

 しかも物理的に、どうしようもない絶対さで。


 行き止まりだった。

 落ちてる髪の房が途絶えただけでなく、突き当りで道が途絶えていた。


 これ以上何処へも進めないのに、セレナちゃんはいない。


「この髪の毛を辿ったこと自体、間違いだったの……!?」

『いや、小娘待て……!』


 聖剣さん、何かの気配を探り取って……。


『小娘、ここでオレの剣気を開放しろ』

「えッ? こんなところで!?」

『攻撃用じゃない威圧用の剣気だ。破壊のためじゃないから心配するな。とにかくやれ!』


 言われるまま訳もわからず聖剣さんを抜刀。

 そしていられた通り高く掲げて剣圧を開放すると……。


「え? え? ええええ・・・ッ!?」


 洞窟の、行き止まりの壁が消え去った。

 破壊して砕いたとかじゃなく、蜃気楼が消えるようにスッと。


『やはりな、法術魔法で幻術がかけてあった。オレの剣気で魔力を吹き飛ばしてやったぜ』


 マジで!?

 聖剣さんさっきから八面六臂の大活躍!?


「でも、こんなカモフラージュしてるってことは益々怪しくなったね。この先にセレナちゃんが……!?」


 私は迷わず進む。

 お姉ちゃん代わりになると宣言したからには、可愛い妹は必ず助ける!!

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